新年度の始まり-4

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新年度の始まり-4 開店前の今川焼き屋"あいちゃん"店内が、少し緊迫した空気に満たされた。 「どうしたの? ひょっとして…こないだの話?」 「ん? そう…かな?」 「ぇ…」 愛子と眞一郎の間では話が通じたようだが、比呂美が驚きの表情で止まった。 (だって…、眞一郎くん…愛ちゃんとは…) 二人が付き合うようになってから、お互いにそれまでの事を全て話し、理解を 深めて、より一層の信頼関係を築いている。なのに、自分の知らない事がある、 信じていただけに衝撃は計り知れない…。 「って! 何だよ! こないだの話って!」 考え事をしながら、相槌を打ってしまったことに気付いたようだ。 「ん?」 悪戯っ子の様な愛子の表情だ。 「愛ちゃん!」 眞一郎の目は真剣、愛子は素直に謝る。 「ごめん、ごめん。こないだ、おばさんに偶然会ってね? 今度の日曜の話、  聞いていたんだってば。あれ? 日曜は明日か。それかな~って思って、  言ってみただけ。それで、電話は明日の話なの?」 どうやら、眞一郎の母にどこかで会った時の話をしているようだ。しかし、比 呂美はまだ納得しきれていない。動揺が激しく、愛子の言葉だけでは足りない のだ。 「眞一郎くん…」 すがるような視線が注がれる。それを感じ取って、 「ああ、びっくりした。さっき"あいちゃん"にいるって言ったら、  『もう聞いてる?』って言われたのはそれかぁ…。  母さんも愛ちゃんも、人が悪いよなぁ~」 眞一郎は比呂美を安心させる様に普通の口調だった。 「ほんとに?」 もう少し足りない。 「ああ、大丈夫」 笑顔を見せる。 「うん…」 比呂美が納得して安心した、と伝える為に笑顔を返した。 「で、わかりました? 私達の気持ち?」 朋与は愛子の方を見ていた。 「少し…分かった気がする…。時々? 毎日?」 「いつでも、どこでも」 「誰が見ていようと、かな?」 「オレは基本的に見ない様にしてる。つーか、見飽きた」 「これは…、さっきは説教みたいに言ってごめん、としか言い様がないかも…。  でも、そのままにしてると、これだし…。かと言ってやり過ぎると…」 愛子は考えながら話している。 「でしょう?」 「何とかしてぇ~」 その間も笑顔で見つめ合う二人。そこへ、三代吉が話しかけた。 「おい、眞一郎! 結局電話は何の用だったんだよ?」 肩をがしっと掴んで話しかける。元々眞一郎は三代吉を無視する様なことはし ないので、そこまでは必要ないが、あまりにも見せ付けられると邪魔したくな るのは、仕方が無いことでもあった。 「ああ、そうだった。みんな明日の日曜、空いてる?」 眞一郎がようやく母親からの電話について、話し始めるようだ。 「その前に、比呂美ちゃんには聞かないの?」 愛子がすかさず聞いた。 「比呂美はOK、な?」 「うんっ」 またもや笑顔の会話。 「あっそ」 「ふ~ん」 「へぇ」 「今のは愛ちゃんが悪いんじゃね? わざわざ確認することか~?」 「三代吉ぃ」 愛子は冷たい視線を突き刺す。三代吉が明らかにひるんだ。 「あっ、ははははは…は…」 「お前って、案外尻に敷かれるタイプなんだな?」 眞一郎は"仲間"意識ではなく、聞いたのだが、 「まぁな」 すんなりと同意を得てしまう。それはそれで複雑だった。 「眞一郎くん…、それで、明日は何があるの?」 上機嫌の比呂美が話の先を促した。 「「「はぁ」」」」 溜息の三重奏は、タイミングと長さがピッタリ揃っていた。 「そうそう、だからさ、みんな明日空いてるか? 11時くらいから、  昼過ぎで夕方まではかからないと思う。昼飯出すってさ」 眞一郎が気を取り直して、もう一度同じ事を聞いた。 「私は聞いてるから、空けておいたよ。三代吉は?」 「オレも大丈夫」 愛子と三代吉は簡単に話にのってきた。 「何なの? その前に何だか説明してよ」 朋与は、ただ空いているかと聞かれても困っていた。 「私も何か知りたい」 あさみも同様だった。 「酒蔵で新しいのができたみたいでさ、内輪で集まりがあるみたいなんだ。  そこに友達もどうか?って言われたんだけど、どうかな?  二人とも比呂美の友達だし、どう思う?」 「うん、来てもらいたいな。ね? 朋与っ、あさみっ」 にこやかな笑顔で話しかける比呂美に、二人もつられる。 「そういう事なら、OK。まだ予定決めてなかったから、丁度いい」 「うん、私も行く」 「でもよー、何すんだよ?」 三代吉は内輪の集まり、と言われてもピンとこない様だった。 「ああ、たぶん取引先とか近所の人がウチに来て、おいしいもの食べて酒飲ん  で、しゃべってるだけ。堅苦しい集まりじゃないって」 「オレらも酒飲んでいいのかよ?」 「三代吉ぃ」 愛子のするどいツッコミ。 「ま、それはバレないように…」 「眞一郎くん! ほどほどにね!」 ちっとも止めない比呂美。 「「「はぁ」」」」 溜息の三重奏は、やっぱりタイミングと長さがピッタリ揃っていた。 しばらく6人でわいわいと会話を楽しんだ後、その日はお開きとなった。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 三代吉を残して、4人は帰宅する。 「じゃ、また明日」 「またね」 朋与とあさみが手を振っていた。 「うん、後でメールするねー」 比呂美もそれに応えている。朋与とあさみは、家の方向が同じなので一緒に帰 るようだ。少しだけ明日の仲上酒造での集まりについて話をした後、朋与が突 然切り出した。 「あさみ、実は仲上君が気になる、とか?」 朋与の目線は真っ直ぐ前へ向いていた、あさみはその横顔を見て、 「どうして、そう思った?」 どきっとしながらも、なるべく冷静に答えたつもりだった。心臓の鼓動は速い。 「目が仲上君を追いかけてるのを、今までも何回も見てた。 それに今日は  いつもより多かった。比呂美をかばった後は、特にね~」 「…」 「仲上君は比呂美しか見てないよ。知ってるでしょ?」 「うん、もちろん知ってるし、分かってる」 少しずつ鼓動が落ち着いてきた。あさみも前を見る。 「それに、比呂美は友達」 「うん、それも分かってる」 「確かに麦端祭りの花形なんて、ウチの学校じゃ一人だけだったもんね」 「うん、あれはカッコ良かった。今でも思い出せるよ?」 「その前に花形自体、簡単には出来ないし、なれないし」 「そう…なんだ?」 「見たんでしょ? あれしかいないんだよ? 募集なんてしてないし、  なりたくてなれるもんじゃないっつ~の」 「ふ~ん。仲上君、すごいんだ」 「…」 「な、何?」 「比呂美は私達の友達」 「うん」 「しかも、色々知ってる」 「うん」 「で、これからどうする?」 「どうするって?」 「気になるんでしょ?」 「…」 「ま、考えても無駄な気もするけど…」 「相談くらい、いいでしょ? 朋与?」 「どうにもならないかも知れないのに?」 「分かっちゃったんだもん。そんな簡単には…」 「そんなもん?」 「うん、だと思う…」 いつしか、分かれ道にたどり着いていた。そこで止まり、話が続く。何故か 2人とも眞一郎の家の方角を向き、視線を合わせない。 「昨日までは気になる程度だったけど。さっき、分かったちゃった」 「そう」 「どうして気になっていたか」 「なるほどね」 「考えてみようかな、って」 「…」 「比呂美とは今までどおり」 「できる? 軽く考えてない?」 「する」 「ふ~ん、今までどおり、ねぇ?」 「でも、ほんとにそうなのか、まだよく分かんない」 「なるほどねぇ…」 「…」 「…」 そこで会話が止まる。 「夜、電話いい?」 「うん。おっけー」 少しの間無言が続いたが、電話の約束を合図にそれぞれの家へ向った。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 朋与、あさみと別れた後、比呂美と眞一郎は並んで歩いている。 「…」 「…」 何となく無言で、すたすたとかなりの速度で歩いていた。"あいちゃん"に寄っ たとしても、日はまだまだ高い。夕飯までの時間はたっぷりとある。比呂美の アパートへの近道を二人は自然に選択していた。その時、 「あっ」 「あ」 手と手が触れ合った。 「比呂美」 「うん…」 それだけで、手が繋がる。しかし、比呂美は"ふわっ"としか握ってこない。 (またいつもの恥ずかしがりが出てきたかな?) 時間があって、近道を選択し、すたすたとアパートへと手を繋いで急いで歩く。 この意味を二人ともよく理解していた。それが比呂美の握力に現れている。 眞一郎が手に力を少しだけ入れた。…にぎっ… 「!」 …にぎっ… 比呂美が返事をする。OK、だそうだ。ちらっと隣を見ると、 「…っ」 俯き気味に頬を染める顔が、揺れる長い髪の隙間から覗いていた。 「…」 「…」 また無言。 「比呂美、明日、楽しみだな…」 「う、うん…」 全然関係ない話なので、会話は続かなかった。やはり、アパートが近づくと自 然にお互いが意識してしまい、いつも通りとはいかないようだ。 カン、カン、カン…。手を繋いだまま密着して階段を上っていく。 部屋の前で、 「鍵…、出して…」 「了解」 比呂美は繋いだ右手を離す気が無いようだ。眞一郎が鞄を下に置いて、鍵をポ ケットから出して、空けた。…がちゃ… 「比呂美」 目と目が合う。 「眞一郎くん…、ん…んっ…ちゅ…ん…んくっ…」 体を預けるようにして寄り添ってキス。眞一郎が体を少しだけ離す。 「比呂美、今日はちょっと…」 「だって…、眞一郎くんが……眞一郎くんが……」 間近で見つめ合い、囁くような二人の会話が扉の前で行われていた。 「とりあえず、入ろう。な?」 「う、うん…」 比呂美の心臓は痛いくらいに"ばくばく"している。今日は"あいちゃん"で予想 外に"嬉しいこと"があった。やっぱり二人きりだと恥ずかしいが、そんなこと なんて吹き飛ばしてしまうくらいに、眞一郎を求めていた。 キィ…、扉を開けて部屋に入ると、 「あら?、お帰りなさい。勝手に中で待たせてもらっているわよ?」 盛り上がっている二人が目にしたのは、正座した眞一郎の母の姿だった。 続きが…あります。 END -あとがき- 長くなってきました。どうしよう…。実は前の3とこの4は一つの話だった んですが、あえて分けてみました。特に意味はないです。 基本路線は朋与とあさみが主役。その前にそれぞれの位置関係を明確にしよ うと書き始めたのですが、あれ?、という感じ。何も考えずに話を作ってい るので、ちょっと反省…。 今後は比呂美&眞一郎のエピソードを混ぜつつ、話を進める予定。  ありがとうございました。

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