新年度の始まり

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=13話以降のお話です 新年度の始まり 「おはよ」 比呂美が優しく声をかけた。 「…」 「お・は・よ♪ 「ん゛」 もそっと身じろぎするのを見て、ベッドに腰掛け、顔を近づける。 「お・は・よ♪、しん♪いち♪ろう♪くん♪」 「ん~ん゛」 まだ起きない様子に、少し大胆な行動に出ることにする。 「いたずらしちゃうぞ?」 甘ったるい比呂美の声。 「…」 無反応なので実行に移すことにした。 「えいっ!」 「んっ!…ん……ぷはっ…」 目を見開いたまま驚きつつ寝ぼけた表情を見て、朝の挨拶。 「おはよ~♪、眞一郎くん♪」 間近で頬を染めつつ上機嫌な比呂美の顔を見たが、返ってきたのは、 「…」 完全に目が覚めていないので、無言だった。 「ちゃんと起きた?」 未だ顔は近づけたままだ。首を少し傾げて可愛い仕草をしてみる。 「な、何で比呂美が…」 やっと眞一郎が口を開いた。視界いっぱいに広がる笑顔。 「おはようは?」 「お、おはよう。……だ、だから、何で比呂美がここにいるんだよ?」 「今日は始業式でしょ? 迎えに来たの…」 今更ながら、"自分がした大胆な行動"を思い出して顔が赤くなっていく。 「…」 あっという間に耳まで赤くなった比呂美の顔を見て、何をされたか思い出した。 「比呂美、どうやって起こしたんだっけ?」 「えっ!? ふ、普通に…」 「普通に?」 「ちょっとだけ、いたずらを…」 「今度、俺もしていいか?」 自分の顔も少し赤く染まっていることを自覚しつつ、眞一郎が聞いた。 「あ…あの、え、えっと…」 「…」 「あっ!、時間が…。は、早く支度しないと…。ねっ? 起きて、起きてっ!」 比呂美は明らかに話をそらして、ベッドから離れ、時計を見ながら言った。慌 てているので、ばたばたを手を動かし、地団太を踏んでいる。 「何かの時に、仕返ししてやる~」 「じゃ、じゃあ。先に下に行ってるから!」 逃げるようにして眞一郎の部屋から出て行った。 比呂美は一人暮らしを続けている。今日は2年生となる始業式の日なので、眞 一郎を迎えるために仲上の家に早朝から来ていた。 本人には内緒にしていたが、予め眞一郎の母には連絡を入れておき、朝ごはん の支度を手伝ってから、起こしたのだ。 "あの日"から相変わらず二人は仲がいい。 人前では、比呂美は眞一郎にべったりとしているが、何故か二人きりになると 途端に態度が変わる。変わるというか、自分からは手を握るのがやっと、とい うくらい、恥ずかしがっていた。眞一郎は、 (だったら、何でみんながいるとあんなに大胆なんだよ?) と思っているが、二人きりになった時の仕草に愛おしさを感じているので、満 更でもないようだ。 今日の起こし方は、比呂美にしてはかなり頑張った部類に入る。それを思い出 して、少しニヤニヤしながら洗面台に向っていった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「おかわり」 制服に着替えた眞一郎が、空になった茶碗を差し出す。 「はい」 それを受け取り、ささっとご飯をよそおう。 「はい」 「さんきゅ」 以前に一緒に住んでいた時とは違い、一つ一つの動作に言葉が交わされ、目を 合わせていた。そんな様子に眞一郎の両親は、 「…」 「…」 無言だった。 「どお? お味噌汁、私が作ったんだよ?」 「うん、丁度いい感じ。おいしい」 笑顔で眞一郎が答え、笑顔で返事が返ってくる。 「ほんと? よかったぁ~」 にこにことしながら、玉子焼きを口に運ぶ比呂美。 「…」 眞一郎の父親は普段通りだが、母親は違うようだ。この二人の無言は意味が異 なっていた。しばらく、二人のやり取りを見ていたが、 「そろそろ…」 母親が何か言おうとすると、 「あっ! 時間だよ! 行こうっ! 眞一郎くん!」 比呂美が機先を制した。 「ほんとだ。ぱくっ、い゛って゛き゛ま゛す゛」 食べながら鞄を持ち、立ち上がった。 「…」 相変わらず父親は無言。 「…いってらっしゃい」 平坦な口調なのはご想像の通りの人物だ。 「行ってきます! ほら~、行儀悪いよ?」 眞一郎を促して比呂美も居間を出て行った。 「お茶、くれんか?」 「…」 「おい…」 「あ、はい…」 二人が消えていった方を見ていたが、催促されてからやっとお茶を入れた。 「あの二人な…」 「そうですね。ちょっと、私も気になって…」 待ってましたとばかりにその話題を進めるが、 「随分と仲いいみたいじゃないか。まあ、本人達に任せればいいか…」 予想外の反応だ。 「…」 勿論、母親は多少意見が違うようだった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 学校へ続く道を、木漏れ日の中で二人は手を繋いで歩いている。眞一郎はしっ かりと前を向いて多少笑顔だが、比呂美は少し俯いて頬を染めていた。いつも の様に二人きりだと恥ずかしがっている。 校門が近づくと後ろから声がかかった。 「おっはよっ。お二人さんっ!」 「おはよう。朋与」 すかさず眞一郎との距離を詰め、返事をする。肩がぎりぎり触れ合う手前だ。 「あのねぇ、私にまで警戒しないでよ」 「あっ、そうだった。ごめんごめん」 「で、私はおはようって言ったんだけど?」 と、眞一郎に視線を移すと、 「お…おはよう…」 完全にびびった挨拶が返ってくる。 「む」 比呂美の目に力が入った。二人だけでいた時とは人が変わった様だ。 「あっははははっ。今は許してあげるけど、まぁ、自業自得ってことで。諦め  なさいってば!」 「むむむむむ」 朋与は楽しげだが、比呂美は不機嫌一歩手前、眞一郎は意気消沈。しかし、二 人の手は繋がれたままだった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 新しいクラス編成を確認してから教室に入ると、見知った顔がいくつもあった。 「よぉ~、眞一郎」 「三代吉、おはよう」 まだ席順は決まっていないので、手近な席に座りながら挨拶した。 「おはよ。何だよ、元気ねぇなぁ」 「朝からヘコむ事があったんだよ…」 「それって、この間のあれか?」 「…」 「図星か…。まぁ、がんばれや。お前は被害者かもしれんけどな」 「簡単に言うなよな」 などと話していると、眞一郎に声がかかった。 「おはよー、仲上君」 「う…」 「おはよう、仲上君」 「…」 きょろきょろと周囲を確認している眞一郎に、もう一回声がかかる。 「お・は・よ! 仲上君!」 「う…、お…おはよう…」 「仲上君!?」 何かを催促するような言い方。そのやり取りを察知した比呂美が近づいてきた。 「おはよう、あさみ。同じクラスだね?」 にこやかな表情だが、ちょっと怖い。 「あっ、おはよ~、比呂美。うん、良かったぁ」 眞一郎は一瞬だけ、ほっとしたが、 「おはよ、仲上君」 ぱっと振り向かれた。許してはもらえなかった。 「う…」 「眞一郎くん?」 比呂美からプレッシャーがかかる。しかし、 「あれぇ? おっかしいなぁ、ねぇ? 朋与?」 「そぉねぇ、だって、比呂美が悪いんだし」 「くっ」 比呂美がひるんだ。 「さぁて、今度は私のことも呼んでもらおうかしら? 仲上君?」 明らかに相手を見下したような目線で、朋与が意地悪な口調で言った。 「ぐ…」 眞一郎が言葉に詰まる。 「諦めろ。お前に選択権は無い。さっさと言っちまえば楽になるって」 三代吉は実に楽しそうに話している。それを少し睨んでから眞一郎がぼそぼそ と言った。 「………ぃ…………ぉ…」 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 「もう、いいんじゃない? 眞一郎くん、ちゃんと言ったみたいだし…」 棒読みの朋与とあさみ。必死のフォローを試みた比呂美だが、 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 攻撃が繰り返された。別に眞一郎を攻めているのではない、標的は比呂美だ。 「ほら、ふ、二人が聞こえなかっただけで、眞一郎くんは言ったよ?」 無駄と知りつつ比呂美がフォローするが、 「あれぇ? おっかしぃなぁ? この前…」 「そ、この前、ねぇ?」 朋与とあさみは意味ありげに視線を交わしてから、比呂美を見る。その目が何 を言っているのか、分かっているのだが、 「だって、眞一郎くんは悪くないでしょ? だから、ね?」 「うん、それは認める」 「認めてもいいわね」 「だったら、いいじゃない。ね?」 「それとこれとは、別」 「面白いし」 「そ、それはちょっと…」 3人が話している隙に眞一郎が席を立とうとするが、 「どこ行くんだよ?」 がっと押し留められてしまった。 「お前! かばう気ないのかよ!」 「無いね。むしろ俺も何か要求したいくらいだからな」 肩を掴んで笑いながら三代吉が言った。 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 またもや、繰り返される攻撃。眞一郎が観念した。 「ごめんな、比呂美」 「眞一郎くん、悪くないのに…」 と、見詰め合うと、 「全っ然っ、聞こえないっ!」 「聞こえないっ!」 攻撃に怒りが加わってきたようだ。 「うっ。と…と…朋与…さん、あ…あさみ…さん。おはよう…」 言い終わったあと、がっくりと肩を落した。比呂美が悲しい顔をする。 「眞一郎くん、悪くないのに…。私が悪いのに…」 だが、楽しげなのは三人だった。 「あっははははっ、やっと言った。聞こえた?」 「うん、聞こえた。あはははぁ」 「眞一郎、お前は確かに悪くは無い。しかし、俺も許せん」 何故朋与とあさみが名前で呼ばれたか、少し解説したい。 春休みに比呂美、眞一郎、三代吉、愛子、朋与、あさみが集まってどこかに出 かけたのだが、その時にちょっとした"ある出来事"があった。 それのペナルティとして、眞一郎が女友達を名前で呼ぶことが採用された。本 来は比呂美が"何か"をしたのだから、そちらが標的となるのだが、朋与のこの 一言が決め手となる。 「仲上君に罰を与えた方が、比呂美に効くと思う人っ!」 次々に手が上がったことで決定されたのだ。名前で呼ばれることは、朋与はそ うでもないようだが、実はあさみが内心で少しだけ喜んでいた。 祭りの後少しだけ注目を集めることが多くなったのだが、そんな眞一郎を比呂 美は何かと"保護"していた。方向がちょっと間違ったことで、その場にいた全 員が"怒った"のだった。"あまりにも目に余る"それが積み重なった結果だった。 比呂美としても自覚があるが、どうにもならない衝動でしてしまうことなので、 抑えようがない。かと言って放置なんてとんでもない。 たとえどんなに恥ずかしくても"保護"しなくては…、そう思っていた。 「うぅ…」 眞一郎としては、"彼女"以外を名前で呼ぶことにかなりの抵抗がある。力なく 俯いていた。 「眞一郎くん、ごめんね? でも…」 「これは、これからも大変だねぇ?」 「そうかも」 朋与とあさみは、意味ありげな視線を比呂美に向けていた。 「俺は一発殴りたいな」 三代吉は結構本気だった。 END -あとがき- さて、春休みにあった"ある出来事"とは何でしょうね? 当然"そっち方向"です。比呂美が全員の見ている前で、何をしたのやら…。 登場人物の設定はこんな感じです。 眞一郎=比呂美に振り回されているようで、しっかりとリードしてるんだけ     ど、やっぱり言いなりみたいな感じ。 比呂美=眞一郎べったり。人前では独占欲からの"保護"目的で大胆な行動。     二人きりだと途端に恥ずかしくなって、消極的。でも、時に大胆。 朋与=本編そのまんま。 あさみ=祭り以来、ちょっと眞一郎に興味あり? このまま話を続けるかどうか、悩むところ…。朋与とあさみに誰かに一目惚 れさせて、色んなイベントを盛り込んでラブコメ風にいくつか話を書くかど うか、って他に男キャラがいないので、どうにもならないし…。 眞一郎はどうせ比呂美しか見ないから、話を続けられない。アイデア募集…。 二人をいちゃいちゃさせるのは簡単ですけど、それよりも朋与とかあさみを 使った方が面白そうです。で、二人のエピソードを話の途中で入れれば話を 作れそう。いつまで続くか分かりませんが…。 と言うか、続き読みたいですか?  ありがとうございました。
=13話以降のお話です 新年度の始まり 「おはよ」 比呂美が優しく声をかけた。 「…」 「お・は・よ♪」 「ん゛」 もそっと身じろぎするのを見て、ベッドに腰掛け、顔を近づける。 「お・は・よ♪、しん♪いち♪ろう♪くん♪」 「ん~ん゛」 まだ起きない様子に、少し大胆な行動に出ることにする。 「いたずらしちゃうぞ?」 甘ったるい比呂美の声。 「…」 無反応なので実行に移すことにした。 「えいっ!」 「んっ!…ん……ぷはっ…」 目を見開いたまま驚きつつ寝ぼけた表情を見て、朝の挨拶。 「おはよ~♪、眞一郎くん♪」 間近で頬を染めつつ上機嫌な比呂美の顔を見たが、返ってきたのは、 「…」 完全に目が覚めていないので、無言だった。 「ちゃんと起きた?」 未だ顔は近づけたままだ。首を少し傾げて可愛い仕草をしてみる。 「な、何で比呂美が…」 やっと眞一郎が口を開いた。視界いっぱいに広がる笑顔。 「おはようは?」 「お、おはよう。……だ、だから、何で比呂美がここにいるんだよ?」 「今日は始業式でしょ? 迎えに来たの…」 今更ながら、"自分がした大胆な行動"を思い出して顔が赤くなっていく。 「…」 あっという間に耳まで赤くなった比呂美の顔を見て、何をされたか思い出した。 「比呂美、どうやって起こしたんだっけ?」 「えっ!? ふ、普通に…」 「普通に?」 「ちょっとだけ、いたずらを…」 「今度、俺もしていいか?」 自分の顔も少し赤く染まっていることを自覚しつつ、眞一郎が聞いた。 「あ…あの、え、えっと…」 「…」 「あっ!、時間が…。は、早く支度しないと…。ねっ? 起きて、起きてっ!」 比呂美は明らかに話をそらして、ベッドから離れ、時計を見ながら言った。慌 てているので、ばたばたを手を動かし、地団太を踏んでいる。 「何かの時に、仕返ししてやる~」 「じゃ、じゃあ。先に下に行ってるから!」 逃げるようにして眞一郎の部屋から出て行った。 比呂美は一人暮らしを続けている。今日は2年生となる始業式の日なので、眞 一郎を迎えるために仲上の家に早朝から来ていた。 本人には内緒にしていたが、予め眞一郎の母には連絡を入れておき、朝ごはん の支度を手伝ってから、起こしたのだ。 "あの日"から相変わらず二人は仲がいい。 人前では、比呂美は眞一郎にべったりとしているが、何故か二人きりになると 途端に態度が変わる。変わるというか、自分からは手を握るのがやっと、とい うくらい、恥ずかしがっていた。眞一郎は、 (だったら、何でみんながいるとあんなに大胆なんだよ?) と思っているが、二人きりになった時の仕草に愛おしさを感じているので、満 更でもないようだ。 今日の起こし方は、比呂美にしてはかなり頑張った部類に入る。それを思い出 して、少しニヤニヤしながら洗面台に向っていった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「おかわり」 制服に着替えた眞一郎が、空になった茶碗を差し出す。 「はい」 それを受け取り、ささっとご飯をよそおう。 「はい」 「さんきゅ」 以前に一緒に住んでいた時とは違い、一つ一つの動作に言葉が交わされ、目を 合わせていた。そんな様子に眞一郎の両親は、 「…」 「…」 無言だった。 「どお? お味噌汁、私が作ったんだよ?」 「うん、丁度いい感じ。おいしい」 笑顔で眞一郎が答え、笑顔で返事が返ってくる。 「ほんと? よかったぁ~」 にこにことしながら、玉子焼きを口に運ぶ比呂美。 「…」 眞一郎の父親は普段通りだが、母親は違うようだ。この二人の無言は意味が異 なっていた。しばらく、二人のやり取りを見ていたが、 「そろそろ…」 母親が何か言おうとすると、 「あっ! 時間だよ! 行こうっ! 眞一郎くん!」 比呂美が機先を制した。 「ほんとだ。ぱくっ、い゛って゛き゛ま゛す゛」 食べながら鞄を持ち、立ち上がった。 「…」 相変わらず父親は無言。 「…いってらっしゃい」 平坦な口調なのはご想像の通りの人物だ。 「行ってきます! ほら~、行儀悪いよ?」 眞一郎を促して比呂美も居間を出て行った。 「お茶、くれんか?」 「…」 「おい…」 「あ、はい…」 二人が消えていった方を見ていたが、催促されてからやっとお茶を入れた。 「あの二人な…」 「そうですね。ちょっと、私も気になって…」 待ってましたとばかりにその話題を進めるが、 「随分と仲いいみたいじゃないか。まあ、本人達に任せればいいか…」 予想外の反応だ。 「…」 勿論、母親は多少意見が違うようだった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 学校へ続く道を、木漏れ日の中で二人は手を繋いで歩いている。眞一郎はしっ かりと前を向いて多少笑顔だが、比呂美は少し俯いて頬を染めていた。いつも の様に二人きりだと恥ずかしがっている。 校門が近づくと後ろから声がかかった。 「おっはよっ。お二人さんっ!」 「おはよう。朋与」 すかさず眞一郎との距離を詰め、返事をする。肩がぎりぎり触れ合う手前だ。 「あのねぇ、私にまで警戒しないでよ」 「あっ、そうだった。ごめんごめん」 「で、私はおはようって言ったんだけど?」 と、眞一郎に視線を移すと、 「お…おはよう…」 完全にびびった挨拶が返ってくる。 「む」 比呂美の目に力が入った。二人だけでいた時とは人が変わった様だ。 「あっははははっ。今は許してあげるけど、まぁ、自業自得ってことで。諦め  なさいってば!」 「むむむむむ」 朋与は楽しげだが、比呂美は不機嫌一歩手前、眞一郎は意気消沈。しかし、二 人の手は繋がれたままだった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 新しいクラス編成を確認してから教室に入ると、見知った顔がいくつもあった。 「よぉ~、眞一郎」 「三代吉、おはよう」 まだ席順は決まっていないので、手近な席に座りながら挨拶した。 「おはよ。何だよ、元気ねぇなぁ」 「朝からヘコむ事があったんだよ…」 「それって、この間のあれか?」 「…」 「図星か…。まぁ、がんばれや。お前は被害者かもしれんけどな」 「簡単に言うなよな」 などと話していると、眞一郎に声がかかった。 「おはよー、仲上君」 「う…」 「おはよう、仲上君」 「…」 きょろきょろと周囲を確認している眞一郎に、もう一回声がかかる。 「お・は・よ! 仲上君!」 「う…、お…おはよう…」 「仲上君!?」 何かを催促するような言い方。そのやり取りを察知した比呂美が近づいてきた。 「おはよう、あさみ。同じクラスだね?」 にこやかな表情だが、ちょっと怖い。 「あっ、おはよ~、比呂美。うん、良かったぁ」 眞一郎は一瞬だけ、ほっとしたが、 「おはよ、仲上君」 ぱっと振り向かれた。許してはもらえなかった。 「う…」 「眞一郎くん?」 比呂美からプレッシャーがかかる。しかし、 「あれぇ? おっかしいなぁ、ねぇ? 朋与?」 「そぉねぇ、だって、比呂美が悪いんだし」 「くっ」 比呂美がひるんだ。 「さぁて、今度は私のことも呼んでもらおうかしら? 仲上君?」 明らかに相手を見下したような目線で、朋与が意地悪な口調で言った。 「ぐ…」 眞一郎が言葉に詰まる。 「諦めろ。お前に選択権は無い。さっさと言っちまえば楽になるって」 三代吉は実に楽しそうに話している。それを少し睨んでから眞一郎がぼそぼそ と言った。 「………ぃ…………ぉ…」 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 「もう、いいんじゃない? 眞一郎くん、ちゃんと言ったみたいだし…」 棒読みの朋与とあさみ。必死のフォローを試みた比呂美だが、 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 攻撃が繰り返された。別に眞一郎を攻めているのではない、標的は比呂美だ。 「ほら、ふ、二人が聞こえなかっただけで、眞一郎くんは言ったよ?」 無駄と知りつつ比呂美がフォローするが、 「あれぇ? おっかしぃなぁ? この前…」 「そ、この前、ねぇ?」 朋与とあさみは意味ありげに視線を交わしてから、比呂美を見る。その目が何 を言っているのか、分かっているのだが、 「だって、眞一郎くんは悪くないでしょ? だから、ね?」 「うん、それは認める」 「認めてもいいわね」 「だったら、いいじゃない。ね?」 「それとこれとは、別」 「面白いし」 「そ、それはちょっと…」 3人が話している隙に眞一郎が席を立とうとするが、 「どこ行くんだよ?」 がっと押し留められてしまった。 「お前! かばう気ないのかよ!」 「無いね。むしろ俺も何か要求したいくらいだからな」 肩を掴んで笑いながら三代吉が言った。 「全然聞こえない」 「聞こえなーい」 またもや、繰り返される攻撃。眞一郎が観念した。 「ごめんな、比呂美」 「眞一郎くん、悪くないのに…」 と、見詰め合うと、 「全っ然っ、聞こえないっ!」 「聞こえないっ!」 攻撃に怒りが加わってきたようだ。 「うっ。と…と…朋与…さん、あ…あさみ…さん。おはよう…」 言い終わったあと、がっくりと肩を落した。比呂美が悲しい顔をする。 「眞一郎くん、悪くないのに…。私が悪いのに…」 だが、楽しげなのは三人だった。 「あっははははっ、やっと言った。聞こえた?」 「うん、聞こえた。あはははぁ」 「眞一郎、お前は確かに悪くは無い。しかし、俺も許せん」 何故朋与とあさみが名前で呼ばれたか、少し解説したい。 春休みに比呂美、眞一郎、三代吉、愛子、朋与、あさみが集まってどこかに出 かけたのだが、その時にちょっとした"ある出来事"があった。 それのペナルティとして、眞一郎が女友達を名前で呼ぶことが採用された。本 来は比呂美が"何か"をしたのだから、そちらが標的となるのだが、朋与のこの 一言が決め手となる。 「仲上君に罰を与えた方が、比呂美に効くと思う人っ!」 次々に手が上がったことで決定されたのだ。名前で呼ばれることは、朋与はそ うでもないようだが、実はあさみが内心で少しだけ喜んでいた。 祭りの後少しだけ注目を集めることが多くなったのだが、そんな眞一郎を比呂 美は何かと"保護"していた。方向がちょっと間違ったことで、その場にいた全 員が"怒った"のだった。"あまりにも目に余る"それが積み重なった結果だった。 比呂美としても自覚があるが、どうにもならない衝動でしてしまうことなので、 抑えようがない。かと言って放置なんてとんでもない。 たとえどんなに恥ずかしくても"保護"しなくては…、そう思っていた。 「うぅ…」 眞一郎としては、"彼女"以外を名前で呼ぶことにかなりの抵抗がある。力なく 俯いていた。 「眞一郎くん、ごめんね? でも…」 「これは、これからも大変だねぇ?」 「そうかも」 朋与とあさみは、意味ありげな視線を比呂美に向けていた。 「俺は一発殴りたいな」 三代吉は結構本気だった。 END -あとがき- さて、春休みにあった"ある出来事"とは何でしょうね? 当然"そっち方向"です。比呂美が全員の見ている前で、何をしたのやら…。 登場人物の設定はこんな感じです。 眞一郎=比呂美に振り回されているようで、しっかりとリードしてるんだけ     ど、やっぱり言いなりみたいな感じ。 比呂美=眞一郎べったり。人前では独占欲からの"保護"目的で大胆な行動。     二人きりだと途端に恥ずかしくなって、消極的。でも、時に大胆。 朋与=本編そのまんま。 あさみ=祭り以来、ちょっと眞一郎に興味あり? このまま話を続けるかどうか、悩むところ…。朋与とあさみに誰かに一目惚 れさせて、色んなイベントを盛り込んでラブコメ風にいくつか話を書くかど うか、って他に男キャラがいないので、どうにもならないし…。 眞一郎はどうせ比呂美しか見ないから、話を続けられない。アイデア募集…。 二人をいちゃいちゃさせるのは簡単ですけど、それよりも朋与とかあさみを 使った方が面白そうです。で、二人のエピソードを話の途中で入れれば話を 作れそう。いつまで続くか分かりませんが…。 と言うか、続き読みたいですか?  ありがとうございました。

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