truetearsVSプレデター5

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前[[truetearsVSプレデター4]] 憔悴した眞一郎は駅前にある、多様な店舗を内包した 若者向けの総合施設、コンプレックスで暇を潰していた。 「・・・どこもかしこもカップルばっかですか・・・」 愛子を強姦未遂した今となっては比呂美に合せる顔がない。 だから、もしもう家に戻ってるんじゃないと思うと、帰る気にはならなかった。 それに愛子も三代吉も警察に話す風には見えなかったが、 友情が決裂した今となってはそれも甘い観測でしかない。 案外、警察と父がが泣き叫ぶ母をなだめてるんじゃないかと考えると、胸が締めつけられる。 「ん・・・今日、発売日だったか」 三代吉が購読している漫画雑誌の最新号が並んでいる。 もう借りられないのだから、立ち読んでしまうか。 パラリとページを捲って、適当に読み進めていく。 気が滅入っている時は意外と、関係ないことにハマリやすい。 「・・・」 新人賞の作品紹介ページが目に入る。 物書き(志望)の端くれの眞一郎としては、まぁ参考になることも色々とある。 それに同じように頑張る人間を知るというのは励みになるのだ。 (大賞出たんだ・・・って、富山県民じゃん!) 何気なく視線を移したページで、彼の指が止まる。 多分野であっても同郷というのはどこか誇らしい。 しかしやがて・・・心臓さえ止まったかと思った。 (あれ・・・なんかこれって・・・) 最初は何か奇妙なデジャブの感覚、しかしそれはゾクゾクと背筋を這い回る悪寒となって、 終いには歯の根が震え、喉は擦れて、膝が踊ってしまうほどの衝撃が身を貫いた。 「『轟天号と地べた』・・・って、何だこれ?」 よく分からんタイトルだが、どことなく覚えがある。 というか、少ない紹介ページから分かるその内容は、何か気になった。 それに作者名─‘石垣 純太郎’─って、な~んかすごく誰かに似てる気が・・・。 たまらずレジで雑誌を買うと、逸る血気を抑えて付近のネットカフェに入ってPCを起動し、 出版社のサイトの新人賞のページを開く。大賞以下何人かはその内容を閲覧できるはずだ。 そこに描かれていたのは・・・ 「パ・・・パクリじゃん・・・」 「雷轟丸と地べた」。仲上眞一郎が製作している絵本の内容そのままのものが、 しかし漫画の文法にそって、非常に大胆かつ情感溢れるスタイルでそこには描かれていた。 (・・・ど、どうして?・・・盗まれたのか!?) 作者のプロフィールを読めば大まかに経歴は分かる。縁深きひとならそれで身元は知れるのだ。 「石動 純・・・だ」 突発的な事態、自分と同じ顔をした誰かが世に出歩いていて、こっちの自分が嘘といわれたような不安に襲われる。 「ここ、これが噂の・・・アレなのか・・・?」 創作活動において‘内容が被る’実は意外と珍しくもない。 というよりも長く続けていれば、必ずぶつかる自然現象だ。 物語の快感則は定型化しており、作り手の増加と読み手の好みを反映すれば、多少似通うのはもはや当然だ。 そもそも石動乃絵をきっかけとして始まった物語が、石動純の知らぬはずもない。 やつに作家の才があるならば、日常の話題が被るのはあり得ることだ。 「あいつ漫画まで描けるのか?」 一見意外と思えるが、豊かな社会性、スポーツを中心とした経験の深さ。 不幸な生い立ちに、変人の妹まで抱えてるのかだら内から湧くネタには困らないだろう。 嫌味にもてるルックスも、タレント化した流行のクリエイターといえば納得だ。 コネと謗る気はないが、出版不況のご時勢、彼なら恰好の話題にもなる。 いや、別に非難する云われもない。 てっきりスポーツ進学でもするかと思ったんだが、無茶な志望に出てやがる。 それとも漫画賞は即、大金の入るチャンスだから、そっち目当てなのかも。 自分のように創作に将来をかけてる人間には信じがたいが、 そーいう利だけでパッと動いて、チャチャッと稼ぐヤツもいるらしいじゃないか。 「でも・・・なんで俺がこんな目に・・・」 それらはあくまで条件を揃えた、仮定の可能性を埋めただけの話。 実際こんな事態になるなんて、そうそうはあり得ない。 つまり、誰かの幸せのアオリを意味も無くひっかぶる、ということをだ。 眞一郎はガックリと膝を落としてキーボードに突っ伏す。 「・・・これじゃあ永遠に、発表できるわけない・・・」 今後、どこに出しても‘パクリ’疑惑、いや一蹴されるだろう。 精魂込めた作品の発表機会を失う、これはとても痛い。 それに同様の想いを込めた作品を生み出さない限り、長く後悔が緒を引くことになる。 一線の作家ならまだしも、耐性のないデビュー前に これを喰らうと、日の目も見ないまま引退なんてこともある。 と聞いたことはあるが、体験するのとはまた別物だ。 こと眞一郎のように、深い挫折を経ずなんとなしに、しかし強く創作を拠り所にした人間は、 ストレスに向き合えず、作ることへの情熱を捨ててしまうのだ。 (なんか・・・すごく面倒臭くなってきたなぁ・・・) さっそく彼のメンタルも、お定まりの諦めムードに移行する。 強化外骨格=アームスーツの豪腕がプレデターの顔面を狙う。 「おらぁああ!!」 ガゴォッ! 腕を十字に交差してプレデターも受けるが、衝撃を抑えきれず、 そのままなぎ倒される。 「クウゥオオッ!」 空中に吹き飛ばされるプレデターだが、その勢いのまま腰を回転させてアームスーツの 頭部に斬るような回し蹴りを打ち込む。が、 「そんなものかぁあ!」 風を裂くような攻撃を、超AIの驚異的な処理速度が上回り、予知したように片手でガードされた。 「醜い化け物がぁああああっっっ!!」 そしてもう片腕を鞭のようにプレデターのボディに打ちつけた。 「グゥアアアツッッッーーー!!」 大地に叩きつけられ、衝撃が余って弾かれた怪物の体躯はボールのように転がってゆく。 そのまま、撃ち捨てられた装甲車のドアに、衝撃でその鉄板を歪ませるほどぶつかって停止する。 ギギギ・・・ブゥンッ! アームスーツは片腕づつトライアルバイクを軽々と持ち上げ、2台いっぺんにプレデターにブン投げてきた。 「グ・・・クゥアッア・・・」 ブーメランのように飛んでくる二つの巨大な鉄の塊に気付いたプレデターが、間髪スレスレに避けて駆け出す。 ジャキンッッ! そのままシミターブレイド─物干し竿のように長い大型剣─を両腕から伸ばして アームスーツへ矢のように突進するプレデター。 「無駄な足掻きをおおっ!」 アームスーツの巨大な両椀がドリルのように回転して、竜巻のような破壊券となる。 ガキイイィゥイーッ! 2対のシミターブレイドと、回転椀が激突して火花が弾ける。 そのまま両者引かず、パワーが拮抗した鍔迫り合いになるが・・・ 「貴様ごとき殺人狂いの化け物がぁっ!」 アームすーツンの機動力ががプレデターの腕力を上回って、押しのけた。 「人類科学は最先端の結晶でぇ・・・」 プレデターも隙を与えず、千手観音のようにシミターブレイドを高速の連撃で応戦する。 が、スピードにおいても戦闘システムの対応力が、精緻に合せ、空中で、腕が幾度も交差する。 「選ばれたスペシャルなオレ様にいっ!」 腹に潜り込んだと思ったプレデターのブレイドを、アームスーツの指が掴んでいた。 「敵うわけがないっっ!!」 そのまま、もぎ取るようにしてシミターブレイドを根元からぶち折った。 「クゥアアッア!?」 正面からの決戦に勝機を見出せない宇宙のハンターは、後ろに振り返ると一気に距離をとった。 そして、付近に建っている送電線用の50mはある鉄塔まで退避すると、 その壁面をジャンプするようにして、どんどん上に駆け上がっていく。 狭い場所の方が、体躯の大きい敵を向かえやすいし、 足場の少ない高所であれば獣のプレデターのほうが動きなれているからだ。 だが、 「あらゆる環境に対応し、制限されない・・・」 アームスーツのロケットパックが噴射すると、高熱が唸るように吼えて、3mはある大型機械が浮き上がった。 「それが強化外骨格たる所以っ!」 そのまま、獲物を狙う鷹のように天空に飛翔すると、ミサイルのように鉄塔に向かう。 「うそ・・・」 巨大ロボット(正確には異なるが)と巨大怪獣のぶつかり合いを呆然と見つめる比呂美。 下手に動けば、巻き込まれかねないと、 さっきまで出ようとしていた落とし穴の淵にしがみついて隠れるしかない。 しかし、工学には素人とはいえ、人の作った象のようにデカイ機械の性能たるや。 金メダリスト体操選手のように軽やかに動き、果ては天使のように(見たことはないが)浮き上がるとは、 目の当たりにしても信じられない。今宵はそればっかだけど。 「とても、勝てないわよ・・・」 プレデターに自分たちは翼だ、といったがあくまで比喩だ。本当に、飛ばざるものを飛ばしてしまう力があるなんて。 あんな禍々しい兵器が、しかし夢に描いていた天空を制する翼なのか。 あれは自分を殺すものだ思いつつも、その強大なパワーに比呂美は惹かれていた。 「なんだ、あれは・・・」 石動 純─寄生生命体と同化して、黒体の怪物となった青年はアームスーツの力に驚嘆する。 あんなマシンはプレデターの博士─プロフェッサーから知らされていない。 心身を強化され、尋常でない力を備えられたからこそ分かる力量の差。 少なくとも自分の牙や爪が、あの分厚い装甲版を貫くとは思えない。 「しかし、あいつがプレデターを殺してくれれば‘試練’である俺の手間も省けるのか?」 孤軍のプレデターを人類に捕獲されないために仲間たちが助けるハンデとして、 自分は改造され使わされた。従わなければ乃絵の腕にある装置が派手に吹き飛ぶ。 「何にせよ、もうしばし静観するか・・・」 この寄生体を無理やりとはいえ、譲渡されたのだから相応の働きは要求される筈。 となると、自分があのアームスーツと闘う展開も十分あり得る。 ならば、少しでも両者を消耗させといて損は無い、と冷静に判断する。 しかし、肉と鉄がぶつかり合う激しい戦いに、血が騒ぎ始め加わりたい衝動も感じていた。 空も吹雪いてきた上に、碌な持ち合わせもない眞一郎は 仕方なく、だがどこか納得して帰宅を決めた。 結局比呂美を見つけるどころか、愛子を傷つけ、三代吉を失い、 純に殴られ、新作も頓挫し、乃絵の期待を裏切ることしかできなかった。 そんなあまりに何もできない自分が可笑しくて歌ってしまう。 「しんいちろ~は くつ~のそこの アブラムシ~♪」 帰り道、眞一郎は思いに耽る。 両家の一人息子であるのが疎ましかった。 が、何不自由なく、というか一般家庭よりずっと贅沢に過ごし、 周囲の大人たちが好意と敬いを込めて「坊ちゃん」と呼んでくれる。 そんな身分に知らず自惚れていたんだろうか? ‘オレは大した男だ’と。 彼らは仲上眞一郎という人格を慕っているのではなく、 ‘仲上家’という威光、資産、あるいは父の功績を称えていたのだ。 もちろん彼らに悪意があるわけはない。 人が社会的に営んでいる以上、それに即した付き合いをするのは当然であり、 むしろ個々の人格や資質のみで付き合うヤツがいたら、それは余程の大物かでなきゃ馬鹿者だ。 それに家柄やコネもまた、才能のように親から継いだ財産であり、 世間における自分の一部に他ならない。 実際、高い功績を残す偉人たちは、自身も優れた出自であったり、特別な環境であることが多い。 ‘坊ちゃん’が仲上眞一郎であることに何の不具合があるか。 まぁ、噂のとはいかぬまでも、相応しい振る舞いはしてきたつもりだ。 が、そこまで。 夢を追う自分も、友としての自分も、男としての自分も未熟だった。 ‘坊ちゃん’と呼ぶ人たちには強くても、‘眞一郎’と呼ぶ人には何もできやしない。 無論、これは世間一般男子に特別劣ってる意味ではない。 思春期の思い上がりも、反抗も、諦観も、死にたくなるような葛藤も、大人への通過儀礼だ。 そう、普通なのだ。 だから、普通な自分にこんな異常事態は対応できない。 非常識な性癖を露呈した幼馴染み、それを受け入れた勇敢な(元)親友、 一見清楚なれど心を縛りつけた才女と、普通と言いがたい少女。 でもってその兄にしてこの世の黄色い声援と、輝かしい経歴を一身に浴びる美少年がライバルときた。 こんな関係を、凡人に折り合えたら、それこそ理に反してる。 無理。それが真理。 通念上、今までの混乱が自分にあるとしても、現実的には収拾不可なのだから気に病むことはない。 適当に後悔と懺悔の表明だけはしておくが、だ。 これからは仲上眞一郎としての分をわきまえ、適度に周囲を頼っておとなしく過ごすが吉。 それが自分と、ひいては公益なのだ。 そう結論に至った彼は、雪原の公道を、途中で買った傘を差しつつ、自転車を転がして帰路につく。 その足取りはどこか悠々とすらしていた。 少年特有の世間に対する無力感、それを受け入れることで 葛藤に苛まれていた眞一郎の心は平静を得たのだ。 鉄塔の壁面を駆け上がるプレデターを、獲物を狙う鷹のようにアームスーツが迫る。 ヒュバッ!ヒュバァッ! プレデターの肩口からプラズマキャノンの閃光が奔った。 「うわぁっ!」 アームスーツのパイロットは、航空に専念する隙を衝かれ、回避が遅れる。しかし、 ヴィイイッオオオォォォン! アームスーツのAIが、通信制御用のアンテナを展開して、各種電磁波を放出。 強力な干渉波フィールドを展開して、プラズマ光線を無効化した。 「す・・・すごいぞ!こんな性能はなかったはず!」 バイオニューロンを搭載した自己進化型の戦闘補助システムは、 プレデターの能力を自ら分析して対処法まで構築する成長を見せていた。 「ガウアアウゥッア!」 プレデターもビームの圧縮率を変えて応戦するが、弾道を読まれて避けられるか、 フィールドの周波数も変化して拡散されてしまい、時間稼ぎ程度しかならない。 「今より選手交代だな」 アームスーツが鉄骨の間を縫うように飛び、プレデターの背後に回る。 振り返ったときには、その頑強な腕が、怪物の首を締め上げた。 「貴様が獲物でぇっ・・・」 そのまま額を鉄骨に押し付けて、上へ滑空していく。 ギギギギギギギギ! プレデターの額は皮がさけ、マスクが擦れて火花が弾ける。 「オオオオエアアアアエエァァァァア!!!」 鉄塔の天辺までたどり着いたアームスーツは、プレデターの体を軽々と放る。 「オレ様がハンターだっ!」 そのまま飛び上がると、プレデターの肩膝を鉄塔の天辺に突き刺す形で踏み潰す。 ドシュッ 「ギャオオオアアアアーーーーッッッ!!!」 足を鉄骨で串刺しにされて、宙吊りにされた怪物が悲鳴を上げる。 ドクドクと黄緑色の体液が流れ、鉄塔を伝い落ちていく。 「捻り潰したいのは山々だが、貴様から得る情報は正しく宇宙的価値があるからな。 まぁここで引き裂かれるより、実験場で死ぬこともできず解体されるほうが苦しかろうて」 グリグリと巨大な足で、瀕死の怪物を踏みつけ嬲る。 ピピピッ 「んん?まだ生存者がいるのか?いや、これは・・・」 プレデターの全能力の観察に集中していたアームスーツのAIが、 周辺の環境をスキャンしたとき、ある反応に気付いた。 「民間人の女が紛れたという報告があったが、あれか」 アームスーツの望遠カメラが、彼方で穴に隠れている比呂美を、睫毛の先まで鮮明に捕らえた。 「目撃者は生かしておけんなぁ・・・」 「こっちに来る・・・?」 落とし穴に隠れていた比呂美からは、鉄塔の頂上にいる強化外骨格とプレデターは ゴマ粒のようにしか見えなかったが、それでもモンスターが追い詰められたこと。 そしてマシン兵器がこちらを向いたのは分かった。 「まずいっ!」 トカゲのように穴から這い出す比呂美。しかし、寒さと出血のせいで、 四肢に力が入らずに、くてりと座ってしまう。 ヒュンッ 「?」 それに合せたようにず頭上を風が抜け、髪を撫でた。 ドォオオアアアッッン! そのとき、さっきまで比呂美のいた穴が派手に爆発して、 中に埋まっていた棘やら死体やらを粉塵にして舞い上げる。 「うううわあっ!?」 偶然倒れていなければ、首ごと持っていかれていた。 慌てて雪の上を這い転がって、立ち上がると駆け出す比呂美。 「おしい」 砲を外したアームスーツがバルカン砲をセットする。それが放たれれば 比呂美がチーターのように走れても、たちまち鉄の雨で刻んで、 親だって彼女の名残を見つけられなくしてしまうだろう。 キュィィィ・・・ガガーッッ! 「な、なんだ!?」 しかしそれが発射される直前、足下にいたプレデターが腕のブレイドを ボウガンのように飛ばして、バルカン砲の先端を吹き飛ばし破壊した。 せめてあの少女だけは守る。それは情でも優しさでもなく、彼らの間で交わされた誓いだった。 「きっさまぁぁ!」 鉄骨に刺さったプレデターの足を乱暴に引き抜くと、アームスーツはボールのようにその体を下方に投げる。 いくつもの鉄柱にぶつかりながら、重態の怪物は落下していき、 20mほどパチンコ玉のように弾いて下ったあたりで、手をひっかけて停止した。 しかし、それで精一杯。比呂美のいる彼方に手を差すが、何もできない。 その眼前に噴射で悠然と浮遊してアームスーツが降りてくる。 「あの少女に何か秘密でもあるのか・・・それとも、美女と野獣の真似か? そこで股から真っ二つに裂く様を見てるがいい」 ィィィイイイ、ドウゥッ!! 空中でマシンのロケットが吼えると、ミサイルのように比呂美に突進した。 「カウゥッア!」 鉄柱にしがみついたプレデターが、2枚のレイザーディスクを取り出すと、 その巨大な背中に向けて、手裏剣のように放る。 獰猛な宇宙生物の皮膚もチーズのように斬るそれなら、電磁波バリアーも通じないはず。 ガキッガキイッ! だが宇宙ハンターの背後からの強襲も予期していたAIは、各種全身のマイクロセンサーで 円盤のコースを計算し、軽業のようにかわす。 「無駄無駄ぁっ!」 大軍を単身で蹴散らした狩猟戦士さえ、圧倒する性能に酔いしれるパイロット。そのとき、 「いや、そうでもないな」 人体の声を選別して再生する集音マイクが空気に溶けてきえる呟きを拾った。 「?・・・なっ!!」 ベトオオオッッッオッゥゥーーー! 突然、空を掻っ切るアームスーツを真っ黒い網が包み込んだ。 固く、それでいてしなり、貼りつき、どこまでも伸びるそれが、巨大マシンを捕らえる。 そして網の両端は、プレデターが投げた2枚のレイザーディスクにガムのようにくっつく。 「うおおおおっ!?」 ディスクが渦を巻くように強化外骨格に向かって回転し、グルグルとタコ糸を巻くように縛った。 さらに全身を縛られ、空中で姿勢を保とうとするアームスーツに向かって真上から黒い塊が飛んできた。 「ぉぉぉおおおらぁあっ!」 「ぬあっ!?」 全身を黒く染めた怪人が、巨大マシンの頭部に膝蹴りを叩きこむ。 その衝撃で短い間だが、モニターにノイズが走って真っ逆さまに地上へ転落した。 「ま、まだ仲間がいたのか?」 すぐさま立ち上がって、肩から小型キャノンを出そうとするアームスーツ。 黒い怪人はその背中に蜘蛛のようによじのぼって、武器を蹴り上げてもぎ取った。 「バカヤロウ!富山一の出世頭、石動純があんなマザーファッカーでたまるかよ!」 比呂美の足が止まり、何倍もある機械を踏みつける怪人を振り返る。 「え・・・えぇ・・・?あ、あんなキャラだっけ?」 「が・・・生憎とこの口裂け面じゃあワカンネェか。そうだな・・・オレ様は悪を以って悪を滅する毒薬・・・」 寄生生命体と同化した石動純はギラリと輝く牙を開くと、奇声とともに名乗りを上げた。 「ヴェノムだ!」 つづく
前[[truetearsVSプレデター4]] 憔悴した眞一郎は駅前にある、多様な店舗を内包した 若者向けの総合施設、コンプレックスで暇を潰していた。 「・・・どこもかしこもカップルばっかですか・・・」 愛子を強姦未遂した今となっては比呂美に合せる顔がない。 だから、もしもう家に戻ってるんじゃないと思うと、帰る気にはならなかった。 それに愛子も三代吉も警察に話す風には見えなかったが、 友情が決裂した今となってはそれも甘い観測でしかない。 案外、警察と父がが泣き叫ぶ母をなだめてるんじゃないかと考えると、胸が締めつけられる。 「ん・・・今日、発売日だったか」 三代吉が購読している漫画雑誌の最新号が並んでいる。 もう借りられないのだから、立ち読んでしまうか。 パラリとページを捲って、適当に読み進めていく。 気が滅入っている時は意外と、関係ないことにハマリやすい。 「・・・」 新人賞の作品紹介ページが目に入る。 物書き(志望)の端くれの眞一郎としては、まぁ参考になることも色々とある。 それに同じように頑張る人間を知るというのは励みになるのだ。 (大賞出たんだ・・・って、富山県民じゃん!) 何気なく視線を移したページで、彼の指が止まる。 多分野であっても同郷というのはどこか誇らしい。 しかしやがて・・・心臓さえ止まったかと思った。 (あれ・・・なんかこれって・・・) 最初は何か奇妙なデジャブの感覚、しかしそれはゾクゾクと背筋を這い回る悪寒となって、 終いには歯の根が震え、喉は擦れて、膝が踊ってしまうほどの衝撃が身を貫いた。 「『轟天号と地べた』・・・って、何だこれ?」 よく分からんタイトルだが、どことなく覚えがある。 というか、少ない紹介ページから分かるその内容は、何か気になった。 それに作者名─‘石垣 純太郎’─って、な~んかすごく誰かに似てる気が・・・。 たまらずレジで雑誌を買うと、逸る血気を抑えて付近のネットカフェに入ってPCを起動し、 出版社のサイトの新人賞のページを開く。大賞以下何人かはその内容を閲覧できるはずだ。 そこに描かれていたのは・・・ 「パ・・・パクリじゃん・・・」 「雷轟丸と地べた」。仲上眞一郎が製作している絵本の内容そのままのものが、 しかし漫画の文法にそって、非常に大胆かつ情感溢れるスタイルでそこには描かれていた。 (・・・ど、どうして?・・・盗まれたのか!?) 作者のプロフィールを読めば大まかに経歴は分かる。縁深きひとならそれで身元は知れるのだ。 「石動 純・・・だ」 突発的な事態、自分と同じ顔をした誰かが世に出歩いていて、こっちの自分が嘘といわれたような不安に襲われる。 「ここ、これが噂の・・・アレなのか・・・?」 創作活動において‘内容が被る’実は意外と珍しくもない。 というよりも長く続けていれば、必ずぶつかる自然現象だ。 物語の快感則は定型化しており、作り手の増加と読み手の好みを反映すれば、多少似通うのはもはや当然だ。 そもそも石動乃絵をきっかけとして始まった物語が、石動純の知らぬはずもない。 やつに作家の才があるならば、日常の話題が被るのはあり得ることだ。 「あいつ漫画まで描けるのか?」 一見意外と思えるが、豊かな社会性、スポーツを中心とした経験の深さ。 不幸な生い立ちに、変人の妹まで抱えてるのかだら内から湧くネタには困らないだろう。 嫌味にもてるルックスも、タレント化した流行のクリエイターといえば納得だ。 コネと謗る気はないが、出版不況のご時勢、彼なら恰好の話題にもなる。 いや、別に非難する云われもない。 てっきりスポーツ進学でもするかと思ったんだが、無茶な志望に出てやがる。 それとも漫画賞は即、大金の入るチャンスだから、そっち目当てなのかも。 自分のように創作に将来をかけてる人間には信じがたいが、 そーいう利だけでパッと動いて、チャチャッと稼ぐヤツもいるらしいじゃないか。 「でも・・・なんで俺がこんな目に・・・」 それらはあくまで条件を揃えた、仮定の可能性を埋めただけの話。 実際こんな事態になるなんて、そうそうはあり得ない。 つまり、誰かの幸せのアオリを意味も無くひっかぶる、ということをだ。 眞一郎はガックリと膝を落としてキーボードに突っ伏す。 「・・・これじゃあ永遠に、発表できるわけない・・・」 今後、どこに出しても‘パクリ’疑惑、いや一蹴されるだろう。 精魂込めた作品の発表機会を失う、これはとても痛い。 それに同様の想いを込めた作品を生み出さない限り、長く後悔が緒を引くことになる。 一線の作家ならまだしも、耐性のないデビュー前に これを喰らうと、日の目も見ないまま引退なんてこともある。 と聞いたことはあるが、体験するのとはまた別物だ。 こと眞一郎のように、深い挫折を経ずなんとなしに、しかし強く創作を拠り所にした人間は、 ストレスに向き合えず、作ることへの情熱を捨ててしまうのだ。 (なんか・・・すごく面倒臭くなってきたなぁ・・・) さっそく彼のメンタルも、お定まりの諦めムードに移行する。 強化外骨格=アームスーツの豪腕がプレデターの顔面を狙う。 「おらぁああ!!」 ガゴォッ! 腕を十字に交差してプレデターも受けるが、衝撃を抑えきれず、 そのままなぎ倒される。 「クウゥオオッ!」 空中に吹き飛ばされるプレデターだが、その勢いのまま腰を回転させてアームスーツの 頭部に斬るような回し蹴りを打ち込む。が、 「そんなものかぁあ!」 風を裂くような攻撃を、超AIの驚異的な処理速度が上回り、予知したように片手でガードされた。 「醜い化け物がぁああああっっっ!!」 そしてもう片腕を鞭のようにプレデターのボディに打ちつけた。 「グゥアアアツッッッーーー!!」 大地に叩きつけられ、衝撃が余って弾かれた怪物の体躯はボールのように転がってゆく。 そのまま、撃ち捨てられた装甲車のドアに、衝撃でその鉄板を歪ませるほどぶつかって停止する。 ギギギ・・・ブゥンッ! アームスーツは片腕づつトライアルバイクを軽々と持ち上げ、2台いっぺんにプレデターにブン投げてきた。 「グ・・・クゥアッア・・・」 ブーメランのように飛んでくる二つの巨大な鉄の塊に気付いたプレデターが、間髪スレスレに避けて駆け出す。 ジャキンッッ! そのままシミターブレイド─物干し竿のように長い大型剣─を両腕から伸ばして アームスーツへ矢のように突進するプレデター。 「無駄な足掻きをおおっ!」 アームスーツの巨大な両椀がドリルのように回転して、竜巻のような破壊券となる。 ガキイイィゥイーッ! 2対のシミターブレイドと、回転椀が激突して火花が弾ける。 そのまま両者引かず、パワーが拮抗した鍔迫り合いになるが・・・ 「貴様ごとき殺人狂いの化け物がぁっ!」 アームすーツンの機動力ががプレデターの腕力を上回って、押しのけた。 「人類科学は最先端の結晶でぇ・・・」 プレデターも隙を与えず、千手観音のようにシミターブレイドを高速の連撃で応戦する。 が、スピードにおいても戦闘システムの対応力が、精緻に合せ、空中で、腕が幾度も交差する。 「選ばれたスペシャルなオレ様にいっ!」 腹に潜り込んだと思ったプレデターのブレイドを、アームスーツの指が掴んでいた。 「敵うわけがないっっ!!」 そのまま、もぎ取るようにしてシミターブレイドを根元からぶち折った。 「クゥアアッア!?」 正面からの決戦に勝機を見出せない宇宙のハンターは、後ろに振り返ると一気に距離をとった。 そして、付近に建っている送電線用の50mはある鉄塔まで退避すると、 その壁面をジャンプするようにして、どんどん上に駆け上がっていく。 狭い場所の方が、体躯の大きい敵を向かえやすいし、 足場の少ない高所であれば獣のプレデターのほうが動きなれているからだ。 だが、 「あらゆる環境に対応し、制限されない・・・」 アームスーツのロケットパックが噴射すると、高熱が唸るように吼えて、3mはある大型機械が浮き上がった。 「それが強化外骨格たる所以っ!」 そのまま、獲物を狙う鷹のように天空に飛翔すると、ミサイルのように鉄塔に向かう。 「うそ・・・」 巨大ロボット(正確には異なるが)と巨大怪獣のぶつかり合いを呆然と見つめる比呂美。 下手に動けば、巻き込まれかねないと、 さっきまで出ようとしていた落とし穴の淵にしがみついて隠れるしかない。 しかし、工学には素人とはいえ、人の作った象のようにデカイ機械の性能たるや。 金メダリスト体操選手のように軽やかに動き、果ては天使のように(見たことはないが)浮き上がるとは、 目の当たりにしても信じられない。今宵はそればっかだけど。 「とても、勝てないわよ・・・」 プレデターに自分たちは翼だ、といったがあくまで比喩だ。本当に、飛ばざるものを飛ばしてしまう力があるなんて。 あんな禍々しい兵器が、しかし夢に描いていた天空を制する翼なのか。 あれは自分を殺すものだ思いつつも、その強大なパワーに比呂美は惹かれていた。 「なんだ、あれは・・・」 石動 純─寄生生命体と同化して、黒体の怪物となった青年はアームスーツの力に驚嘆する。 あんなマシンはプレデターの博士─プロフェッサーから知らされていない。 心身を強化され、尋常でない力を備えられたからこそ分かる力量の差。 少なくとも自分の牙や爪が、あの分厚い装甲版を貫くとは思えない。 「しかし、あいつがプレデターを殺してくれれば‘試練’である俺の手間も省けるのか?」 孤軍のプレデターを人類に捕獲されないために仲間たちが助けるハンデとして、 自分は改造され使わされた。従わなければ乃絵の腕にある装置が派手に吹き飛ぶ。 「何にせよ、もうしばし静観するか・・・」 この寄生体を無理やりとはいえ、譲渡されたのだから相応の働きは要求される筈。 となると、自分があのアームスーツと闘う展開も十分あり得る。 ならば、少しでも両者を消耗させといて損は無い、と冷静に判断する。 しかし、肉と鉄がぶつかり合う激しい戦いに、血が騒ぎ始め加わりたい衝動も感じていた。 空も吹雪いてきた上に、碌な持ち合わせもない眞一郎は 仕方なく、だがどこか納得して帰宅を決めた。 結局比呂美を見つけるどころか、愛子を傷つけ、三代吉を失い、 純に殴られ、新作も頓挫し、乃絵の期待を裏切ることしかできなかった。 そんなあまりに何もできない自分が可笑しくて歌ってしまう。 「しんいちろ~は くつ~のそこの アブラムシ~♪」 帰り道、眞一郎は思いに耽る。 両家の一人息子であるのが疎ましかった。 が、何不自由なく、というか一般家庭よりずっと贅沢に過ごし、 周囲の大人たちが好意と敬いを込めて「坊ちゃん」と呼んでくれる。 そんな身分に知らず自惚れていたんだろうか? ‘オレは大した男だ’と。 彼らは仲上眞一郎という人格を慕っているのではなく、 ‘仲上家’という威光、資産、あるいは父の功績を称えていたのだ。 もちろん彼らに悪意があるわけはない。 人が社会的に営んでいる以上、それに即した付き合いをするのは当然であり、 むしろ個々の人格や資質のみで付き合うヤツがいたら、それは余程の大物かでなきゃ馬鹿者だ。 それに家柄やコネもまた、才能のように親から継いだ財産であり、 世間における自分の一部に他ならない。 実際、高い功績を残す偉人たちは、自身も優れた出自であったり、特別な環境であることが多い。 ‘坊ちゃん’が仲上眞一郎であることに何の不具合があるか。 まぁ、噂のとはいかぬまでも、相応しい振る舞いはしてきたつもりだ。 が、そこまで。 夢を追う自分も、友としての自分も、男としての自分も未熟だった。 ‘坊ちゃん’と呼ぶ人たちには強くても、‘眞一郎’と呼ぶ人には何もできやしない。 無論、これは世間一般男子に特別劣ってる意味ではない。 思春期の思い上がりも、反抗も、諦観も、死にたくなるような葛藤も、大人への通過儀礼だ。 そう、普通なのだ。 だから、普通な自分にこんな異常事態は対応できない。 非常識な性癖を露呈した幼馴染み、それを受け入れた勇敢な(元)親友、 一見清楚なれど心を縛りつけた才女と、普通と言いがたい少女。 でもってその兄にしてこの世の黄色い声援と、輝かしい経歴を一身に浴びる美少年がライバルときた。 こんな関係を、凡人に折り合えたら、それこそ理に反してる。 無理。それが真理。 通念上、今までの混乱が自分にあるとしても、現実的には収拾不可なのだから気に病むことはない。 適当に後悔と懺悔の表明だけはしておくが、だ。 これからは仲上眞一郎としての分をわきまえ、適度に周囲を頼っておとなしく過ごすが吉。 それが自分と、ひいては公益なのだ。 そう結論に至った彼は、雪原の公道を、途中で買った傘を差しつつ、自転車を転がして帰路につく。 その足取りはどこか悠々とすらしていた。 少年特有の世間に対する無力感、それを受け入れることで 葛藤に苛まれていた眞一郎の心は平静を得たのだ。 鉄塔の壁面を駆け上がるプレデターを、獲物を狙う鷹のようにアームスーツが迫る。 ヒュバッ!ヒュバァッ! プレデターの肩口からプラズマキャノンの閃光が奔った。 「うわぁっ!」 アームスーツのパイロットは、航空に専念する隙を衝かれ、回避が遅れる。しかし、 ヴィイイッオオオォォォン! アームスーツのAIが、通信制御用のアンテナを展開して、各種電磁波を放出。 強力な干渉波フィールドを展開して、プラズマ光線を無効化した。 「す・・・すごいぞ!こんな性能はなかったはず!」 バイオニューロンを搭載した自己進化型の戦闘補助システムは、 プレデターの能力を自ら分析して対処法まで構築する成長を見せていた。 「ガウアアウゥッア!」 プレデターもビームの圧縮率を変えて応戦するが、弾道を読まれて避けられるか、 フィールドの周波数も変化して拡散されてしまい、時間稼ぎ程度しかならない。 「今より選手交代だな」 アームスーツが鉄骨の間を縫うように飛び、プレデターの背後に回る。 振り返ったときには、その頑強な腕が、怪物の首を締め上げた。 「貴様が獲物でぇっ・・・」 そのまま額を鉄骨に押し付けて、上へ滑空していく。 ギギギギギギギギ! プレデターの額は皮がさけ、マスクが擦れて火花が弾ける。 「オオオオエアアアアエエァァァァア!!!」 鉄塔の天辺までたどり着いたアームスーツは、プレデターの体を軽々と放る。 「オレ様がハンターだっ!」 そのまま飛び上がると、プレデターの肩膝を鉄塔の天辺に突き刺す形で踏み潰す。 ドシュッ 「ギャオオオアアアアーーーーッッッ!!!」 足を鉄骨で串刺しにされて、宙吊りにされた怪物が悲鳴を上げる。 ドクドクと黄緑色の体液が流れ、鉄塔を伝い落ちていく。 「捻り潰したいのは山々だが、貴様から得る情報は正しく宇宙的価値があるからな。 まぁここで引き裂かれるより、実験場で死ぬこともできず解体されるほうが苦しかろうて」 グリグリと巨大な足で、瀕死の怪物を踏みつけ嬲る。 ピピピッ 「んん?まだ生存者がいるのか?いや、これは・・・」 プレデターの全能力の観察に集中していたアームスーツのAIが、 周辺の環境をスキャンしたとき、ある反応に気付いた。 「民間人の女が紛れたという報告があったが、あれか」 アームスーツの望遠カメラが、彼方で穴に隠れている比呂美を、睫毛の先まで鮮明に捕らえた。 「目撃者は生かしておけんなぁ・・・」 「こっちに来る・・・?」 落とし穴に隠れていた比呂美からは、鉄塔の頂上にいる強化外骨格とプレデターは ゴマ粒のようにしか見えなかったが、それでもモンスターが追い詰められたこと。 そしてマシン兵器がこちらを向いたのは分かった。 「まずいっ!」 トカゲのように穴から這い出す比呂美。しかし、寒さと出血のせいで、 四肢に力が入らずに、くてりと座ってしまう。 ヒュンッ 「?」 それに合せたようにず頭上を風が抜け、髪を撫でた。 ドォオオアアアッッン! そのとき、さっきまで比呂美のいた穴が派手に爆発して、 中に埋まっていた棘やら死体やらを粉塵にして舞い上げる。 「うううわあっ!?」 偶然倒れていなければ、首ごと持っていかれていた。 慌てて雪の上を這い転がって、立ち上がると駆け出す比呂美。 「おしい」 砲を外したアームスーツがバルカン砲をセットする。それが放たれれば 比呂美がチーターのように走れても、たちまち鉄の雨で刻んで、 親だって彼女の名残を見つけられなくしてしまうだろう。 キュィィィ・・・ガガーッッ! 「な、なんだ!?」 しかしそれが発射される直前、足下にいたプレデターが腕のブレイドを ボウガンのように飛ばして、バルカン砲の先端を吹き飛ばし破壊した。 せめてあの少女だけは守る。それは情でも優しさでもなく、彼らの間で交わされた誓いだった。 「きっさまぁぁ!」 鉄骨に刺さったプレデターの足を乱暴に引き抜くと、アームスーツはボールのようにその体を下方に投げる。 いくつもの鉄柱にぶつかりながら、重態の怪物は落下していき、 20mほどパチンコ玉のように弾いて下ったあたりで、手をひっかけて停止した。 しかし、それで精一杯。比呂美のいる彼方に手を差すが、何もできない。 その眼前に噴射で悠然と浮遊してアームスーツが降りてくる。 「あの少女に何か秘密でもあるのか・・・それとも、美女と野獣の真似か? そこで股から真っ二つに裂く様を見てるがいい」 ィィィイイイ、ドウゥッ!! 空中でマシンのロケットが吼えると、ミサイルのように比呂美に突進した。 「カウゥッア!」 鉄柱にしがみついたプレデターが、2枚のレイザーディスクを取り出すと、 その巨大な背中に向けて、手裏剣のように放る。 獰猛な宇宙生物の皮膚もチーズのように斬るそれなら、電磁波バリアーも通じないはず。 ガキッガキイッ! だが宇宙ハンターの背後からの強襲も予期していたAIは、各種全身のマイクロセンサーで 円盤のコースを計算し、軽業のようにかわす。 「無駄無駄ぁっ!」 大軍を単身で蹴散らした狩猟戦士さえ、圧倒する性能に酔いしれるパイロット。そのとき、 「いや、そうでもないな」 人体の声を選別して再生する集音マイクが空気に溶けてきえる呟きを拾った。 「?・・・なっ!!」 ベトオオオッッッオッゥゥーーー! 突然、空を掻っ切るアームスーツを真っ黒い網が包み込んだ。 固く、それでいてしなり、貼りつき、どこまでも伸びるそれが、巨大マシンを捕らえる。 そして網の両端は、プレデターが投げた2枚のレイザーディスクにガムのようにくっつく。 「うおおおおっ!?」 ディスクが渦を巻くように強化外骨格に向かって回転し、グルグルとタコ糸を巻くように縛った。 さらに全身を縛られ、空中で姿勢を保とうとするアームスーツに向かって真上から黒い塊が飛んできた。 「ぉぉぉおおおらぁあっ!」 「ぬあっ!?」 全身を黒く染めた怪人が、巨大マシンの頭部に膝蹴りを叩きこむ。 その衝撃で短い間だが、モニターにノイズが走って真っ逆さまに地上へ転落した。 「ま、まだ仲間がいたのか?」 すぐさま立ち上がって、肩から小型キャノンを出そうとするアームスーツ。 黒い怪人はその背中に蜘蛛のようによじのぼって、武器を蹴り上げてもぎ取った。 「バカヤロウ!富山一の出世頭、石動純があんなマザーファッカーでたまるかよ!」 比呂美の足が止まり、何倍もある機械を踏みつける怪人を振り返る。 「え・・・えぇ・・・?あ、あんなキャラだっけ?」 「が・・・生憎とこの口裂け面じゃあワカンネェか。そうだな・・・オレ様は悪を以って悪を滅する毒薬・・・」 寄生生命体と同化した石動純はギラリと輝く牙を開くと、奇声とともに名乗りを上げた。 「ヴェノムだ!」 つづく [[truetearsVSプレデター6]]

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