「true MAMAN 外伝 やっぱりあんこよね」の編集履歴（バックアップ）一覧はこちら
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<p>「ん～おいしい、やっぱり運動の後はあんこよね～」<br />
「朋与、この前は運動の後はアイスに限るって言ってたよ」<br />
「揚げ足取るなっ。要は甘いものが一番って事よ」<br />
今川焼き屋「あいちゃん」店内である。部活も終り、比呂美と朋与は、たまにはとこの店に寄道して、今川焼きを<br />
食べていた。<br />
当然、焼いているのは愛子である。<br />
他に客もなく、店内は目下、女子高生3人の独占だった。<br />
「愛ちゃんごめんね。騒がしくて他のお客さん逃げちゃったみたい」<br />
「今の時間はいつも誰もいないんだから、気にしないの」<br />
「そうそう、あたし達でその分たくさん食べればいいんだから」<br />
太るよ、と比呂美が茶々を入れると、高音域の笑い声に包まれた。大声で騒いでも迷惑にならないのは、やはり<br />
気楽だ。<br />
「ところで比呂美、最近どうよ？」<br />
「え？どうって？」<br />
「とぼけなさんな。仲上眞一郎の事ですよ」<br />
愛子の心の中で、愛子の耳が二回り巨大化した。<br />
「え？え？し、眞一郎くんが何？」<br />
「いやあいいわよねえ一人暮らし。想い人に手料理を振舞って、食後のコーヒー飲んでるうちに、すっかりいいムード<br />
になって、最後にデザートはあ・た・し――」<br />
「ストーップ！ストップ！ストップ！妄想終り！」<br />
「照れなくたっていいじゃない。今は3人しかいないんだし。ね、愛子さんも仲上君の事は知ってるんですよね？」<br />
「え、ええ、まあ････」<br />
「やっぱり気になりますよねえ？」<br />
「あ、あはは････」<br />
曖昧に笑ってごまかし、愛子は今川焼きを焼く作業に戻った。勿論耳はダンボのままだ。<br />
「でも、実際のところ、比呂美の部屋で夕食食べる事もあるんでしょ？」<br />
「まあ、たまには････」<br />
「で、それだけでおとなしく帰っちゃうの？仲上君？あ、嘘、もしかして、仲上君て････それでいつも野伏三代吉と――」<br />
「眞一郎くんはノーマルです！」<br />
「三代吉は変態じゃない！」<br />
予想外の十字砲火に朋与は目をパチクリさせ、死角からの砲撃手は真っ赤になって俯いた。</p>
<p>「･････それは、その、本当にたまには、だけど････眞一郎くんも無理は言わないし･････」<br />
結局比呂美は白状させられていた。普段は比呂美の無意識の惚気に付き合わされる朋与にも、「人生の先輩」を自称<br />
しながら、三代吉との交際が中学生レベルで止まっている愛子にも、奇妙な敗北感を与えた。<br />
悔しいので朋与は煽ってみる事にした。<br />
「そんなこと言って、比呂美が無意識に予防線張ってるんじゃないの？」<br />
「そんなこと、ない･･･と思う」<br />
「だって、比呂美よ？正常な男が、あんたみたいな娘と両想いで、誰も邪魔の入らないところで2人きりで、何もしようとしな<br />
いなんてそれしかないわよ。じゃなきゃ男が」<br />
「違うってば！」<br />
二度目の十字砲火。<br />
「とにかく、比呂美の方でもそれらしいムード作ってあげなきゃ。おあずけ喰った犬みたいで仲上君がかわいそうだわ」<br />
「犬って････」<br />
「具体的にどうすればいいの？」<br />
いつの間にか愛子は包囲する側に回っていた。愛子にとって眞一郎は過去の思い出である。<br />
「ちょっと、愛ちゃん････」<br />
「そーねー。例えば･･････」</p>
<p><br />
「ご馳走様でした」<br />
「お粗末さまでした」<br />
夕食を食べ終えて、比呂美は眞一郎にコーヒーを用意していた。<br />
あれから1週間過ぎている。<br />
理恵子が町内会の集会に出るため、夕食を比呂美のところで食べるように言われたのだ。<br />
その話が出た際、最後にそれまで黙って新聞を読んでいたひろしが、<br />
「眞一郎、気遣い」<br />
とぼそりと呟いた事は勿論比呂美は知らない。<br />
比呂美はここに来て、不思議と「その気」になっていた。<br />
一つには、あまりにも当たり前にくつろぎムードに入った眞一郎に腹を立てたからでもある。「その気」になって欲しいわけで<br />
はないが、もう少し甘いムードに浸らせてくれてもいいではないか。<br />
比呂美はコーヒーメーカーの電源を入れ、眞一郎に気付かれないように脱衣所からドライヤーを持ってきて作動させた。<br />
そして眞一郎に向かって、<br />
「暑かったらエアコン入れて」<br />
と声をかけた。<br />
「うん、わかった」<br />
眞一郎がエアコンのリモコンを手に取る。<br />
プツン<br />
ブレーカーが落ちる。<br />
「な、なんだ!?」<br />
「ごめんなさい。ブレーカー落ちちゃったみたい。眞一郎くん、お願いできる？」<br />
「わかった。え････と、どこだ？･････あ、これか？」<br />
パチン<br />
灯りが点く。比呂美は――姿が見えない。<br />
「あれ？比呂美？どこ行ったぁ？」<br />
「――ここ」<br />
「どこ？――うわ!?」<br />
比呂美はロフトの上に登っていた。<br />
薄暗いロフトの上では、Tシャツを着ていても妙に色っぽい。<br />
「登ってきて、眞一郎くん･････」<br />
ごくり。と眞一郎は生唾を飲み込んだ。<br />
まるっきりそういうつもりがなかったわけではない。ポケットの中には「気遣い」も忍ばせてある。<br />
なによりも比呂美にここまでさせて、怖気づくのがかなり恰好悪いという自覚もある。<br />
「比呂美･････」<br />
眞一郎はロフトを登っていった。自分の心臓が耳元まで上がってきているようだ。<br />
（落ち着け、俺！べ、別に、これが初めてじゃないだろ！）<br />
上りきった。<br />
比呂美の肩に手を置く。比呂美が緊張するのがわかった。<br />
「いいの････か？」<br />
「うん････」<br />
無粋極まりない言葉のキャッチボール。眞一郎は比呂美を抱き寄せ、唇を重ね･････<br />
ピンポーン。<br />
コントのタイミングでチャイムが鳴り、眞一郎は文字通り飛び上がり、頭を天井にぶつけた。<br />
のたうつ眞一郎をそのままに比呂美は玄関に走り、覗き穴から覗いてみた。<br />
理恵子だった<br />
「おばさん、どうしたんですか？」<br />
「集会が終わってね、残ったお寿司を詰めてもらったの。もしよかったらと思って」<br />
「あ、ありがとう、ございます」<br />
寿司を受け取りながら、比呂美は朋与に心の中で報告した</p>
<p> 朋与、2人っきりって、簡単にはなれないよ</p>
<p><br />
<br />
了</p>
