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「新年度の始まり-8」(2008/04/09 (水) 01:22:20) の最新版変更点
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<p> </p>
<p>新年度の始まり-8</p>
<p><br />
新年度が始まり、何もかも慌しい新学期が一週間過ぎた頃…</p>
<p>昼食の時間。教室は慌しい雰囲気に包まれている。<br />
4時間目の授業は体育で、着替えを終えた眞一郎は三代吉を追って、駆け足で<br />
皆がいる昼食場所に向っていた。<br />
「何だか俺だけすっかり遅くなったか…」<br />
用具の片付けに手間取い、一度教室に戻って弁当箱を取りに行った三代吉より<br />
も遅い到着になりそうだった。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>「遅いよぉ~。眞一郎く~ん」<br />
周囲の視線をものともせずに、甘い声が響いてきた。<br />
「比呂美、声が大きいだろ?」<br />
近づいて少し注意。<br />
「あ…うん…、ごめんね? 待ったから……つい…」<br />
「い、いいけど…ハッ!」<br />
眞一郎はそれ以上何も言えなかった。なぜなら…、<br />
「「「…」」」<br />
3人の視線が冷たかったからだ。<br />
「おめぇが遅ぇから、みんな待ってたんだぜ?」<br />
「先に言うことがあるんじゃない?」<br />
「あぁ、もう…ダメ…。目、目がかすんで…」<br />
いつものメンバー、三代吉、朋与、あさみは眞一郎に文句を言った。<br />
「遅くなってごめん」<br />
「…」<br />
さすがに比呂美もこの時ばかりはかばわなかった。少し色々と自重するように<br />
なっていた。何もなければ、だが。<br />
「さっさと座れよ。食おうぜ!」<br />
「ああ」<br />
全員揃っての昼食が遅ればせながら始まった。このメンバーで食べるようになっ<br />
たのは、新学期が始まってからだ。それまでは、三代吉と2人だけだったのが、<br />
比呂美が加わると言い出し、それに朋与とあさみがついてきた。<br />
この5人は春休みに愛子を加えて出かけたこともあり、自然と何かにつけ一緒<br />
に行動することが多くなった。朋与はともかく、あさみはクラス替えでその時<br />
のメンバーが、別の学校である愛子を除いて全員揃ったことを、喜んでいた。</p>
<p>しばらくそれぞれがお弁当を食べていると、こんな会話が聞こえてくる。<br />
「眞一郎くん、これも食べる?」<br />
「ん」<br />
とか、<br />
「眞一郎くん、これは?」<br />
「おっ、それいただきー」<br />
とか、<br />
「眞一郎くん、これも?」<br />
「食べる。さっきのすげぇ旨かった」<br />
「ほんとぉ? 良かった~」<br />
だった。この日は比呂美の手作りだったので、"量の調整は自由自在"、だ。<br />
何故か眞一郎の弁当箱は、以前比呂美が使っていた小さいもので、それ以外の<br />
おかず等は別の大きい入れ物に分けられていた。<br />
「早く新しいお弁当箱、買わなくちゃ!」<br />
と言いつつ、1年生であった昨年度から数ヶ月が経過している。3人は、<br />
「はむっ…んぐ…」<br />
無視したり、<br />
「あっ、それちょうだい?」<br />
無視したり、<br />
「えぇ~? どれと交換?」<br />
無視していた。<br />
残念ながら、5人いるにも関わらず、2対3という構図で食事する場面が多く<br />
見られるのは、何故だろう?</p>
<p>食べ終わると、5人での会話が始まる。<br />
「いやぁ、食った食った。"おあずけ"されると、食うのが早ぇなぁ」<br />
「それは言えるわね。いつもより、おいしかったかも」<br />
「ホント、目がかすんだ時はどうなるかと…」<br />
「…」<br />
「ってことは、遅れたことは怒ってない、とか?」<br />
眞一郎は厚顔無恥な事を言うが、<br />
「「「あ゛?」」」<br />
と言われるので、<br />
「すみませんでした」<br />
もう一度謝った。そこからはいつもの賑やかな会話が始まる。<br />
「そうそう、それで―――」<br />
と、朋与が比呂美に話かけた時、<br />
「ん?」<br />
「…」<br />
あさみと目があった。<br />
「どした?」<br />
「な、何でもない…」<br />
眞一郎は「最近あさみと目が合う気がする…」とは思っていたが、特に何をす<br />
るわけでもなかった。三代吉はそれに気付いていたが、<br />
「まぁた、絵本のことでも考えてぼけっとしてるから、見られてんじゃね?」<br />
と、彼も特に気にしていない。<br />
客観的に見れば眞一郎とあさみが目の合う時は、いつも"朋与と比呂美"が話し<br />
ているのだが、あさみはともかく、眞一郎は気付かなかった。<br />
"イガグリ頭事件"の次の日は、あさみの様子は少しおかしかったが、その日の<br />
放課後にはいつもと同じだった。それを比呂美と眞一郎は安心していたが…</p>
<p>「で、どうする?」<br />
朋与が突然眞一郎に聞いてきた。<br />
「え?」<br />
「聞いてないの?」<br />
朋与の目に怒りが宿った。眞一郎は少し考え事をしていたのだったが、まさか<br />
あさみと目が合うなぁ、何て言えるわけもなく、<br />
「え~と…」<br />
誤魔化すしかなかった。<br />
「眞一郎~、まぁた、ぼけっと絵本か?」<br />
三代吉はいつものツッコミ。それを無視して、朋与が続ける。<br />
「まぁ…いいわ。もう一度言うわね?」<br />
いつもの口調に戻っていた。<br />
「はい、どうぞ…」<br />
「眞一郎くん…」<br />
「はい、そこ! いちいちフォローしない! いい? 今度の日曜、空けといて!」<br />
「はぁ? 日曜? また?」<br />
「またって、こないだの日曜は何もなかったじゃない!」<br />
「あ、そうか」<br />
「ほら、日曜は一緒に買い物いったでしょ?」<br />
「そうだったそうだった、あれ…良かったよな?」<br />
「うんっ、気に入った―――」<br />
「はいっ! そこでストップ!」<br />
朋与が手を出して、二人の会話を止める。<br />
「続けるわよ? 今度の日曜、ウチとあさみの親が何かお礼したいって」<br />
「お礼? 何で?」<br />
眞一郎には何がなんだか、分からない。<br />
「"集まり"よ! "集まり"! あたし達、奢ってもらったでしょ?」<br />
「あぁ、あれ? でも、手伝ってもらっただろ?」<br />
「そういう訳にはいかないのよ! 仲上酒造に招待されてきました、だもの」<br />
「?」<br />
「あぁ、オレとか愛ちゃんは慣れてるけど、2人は違うからだろ?」<br />
三代吉はこんな場合だと普通に気付くらしい。<br />
「ふ~ん、そういうもんか?」<br />
「分かんない…」<br />
比呂美には分からないらしい、彼女は既に"仲上"の一員のつもりだからだろう。<br />
「はい! そこでストップ!」<br />
もう一度、朋与が手を出して、始まりそうになった二人の会話を止める。<br />
「いい? あたし達でなくて、親が気にしちゃうのよ。だから、日曜、空けて」<br />
「え~と、比呂美はどう思う?」<br />
「うん、私はいいと思うけど、眞一郎くんに任せる」<br />
(((自分の意見は一応言うけど、任せるんかい!)))<br />
3人の心の叫びは無視されて、比呂美と眞一郎は目で確認。<br />
「うん、分かった。空けとく」<br />
「楽しみ~」<br />
比呂美は心底楽しい、という表情をする。眞一郎が断らないことが分かってい<br />
たからだった。眞一郎が微笑む。<br />
「「「はぁ…」」」<br />
せっかく食べたお昼ご飯のことを、3人はすっかり忘れていた。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>その日の放課後、眞一郎とあさみは2人だけで教室に残っていた。<br />
「はぁ…、これ時間かかりそうだな?」<br />
「そうだね…、結構すごい量…」<br />
2人は同じ姿勢で腕を組み、目の前に積まれた資料を眺めていた。尤も、同じ<br />
姿勢になったのは、あさみが真似をしたからだか。<br />
こうなった理由は簡単な事だった。</p>
<p>「コラ! 仲上! 外ばっかり見るな!」<br />
眞一郎は書きかけの絵本の事を考えて、ぼけっとすることがこの2、3日は多<br />
い。そんな様子を比呂美はにこにこしてながら見ているが、この授業の教師は<br />
少し厳しいことで知られている。2日前にも注意したことを思い出していた。<br />
「コラ! そこ! さっきから寝てばかりじゃないか! シャキっとせんかっ!」<br />
あさみは最近寝不足な日が多い。うとうとして頭を揺らしたり、たまに机に頭<br />
突きをしたり、思いっきり横に倒れそうになって奇声を上げて大騒ぎしたり、<br />
最近では教師の間で要注意人物として挙げられていた。<br />
たまたま2人揃って、同じ授業で何回か注意された為、資料整理を放課後に押<br />
し付けられたのだった。</p>
<p>「まぁ、やるしかねーな?」<br />
眞一郎は直前までの比呂美の顔と「ご愁傷さま~」と楽しげに"あいちゃん"へ<br />
向った三代吉の顔を思い出した。<br />
「仲上くんに任せて、私が帰るってのは?」<br />
「生きて帰れるつもりか?」<br />
「じゃ、ちゃっちゃとやりますか?」<br />
あさみは眞一郎との2人の時間が持てたことに、内心では飛び上がりたいくら<br />
いに喜んでいる。眠気なんてどこかに吹き飛び、目はぱっちり、トイレで髪型<br />
も確認、気合十分だった。しかし、先程の比呂美の顔を思い出してしまう。</p>
<p>『私も手伝う!』<br />
『さ、部活、部活』<br />
『眞一郎く~ん!』<br />
朋与が比呂美を引っ張るようにして、連れ去っていった。一瞬だけ朋与と目が<br />
合った。「懲りてるわよね? イガグリ?」と目で言えることを少し尊敬した。</p>
<p>「こら! 寝るなっ!」<br />
「んあ?」<br />
眞一郎が注意する。<br />
「全然終わる気配がない…」<br />
「ちょっと、仲上くん! サボらないで!」<br />
あさみが注意する。<br />
作業効率はすこぶる悪い。気合十分なはずのあさみは、単調な作業で眠気を呼<br />
び覚ますことに成功し、眞一郎はついついサボりがちだった。<br />
「比呂美の部活よりも、こっちが先に終わると思ってたけどなー」<br />
「!」<br />
あさみの眠気が再び吹き飛んだ。眞一郎の口から"比呂美"と出る度にあさみの<br />
心臓はどきん、とする。<br />
(いつからだっけ? こんなに比呂美の存在が気になるのは?)<br />
眞一郎のことが気になりだした頃は、それ程でもなかった。単なる憧れに近い<br />
感情だったのかもしれない。だが、この1、2ヶ月はそれでは済まされなかっ<br />
た。特にこの1週間と少しは酷い。気が付くと目で眞一郎を追いそうになり、<br />
油断すると近くに寄ってしまう。<br />
基本的にはいつも比呂美が近くにいる。なので、視線や眞一郎との距離には、<br />
かなり注意している。それは、かなり神経をすり減らすことで睡眠不s――<br />
「こら! 寝るなっ!」<br />
「んあ?」<br />
眞一郎に注意された。<br />
「疲れてんのか? 少し休むか、顔でも洗ってこいよ」<br />
「うん…、ありがと。行ってくる…」<br />
「途中で寝て帰って来ないってのは、ナシな?」<br />
「保障はしないよ!」<br />
「ちっ…」<br />
眞一郎は黙々と作業を再開した。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―<br />
<お好みでサントラ"舞い降りる記憶の影に"でも聞きながら読んでください><br />
<もしくは"SeLecT"。どっちがいいか、おまかせします></p>
<p>「はぁ…」<br />
誰もいないトイレで溜息が聞こえた。</p>
<p>「どうしよう?」<br />
小さい声で鏡の中の自分に問いかけた。あさみは作業中に寝ていたのではない。<br />
眞一郎に近づきたい、その気持ちを抑えるために、目を閉じて体を硬直させて<br />
いた。意識的に体に力を入れないと、ふらっと近づきそうになるからだ。<br />
しかも、机を2つ付けている。普段の授業での隣の距離とは違う。今まで、こ<br />
んな距離で眞一郎を感じたことはない。<br />
もう少しだけ、近づけば?<br />
簡単に肩が触れ合える、簡単に抱きつける、簡単に手を握ることができる。</p>
<p>あさみにとって、それはとても辛い距離。</p>
<p><br />
「どうしよう?」<br />
また小さい声で鏡の中の自分に問いかけた。<br />
いつも眞一郎の隣にいる比呂美がいない、忘れたいが忘れられない。<br />
でも、比呂美は友達。でも、今はいない。でも、眞一郎の中には確実にいる。</p>
<p>あさみにとって、それはとても辛い選択。</p>
<p><br />
「どうしよう?」<br />
もう一度小さい声で鏡の中の自分に問いかけた。<br />
ちらっと横を見ると、眞一郎の目を見ることができる。作業中には見ることは<br />
できないが、"必要な時"にはたぶん"あの目"を見ることができる。<br />
"あの目"で、自分が見られたら、自分だけを見たら、自分に向けられたら。</p>
<p>あさみにとって、それはとても辛い想い。</p>
<p><br />
「まぁ、イガグリ、イガグリ、だよね?」<br />
ぱしゃぱしゃと顔に水をかけて、"何か"をハンカチで拭い去る。<br />
「ふぅ、がんばろう…」<br />
あさみはこの1週間と少しで、かなりの体力と精神力を使っていた。</p>
<p>余裕はない。</p>
<p>― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―</p>
<p>「おっ、帰ってきたか?」<br />
眞一郎と目が合った。"あの目"ではないが、同じ人の目、どきっとした。<br />
(イ、イガグリ)<br />
あさみは呪文を唱えるように心の中で叫ぶ。なるべく目を合わせないようにし<br />
て、少し俯いたまま元の席へ座った。</p>
<p>「どした? やっぱ疲れてんのか? 体調悪いなら、帰ってもいいぞ?」<br />
「だ、大丈夫…」<br />
眞一郎の優しさは、"友達"に向けたものだ。<br />
(イガグリ、イガグリ、イガグリ)<br />
あさみは懸命に心の中で叫ぶ。</p>
<p>「そうか? おい! ちょっと、手が震えてるぞ? 本当に大丈夫か?」<br />
「…」<br />
眞一郎が自分を見ている。たぶん、少しだけ心配している。たぶん、少しだけ。<br />
(イガグリ!、イガグリ!、イガグリ!)<br />
心の中で叫ぶ声を大きくする。</p>
<p>「おいってば! こっち向け! 大丈夫じゃないって!」<br />
「…」<br />
(イガグリッ!、イガグリッ!、イガグリッ!)<br />
心の中で叫ぶ声が絶叫に変わる。</p>
<p>ぐいっと肩を掴まれ、体の向きが変えられた。<br />
「!!!」</p>
<p>"あの目"があさみを見ていた。</p>
<p>「仲上くん!」</p>
<p><br />
続きは…ありますよ。勿論です。</p>
<p><br />
END</p>
<p><br />
-あとがき-<br />
ちょっとしつこい文章ですみません。さらっと読んで頂ければ…</p>
<p> ありがとうございました。</p>
<p> </p>