新年度の始まり-14

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=ベタベタピクニックで凄いイチャイチャを想像した人、期待しないで… 新年度の始まり-14 「あ~、やっと来たぁ~。遅いぞ!」 愛子が比呂美と眞一郎を発見して、声をかけた。 「まぁったく、何をしてい…」 「ふぅ、お弁当重い…。やっと、仲上くんに持ってもら…」 朋与とあさみは少し大きいバッグを持っていて、振り向くのが遅れた。そして、 文句を言いながら見た光景に、言葉を失う。 結果的に、愛子と三代吉がツッコミを入れることになる。 「比呂美ちゃん、だいた~ん!」 「お前ら…、そんなにくっついて歩いたら、遅ぇの当たり前だろが!」 そう、二人は密着して集合場所に現れた。どう考えても歩きにくそうな様子に、 愛子と三代吉は呆れ顔である。 「お、おはよう…」 「おはよう。愛ちゃん、朋与、あさみ、野伏君」 提案しておいて照れまくっている眞一郎、満面の笑みの比呂美、密着したまま。 一歩進む度に、"ぐにっ"。曲がると、"ふにっ"。立ち止まって、"ぐにぐに"。 眞一郎は"それ"ばかりに気を取られない様にするだけで、精一杯。比呂美は嬉 しくて我を失いかけている。ダメだこの二人…。 「まぁ、揃ったんだし、行こう! ほら、眞一郎! 重い荷物持ってあげて!」 既に三代吉にはかなりの重量が課せられていた。残りは眞一郎の仕事になる。 「愛子ぉ。オレらもしようぜ~」 「残念! そんな荷物持ってたら、無理!」 笑顔なので、実は満更でもないらしい。 「眞一郎! おめぇが全部持て! 遅れたんだろうが!」 「む、無理…」 朋与とあさみに無言で荷物を"空いている腕"に引っ掛けられた眞一郎は、既に 元気が無い。左腕に比呂美の"柔らかい何か"、右腕には重たい荷物。がんばれ。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― バスで移動して、小高い丘へやってきた。休日にも関わらず他に人はいない。 彼らの知っている"穴場"と言える場所だった。 太陽が優しく照らし、吹き抜ける風は心地いい。芝生ではないが、それなりに 綺麗な草花があり、とても居心地のいい場所だった。春休みに来た時よりも、 もっといい眺めになっている。 「うぅ~ん。気持ちいい~」 手ぶらな愛子が背筋を伸ばして、深呼吸している。 「け、結構キツぜ…」 三代吉はへばり気味だが、愛子の姿に少し見惚れていた。"彼好み"の色使いの 上着がとても良く似合っている。だらしない目つき。 「…」 「…」 朋与とあさみは言葉少なに歩いている。どうしても、後ろが気になるようだ。 「ひ、比呂美…。ちょっとだけ離れてくれても…」 今、眞一郎の両腕には"両極端な負荷"が継続してかかっていた。集合してから バスに乗るまで、乗ってから座席で、そして、ここまでの道のり。 「えぇ~? 休みの日はいいんでしょ?」 分かってはいても、"許可が下りている"と思うと、離れるなんて考えられない、 それが表情と態度に表れている。比呂美は、公然と密着できるのが嬉しくて仕 方無い。体を押し付け、横顔を見て、目を合わせて笑顔を見せる。 「はいは~い。ここに荷物置いて、一休みしましょう!  眞一郎! 三代吉! さっさとシートを敷く!」 愛子は偉そうではなく、楽しそうに指示を出す。笑顔で言われては、逆らえな い。のろのろと動き出す2人。 「ちぇっ、人使い荒いなぁ」 三代吉は文句を言いながら、笑顔でシートを敷き始めるが、 「あ、あのさ。ちょっとの間だけ、離れるってのは?」 「いや」 眞一郎は比呂美と交渉中だった。 「仕方ないなぁ。ほら、頭なでなで…」 右手で柔らかい髪を梳きながら撫でると、そこには蕩けるような笑顔があった。 「んふぅ♪ もっと、もっと、なでなでしてぇ♪」 より一層体を押し付け、しなだれかかるが、 「な? シート敷くまで待ってくれたら、もっとなでなでするぞ?」 今まで誰も聞いたことが無い様な眞一郎の甘い声。4人が固まる。 「うんっ♪ 待ってる♪」 ぱっと離れて、シートが敷かれるのを待つと、瞬時に密着を再開。そして、 「眞一郎くん♪ なでなでは?」 「ほぉら、なでなで…」 「んふぅ♪」 頭を撫でられて、目を細め、吐息を漏らして甘える比呂美。正視に耐えない表 情。しかし、眞一郎も同じ様にだらしない笑顔。見ていられない。 4人はその様子を見て、それぞれ違う感想を抱いた。 (眞一郎…、あんた、比呂美ちゃんに影響されすぎ…) (愛ちゃ~ん、オレらも…) (どういう事? 休みの日だからって、あんなに…) (仲上くん…、いつもと違う…) 朋与とあさみは今日の為に気合の入った服装をしている。だが、比呂美は普段 着と言ってもいいくらい。少しくらいこっちも見てくれても、そう思っていた のにも関わらず、一言二言話した時にも、服装について触れられもしなかった。 さらに、比呂美の完璧な"防御"によって、近づくことすら難しい。6人で行動 していのに、2対4、もしくは、2対2対2になることが、しばしばあった。 愛子と三代吉は容赦なく二人をからかうが、朋与とあさみには無理だった。 今日の為に色々と策を練ってきたのに、出鼻をくじかれ、その後は話しかける チャンスを作ることすら難しい。 一見すると、比呂美が甘えるから眞一郎がそれに気を取られる様に感じられる が、実はそうではない。どちらかと言うと、甘やかすから甘えている。 つまり、眞一郎が比呂美の状態を作り出していた。 "思いっきりベタベタ"と自分で言っておいて、ミイラ取りがミイラになってい るのは眞一郎で、比呂美はそれが嬉しい。そして、止めようと最初は思ってい たが、気付かない間に自分もそうなっていた。 しかし、潮時というのを二人は心得ていて、皆がシートに座る頃には普段通り に戻っていた。 「ちょっとはしゃぎ過ぎたか…」 「そ、そうだね…。反省しないと…」 この辺りは"抱き合っていると、よく発見する人物"による教育の賜物か? 「そうだよ! 二人とも! みんながいる事忘れないでね!」 「愛ちゃ~ん、オレらも…」 「全くだっつ~の! 自重しなさい!」 「くっつき過ぎ!」 最初、朋与とあさみは明らかに不機嫌な様子で話始めるが、次第に6人はいつ もの"わいわい、がやがや"と普段通りのおしゃべりになっていった。 (よし、これからが勝負ね。何とか2人きりになって…) (がんばろう、仲上くんに見てもらわなきゃ…) ちらちらと眞一郎に視線を送りながら、気合を入れなおす朋与とあさみ。 やがて、いよいよ2人が待ちに待った"お弁当タイム"。 朋与とあさみは朝早く起きて、全力で料理を作った、母親の手を借りて。 それでも、その出来具合といい、量といい、満足できるものであった。 (よし! 結局ほとんどお母さんが作ったようなものだけど、手作り!) (私…、野菜しか切ってないけど、手作り!) 2人の実力はこれくらいだったが、盛り付けに力を注いだので、"手作り"にこ だわるのは致し方ない。しかし、それすら打ち破ってしまうのは…、 「じゃ~ん! 眞一郎! 比呂美ちゃん! 二人の好物、作ってきたよ!」 愛子だった。さすが、幼馴染。データベースの幅は広く、深い。 「うおっ! さんきゅー、愛ちゃん!」 「愛ちゃん! ありがとう! あっ、これってすごい久しぶりだ~」 眞一郎と比呂美は大喜び。 「愛子~、オレの好物は…」 「ちゃんと、あるわよ! これっ!」 「うぅぅ…」 何故か嘘泣きをしている三代吉。嬉しいようだ。 「こっちは、ウチから!」 「ウチだって!」 どん! どん! と朋与とあさみがそれぞれの弁当箱を開けた。 「うひゃあ~! 2人ともがんばったんだね!」 「すげぇ、豪華じゃん!」 「うわぁ~、おいしそう!」 「うぅぅ…」 三代吉だけ、まだ嘘泣きを継続していた。 「じゃ! 食べましょう!」 しかし、愛子の合図で昼食が始まる。 「いただきます!」×6 さて、短いですが、イチャイチャお弁当タイムの始まりです。 「眞一郎くん、あれ、食べたいな?」 「分かった…ほい、あ~ん」 箸で摘んで、口元へ持っていく。 「あ~ん☆ はむっ♪ んっ…んぐんぐ…んぐっ…う~ん♪ おいし~い♪」 笑顔で口に入れてもらい、ご満悦。 「旨いか? 次、どれがいい?」 こちらも、だらしない笑顔。 「もういっこ~♪ おんなじのぉ~♪」 体を少し左右にひねりながら、催促。 「よ~し………ほい、あ~ん」 「あ~ん☆ はむっ♪ んっ…んぐ…んくっ…おいし~い♪」 「そっか、そっか。次は?」 「今度はぁ~♪ 私がぁ~♪ 食べさせちゃう…ぞっ♪」 比呂美は可愛い仕草で、眞一郎の鼻をつつく。 「あ~ん」 それを受けて、すかさず口を開ける。 「もうっ♪ まだ、どれが食べたいか聞いてないよ♪」 「あ~ん」 ちらっと視線で指示。 「これ?」 「あんあん」 口を開けたまま、頷く。 「しょうがないな~♪ はい、あ~ん☆」 「はむっ……んぐ…んっ…んぐっ…。う、旨い…。  比呂美が食べさせてくれるから、こんなに…」 ニヤニヤしながら考え込むフリをする。だらしない。 「もうっ♪ しんいちろうくんったらぁ~♪」 染めた頬を両手で挟み、体をひねって喜びを表す。 「あ、頭が痛くなってきた…」 「愛ちゃ~ん。オレらも…」 「で、できない…。アタシにはあそこまで自分を捨てきれない…」 「愛ちゃ~ん。オレらも…」 頭を抱える愛子と、見るのは恥ずかしいがやってみたい三代吉。 「「…」」 言葉を失くす朋与とあさみ。何回か学校で"あ~ん"は見たことがある。 それがこの二人にとっては手加減していた、という事が分かった。すさまじい 程の甘えと甘やかし、見ていられない、呆れるを通り越して見たくない。 しばらく二人は食べさせたり、食べさせてもらったりをしてから、普通に会話 して、少しの間自分で食べて、また、 「比呂美~、あれ…」 手の届かない場所のおかずを指さすと、 「もうっ♪ しんいちろうくんったらぁ~♪」 が始まる。そして、"あ~ん"を何回か繰り返す。どう考えてもわざと手の届か ない位置にあるおかずを選んでいるとしか思えない。バレバレだった。 朋与とあさみが何かアクションを起こそうとして、 「あ、仲が…」 と、話しかけても、 「眞一郎くんっ♪ どれがいいのかなぁ♪」 だったりした。 「あ、これはわた…」 と、再度チャレンジしても、 「比呂美~、俺もそれ、食いたいなぁ。あ~ん」 だったりする。 朋与とあさみは、上手く自分に眞一郎の注意を向けることができない。 二人が本気でイチャイチャすると、誰も間に入れない。愛子でさえ無理だった。 たまに、少し固いものを食べていると、 「んぐ…んぐ…んぐ…んぐ…」 比呂美が噛んでいるところを見つめてしまう始末。手に負えない。茶化すタイ ミングを見定めることすら難しい。二人は完全に4人を無視する様なことはし なかった。皆と普通に会話もするし、その時はいつもと変わらない。 だが、会話が途切れたりすると、 「あ~ん☆」 が始まる。 最初は笑顔で懸命に努力していた朋与とあさみも、食べ終わる頃になると、次 第に元気が無くなっていった。そして、比呂美はその様子を気にしていた。 「はぁ~、食った食ったぁ~。眠くなってきたぜぇ」 三代吉がごろんと寝転がった。 「行儀、わるいよ?」 愛子が注意するが、 「マジで、眠いんだよな~」 そんな時比呂美が突然立ち上がり、 「ごめん、ちょっと…」 と言って駆け足で林の方へ消えていった。 「比呂美!」 すかさず眞一郎が追いかける。 「え? ちょっと! どこ行くの!?」 「あっ! 何? 二人きりになる気? みんながいるのに!?」 靴を履いて2人が追いかけるのを、何故か愛子が止めようとする。 「行かない方がいいと思うよ?」 その表情と声は真剣で、何かに気付いているようだった。 「どうして? だって…」 「みんがいるのに…」 「行くなら、覚悟してね?」 愛子の声は哀しそうだ。あさみの事は知っていたが、今日、朋与の気持ちも分 かってしまった。 「意味、分かんない。あたし、行く!」 「私も!」 2人は眞一郎の後を追って行ってしまう。愛子もゆっくりと立ち上がる。 「三代吉、ここで待っててくれる?」 「あ? 何かあんの?」 「待ってて?」 「あぁ、分かった…。面倒なこと?」 「そんなとこ。気にしない方がいいよ?」 「オレにはワカンネェことだろ?」 「そ~ゆ~こと」 「寝てるわ…」 「じゃね」 愛子はゆっくりと歩いていく。どうせ急がなくても"声"で分かるだろうから。 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― <サントラ"SeLecT"を再生しながら読むとアニメ風。最後までどうぞ> 林の中に入って、立ち止まったところで追いついた。 「比呂美! どうしたんだよ!」 あと数歩の距離で止まり、眞一郎が少し大きい声で聞く。 「…」 「どうした? 何があった?」 「…」 「言ってくれよ。頼むから…」 眞一郎に背中を向けていた比呂美が振り向いた。 「…」 「……どうして、泣いてるんだ? 言ってくれ…」 泣いている表情に驚き、声が真剣になった。 「もう嫌なの…。あんな風に見せ付けるなんて…」 "今"の比呂美は思っている事、感じている事を素直に話せる。 「…」 無言で先を促す。 「だって、あんな風にして、それで、諦めてもらうなんて…。  2人とも、どんどん元気無くなっていって…。気になって…」 「うん」 眞一郎も気が付いていた、朋与とあさみが徐々に沈んだ表情になっていくのを。 「2人とも、私の友達なのに…、友達なのに…」 「うん」 言いたい事が分かっている、それを伝える為に相槌を打つ。 「それなのに、あんな風に…」 「うん」 「私…、違うと思ったの…。あんな風にするのは違うって、思ったの…」 「うん」 「私、勘違いしていたのかもって思うと…、居られなくなって…」 次第に声は小さくなり、俯いてしまった。涙がぽろぽろと地面に吸い込まれた。 「俺が、間違っていたんだな…」 「どうして? 眞一郎くんは別に…」 比呂美は何が言いたいのか分からなかった。 「2人とも、お前の大切な友達だもんな…」 「うん…、そうだよ…」 「俺はその友達に酷いことをしたのかもな…」 「え?」 意外な言葉に涙が止まり、眞一郎の目を見た。"あの目"だ。 「ごめんな? 比呂美。俺が悪かった。俺がちゃんとすれば良かったんだな…」 「どうして謝るの? 私も一緒になって…」 「いや、俺が考えたんだし…。そもそも、俺が…」 「…」 「比呂美、俺が2人に話すよ…。今日の事も謝っておくから…」 「眞一郎くんがどうして謝る…の?」 「友達なのにお前が謝ったら、変な事にならないか?」 「でも、私も一緒になって…」 「だめだ、俺が謝らないと…、俺がちゃんとしないと、だめだと思う…」 「どうして? どうして!? どうして眞一郎くんは、そうなの!?」 比呂美の感情が高ぶっていく。 「何が?」 眞一郎は冷静に受け止めた。 「だって! いつも眞一郎くんは! 自分で抱え込んで! 私、嫌なの!  "あの頃"だって! 私が自分で勝手にして! 勝手に嘘ついて!  私が振り回して! 我がまま言って! 都合を押し付けて!」 「"あの頃"は、母さんの嘘もあっただろ? 違うか?」 「でも! 私! それでも! 自分で勝手にして! 言えばよかったのに!  言えなくて! 勇気が無くて! それで眞一郎くんが!  眞一郎くんを傷つけて! 私、私、嫌われるかもって! そう思って!」 未だ、二人の距離は数歩分空いている。 「私が頼ってばっかりで! 私が! 私! 眞一郎くんに迷惑ばっかり!」 心の奥にしまっていた"過去"が溢れ出していた。以前に話したことはあって も、ここまで直接的に言ったことはない。 「迷惑じゃない」 「違う! 今だって! 私が2人に言えば!」 「それは違う…」 「違わない!」 比呂美が叫ぶ。 「聞け!」 眞一郎が始めて怒号を上げた。 次回、眞一郎が…。 END -あとがき- あ、あれ? 朋与とあさみが主役だったはず? 後で活躍しますんで、たぶん。 イチャイチャを書いていて、比呂美に感情移入したら、思わぬ展開に…。  ありがとうございました。

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