一人目氏に捧げる小ネタ

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「今日、行きたい場所があるんだけど、いいかな」 「いいけど、どこ?」 「縄ヶ池」  ~畔にて~ 「わたし、ここに来るの、小学生依頼だな」 「そうなのか?」 「眞一郎くんは良く来るの?」 「う~ん…よくって程じゃないけど。歩きじゃ結構あるし」 「そうだよね。…でも、やっぱり綺麗」  街の外れにある、峠道の入り口から数キロ。  標高820mの山合いにある自然湖。  三方を嶺に囲まれた、流れ込みのない湖。  龍神が宿ると言われる、縄ヶ池。 「比呂美、ちょっと水辺に立ってくれないか?」 「はーい」  ヒロシから借りたカメラを構える眞一郎。  今日は写真を撮りに来たようだ。 「もうちょっと下がってくれるか?」 「ん…この辺?」 「うん…そこで帽子に手をやって…」 「こう?」  日差し除けに被った鍔の広い麦藁帽に手をやる比呂美。 「うん。いい。それでくるっと回ってみて」 「えっと…んっ」  スカートの裾をはためかせ、比呂美が片足で回る。  少し遅れて長い髪が舞う───  木陰で一休みしながら、二人は会話に華を咲かせる。 「どう? 気に入る写真、撮れてそう?」 「う~ん…カメラが使いにくいんだよ」 「あ、そんな事言ってる」 「モデルがいいんだからカメラの所為しかないだろ?」 「カメラマンの腕は?」 「それも問題ない。まあ…多分」 「ふふっ」  今の話題は、先程撮った写真についてのようだ。  帰り支度を始める眞一郎。  比呂美の方は既に支度を終え、湖畔をゆっくり歩いている。  眞一郎は、なんとなくそれに目をやると、とっさにカメラを構える。 「これだ…」  シャッターを切る。 「どんな造った仕草よりも、自然なままの比呂美が一番なんだ…」 「え? なーに?」  眞一郎の呟きが届いたのかどうか。  比呂美は笑顔で駆け寄ってくる。 「いや…なんでもないよ。さあ帰ろう」  きっと良い写真になる。  眞一郎はそう確信していた。  ただ一つだけ、気がかりなのは…。  絵で、その写真を越えられるかどうかだった─── 「さっき…」 「ん?」 「ううん。なんでもない」  自然体の比呂美が一番、その言葉を、胸に大切にしまう比呂美。  どうやら、先程の呟きは聞こえていたようだ。 「なんだよ、気になるって」 「今は内緒。次来たときに教えてあげる」  目の前の比呂美の笑顔。  写真でも、絵でも、越えられないだろう。  眞一郎は、その事を少しだけ悔しく思う。  だが同時に、その笑顔が、何より大切なものだとも思う。  それを見る事が出来る、それ自体が、幸せなんだ、と。  そして、いつかこの気持ちを、素直に伝えたい、と。  今はまだ照れくさくて言えないけど。  だから、目一杯遠回しにこう伝える。 「じゃあ今度来るときは、もっと良いカメラ借りてこなくちゃな」  おしまい

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