true MAMAN あなたを見ている人がいる~眞一郎の章2~

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「聞きたい事・・・・?」  眞一郎がいかに鈍感であろうとも、進路の話であることは容易に察しがついた。  しかし、今更何を言うつもりなのか。ここに来て反対もないとは思うが。 「お前、大学は確か、美大を志望してたな」 「ああ、そうだけど」 「それは、東京にしかないのか?こっちにはないのか?」 「ないわけじゃないけど、持込とかそういうこと考えると、東京の方がいいかなって」 「そうか」  納得したのか、してないのか、表情から読み取る事は出来ない。しかし、いずれにして もひろしは質問の方向を変えてきた。 「その、絵本作家というのは、食っていけるものなのか?」  またこれか。眞一郎は内心で舌打ちをした。教師も、母親も同じ事を言う。心配はもっと もだが、俺だってそこまで考えなしじゃない。 「難しいね。元々需要のあるジャンルじゃないし、テーマが普遍的なものを扱う分新人の 感性が必ずしも受け入れられるわけでもないし。それだけで食っていこうと思ったら、努力 と才能と運が全部最高レベルでないと」 「・・・・食っていけないなら、どうするんだ?」 「他に仕事を持ちながら続けるよ。教員免許は取るつもりだし、出来れば絵を描ける仕事 に就いて」  最初からそのつもりである。絵本作家を副業としている作家は大勢いた。  だが家業を継がないと宣言した以上、例え絵本作家として夢破れても酒造業を手伝うと は言わないつもりだった。 「それも、東京で、か?」 「え?う、うん。そうなる、と、思うけど」 「・・・・そうか」  ひろしは大きく息をした。ため息に似ていた。 「ところで、比呂美が、卒業したらうちで働くと言ってるのは、知ってるか?」  知らなかった。 「なんで・・・・?」 「わからないのか?本当に?」  眞一郎は高速で今までの比呂美との会話を思い返してみた。  一度も出てこなかった。  いつも比呂美は眞一郎の夢を嬉しそうに聞いていた。そして眞一郎が話し終わると、 「とっても素敵。早く眞一郎くんの絵本が店に並ぶところを見てみたいな」 「私も応援するね」  と言ってくれた。それで喜んでいた。自分の夢を語るのに夢中で、比呂美がどんな夢を 持ってるのかを訊ねた事はなかった。浮かれていた自分を恥じた。 「ごめん・・・・俺、今まで聞いたことなかった・・・・」  ひろしは黙っていた。黙って眞一郎を見ていた。心なしか、いつもより目つきが険しい。 「眞一郎」  ひろしが再び名前を呼ぶ。 「俺は、何故訊かなかったのかを問いただすつもりは、ない。だがな、今この話を聞いて、 なぜ比呂美がそんなことを言い出したのか、予想つかないかと訊いている。わからない のか?」 「それは・・・・つまり・・・・」 「・・・・」  ひろしは何も言わずに眞一郎が言葉を継ぐのを待っている。 「つまり・・・・比呂美は、俺と・・・・」  口籠った。さすがに自分の父親に向かって「俺と結婚するつもりだから」とは言いにくい。  その時、唐突に眞一郎は矛盾に気付いた。 「比呂美はお前が帰ってくると思ってるぞ」  見透かしたようにひろしが言う。 「それは・・・・」 「まあ、それはいい」  ひろしが遮る。 「お前が、ここに戻ってこないと言うなら、東京で暮らせばいい。それは問題じゃない」 「だがな、問題は、なぜ進学でなく、普通の就職でもなく、うちを継ごうとしているかだ。 お前と一緒になる事、それがなぜ、今からうちを継ぐ事に繋がると思う?」 「・・・・?」  意味がわからない。親父は一体何を言おうとしてるんだ? 「比呂美はな、お前の代わりを務めようとしたんだ。意味がわかるか?」  俺の代わり?比呂美が俺の代わり・・・・俺の・・・・。  意味がわかった。 「俺が・・・・仲上に関らなくても住むように・・・・?」 「そうだ。お前が、絵本を描くことに専念できるように、仲上家としての義務や責任を、自分 が引き受けるつもりだ」 「なんでそこまで!?――」 「比呂美はお前が全てだ」  こんな時でなければとても言えないであろう科白を、ひろしは使った。これ以上的確な 言葉はないと思っていた。 「比呂美はお前だけを見ている。思い当たる事はないか?」  ありすぎる。 「例えばの話だがな。お前が絵本一本で食えないなら、食えるようになるまで、自分が 働いて食わせるくらいのことはするぞ」  眞一郎は言葉が出なかった。ひろしの言ってる事は憶測だ。根拠も何もない。そう思い ながら、しかし比呂美は実際にそうするだろうと心のどこかが言っていた。  眞一郎は父から目を逸らした。 「そんな、そんなの比呂美が背負う事じゃ――」 「わかってる。間違えてるのは比呂美だ」  ひろしがまた遮る。珍しい事だ。 「だが、そういう人間は確かにいるんだ。そして、比呂美に、そんな考えを止めろと諭す ことが、正しいことだとは俺は思わない」 「じゃあ、どうすればいいんだよ!」  思わず大声を出し、慌てて黙り込む。俺じゃ比呂美の負担にしかならないと言われて るみたいじゃないか。  話し合う場所に外を選んだのは、失敗だったかもしれない。ひろしは少し後悔した。 「具体的にどうすればいいかは、わからん」  率直な言葉だった。 「だが、比呂美の幸せはお前の隣でしかありえない。比呂美はお前の隣にいるために なんでもする。ならお前は、比呂美が隣にいること以外、何もしないでいいようにしてやれ」 「だから・・・・どうすればいいんだよ?」 「今俺に話した事を、完璧にやり遂げろ。副業を持つならば、副業で比呂美を養うくらい 言ってみろ。副業を理由に絵本を諦めるな。そうすれば比呂美は、お前の隣で安心できる」  もっと具体的なアドバイスが出来ない自分が歯痒い。 「比呂美は自分の幸福のために必要だと信じる事をしようとしてるんだ。お前も自分の幸福に 必要と信じることに全力を尽くせ」   これで伝わるだろうか?ひろしは眞一郎を見た。 「・・・・そうだよな。俺が泣かせたらいけないよな」  眞一郎は答えた。 「大丈夫。最初からそのつもりだよ。比呂美に苦労はかけない。約束する」 「それは比呂美に言ってやれ」  ひろしはそれだけを言った。                          了 ノート あなたを見ている人がいる、ついに完結です。 もっと上手く伝えたいのですが僕の筆力ではこれが限界です ちなみに眞一郎は将来的にも仲上酒造の経営には関りません。母校で美術教師をしながら、たまに忙しい時に手伝う程度です。 本文だと眞一郎は麦端に戻らないの確定みたいな流れですが、ひろしとしてはやるだけやって戻ってくるのはいいと思ってます。ただ、杜氏の後継者は育ててるし、息子に経営手腕があるとは期待してないので戻ってきて後継ぐよと言われても承知しないでしょう

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