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比呂美のバイト その3」の最新版変更点

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+【私、迷惑かけてるのに】 比呂美のバイト その3
 
+
+ バイト宣言を受けて大いに悩んでしまった眞一郎に比べ、比呂美の様子は、
+昨日までとほとんど変わらなかった。教室内でも普通。部活も普段通りにこな
+し、眞一郎に色々と話しながら下校するその様子は、まるで何事もなかったか
+のようだった。
+(比呂美にとっては、小さな事なのかな…)
+ 眞一郎は、下校途中の坂道でそっとため息をつき、自分の中の悩みに戻って
+いった。父に言われた事。三代吉のヒント。…4番。考える事が多かった。
+ だから、眞一郎をそっと見つめる比呂美の瞳に、以前に似た危うい色が浮か
+んでいた事に、彼が気付く事はなかった。
+
+ アパートについた時、比呂美はいつもと少しだけ違う行動をとった。制服の
+まま、着替える事なく、バスタブに湯を張りはじめたのである。
+「今日はシャワーじゃないのか?」
+ 微笑むだけで、比呂美はそれに答えなかった。
+ それどころか、いつの間にか二人分のコーヒーの用意をしていて、マグカッ
+プが二つ出てきた。
+「ねえ、眞一郎くん」
+「ん?」
+「お風呂がいい? お茶にする? それとも、あ・た・し?」
+ 突然比呂美が上目遣いにイタズラっぽく言った。
+
+ 対眞一郎専用アイテムのメガネをつけ、どこからか持ち出したエプロンまで
+装備して言うものだから始末に終えない。破壊力は絶大。まるで新妻そのもの
+である。
+「えっ…、ちょっ、おい、お前っ…」
+ 眞一郎はもう言葉にならない。(思わず「あたしっ!」と叫びたい衝動に駆
+られてしまった彼を、誰が責められよう)
+「ふふっ、前にドラマで見たセリフ。ちょっと言ってみたかっただけ」
+ 比呂美は笑い、ぺろっと舌をだして見せた。
+ その仕草がまたとても可愛い。凶悪に可愛い。さっきのセリフと合わせると
+もはや即死コンボに近い。
+ もっともここまで来ると、逆に冗談、演技だとはわかるのだが。
+ だが、今の眞一郎にはそれがかえって逆効果となった。
+「変な冗談はよせよ…」
+ 眞一郎は、自分の真剣な悩みと想いをからかわれたような気がしていた。ム
+ッとした表情を隠しもしない。色気で大事な事をごまかされたような気さえし
+てきている。
+「大体お前――」
+ 俺が襲いでもしたら、どうするつもり――
+「お風呂、沸いたから。入ってきて」
+ 眞一郎の言葉を遮って、比呂美は言った。今度は真剣な表情である。
+「風呂? 俺が?」
+ 怒っていたのはどこへやら。これにはさすがに驚いて反応できない。
+「ここのお風呂は狭いけど、少しは気分、変わると思う」
+ 比呂美はバスタオルを引っ張り出してきた。はい、と押しつける。
+ 雰囲気はまさに問答無用。有無を言わせるつもりはないようだ。
+ そして比呂美が一旦覚悟を決めたら、容易な事では止められない。
+「お前は?」
+「眞一郎くんの後に、入らせてもらうから。ほら、入って入って」
+ もはや断る事もできず、結局眞一郎はバスルームの中に追いやられてしまっ
+た。
+
+
+「湯加減はどう?」
+ 扉の外から、比呂美の声がする。眞一郎には見えないが比呂美は中腰で膝を
+そろえてついている。新妻モード継続中らしい。
+「ああ、お湯はちょうどいいけど…。本当に俺が入るのか?」
+「うん。ゆっくり入ってね」
+(なんだかおふくろみたいだ…)
+ つまり、家の事は女にはかなわないんだな、と思う。
+ ぶんぶん振り回されてたじろいではいたものの、なぜか悪い気だけはしなか
+った。
+(これが奥さんって奴かなあ…)
+ 湯舟に体を沈め、芯からの心地良いため息を漏らした頃には、確かに眞一郎
+の気分は変わっていた。今まであれほど心にのしかかっていたバイトの事も、
+4番の事も、どこか気楽になっていた。
+ 比呂美の用意してくれたお風呂は、最高だった。
+ 心の中が暖かい気持ちで満たされていくような気がした。
+
+
+ 10分ほどして、バスルームの扉に遠慮がちなノックの音が聞こえた。
+「…眞一郎くん」
+「比呂美…」
+「怒ってない?」
+ その声音に、さっきまでの強引さは微塵も残っていない。むしろ少し、自信
+なさそうな細い声である。
+「怒るわけないだろ」
+ 眞一郎はふっと息を抜いた。
+「…ありがとな」
+「うん…」
+
+ バスルームの扉から、少しこするような、重い音が聞こえる。
+ 見えはしないが、比呂美が背中でもたれかかったのだと、眞一郎にはわかっ
+た。
+ バスタブの背中の部分は軽く斜めになっていて、体を預けられるようになっ
+ている。そのかわり体の向きは固定だ。
+ だから、バスタブにある眞一郎の体と、扉にもたれた比呂美の体の向きは、
+逆を向いている事になる。
+ 湯に包まれた眞一郎が目をつぶると、実際に比呂美と背中あわせで風呂に入
+っている気がした。
+「昨日のこと、ごめん。眞一郎くんがこんなに悩んじゃうなんて…」
+ 比呂美がポツっと言った。小さな声だが、今は浴室自体が静かなのでよく聞
+こえる。
+「それで、風呂を用意してくれたのか?」
+ 俺の気分を変えるために。そしてあの元気な演技も。
+「うん…そう」
+ 眞一郎は、深いため息をついた。
+「お前、優しいよな…」
+「そうかな…」
+ 背中から、少し沈んだ声。
+「そうだよ」
+(そうだよ…)眞一郎は、心の中で繰り返した。
+
+「昨日、帰ってから親父にバイトの事を話したんだ」
+ 少し間を置き、眞一郎は背中の比呂美に語りかけた。
+「ごめん。私から言いにいかなきゃって思ってたら、言いそびれて…」
+ どうやら彼女は気後れしていたらしい。
+ 比呂美からはまだ、仲上家への遠慮が抜けていない。
+ この一人暮らしも生活費は仲上から出ているわけで、贅沢と言えば贅沢な話
+なのだ。それに加えてのバイト話。さすがにワガママがすぎるという自覚があ
+るようだった。
+「良い心掛けだって。親父、褒めてたよ」
+ また少し、眞一郎の胸が痛む。彼は、比呂美に遠慮してほしくなどなかった。
+「私、迷惑かけてるのに」
+「自分のした事に責任を取るのは、人として大事な事だって言ってた。ああ、
+それとウチに話しにきなさいって」
+「うん…。今晩伺うね」
+「比呂美…」
+「はい」
+「いい湯だ。ありがとう」
+ 眞一郎の心の中で、何かが生まれようとしていた。
+
+
+ 眞一郎は、上半身裸のままでバスルームから出た。上半身の衣類は肩にひっ
+かけている。
+ 湯気がユニットバスから抜けるまでには、換気扇が回っていても少し時間が
+かかる。要するに蒸し暑いのだった。
+(あいつ、いつもちゃんと着替えてから出てくるけど…)
+ 多少暑くとも、だらしなく下着姿でうろつく姿を見せたくないのだろう。そ
+こは比呂美らしいと思った。
+「上がったよ」。
+ 比呂美は上半身裸の眞一郎を見ると、すぐに眼を伏せ、視線を横にそらして、
+無言で彼の脇をすりぬけていった。背後でバスルームの扉が閉まる。
+(まずかった、かな)
+ 男の上半身裸なんて、見て楽しいものでもないだろうという感覚が眞一郎に
+はある。水泳でもボクシングでも、別に当たり前の事だからだ。
+ だが、比呂美の反応を見ると、多少のひっかかりはあるようだ。それが男性
+一般に対する意識なのか、眞一郎に対してのみなのかはわからない。
+ ともかく、気をつかってやるべき事だという所までは理解した。さしあたっ
+て気軽に半裸にならないぐらいの配慮は、すべきだろう。
+ 以前、「真心の想像力」という言葉にとらわれすぎていた頃。眞一郎は「自
+分の考えを相手の本意と間違え、押しつける」という失敗を散々やらかした。
+比呂美もずいぶん泣かせた。
+ その痛い失敗のおかげだろうか、比呂美を良く見た上で理解しようとする姿
+勢が、少しずつ身につきだしている。それは彼にとって、ささやかでも大きな
+進歩といえた。
+
+
+ 眞一郎が、学校のシャツを着終えた、その時である。
+ バスルームから、いくつもの甲高い摩擦音と、大きく深い水音が聞こえた。
+細かな水音は止まらず、そして咳込む比呂美の声…。
+「比呂美!」
+ 眞一郎は我知らず身を翻し、バスルームの中に飛び込んだ。
+
+ 見ると、波立ったバスタブの中で、比呂美が激しく咳込んでいる。
+ 眞一郎は片足をバスタブのお湯の中に入れると、比呂美の両脇をかかえて、
+一気にその身体をお湯から引き上げた。
+ そのまま彼女の身体を半回転。左腕を身体の前面から、鳩尾の少し上の位置
+に回し、うつむき気味の姿勢のままで支えてやる。右手は最初は抱えるために
+使い、足元が安定してからは咳込む彼女の背中に添えて、軽くさすってやった。
+ とっさの行動であり、それが正しいのかどうかは判断できない。だが、何よ
+りもまず水から引き上げてやる必要があると思ったのだ。
+
+ 左腕でしっかりと比呂美を支えながら、眞一郎は咳が収まるのを待った。
+ やがて咳が軽くなり、落ち着いてくると、眞一郎は言った。
+「大丈夫か?」
+ 比呂美が、まだ荒い息のまま、軽く咳込みながら答えた。
+「ごめん、ちょっと滑って…」
+ それだけで眞一郎にはわかった。
+ このバスタブの欠点なのだ。背もたれ部分が斜めになっていて、しかも滑り
+やすい材質のため、誤って斜めの部分にカカトの重心を乗せると、一気に体が
+滑ってしまう。頭を打ったり、水没したりする事もありそうだった。眞一郎自
+身、さきほど入った時に少し怖いなと思ったばかりなのだ。
+「どこかぶつけた所はないか? 頭は打ってない?」
+「大丈夫…、ちょっと肘とお尻を打ったぐらい」
+ この言葉で、眞一郎はやっと安堵した。
+「そうか、よかった…」
+ 気が付くと、腕にかかっていた彼女の体重がほとんど抜けている。姿勢はあ
+まり変わらぬまま、比呂美はきちんと自立していた。
+「ごめんね。ずぶぬれにさせちゃった…」
+ 比呂美はうつむいたまま、言った。
+ 眞一郎の服は、上も下もずぶぬれ。大変なありさまになってしまっていた。
+「そんな事、どうでもいいよ。…本当に怪我はないな?」
+「うん…」
+ 比呂美は、今まで必死に掴んでいた眞一郎のシャツの袖を放しかけ…、改め
+てキュっと掴んだ。
+「やっぱり、見つけてくれた。助けにきてくれた…」
+ 比呂美がつぶやいた。
+「当たり前だろう」
+ その言葉を拾った眞一郎が、どこか噛み合わないのは仕方ない。比呂美にし
+かわからない事だからだ。
+「気をつけろよ。お前、転びやすいんだから。この斜めの背もたれ、危ないぞ」
+ あくまで現実に即した事を眞一郎は言う。それが比呂美には少しおかしかっ
+た。
+ だが、この人は必ず助けてくれる、その確信だけは増していた。彼女にはそ
+れだけで十分だった。
+ そしてしばらく、静かに身体を寄せ合っているような、抱き合っているよう
+な姿勢で、二人は立っていた。
+
+ どれほどの時間が過ぎただろうか。数分か、数十秒か、よくわからない。
+ 衝撃と安堵が抜けると、二人とも今の状態がどうなっているかに気づきはじ
+めた。
+「眞一郎くん…。あの…」
+ 遠慮気味に比呂美が言う。羞恥で顔が赤くなり、身体が少し震えてしまう。
+「う、ああ、ええと…」
+ いけないと思いつつ、眞一郎の頭と視線が滑ってしまう。
+ 引き締まったお尻、細いウエスト、形の良い乳房、そして小さく震える美し
+い乳首。
+「恥ずかしい、かな…」
+ それどころの話ではなかった。全裸で眞一郎に抱きついているのである。隠
+すものなどなく、柔らかな胸は左腕の上に乗っている。
+ 男性に、これほど無防備に身体を晒したことは、比呂美にはない。
+「ごめん…」
+ 比呂美の、ごく薄く陰る脚の付け根まで見てしまい、焦った眞一郎は、やや
+乱暴に彼女の身体の向きを変え、彼女を正面から抱き締めた。
+「あ…」
+ 比呂美の驚きの声が上がる。
+ 身体は前で密着しているが、少なくともこれで前は見えないから。と、眞一
+郎は思った。
+ 自分に対する言い訳ではある。
+ この場を、もう少しだけ離れたくなかった。
+「ううん…。助けてくれたんだし…」
+ しばらくして、ゆっくりと、比呂美の腕が背中に回った。
+ 二人の心臓が早鐘のように打っている。そのお互いの心音まで、肌を通して
+感じられた。
+ そのまま二人は眼をつぶり、抱き合ったまま動かない。
+ 心臓だけが動く中、二人だけの時間が流れていった。
+
+「比呂美…。俺、手伝うよ。一緒に働く」
+ 眼をつぶり、比呂美を抱き締めたまま、眞一郎は言った。
+「え…。あれは私の問題で、眞一郎くんには関係ないのに…」
+ 抵抗する、比呂美。
+「二人で働けば半分の時間で済むし」
+ 眞一郎はきっぱりと言う。
+「そんな迷惑、かけられないよ…」
+「お前の問題は俺の問題だ。だから手伝う。駄目だって言ったら、俺は今度の
+バイトを認めない」
+ 父に、三代吉に助言され、自分で考えた結論である。譲る気はなかった。
+「でも…」
+「困ってるお前を助けられなきゃ、付き合ってるなんて言えない。お前がやる
+っていうなら、俺は絶対手伝う」
+ まず比呂美のためになる事をする。比呂美が何を考えていようとわからなく
+ても、自分は比呂美を信じてやる。助けてやる。どこまでも。
+「……。おせっかいな男の子って、馬鹿みたい…」
+ 長い沈黙のあと、いつか聞いたセリフを、比呂美はつぶやいた。
+ 声音は全然違う。少しだけ甘い響きで、そして泣いているようだった。
+「ちょっと。比呂美?」
+ ちょっと慌てて、眞一郎は眼をあけた。
+「ごめんなさい…」
+ これも良く聞いてきた、口癖のような言葉。
+ だがやはり、響きが全く違う。今まで聞いた中でもっとも美しく響く、ごめ
+んなさい。
+ 比呂美が背中に回していた両腕を解いた。
+ 両手を眞一郎の胸にあて、少しだけスペースを開ける。涙の浮かんだ顔で眞
+一郎の瞳を見て、そしてまた眼を閉じる。
+「いいのか?」
+「馬鹿」
+ 眞一郎は比呂美にキスをした。
+ 唇だけの長いキスが終わった後、二人はいつまでも笑っていた。
+
+
+ そこからは大変だった。
+ びしょぬれになったユニットバス内部の拭き掃除をし、眞一郎の服をとりあ
+えず乾かし。 甘いどころの話ではなかったが、後始末を一緒にできているだ
+けで、眞一郎は幸せを感じている。
+(今は、いいよな)
+ 機嫌よく後始末をする比呂美を横目で見て、眞一郎はつくづくそう思う。
+(うん、これでいい)
+ いつか自然にその時は来る。今、焦って比呂美を襲う必要は、全くなかった。
+
+
+ 眞一郎は裏口、比呂美は玄関から。
+ いつものように仲上家に戻り、居間で両親にバイトする事を直に報告する。
+「そういうわけで、親父、おふくろ。俺は比呂美と一緒にバイトするから」
+ すっきりした気分である。気後れも悩みも、もはや眞一郎には無かった。
+「そうか、頑張れよ」
+ 父の励ましは、少し不安そうだった比呂美の顔に安堵を浮かべさせた。
+
+ ところが、母の反応は、想像と全く違っていた。
+ 彼女は、普段はほとんど見ない、とっておきの美しい笑顔で言ったのだ。
+「眞ちゃん、あなたは駄目よ」
+ と。
+
+----------------------------------------------------
+乱文を読んで下さり、ありがとうございました…
+
+すみません、本当にエロくなってしまいました…orz
+お風呂だけでほぼ全部って一体。
+どうするんでしょうこれ…。
+
+あえて解説めいた事をすると、
+「そこなら普通襲うだろ!」というシーンが描かれていますが、このSS内の
+眞一郎は、比呂美の場合に限り、簡単な理由あって襲いません。
+それはTV本編で散々おこしたすれ違いに通じる理由でもあります。
+もし相手が愛子だったり、仮に乃絵だとしても、ここまでなったら
+襲っているでしょう。眞一郎も一応男だ(笑)
+
+次は少し時間が開きます。すみません。
+釣りはttの華という事で許してください。
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