ある日の比呂美・番外編2-10

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前:[[ある日の比呂美・番外編2-9]] 引っ張られる衝撃で、比呂美の裸体を包んでいたバスタオルの結び目が解けた。 「あ……」 布が床へと落ちる柔らかな音と共に、乳房と肺を軽く潰されることで漏れ出す甘い声。 湿った服で抱き締めることに遠慮があるのか、眞一郎の腕の力は普段よりも幾分弱かった。 ワンパターンなんだから、と胸中に呟いてみるが、比呂美はその抱擁を不満とは思わない。 迷いっているときに、自分をちゃんと繋ぎとめてくれる存在が感じられることは、とても心地よいことだから。 ……しかし…… 「あのさ……今日みたいな日は…」 「…………」 眞一郎の口から漏れ出た『今日みたいな日』という単語が、比呂美の瞳を瞬時に濁らせた。 今日みたいな日はしてはいけない……しないようにしよう、とでも言いたいのか。 (そんな常識論なんて聞きたくない。……それに……) 二人の愛が形となる可能性がある日を、眞一郎が《危険》と認識していることも、比呂美の癇に障った。 眞一郎の視野の外にある比呂美の唇が、キッと噛み締められる。 音どころか気配も発しない不満の発露であったが、眞一郎はそれを感じられないほど愚かではなかった。 比呂美とのズレを感じ取る本能が、《間違っている》ことに気づかせて、その口を噤ませる。 「……?」 想像した台詞を吐かない眞一郎を訝しみ、比呂美の唇が動きかけた。 だが、それは突如動いた眞一郎の腕が、比呂美の両肩を掴んで身体を引き離した事で打ち消されてしまう。 「!」 突き放されると思える程の勢いだったが、比呂美の上腕に食い込んだ眞一郎の指は、決して離れることはない。 乏しい腕力で比呂美の身体を自分に正対する位置に固定すると、眞一郎は真っ直ぐに目の前の曇った瞳を見据えた。 「ゴメン。 ……次は…ちゃんとするから」 「…え…」 二人の失敗を一人で背負い込もうとする眞一郎の気遣いが、比呂美の中の氷を溶かしていく。 多少のすれ違いはあっても、眞一郎の優しさと誠実さだけは変わらないのだという確信。 その揺ぎ無い事実が、比呂美の心に再び暖かな焔を灯した。 「…………うん……私も…次はちゃんとする……」 眞一郎の制服の胸元に、比呂美は額を摺り寄せるようにして甘えてみせる。 頼りにしてくれ、と相手が求めているときに、素直にそうすることもまた、愛の形だと比呂美は思った。 ………… ………… 「じゃ、またあとで」 「うん」 バスタオルを身体に巻きなおし、比呂美は玄関ドアの向こうに立つ眞一郎に向かって、ひらと手を振った。 同じ様に軽く手を振り、扉の向こうに消えていく眞一郎を見送る。 金属製のドアが閉じる、バタンという大きな音。 そして徐々に遠ざかっていく眞一郎の気配。 比呂美はいつものように、去っていく眞一郎の姿を確認しようと、リビングの窓へと駆け寄った。 薄いレースのカーテンを少しめくり、仲上の家へと帰っていく眞一郎の後ろ姿を視界に入れる。 (……大丈夫……大丈夫よ……) さっきの出来事は、ほんの些細なすれ違いでしかない。 気にするような……深刻になるようなことではないのだと、比呂美の思考が結論を出そうとした時…… 「んっ……」 大人しかった胎の奥の器官が急に暴れだし、身体の主に抗議を始めた。 誤魔化すなと叫ぶように、収縮を繰り返して比呂美を責め立てる子宮。 (…………んぁ……なんで……) 不足しているモノなど無いのに…… 満たされているのに…… 比呂美には自分自身が一体何を求め、欲しているのかが分からなかった。 「…私……何が欲しいの……」 無意味である事を承知の上で、沸き起こった疑問を声に出してみる。 だが、夕日に染められた部屋の壁が答えを返すことはない。 正体の分からない焦燥が、眞一郎のくれた温もりに取って代わり、体内に充満する。 (…………何なの?……何なのよッ!!……) ささくれ立つ気持ちと、股間を濡らす愛液の感触。 比呂美はその二つを感じながら、暫くの間、窓際に立ち尽くしていた。                       TOBECONTINUED                           新シリーズへ
前:[[ある日の比呂美・番外編2-9]] 引っ張られる衝撃で、比呂美の裸体を包んでいたバスタオルの結び目が解けた。 「あ……」 布が床へと落ちる柔らかな音と共に、乳房と肺を軽く潰されることで漏れ出す甘い声。 湿った服で抱き締めることに遠慮があるのか、眞一郎の腕の力は普段よりも幾分弱かった。 ワンパターンなんだから、と胸中に呟いてみるが、比呂美はその抱擁を不満とは思わない。 迷いっているときに、自分をちゃんと繋ぎとめてくれる存在が感じられることは、とても心地よいことだから。 ……しかし…… 「あのさ……今日みたいな日は…」 「…………」 眞一郎の口から漏れ出た『今日みたいな日』という単語が、比呂美の瞳を瞬時に濁らせた。 今日みたいな日はしてはいけない……しないようにしよう、とでも言いたいのか。 (そんな常識論なんて聞きたくない。……それに……) 二人の愛が形となる可能性がある日を、眞一郎が《危険》と認識していることも、比呂美の癇に障った。 眞一郎の視野の外にある比呂美の唇が、キッと噛み締められる。 音どころか気配も発しない不満の発露であったが、眞一郎はそれを感じられないほど愚かではなかった。 比呂美とのズレを感じ取る本能が、《間違っている》ことに気づかせて、その口を噤ませる。 「……?」 想像した台詞を吐かない眞一郎を訝しみ、比呂美の唇が動きかけた。 だが、それは突如動いた眞一郎の腕が、比呂美の両肩を掴んで身体を引き離した事で打ち消されてしまう。 「!」 突き放されると思える程の勢いだったが、比呂美の上腕に食い込んだ眞一郎の指は、決して離れることはない。 乏しい腕力で比呂美の身体を自分に正対する位置に固定すると、眞一郎は真っ直ぐに目の前の曇った瞳を見据えた。 「ゴメン。 ……次は…ちゃんとするから」 「…え…」 二人の失敗を一人で背負い込もうとする眞一郎の気遣いが、比呂美の中の氷を溶かしていく。 多少のすれ違いはあっても、眞一郎の優しさと誠実さだけは変わらないのだという確信。 その揺ぎ無い事実が、比呂美の心に再び暖かな焔を灯した。 「…………うん……私も…次はちゃんとする……」 眞一郎の制服の胸元に、比呂美は額を摺り寄せるようにして甘えてみせる。 頼りにしてくれ、と相手が求めているときに、素直にそうすることもまた、愛の形だと比呂美は思った。 ………… ………… 「じゃ、またあとで」 「うん」 バスタオルを身体に巻きなおし、比呂美は玄関ドアの向こうに立つ眞一郎に向かって、ひらと手を振った。 同じ様に軽く手を振り、扉の向こうに消えていく眞一郎を見送る。 金属製のドアが閉じる、バタンという大きな音。 そして徐々に遠ざかっていく眞一郎の気配。 比呂美はいつものように、去っていく眞一郎の姿を確認しようと、リビングの窓へと駆け寄った。 薄いレースのカーテンを少しめくり、仲上の家へと帰っていく眞一郎の後ろ姿を視界に入れる。 (……大丈夫……大丈夫よ……) さっきの出来事は、ほんの些細なすれ違いでしかない。 気にするような……深刻になるようなことではないのだと、比呂美の思考が結論を出そうとした時…… 「んっ……」 大人しかった胎の奥の器官が急に暴れだし、身体の主に抗議を始めた。 誤魔化すなと叫ぶように、収縮を繰り返して比呂美を責め立てる子宮。 (…………んぁ……なんで……) 不足しているモノなど無いのに…… 満たされているのに…… 比呂美には自分自身が一体何を求め、欲しているのかが分からなかった。 「…私……何が欲しいの……」 無意味である事を承知の上で、沸き起こった疑問を声に出してみる。 だが、夕日に染められた部屋の壁が答えを返すことはない。 正体の分からない焦燥が、眞一郎のくれた温もりに取って代わり、体内に充満する。 (…………何なの?……何なのよッ!!……) ささくれ立つ気持ちと、股間を濡らす愛液の感触。 比呂美はその二つを感じながら、暫くの間、窓際に立ち尽くしていた。                       TO BE CONTINUED                           新シリーズへ

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