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「新年度の始まり-7」(2008/04/08 (火) 00:10:12) の最新版変更点
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<p>新年度の始まり-7</p>
<p><br />
「好きなの!」<br />
「えっ?」<br />
あさみの気持ちが心臓の鼓動となって、背中に伝わっていく。</p>
<p>(ああ、どうしよう…。追いかけちゃった…、抱きついちゃった…)<br />
今のあさみにとって、寄りかかっている背中が全てだった。暖かい不思議な感<br />
覚、心地良さに、目を閉じて身を委ねた。</p>
<p>ザーッ、トイレで水を流す音が聞こえた。ガチャ。<br />
「ふぅ…、和服って面倒だなぁ…って何してんの?」<br />
眞一郎の目に飛び込んできたのは、誰かの背中に抱きついているあさみだった。<br />
固く閉じられていた瞳が開いた。<br />
「えっ!? 仲上…くん?」<br />
あさみの目が驚きで見開かれる。<br />
(あれ? この人…誰?)<br />
「うひゃあ、何ですかぁ? いきなり…」<br />
丁稚がびくびくしながら頭をめぐらせた。<br />
「何、してんの?」<br />
もう一度眞一郎が聞くと、丁稚の背中から体を引き離し、必死にあさみが言い<br />
訳を開始する。<br />
「えっ!? え~っとぉ、こ…これは…、これ…これはぁ…」<br />
「ん?」<br />
「い…いが…、そう!、わ…私ってば、イガグリ頭が好きなの!」<br />
「え?」<br />
「あっ、あのね!? ちょっと…このイガグリ頭が見えて…、その…思わず…」<br />
「え? その頭が?」<br />
「そんなぁ、イガグリ頭なんて、ひどいっすねぇ。坊主頭、あ、一緒かぁ?」<br />
あさみの言い訳が続く。<br />
「私…、昔っからあの頭が好きで…、その…」<br />
少し俯いた顔は真っ赤になっていた。<br />
「…ぷっ」<br />
眞一郎はその様子を見て、吹き出した。<br />
「坊ちゃん! 僕の頭を見て笑いましたね!」<br />
「ぷっ…くっ…、ちっ…ちが…違うって! だってさぁ、坊主頭が好きなの!<br />
何て、聞いたことねぇよ!。ふっ…あっははははっ!」<br />
「わ…笑わないでよ!」<br />
「むっ…無理…、あっはははっ!」<br />
「坊ちゃん…、ひどいっす…」</p>
<p>あさみ…、よく見ろよ…。</p>
<p>しかし、無理か…。眞一郎と丁稚は同じ柄と色の和服だったからな…。<br />
丁稚が目に入らなかったのは、仕方の無い事だ…。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>居間では、全員揃ってケーキと紅茶を楽しんでいた。一人を除いて…。<br />
「…」<br />
あさみは赤い顔を俯かせていた。眞一郎に「黙ってて!」と言っていたのだが、<br />
残念なことに丁稚もケーキの相伴に預かっていて、隠すことができなかった。<br />
全員に笑われ、からかわれ、すっかり意気消沈している。眞一郎の母でさえ控<br />
えめに笑っていた。<br />
「あさみぃ、食べなよぉ~。おいしいよ?」<br />
比呂美が勧めるが、<br />
「一番笑ってたくせに…」<br />
じとっと睨んでいた。<br />
「ごっ、ごめん…」<br />
「あっ! また笑おうとしてる! ひどいよぉ…」<br />
比呂美の顔がほころびかけるのをみて、あさみが言ったが、<br />
「だ、大丈夫…」<br />
無理して笑いを堪えているのが、見え見えだった。<br />
「いいもん…」<br />
遂に拗ねてしまった。<br />
「比呂美、放っておけば勝手に復活してるわよ」<br />
朋与は少しだけ厳しい目であさみを見ていた。一緒に笑ってはいたが、何か考<br />
え事をするかのように、最初にからかうのを止めて、ケーキをぱくついていた。<br />
「どうせ、ケーキ食べるの我慢できっこないんだから」<br />
「…」<br />
あさみがびくっと反応する。実はかなり我慢していた。甘い匂いが鼻に届いた<br />
時から、食べるタイミングを計っていたのだった。さすがに笑われながらケー<br />
キに手をつけるわけにもいかず、どうしたものか考えていた。<br />
「右手、見て? さっきからフォークはしっかり握ってるから、大丈夫よ」<br />
「うっ」<br />
「まあ、食べるまでみんなでじっと観察して遊んでもいいけど? あさみ?」<br />
「もう! 知らない!」<br />
怒ったフリをして、ケーキをフォークを刺し、大きく口を開けて食べ始めた。<br />
クリームが溶け、甘い味が口いっぱいに広がる、顔がほころんだ。<br />
「う~ん、おいし~い♪」<br />
たった一口で機嫌が直っていた。<br />
「…」<br />
比呂美はあさみが甘いもの好きであることは知っていても、言葉が出ない。ど<br />
うやら、テーブルにいる面々も同様だ。しかし、朋与は冷静に、<br />
「ほ~らね? この子はこうなのよ…」<br />
「し、心配して損した…」<br />
眞一郎は結構衝撃を受けていた。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>「「「「今日はありがとうございましたぁ!」」」」<br />
4人は軽く頭を下げて、お礼を言ってから仲上家を後にした。まだ日は高い。<br />
「どうする? "あいちゃん"寄ってく?」<br />
愛子が朋与やあさみに話しかける。<br />
「あっ、これから私達買い物行くんですよ。それに…」<br />
「それに?」<br />
「お邪魔はしませんよ?」<br />
口に手をあててニヤリと笑い、朋与が三代吉へちらっと視線を送った。<br />
「でへっ」<br />
三代吉の顔がだらしなくなった。<br />
「きっ、気を使わなくたって…」<br />
愛子が照れて頬を染める。<br />
「それじゃ! 私達こっちなんで!」</p>
<p>愛子、三代吉と別れ、あさみと2人だけになった。朋与の声と口調が変わる。<br />
「さて、どこにする? ウチに来る? 夜まで誰もいないわよ」<br />
事務的と言うか、感情のない声だった。<br />
「うん…そうする…。ありがと…」<br />
あさみにはケーキを食べていた時からあった元気がない。<br />
「途中で何か買いましょ?」<br />
「うん…」</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>朋与の部屋に入ると、あさみがへたり込む様にして座った。<br />
「はぁ…」<br />
思わず溜息が出てしまう。<br />
「さぁて、聞こうかな?」<br />
クッションを渡してから、朋与も適当に座り、買ってきたものを小さなテーブ<br />
ルに置いた。<br />
「うん…」<br />
あさみはクッションを抱き締めながら、"イガグリ頭が好きな理由"を話した。</p>
<p>「あんた、暴走しちゃったんだねぇ…」<br />
「…」<br />
あさみがぎゅっとクッションを抱き締めた。<br />
「イヤぁな予感してたのよねぇ、トイレぇ、なんて言うから…」<br />
「…」<br />
「で、どうなの? 仲上君にも笑われたけど?」<br />
「分かんない…」<br />
「まぁ、少し一人で考えな? ネットでも見て時間つぶしてるから…」<br />
「うん…ありがと。朋与…」<br />
朋与はパソコンの電源を入れ、買ってきたお菓子を食べながら、お気に入りの<br />
サイトを巡り始めた。</p>
<p>「うっ……ぐっ…うぅ…」<br />
しばらくすると、あさみから嗚咽が聞こえてきた。<br />
「…」<br />
朋与は何も言わず、ティッシュの箱をあさみの膝元に置く。<br />
「ううぅ……ううぅ……ううぅ!…」<br />
「落ち着いたら言って。聞くから…」<br />
それだけ言うと、朋与は泣き声を聞きながら、読みかけの本を取り出した。</p>
<p>「朋与、もう大丈夫。うん…。相変わらず本がいっぱいの部屋だね?」<br />
あさみが顔を上げて弱々しい笑顔で言った。赤い目と腫れたまぶたが痛々しい。<br />
「推理小説面白いわよ、時間を忘れて読むくらい。でも、ホントに大丈夫?」<br />
「うん、大丈夫、だと思うよ?」<br />
「そうみたいね? いつものあさみっぽい…かなぁ?」<br />
パンと本を閉じ、クッションに座り直した。<br />
「うん…、ありがと」<br />
「もうお礼はいいわよ。かなり本気だったみたいね? 泣くくらいだもの」<br />
「うん、自分でもびっくり。はむ…んぐ…」<br />
あさみはお菓子を食べ始めた。<br />
「…やっぱ、あんたは大したもんだね? 食べる? 普通?」<br />
少し朋与は呆れ気味の視線だ。<br />
「んぐ…んっ、まあ、ストレス解消? はむ…んぐ…」<br />
「はいはい。で、どうしようかね? 明日、学校だよ?」<br />
「んっ……………ううぅ…」<br />
「全然大丈夫じゃないっぽい…」<br />
朋与はさっき適当に閉じてしまったことを後悔しながら、再度本を開いた。</p>
<p>「今度こそ大丈夫? 明日、学校だよ?」<br />
「うっ…、だ、大丈夫…。はむ…んぐ…はむ…んぐ…」<br />
あさみのお菓子を食べるスピードが上がっていた。<br />
「うん、それなら何とかなるか。大丈夫? 明日、仲上君に会うけど?」<br />
「んぐっ…んっ………ぐぐぐ…、朋与ぉ、どうしよ~う?」<br />
あさみは涙目だ。<br />
「ちょっとタイミングが悪かったわね。でも、まだ時間あるから、頑張りな<br />
さいな。これが夕方とか夜だったら、大変よ?」<br />
「そ、そうだね…。がんばる…うん…。はむ…んぐ…んっ」<br />
「はぁ、明日の心配よりも、まずは気持ちをどうするか、かな?」<br />
「うん、はむ…んぐ…はむ…んぐ…んぐ…んぐっ…」<br />
「あんた、いい度胸してるね?」<br />
「え? どうして?、はむ…んぐ…」<br />
あさみは相変わらず食べながら会話しているが、朋与はそれを見咎めない。<br />
「昨日は始業式。これから1年みんな一緒」<br />
「ああああぁ~、そうだったぁ~。はむっ…んぐんぐ…んぐっ!」<br />
「見れる? 仲上君の顔」<br />
「うっ、それは難易度が高い、かも…」<br />
それはあさみにとって、聞かれたくない質問だった。<br />
「不自然だと、まずいよ?」<br />
「うん、んっ…、ごくっ…」<br />
食べたり、飲んだり、返事したり、あさみは忙しい。<br />
「明日は、比呂――」<br />
その時、朋与の携帯電話が鳴った。<br />
「比呂美だ…」<br />
「えっ?」<br />
「でるよ?」<br />
「私はいない!」<br />
「当然!」<br />
通話ボタンを押した。</p>
<p>「比呂美?」<br />
立ち上がって、あさみから少し離れ、机に座った。パソコンの画面を見ながら<br />
話し始めることにした。<br />
『うん、今、大丈夫?』<br />
「少しならいいけど…、これから出かけるから。どしたの?」<br />
本当は全然時間はあるのだが、あさみが後ろにいると思うと長電話はできない、<br />
心で比呂美に謝りながら朋与は小さな嘘をついた。<br />
『うん、分かった。あさみに悪いことしちゃったかな?って思って…』<br />
(ああ、やっぱ比呂美はいい子だなぁ)<br />
『それでね? あさみ、どうだったかなって思って…』<br />
「大丈夫だと思うよ? ちょっと落ち込んでたけど、笑ってたし」<br />
『ほんとぉ? 私、いっぱい笑っちゃったから…』<br />
「あたしも笑ったから、気にしても仕方ないって。後でメールでもしとけば?」<br />
『うん、そうだね。ありがと』<br />
「それよりも、明日…学校では言わない方がいいよ?」<br />
『言わないよぉ。今でも悪いかなって思ってるのに…』<br />
「仲上君にも言っておいてね?」<br />
『うん、眞一郎くんの方が気にしてたよ。最初に笑ったから…』<br />
(はいはい、そうですか。仲のよろしいことで)<br />
『朋与も言わないでしょ?』<br />
「当ったり前、噂にでもなったら、あさみがかわいそうじゃない?」<br />
『そうだよね。そうだ、野伏君には眞一郎くんから言ってもらうから…』<br />
(はいはい。眞一郎くん、眞一郎くん、眞一郎くん、ですか?)<br />
『あっ、長くなってごめんね? もう切るね?』<br />
「おっけー、じゃあ、また明日~」<br />
『うん、明日ね? ばいばい!』<br />
「ばいばい!」<br />
パタンと閉じてから、あさみを振り向く。</p>
<p>「比呂美は気付いてないし、仲上君も大丈夫でしょ?」<br />
朋与が話しながら机から移動して、あさみの近くに腰を下ろした。<br />
「うん…、ありがと。比呂美、気にしてたんだ…。はむ…んぐ…」<br />
「まあ、そうだろうね。あの子、よく笑うし。特に仲上君と付き合ってから」<br />
「んぐっ…思い返すと、別人だもんね…。はむ…んぐ…んぐっ」<br />
あさみの食べるペースは落ちない。"何か"を噛み砕き、飲み込んでいる。<br />
「まあ、分からないでもないけどね、あたしは聞いたもの、色々と、ね…」<br />
「私もちょっと聞いた。はむ…んぐ…んぐ…んぐっ…」<br />
「どう? 大丈夫? 明日、比呂美と仲上君に会うよ?」<br />
「はむ…はむっ…んぐ…んぐ…んぐ…んぐっ…」<br />
「がんばりなさい。結局、暴走しちゃったんだし…」<br />
「んぐっ…、うん…がんばる…」<br />
「聞いていい?」<br />
「何?」<br />
「そんだけ本気ってことは、昨日の"告白"だけじゃないんでしょ?」<br />
「はむ…はむっ…はむっ…んぐ…んぐ…んぐんぐっ…」<br />
「言いたくないなら、いいけど…」<br />
「んぐっ…ん…、ううん、目、だよ」<br />
「目?」<br />
「そう、あの時、見ちゃったんだ。仲上くんの比呂美を見る目」<br />
あさみの瞳に真剣な光が宿る。食べることを止め、真っ直ぐに朋与を突き刺す<br />
ような視線だ。<br />
「分かんない」<br />
朋与はあさみの視線に気圧されてしまう。自分がまだ気付いていない、何かを<br />
見ていたことが分かったからだ。そして、その気持ちの強さも知った。<br />
「どきっとした。あんな目で見られたらって思っちゃった」<br />
「分かんないってば。あたしは見てなんだから…」<br />
「すごかったよ? どう言っていいのか、分かんないけど…。踊りの時とは<br />
全然違う。あの時もすごいと思ったけど、昨日のは…」<br />
「分かんないなぁ~。でも、それが今日の原因なんだ…」<br />
「うん、朋与も見たらびっくりするかもね?」<br />
「あたしに通じるかな?」<br />
「う~ん、朋与はどうだろうね? 私みたいに、おバカじゃないし」<br />
「あさみはおバカって言うより…」<br />
「あっ! 何?」<br />
あさみの瞳から先程の真剣な光が消え、いつもの調子が戻ってきた。<br />
「何だろ?」<br />
朋与は何も考えていなかった。<br />
「ぶっ! なぁに? 言えばいいじゃない!」<br />
「いやぁ、正直言って、おバカよりも…」<br />
「なによぉ…。はむっ…んぐ……んぐっ…んっ…、ごくっ…」<br />
「いい言葉が浮かばないっつ~かぁ…」<br />
「ああっ! 結局私をおバカって言った! 言ったよね?」<br />
「え? そうかなぁ~?」<br />
朋与があさみから視線を外す。<br />
「私を見て言ってない! しかも、ちょっとバカにしてる顔だ!」<br />
「気のせい、気のせい」<br />
「ああっ! なんで半目なのよ! 朋与ぉ…。はむっ…んぐ…んぐ…んぐっ…」<br />
「イガグリ頭…好きなの…」<br />
「ぐっ! 今、それ言う!? ねぇ? ねぇ?」<br />
「だって…好きだったの…イガグリ…」<br />
朋与は、ニヤニヤしていた。<br />
「と~も~よ~っ!」<br />
結局、朋与はあさみの相談にのっていたんだろうか?<br />
2人の賑やかな会話は夕方まで続いた。あさみはその頃になると、すっかり元<br />
気になり、普段通りの会話ができるようになっている。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>キィ、バスルームのドアが開いた。ゆっくりと近づいてくる。<br />
「眞一郎くん、野伏君に言ってくれた?」<br />
隣に座って、寄りかかるようにして肩を触れさせた。<br />
「ちゃんと話しておいた。アイツは口固いから、安心」<br />
「うん…」<br />
「比呂美」<br />
手が腰に回り、体ごと引き寄せる。<br />
「眞一郎くん…」<br />
二人はバスタオル一枚だけ身に着けていた。<br />
「まだ…明るいね?」<br />
比呂美の部屋は角部屋だ、陽の光がカーテン越しに全体を明るくしている。<br />
「あぁ、そうだな…」<br />
「すごく、恥ずかしいなぁ…」<br />
「比呂美の顔がよく見えるから、俺は嬉しいけど、な?」<br />
体を密着させた。<br />
「眞一郎くん♪、ん…んん…ちゅ…ちゅぱ…んく…、<br />
あっ!? ちょっ! 待って!…上で……あん………ぃゃ…」<br />
「我慢できない」<br />
「うん、いいよ…………んっ!…ああん…」</p>
<p><ここからは二人だけの時間です。書けるけど、書きません…></p>
<p>さてと、続きは…どうなるのかなぁ?</p>
<p>END</p>
<p><br />
-あとがき-<br />
あさみに突撃させましたが結果はご覧の通り。典型的な1度目は失敗。<br />
次のチャンスがあるかどうか、分かりませんが。<br />
最近気付いたのは、愛子を登場させると三代吉がいるにも関わらず、<br />
愛子がブレそうになる…。なので、今後はあまり出番無いかも…</p>
<p> ありがとうございました。</p>
<p> </p>