Amour et trois generation Une image du futur qui secoue(揺れる未来図)

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 修学旅行から一週間が過ぎた。  大きな学校行事は一通り終了し、授業も平常運行に戻っている。  二年生にとっては進路決定の実質的な最終確認の季節であり、進路調査票の提出期限に ついてH.R.で念を押されるのも日課のようなものになってた。  麦端高校は世間的な基準では進学校という事になっており、実際に進学率は非常に高い。 近年は旧帝大への進学率はやや低迷しているが、それでも近隣校を上回る実績を誇ってい た。  三代吉も一応は進学希望ということになっている。特別勉強がしたいわけではもちろん ないが、眞一郎のように将来の希望が明確にあるわけでもなく、農家を継ぐ覚悟を決めた わけでもない。それを考えるための時間が欲しいための進学希望とも言えるし、結論を先 延ばしにするための進学希望ともとれる。 「そう言えば愛ちゃんは?どこ受けるって言ってたっけ?」  眞一郎が訊いてきた。 「短大受けるって言ってたな。栄養学を学びたいとか言ってたが」 「栄養学?やっぱりあの店続ける気かな」 「そこまでは訊いてないけど」 「でも、あの店続けるとしたらお前どうするんだ?家継がないで愛ちゃんの店一緒にやっ ていくのか?」 「なんでそんな先の話してるんだ。お前らじゃあるまいしそんな先のまでわかんねえだろ」  三代吉が苦笑した。完全に結婚が前提で、それを当然のように話すあたりが眞一郎らし い。 「でも、考えたりしないものなのか?今の彼女とこのまま一緒にいたらどんな未来になる かとか」 「そりゃ考えるけどよ、そんな時にうちの家業どうするかとか、そんな世知辛い話まで考 慮にいれねえよ」  と言うより、考慮していたらあまりいい夢が見られそうにない。三代吉の父親は婿養子 であり、三代吉は結婚十二年目にしてようやく生まれた待望の男児であった。家を継がな いなどと言えばショックで寝込んでしまいそうだ。特に父親が。 「そうなのか。結構大変だな」 「老舗の造り酒屋の一人息子で、平然と家を継がないなんて言い切れるお前が特別なんだ よ」 「まあ……そうかもしれないな」  眞一郎にもその自覚はあるらしい。 「で、お前は当然美大と。東京か?」 「そのつもり。どうせなら出版社に近いほうが持ち込みもしやすいし」 「湯浅は?あいつも東京の大学受けるのか?」 「いや……どうだろうな」 「知らねえのかよ」 「比呂美ならどこ受けても受かるだろうし、別に東京とは限らないだろうし」 「一緒に東京に出て、晴れて堂々同棲生活とか?」 「俺が東京に行くからって、比呂美も東京でなきゃならない理由なんてないだろう。やり たい事があるならそれが出来る所へ行くのが一番だ」 「それで遠距離恋愛になるのか?寂しいぞー?」 「大丈夫だ、今更俺達はそんなことで駄目になったりしない」  根拠はないが説得力のある自慢に三代吉が再び苦笑する。三代吉の見たところでは、比 呂美は行動の基準を眞一郎に合わせているように感じているが、眞一郎の見た目は違って いるようだ。 「あ、野伏君、『あいちゃん』今日やってる?」  どこからか戻ってきた朋与が三代吉に訊いてきた。 「やってるって、定休日じゃなきゃやってるだろ。なあ、三代吉?」 「でも、先週半分休んでたわよ」  朋与が言った。 「ちょっと具合が悪かったんだよ。今はやってる」  三代吉が答えた。  但し、愛子が普段の愛子かは別問題だった。三代吉とあまり目を合わせず、何か言いか けては黙り、を繰り返し、ほとんど会話が弾まなかった。  三代吉としては、何か言いたい事があれば言って欲しい所である。そう愛子に言わない のは、ルミに受けたアドバイスがあるからだ。 『――あ、三代吉君?私、高岡です。安藤さんに会ったけれど、特に変わったところはな かったわよ?今日はまだ体調が戻らないから店は休むって言ってたけど、考えすぎじゃな いかしら?』 『考えすぎですか……』 『あまり気にしないほうがいいと思うわ。何か言いたい事があれば自分から言うでしょう し、変に勘ぐると却って怒らせちゃうかもよ。女の子って細かく詮索する男は嫌いだから』 ――と言うわけで、三代吉としては愛子が何か言い出すのを待っているのである。 「大丈夫だから来てくれよ。コーラくらいならサービスするぜ」  三代吉は朋与に精一杯愛想よく言った。もしかしたら愛子の機嫌が少しはよくなるかも しれないという、かすかな期待を込めて。  愛子はもやもやした気分を振り払えないままこの一週間を過ごしていた。  ルミから三代吉が学校で石動乃絵と談笑していたと聞いた翌日から三代吉は普通にやっ て来て、店をいつも通りに手伝い始めた。  石動乃絵の話はもちろんしないし、イヤリングの一件について訊いてくる事もない。何 事もなかったかのように店を手伝い、働いている。その癖、愛子と目を合わせようとはし ない。時折視線を感じるものの、愛子が顔を上げると目を逸らしてくる。逆に愛子が見つ めていて、三代吉がこちらを向いた瞬間に顔を背ける事も一度ならずあるのだが、愛子は 自覚していない。  愛子が三代吉と石動乃絵が逢っていたという事を知っているとは三代吉に話していない。 三代吉から乃絵の話をする理由はないし、事実三代吉は話す必要のある出来事とも思って いない。だから、三代吉がその件について何も言わないのは愛子もまだ理解できる。  しかし、イヤリングの一件について何も訊いてこないと言うのはどうした事か。決して 安くはない買い物を――高校生のプレゼントの範疇を超えている――渡して、礼も言われ ないまま追い返された事について、何か訊きたい事はないのだろうか。  もしかしたら、イヤリングの件は触れない方が三代吉にとって都合がいいということは ありえるだろうか。まさかとは思うが、三代吉が本当に他の女の子にも何か高い買い物を していて、自分にはその後ろめたさから買ったなんて可能性は?しかしあの三代吉がそん な器用な真似できるだろうか……。  考えれば考えるほどわからない。それでも考えているうちに、愛子は同じ結論に辿り着 く。 (あたしは三代吉のことを何も知らない)  愛子が三代吉を知ったのは眞一郎からの紹介だった。愛子を見かけて一目惚れした、と 言っていた。  その時の愛子の絶望を、三代吉は知らない。もちろん眞一郎も知らない。神社の境内に 眞一郎から呼び出され、かすかな期待を胸に待ち合わせの場所に向かい、見たこともない にやけた男を紹介された時の、あのショックは。  それでも三代吉の告白を受け入れ、形だけでも三代吉と付き合う事にしたのは、そうす れば眞一郎との接点が出来ると思ったからだ。学年も学校も違う少年に少女が持ち得る共 通項はあまりにも少なく、利用できるものは何でも利用する気持ちになっていた。  道具に過ぎない三代吉に興味が持てないのは、だから当然であった。三代吉の過去に興 味はなく、ただ、彼が話してくれる学校での眞一郎の様子だけが愛子の興味の対象であっ た。  そしてそんな一方的な打算を動機とした関係が破綻し、二人は別れた。それだけの事を されて尚、愛子の重荷とならないためにどうすべきかを優先してくれた三代吉の優しさに 愛子は戸惑い、そして惹かれていった。  その後三代吉は愛子の身勝手な願いを聞き入れ、再び交際する事になった。以前以上に デートを重ね、色々な事を話し合った。好きなスポーツ、音楽、食べ物の趣味――。  しかし、どうしても訊けない事があった。 (三代吉はあたしのどこを好きになったんだろう?)  三代吉は「一目惚れした」としか言わない。街中で偶然眞一郎に会い、立ち話している 所を遠巻きに目撃したのだという。 『それで俺は眞一郎を脅して紹介してもらう約束を取り付けたってわけだ』  だが、それだけで好きになってもらえるほど、自分は魅力的であろうか?正直に打ち明 ければ、愛子は自分を「かなり可愛い」部類だと認識している。店の看板娘であり、常連 客は口を揃えて 「あの親父からこんな娘が」「みっちゃんの遺伝子の勝利」  と褒めてくれた。ナンパをされたことだって何度かある。  それでも、遠巻きで、ほんの数分立ち話している姿だけで、そんなにも真剣に恋に落ち るほど、自分に魅力があるとまで自惚れてはいなかった。  まして、不実な真似で裏切って、それでも許されるほどに愛される存在だとは考えた事 もない。彼はなぜ、あたしにそこまで寛容になれる?  そしてもう一つ。あれほどに寛大で、誠実な男子が、今まで全くモテないという事があ るだろうか。確かに顔は人並かもしれないが、背も高く足も長く、容姿でいきなり切り捨 てられるとは思えない。そしてその人為(ひととなり)は、眞一郎が唯一親友と呼ぶ男と いうだけで保証されるはずだ。  三代吉が誰とも付き合った事がないと言うのは何か理由があるのではないか。或いは― ―この方がありえそうだが――過去に交際した女性がいるのではないか?  過去?本当に過去なのだろうか?三代吉にとって過去でも、相手にとってそうではない という事が?そして三代吉があたしを許したように、その女子の過去も許したという事は ないだろうか?  冷静に考えれば、三代吉という人間がそのような人間か、或いはそれほどに器用な人間 かわからないはずはないのだが、ルミに植えつけられた不安が判断を鈍らせ、三代吉に対 する過大評価が更に不安を煽り立てた。  つまりは、愛子は自分で思っている以上に、三代吉を好きになっているのである。  愛子は傍らの紙袋に目をやった。三代吉のために編んでいたセーターは、あの日以来手 をつけていない。  袋にまでは手が伸びるのだが、なんだか余計な事を考えてしまいそうで作業する気には なれないのである。 「間に合わなくなっちゃうかな……」  愛子は呟いた。その前に別れてしまうのではという不安は、無理に追いやっていた。 「お邪魔します」  比呂美が仲上家に入ると、台所では理恵子が夕食の支度をしていた。 「あら、いらっしゃい」 「何かお手伝いする事ありますか?」 「いえ、大丈夫よ、ゆっくりしてて――」  途中まで言いかけた理恵子は、そこで思い直し、比呂美に手伝いを頼んだ。 「そうね、じゃあ、お願いしようかしら」  比呂美が台所に入ってきた。 「今日の献立は何ですか?」 「豚の角煮よ。お大根と一緒にじっくりと煮て、味を染透らせるの」 「うわあ、おいしそう」   出来上がりを想像して比呂美は心からそう言った。醤油と砂糖で甘辛く味付け、とろ りとした煮汁の中に飴色の大根と豚肉が盛り付けられた様子が、目に浮かんだ。 「それとお味噌汁と。今日はなめこのお味噌汁ね」  理恵子はパックに入ったなめこを指差した。 「比呂美ちゃん、悪いんだけどなめこをきれいに洗っておいてもらえるかしら」 「え?洗うんですか……?」  比呂美が一瞬戸惑った顔貌をした。比呂美の知識では、茸類というのはあまり水洗いし てはいけないはずだ。 「表面のぬるぬるしたものを一度流して欲しいの。そんなに神経質にならなくても、一度 ヌルヌルがなくなればいいから」 「……はい、わかりました」  言われた通りになめこを洗いにかかる。パックを開けるとすえたような臭いが飛び出し てくる。 「いやな臭いでしょ?」 「はい」 「そのぬめりが空気に触れるとそういう臭いになるの。だから、一度洗い流しておくと臭 いが気にならなって、食べやすくなるのね。キノコは基本的には洗わないのだけど」 「それで洗うんですか……」 「あまり洗わないで使う人ももちろん多いけど、洗って臭いを取ったほうが美味しいから」  理恵子は断言した。 「あなたのお母さんもやっていたと思うわよ?」 「そうなんですか?」  少なくとも見た覚えはない。 「洗った方がいいのは知っていたから」 「はあ……」 「自分の子供の口に入るものに、手間を惜しむような女性(ひと)ではなかったわよ」  理恵子は自信を持って言い切った。  実際のところ理恵子は、それほど母親としての香里を知っているわけではない。しかし、 香里がどれだけ比呂美を正しく愛情を持って育ててきたか、比呂美を見ればすぐにわかる。 そんな香里ならば理恵子同様、自分の子供の食事にも一手間を抜く事はしないという確信 が理恵子にはあった。  それに、理恵子自身は自覚していないが、香里の名誉をひとつでも回復させたいという 心理も働いていた。比呂美の前で香里にマイナスになる事は、無意識に何一つ言わないよ うにしていた。 「うん。そんなものでいいわ」  洗い終わったなめこを見て理恵子が言った。 「角煮は作った事あるのかしら?」 「いえ、本で作り方を見た事はあるんですけど」 「そう?なら、少しはわかるわね。ちょっとやってみる?」 「え、でも……」 「わからなかったら教えてあげる。大丈夫よ、シチューとかカレーを自分で作れるくらい に包丁や火加減が出来るなら、難しい料理ではないから」 「……はい、それじゃあ、やってみます」  台所で理恵子と比呂美がならんで夕食を作る。二年間の遠回りをして、ようやくここま で辿り着いた光景であった。 『あいちゃん』のガラス戸が開いた。 「あ、いらっしゃいま……」  振り返った愛子の表情がわずかに強張った。入ってきたのは三代吉と眞一郎であった。 「や、久し振り、愛ちゃん」  いつもと変らない眞一郎の、やや緊張感に欠ける声だった。 「……ああ、久し振り、眞一郎。比呂美ちゃんは一緒じゃないの?」  一瞬で表情を戻したのはさすが商売人というべきか。愛想のいい笑顔で愛子は迎えると、 カウンターに座った眞一郎に彼の恋人の事を訊いた。 「ああ、今日はうちで飯食う事になっててさ。何かお袋を手伝える事があれば手伝うって 先に帰った」 「へえ~。なんだか花嫁修業みたい」  言われた眞一郎が耳まで赤くなった。平静を装おうとしているようだが、口元がだらし なく綻ぶのを止められない。 「ややゃ、やだなあ、な何言ってるんだ、考えすぎだよ、ハ、ハハハ……」  出されたコップの水を一気飲みし、派手にむせ返る。 (おもしれえ……)  三代吉がその様子を見ながら思った。元々クールな男とは思ってないが、これほど取り 乱すタイプでもなかったはずだ。 「まあた、自分でも内心そう思ってたんじゃないの?」  愛子が追い討ちをかける。ここ暫くの間気分が沈み気味だったので、こういう悪ノリが 出来るのは久し振りだ。  眞一郎もようやく反撃できる程度に立て直してきた。 「い、いや、それを言うなら愛ちゃんだって。三代吉から真珠のイヤリングもらったんだ ろ?婚約指輪みたいなものじゃん、それ」 「イヤリングで指輪って意味わかんねえよ」  三代吉がツッコミを入れつつ愛子を窺う。イヤリングの話題にはややナーバスにならざ るを得なかったためだが、愛子は普通に笑っていた。 (取り越し苦労か)  表情には出さず三代吉は安堵した。ルミが言うとおり、あまり細かく考える必要はなか ったようだ。 「だから言っただろ。対馬と言えば真珠。地元の名産をプレゼントに選んだだけだよ」  眞一郎に向けつつ、いくらかは愛子に向けた言葉でもある。深い意味はないから遠慮す るな、という意味を込めている。 「そーだよ眞一郎。あたし達まだ全然、全っ然、そんな関係じゃないんだから」 『全然』を殊更に強調した愛子の言い方に、三代吉が 「ひっでえなあ、そんなに力込めて言わなくてもいいじゃねえかよ」  と口を尖らせる。眞一郎は 「あはは……」  と笑っていた。  久し振りの穏やかな空間。三代吉と愛子が同じ話題で同じように笑うなど随分長い事な かったように感じる。 (眞一郎に後で礼を言わないとな)  実は、眞一郎は比呂美と一緒に帰宅する予定だったのだが、朋与から最近店が休みがち であるという話を聞いて、わざわざ店に寄ってくれたのだ。おかげでここ数日のぎこちな さがほぐれたように感じる。 「――じゃ、俺はそろそろ帰るよ」  様子を見て安心したのだろう。眞一郎が暇を告げた。 「おう、また来いよな」 「自分の店みたいに」  眞一郎が笑いながら店を出ると、愛子が待っていたように 「ごめん、三代吉、暫く店番してもらえるかな」 「ん?どうした?」 「ちょっと忘れ物しちゃって。すぐ戻ってくるから、お願い」 「ああ、わかった。行って来いよ」  店を出た愛子は迷うことなく足を速め、程なく眞一郎に追いついた。 「眞一郎」 「え?愛ちゃん?」  眞一郎は愛子が自分を追って来ている事に驚き、足を止めた。愛子は眞一郎の前で止ま ると、先刻までとはまるで別の、思い詰めたような顔貌で眞一郎を見上げた。 「あ、愛……ちゃん…………?」  眞一郎は内心たじろいだ。この愛子の表情には見覚えがある。かつて自分が乃絵と付き 合う事にしたと告げた時だ。あの時はこの後、愛子に――。 「――訊きたい事があるんだけど」 「え?」  さすがに今回は同じ展開にはならないらしい。眞一郎は本気で安堵した。 「何?訊きたい事って?」 「えっと、あの、さ……」  愛子はここに来て多少の躊躇をしたが、すぐに思い切って切り出した。 「修学旅行でさ、三代吉、変じゃなかった?」 「旅行で?どんな風に?」 「だから……えーと……三代吉と一緒のグループだったでしょ?」 「ああ、そうだけど」 「それで……自由行動の時、急にいなくなったりしなかった?」 「いなくなった?そりゃ、まあ、自由行動なわけだし」  ハウステンボスでは気がつくと比呂美しかいなくなっていて、しかもバスに戻ると三代 吉が階段から落ちたとかでボロボロになっていたし、それ以外でも必ずしも一緒だったわ けではない。それが何か気になるのだろうか? 「や、別に、どうって事はないんだけど、さ」  愛子は一瞬口籠った。しかし、ここまで来たら全て訊き出そうと決めたらしい。 「じゃあ、じゃあさ、あたしへのプレゼント買ってる時は?眞一郎とか比呂美ちゃんが一 緒に選んだりしてくれたの?」 「あー、いや、俺はいつ買ったかも知らなかったな。と言うか、俺の周り誰も知らなかっ たんじゃないかな?黒部さんもあさみさんも帰りの新幹線で驚いてたから」 「そう……誰も知らないんだ」  愛子の表情が沈んでいく。 「愛ちゃん?」 「ね、眞一郎……三代吉が対馬が養殖真珠の産地だなんて話、元から知ってたと思う?」 「うーん……」  眞一郎は唸った。ほぼ間違いなく「知らなかった」と思うのだが、眞一郎の心のどこか が、うかつに答えてはならないと警報を鳴らしていた。愛子の態度から危険を感じていた。 「誰に教えてもらったか、心当たりない?」 「心当たりって言われても、なあ」 「石動さんとか、知ってそうじゃない?」 「はぁ!?」  あまりに意外な名前に眞一郎の声が裏返った。 「なんでそこで乃絵が――」 「ごめん!今のなし!今のは忘れて!」  愛子が狼狽している。自分でも思いもよらない事を言ってしまったように見えた。 「愛ちゃん、おい――」 「も、もう、店戻らなきゃ。――それじゃ!」  そう言って駆け足で逃げるように去っていく愛子。取り残された眞一郎は、何がなんだ か判らないという面持ちでその場に立っていた。                           了 ノート 時期的にはtrue MAMANの「あなたを見ている人がいる」の直前くらいです。 三代吉は女の子に慣れているわけではないので愛子がどうとか言う問題に対して、参考に出来るような過去の経験はなし。 朋与は女と見做しておらず、比呂美に相談するのは眞一郎が出てきて話をややこしくしそうなので自重し、だからルミの 言う事くらいしか当てに出来ない状態です。特別ルミを信じているというわけでもありません。

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