ある日の比呂美・大晦日編4

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前:ある日の比呂美・大晦日編3 「誰もいないの?」 まだ遠くにあるおばさんの声を耳に受け、身体が反射的に跳ねる。 泡を食っている眞一郎を押し退けてベッドから出ると、比呂美は散乱した衣服を手早く身に着けはじめた。 考えるよりも早く、状況に対して的確に動いてくれる自分の肉体。 やはり身体は鍛えておくものだな、とつくづく思う。 ………… 一分と掛からずに身支度を整えた比呂美は、まだ全裸でいる眞一郎をベッドの中に押し込めた。 おい、と抗弁する眞一郎を無視して、「疲れて眠っているフリをしろ」と悪知恵をつける。 「お前なぁ…」 「いいから」 不満で尖がった眞一郎の唇に軽く口付け、その頭に布団を被せて裸体を隠す。 そして比呂美は乱れの残る髪を手櫛で整えると、一階つづく階段口へと足を向けた。 「お帰りなさい。早かったですね」 何事もなかったかのように、比呂美は家族を探してキョロキョロしているおばさんに声を掛けた。 「あぁ、良かった。出掛けちゃったのかと思ったわ」 そう言って微笑んでくれるおばさんに、比呂美も微笑み返す。 もちろん、二分前まで彼女の息子と交わっていたことは、微塵も感じさせずに。 「公民館の方、もういいんですか?」 「すぐに戻らなきゃいけないんだけど、あなたにお願いがあって」 「??」 おばさんが自分に頼みごととは珍しい、と内心で思いながら、比呂美はその内容を問うた。 「悪いんだけど… 年越しそばの準備、お願いできないかしら?」 「! …はい、構いませんけど…… いいんですか?」 仲上家のそばつゆは既成の品ではなく、こだわりのオリジナルだった。 代々、嫁から嫁へと受け継がれているその『味』……  一応の味付けは教わっているが、まだ自分が一人で仕上げるのは早いのでは、と比呂美は思う。 「去年ちゃんと覚えてくれたし… 大丈夫よ、あなたなら」 さらりとそう告げると、おばさんは踵を返して玄関へと足を戻す。 「それじゃあ宜しくね」と背中越しに手を振るその姿を見送る比呂美の胸が、熱い何かで満たされていった。 眞一郎がくれる温かさとは別の……かけがえの無い何かで…… 数分後、やはり階下の様子が気になったのか、眞一郎が服を着て階段を降りてきた。 「あれ? お袋は?」 「うん。 また公民館に」 何しに戻ってきたんだ?と訊くともなしに呟いて、眞一郎は母の行動を訝る。 比呂美はその問いに答えを返すつもりはなかった。 ただ黙って眞一郎の背後に回りこむと、その背中を台所に向かって強く押す。 「な、なんだよ」 「おそばの仕度するから手伝って」 脈絡の無い比呂美の行動に、眞一郎は「そんなのお袋がやるよ」と言って抵抗するが、比呂美は耳を貸さなかった。 またしても訪れた『重労働』の予感に、情けない声を上げる眞一郎。 そんな恋人の心情をよそに、比呂美はすぐに現実となるであろう楽しげな想像で頭の中を満たしていく。 美味しい年越しそばを食べて…… テレビを観て…… 『家族』でおしゃべりをして…… 思わず口元が緩み、「ふふ」と声が漏れる。 「???」 訳が分からないぞ、という顔をして、眞一郎は肩越しに振り向く。 比呂美は満面の笑みで返答すると、そのまま疲れの溜まった眞一郎の身体を、台所の奥へと押し込んでいった。             [おしまい]
前:[[ある日の比呂美・大晦日編3]] 「誰もいないの?」 まだ遠くにあるおばさんの声を耳に受け、身体が反射的に跳ねる。 泡を食っている眞一郎を押し退けてベッドから出ると、比呂美は散乱した衣服を手早く身に着けはじめた。 考えるよりも早く、状況に対して的確に動いてくれる自分の肉体。 やはり身体は鍛えておくものだな、とつくづく思う。 ………… 一分と掛からずに身支度を整えた比呂美は、まだ全裸でいる眞一郎をベッドの中に押し込めた。 おい、と抗弁する眞一郎を無視して、「疲れて眠っているフリをしろ」と悪知恵をつける。 「お前なぁ…」 「いいから」 不満で尖がった眞一郎の唇に軽く口付け、その頭に布団を被せて裸体を隠す。 そして比呂美は乱れの残る髪を手櫛で整えると、一階つづく階段口へと足を向けた。 「お帰りなさい。早かったですね」 何事もなかったかのように、比呂美は家族を探してキョロキョロしているおばさんに声を掛けた。 「あぁ、良かった。出掛けちゃったのかと思ったわ」 そう言って微笑んでくれるおばさんに、比呂美も微笑み返す。 もちろん、二分前まで彼女の息子と交わっていたことは、微塵も感じさせずに。 「公民館の方、もういいんですか?」 「すぐに戻らなきゃいけないんだけど、あなたにお願いがあって」 「??」 おばさんが自分に頼みごととは珍しい、と内心で思いながら、比呂美はその内容を問うた。 「悪いんだけど… 年越しそばの準備、お願いできないかしら?」 「! …はい、構いませんけど…… いいんですか?」 仲上家のそばつゆは既成の品ではなく、こだわりのオリジナルだった。 代々、嫁から嫁へと受け継がれているその『味』……  一応の味付けは教わっているが、まだ自分が一人で仕上げるのは早いのでは、と比呂美は思う。 「去年ちゃんと覚えてくれたし… 大丈夫よ、あなたなら」 さらりとそう告げると、おばさんは踵を返して玄関へと足を戻す。 「それじゃあ宜しくね」と背中越しに手を振るその姿を見送る比呂美の胸が、熱い何かで満たされていった。 眞一郎がくれる温かさとは別の……かけがえの無い何かで…… 数分後、やはり階下の様子が気になったのか、眞一郎が服を着て階段を降りてきた。 「あれ? お袋は?」 「うん。 また公民館に」 何しに戻ってきたんだ?と訊くともなしに呟いて、眞一郎は母の行動を訝る。 比呂美はその問いに答えを返すつもりはなかった。 ただ黙って眞一郎の背後に回りこむと、その背中を台所に向かって強く押す。 「な、なんだよ」 「おそばの仕度するから手伝って」 脈絡の無い比呂美の行動に、眞一郎は「そんなのお袋がやるよ」と言って抵抗するが、比呂美は耳を貸さなかった。 またしても訪れた『重労働』の予感に、情けない声を上げる眞一郎。 そんな恋人の心情をよそに、比呂美はすぐに現実となるであろう楽しげな想像で頭の中を満たしていく。 美味しい年越しそばを食べて…… テレビを観て…… 『家族』でおしゃべりをして…… 思わず口元が緩み、「ふふ」と声が漏れる。 「???」 訳が分からないぞ、という顔をして、眞一郎は肩越しに振り向く。 比呂美は満面の笑みで返答すると、そのまま疲れの溜まった眞一郎の身体を、台所の奥へと押し込んでいった。             [おしまい]

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