勝手に最終回2

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眞一郎語り 乃絵が退院したのを見とどけた後… 俺は富山を出た。 逃げだしたんだ…すべてから… 怖くなったんだ。父さんも、母さんも、乃絵も、比呂美も… すべてが… 出版社の人を勝手に頼って上京した。その人は以前、持ち込んだ絵本を見てくれた人。 かなり迷惑そうな顔をされちまった。まぁ当然だよな。でも追い返されることもなく、 保障人無しで借りられるアパートも紹介してもらった。 6畳風呂無し。ユニットのトイレとシャワー付きの木造の古いアパート。 違法滞在の外国人ばかりが住んでいる。まぁ環境としては最低な所だが、分相応だろう。 バイトを3件掛け持ちしながら、未練がましく絵本を描いている。 不思議なもので、恵まれた環境ではまったく描けなかった優しい話が、 この最低の環境で次々と紡げている。失った物を自ら求めているのだろうか? 時々思わず自嘲的な笑いが出ちまう。 そして先月ついに俺の本が出た。出版社の人が強くプッシュしてくれたらしく、 多くの書店で扱って貰えることになった。ありがたい事だ。 印税が入ったらもう少し環境のいい所に引っ越そうか… コンコン ドアがノックされた。 呼び鈴なんて物はない。また隣のフィリピンパブに勤めているお姉さんが、差し入れでも 持って来てくれたのかな? なにかと可愛がられている。故郷に俺と同い年の弟がいるらしい。 俺は無用心にドアを開けてしまった事を後悔する事になる… 「比呂美!!比呂美!!」 朝、比呂美の教室に、乃絵があわてた様子で駆け込んできた。 「乃絵?」 色々なわだかまりがあった二人だが、今では名前で呼び合う仲になっていた。 もちろん、眞一郎が居れば今の関係にはなれなかっただろう。 眞一郎が失踪してから2年。今ではお互い、一番腹を割って話せる仲だ。 「コレ見て!!」 「絵本? 白豚と黒豚とおひさまの土地? 田中大介? …これが?」 「これ、眞一郎の本だ!!」 「!!」 おもわずガバっと絵本を凝視してしまう比呂美。 「えっ? ええっ? でっでも、田中大介って…ええっ?」 「バカね、ペンネームに決まってるじゃない」 「………よく分かるわね、これが眞一郎君のって…」 絵本の事に関しては比呂美は乃絵に敵わない。比呂美は失踪直前まで眞一郎の、 絵本をまともに見た事がなかった。 対して乃絵は絵本が眞一郎との最大の絆だった。 「間違いないわ」 乃絵が確信をもって力強く答える。 もう、比呂美も納得するしかない。 「比呂美、わたし、今からこの出版社に行ってくる」 「う、うん、私も」 居ても経っても居られない二人は教室から飛び出した。 帰宅し、着替えだけすませ、あわてて東京行きの特急に飛び乗る。 比呂美は列車のデッキの電話で出版社に電話をし、作者の事を問い合わせる。 「…間違いないわ。眞一郎君よ…」 「あ…」 普通なら手を取り合って喜ぶ所だが、今は二人とも会うのが怖い。 失踪の原因が自分達にある事を、うすうす感じていた。 出版社に立ち寄り、眞一郎の担当編集者からアパートの場所を聞き出した二人は、 眞一郎のもとへ向かう。 勢いでここまで来たが、部屋の前に立つと、やはり躊躇してしまう。 しかし今更引き返す訳にもいかない。 意を決してドアをノックする… 眞一郎の部屋は重たい空気に包まれていた。 向かい合って座る三人。 なかなか言葉が出てこない。 比呂美と乃絵は眞一郎の変わりように驚いた。 長い髪に無精ひげ。そして精気を感じられない瞳。 ドアを開けた瞬間、感動の再会とはいかなかった。 「………ねぇ、眞一郎君、みんな心配してる。いっしょに帰ろう?」 長い沈黙の後、比呂美がようやく言葉を発した。 眞一郎は俯いたまま、目を合わせようとしない。 「………私が…私がバカな事しちゃったから…ごめんね…ごめんね眞一郎…」 「眞一郎君、ほら、乃絵も元気だし、ね、いっしょに帰ろう」 「帰ろう、眞一郎。こんな所に居ちゃダメだよ…」 二人の必死の説得で、2時間後ようやく眞一郎は首を縦にふった。 比呂美と乃絵も安堵の表情を浮かべる。眞一郎の気持が変わらないうちに、そして、 また逃げ出さないうちに、半ば強引にその日のうちに富山に連れて帰る事になった。 比呂美と乃絵は、絵本の道具と原稿、少々の身の回りの品を鞄に詰め、アパートを出る。 大きい荷物は後日改めて取りにくればいい。とにかく帰ることが先決だ。 「………」 眞一郎はいまだ言葉を発さない。思いつめたような瞳。 比呂美と乃絵に引きずられるように、ようやく駅まで着いた。 「おばさんが、美味しい物いっぱい作って待ってるって」 「……ム……ツ…………アミ……」 「私も今日、二人の家に泊まってもいいかな?いっぱい話したいことがあるんだ」 「…ダ………………ム………」 「え?なあに?信一郎君?」 「………ナムアミダブツ」 比呂美の長い髪がゆれた。 乃絵のコートの裾がゆれた。 眞一郎はまるで軽いステップでも踏んだようにフワリとホームの端から消えて行った。 通過する列車。けたたましいブレーキの音。ホームに響く悲鳴と怒号。 「…し…ん………イ…ヤ…イヤ」 「うそ……うそ…う…」 「「イヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァ!!」」 暗転 END true tears製作委員会

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