仲上家の騒々しい正月

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仲上家の騒々しい正月」(2008/03/21 (金) 00:26:29) の最新版変更点

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仲上家の騒々しい正月 大雪になった元旦。 午後から多くの訪問客で、仲上家の大広間は埋め尽くされていた。どちらを 見てもそれなりに整った正月らしい服装をしている。 午前中から酒を飲んでいるであろう年配者達は、大きな声で話しながら肴を つまみ、酒を飲んでいる。中には仕事の話をしているようで、赤い顔をしな がら真剣な顔も見て取れる。誰も彼も楽しそうに1年で最初のイベントを楽 しんでいるのは、年の始まりを告げにふさわしいといえる。 - - - - - - - - - - - - - 仲上家の父は、訪問客に囲まれながらいつものように静かに相手をしている。 さすがに正月から新聞を読みながらとはいかず、表情を隠すことが出来ない 状況でたまに困ったような顔をしているのは、眞一郎にとって滅多に見れな い貴重な機会だ。 眞一郎は父の隣に座して、居心地悪そうにしている。酒を飲めない(ことに なっている)彼としては、相手をするにも話題すら思い浮かばない。 しかし、周りの酔っ払いたちは彼に話しかけ、からかい、笑っている。しき りに酒を勧める者が後を絶たないので、父の様子を伺いながら「しょうがな いな」というタイミングを、実は虎視眈々と狙っていた。胃に食べ物を入れ、 飲み始める準備はいつでも出来ている。後はきっかけだけだ、と考えていた。 仲上家の母は、近所や親戚の主婦達と楽しそうに忙しくしていた。やはり、 1年の最初の仲上家のイベントして、粗相のないようにするのは本人にとっ て充実した時間になる。微笑しながら働いている姿というのは、滅多に見ら れない光景でもある。 そこへ艶やかな晴れ着姿の少女が、料理の入った小鉢を持って大広間に入っ てきた。比呂美である。薄紫をベースとした振袖を身に付けて、にこやかな 笑顔で、すすすと歩く姿は何とも美しい。少女らしく化粧は控えめだが、正 月でもあり晴れ着に合うようにしているため、可愛らしい顔立ちを"女性"ら しく見せている。 「おお~」 「ほぉ~」 早速何人かの酔っ払いが目を付けるが、酔った勢いで不埒な真似をする者は いなかった。比呂美はまっすぐに眞一郎のところまで歩いて行き、彼の斜め 後ろで膝をついて、料理を差し出す。 「これ、上手に出来たよ。食べて、食べて」 眞一郎、失神寸前。晴れ着姿、控えめだが良く似合った化粧で彩られた笑顔、 媚びるわけでもなく何かを訴えかけるような声、まさにKO一歩手前だ。口を 半開きにして、倒れないだけ精一杯、一言も話させない。 「?」 自分の姿に全く自覚のない比呂美は、小首を傾げて眞一郎の顔を見る。 眞一郎、その素晴らしく可愛げな仕草に思考停止。彼の中で時間が止まり、 他の全てが意味を失くす。 「坊ちゃん!見とれすぎ!」 「だらしないですよ!その顔!」 「抱きついてもいいですよ!誰も見ていませんから!」 次々と酔っ払いが眞一郎をからかう。しかし、彼には聞こえない。 「そろそろ"坊ちゃん"じゃなくて、"若旦那"かな!」 「おおおおおおお~」 「んじゃ、そちらのお嬢様は"若奥様"か!」 「ぅおおおおおお~」 このからかう声と歓声にさすがの眞一郎も目を覚ます。比呂美の顔が赤く染 まっていき、固まってしまう。 「…」 「…」 状況を忘れて見つめ合う二人。 その時、二人の後方で"覚醒"しつつある女性がいることを大広間にいる人々 は気づかなかった。無表情で全身に力を漲らせている。何かの感情をおさえ ながら比呂美に声をかけてきた。 「ひっ、比呂美さん!こちら、手伝ってちょうだい!」 残念ながら心の動揺は隠すことができず、声がうわずってしまっている。 しかも大勢の前で"比呂美さん"と呼ぶのは初めてだ。 「はい!」 比呂美も我に返り、そちらを振り向いてからもう一度眞一郎へ向かって、 「じゃ、また後で他のも出来たら持ってくるからねっ」 眞一郎、一瞬だけ垣間見えたうなじを繰り返し脳内再生中。 今度は別の酔っ払いが大きな声で言う。 「"比呂美さん"か!もう"嫁"扱いだ!」 「ぅおおおおおおおおおおおおお~」 「"姑"に負けちゃダメだよ"お嫁さん"!」 「だっははははっ………はっ!」 この一言は余計だった。致命的だった。眞一郎の母が"覚醒"の時を迎えた。 その単語、"姑"だけは出してはいけなかったのだ… <ここで、金色のオーラに包まれるママンをご想像下さい[ゴゴゴゴゴゴ]> 一瞬で静まり返る楽しかったはずの大広間。 仲上家の母は肉食動物が獲物を物色するような視線で、周囲を一瞥してから 奥に消えるまで、誰も話すことも動くことができないまま、じっとしていた。 「ははははは、ま、飲みましょう、飲みましょう!」 仲上家の父が珍しくその場をとりなすように声をかけて、自ら酒をあおって いる。次第に先ほどの賑わいが戻ってきた。 眞一郎はここぞとばかりに自分も酒を飲み始める。 その後、比呂美は少しずつ料理を眞一郎のもとへ運び、その度にからかわれ、 何度も何度も台所と大広間を往復する。一度に持っていけばいいのに、とい う周囲の視線を感じながら。 比呂美が行き来する度に、酔っ払い達がからかい、その一言一言に反応する "覚醒"した眞一郎の母が周囲の人々を脅す、ことが何回も繰り返された。 - - - - - - - - - - - - - 「ふう」 「ふう」 そして深夜、昼間の喧騒が嘘のような仲上家の部屋で二人はベッドに並んで 寝転んでいた。 「なんか、すごい大騒ぎだったなぁ」 「毎年こんな感じなの?」 「いやぁ、違ったと思うけどな。どうだったか」 「お酒飲むから、忘れちゃった?」 「そんなに飲んでないって、比呂美も飲んだ?」 「ちょっと舐めただけ」 「楽しかったね」 「すごく楽しかった」 「いっぱいからかわれたなー」 「…」 「ん?」 「思い出しちゃった」 「…」 「…」 二人は何度も言われたことを思い出して、天井を見上げたまま黙ってしまう。 「…」 「…」 「…」 「あ、あのさ」 眞一郎は答えない。 「すー…」 「寝てるし」 比呂美は、眞一郎の寝顔を見ながら、昼間のからかわれたことを思い出す。 (若奥様、若奥様、若奥様、若奥様、若奥様…) (お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん…) 一人頭の中で繰り返し再生する比呂美、顔は真っ赤、昼間の眞一郎に負けな いくらいのだらしない表情。 「ふふふっ♪眞一郎くん♪」 うれしい気持ちを声に出してから、キスをする。 「うぷっ…」 酒臭かった。飲みすぎはいかんぞ、眞一郎。 END -あとがき- 最初に比呂美エンド後のエピローグを書こうと思ったのは、このようなエピ ソードがアニメやゲームでは蛇足的なものとなり、あまり目にしないからで す。 調子に乗っていくつも書いてしまったので、そろそろどうかな?と考え中。 最後に、読んで下さってありがとうございました。
仲上家の騒々しい正月 大雪になった元旦。 午後から多くの訪問客で、仲上家の大広間は埋め尽くされていた。どちらを 見てもそれなりに整った正月らしい服装をしている。 午前中から酒を飲んでいるであろう年配者達は、大きな声で話しながら肴を つまみ、酒を飲んでいる。中には仕事の話をしているようで、赤い顔をしな がら真剣な顔も見て取れる。誰も彼も楽しそうに1年で最初のイベントを楽 しんでいるのは、年の始まりを告げにふさわしいといえる。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 仲上家の父は、訪問客に囲まれながらいつものように静かに相手をしている。 さすがに正月から新聞を読みながらとはいかず、表情を隠すことが出来ない 状況でたまに困ったような顔をしているのは、眞一郎にとって滅多に見れな い貴重な機会だ。 眞一郎は父の隣に座して、居心地悪そうにしている。酒を飲めない(ことに なっている)彼としては、相手をするにも話題すら思い浮かばない。 しかし、周りの酔っ払いたちは彼に話しかけ、からかい、笑っている。しき りに酒を勧める者が後を絶たないので、父の様子を伺いながら「しょうがな いな」というタイミングを、実は虎視眈々と狙っていた。胃に食べ物を入れ、 飲み始める準備はいつでも出来ている。後はきっかけだけだ、と考えていた。 仲上家の母は、近所や親戚の主婦達と楽しそうに忙しくしていた。やはり、 1年の最初の仲上家のイベントして、粗相のないようにするのは本人にとっ て充実した時間になる。微笑しながら働いている姿というのは、滅多に見ら れない光景でもある。 そこへ艶やかな晴れ着姿の少女が、料理の入った小鉢を持って大広間に入っ てきた。比呂美である。薄紫をベースとした振袖を身に付けて、にこやかな 笑顔で、すすすと歩く姿は何とも美しい。少女らしく化粧は控えめだが、正 月でもあり晴れ着に合うようにしているため、可愛らしい顔立ちを"女性"ら しく見せている。 「おお~」 「ほぉ~」 早速何人かの酔っ払いが目を付けるが、酔った勢いで不埒な真似をする者は いなかった。比呂美はまっすぐに眞一郎のところまで歩いて行き、彼の斜め 後ろで膝をついて、料理を差し出す。 「これ、上手に出来たよ。食べて、食べて」 眞一郎、失神寸前。晴れ着姿、控えめだが良く似合った化粧で彩られた笑顔、 媚びるわけでもなく何かを訴えかけるような声、まさにKO一歩手前だ。口を 半開きにして、倒れないだけ精一杯、一言も話させない。 「?」 自分の姿に全く自覚のない比呂美は、小首を傾げて眞一郎の顔を見る。 眞一郎、その素晴らしく可愛げな仕草に思考停止。彼の中で時間が止まり、 他の全てが意味を失くす。 「坊ちゃん!見とれすぎ!」 「だらしないですよ!その顔!」 「抱きついてもいいですよ!誰も見ていませんから!」 次々と酔っ払いが眞一郎をからかう。しかし、彼には聞こえない。 「そろそろ"坊ちゃん"じゃなくて、"若旦那"かな!」 「おおおおおおお~」 「んじゃ、そちらのお嬢様は"若奥様"か!」 「ぅおおおおおお~」 このからかう声と歓声にさすがの眞一郎も目を覚ます。比呂美の顔が赤く染 まっていき、固まってしまう。 「…」 「…」 状況を忘れて見つめ合う二人。 その時、二人の後方で"覚醒"しつつある女性がいることを大広間にいる人々 は気づかなかった。無表情で全身に力を漲らせている。何かの感情をおさえ ながら比呂美に声をかけてきた。 「ひっ、比呂美さん!こちら、手伝ってちょうだい!」 残念ながら心の動揺は隠すことができず、声がうわずってしまっている。 しかも大勢の前で"比呂美さん"と呼ぶのは初めてだ。 「はい!」 比呂美も我に返り、そちらを振り向いてからもう一度眞一郎へ向かって、 「じゃ、また後で他のも出来たら持ってくるからねっ」 眞一郎、一瞬だけ垣間見えたうなじを繰り返し脳内再生中。 今度は別の酔っ払いが大きな声で言う。 「"比呂美さん"か!もう"嫁"扱いだ!」 「ぅおおおおおおおおおおおおお~」 「"姑"に負けちゃダメだよ"お嫁さん"!」 「だっははははっ………はっ!」 この一言は余計だった。致命的だった。眞一郎の母が"覚醒"の時を迎えた。 その単語、"姑"だけは出してはいけなかったのだ… <ここで、金色のオーラに包まれるママンをご想像下さい[ゴゴゴゴゴゴ]> 一瞬で静まり返る楽しかったはずの大広間。 仲上家の母は肉食動物が獲物を物色するような視線で、周囲を一瞥してから 奥に消えるまで、誰も話すことも動くことができないまま、じっとしていた。 「ははははは、ま、飲みましょう、飲みましょう!」 仲上家の父が珍しくその場をとりなすように声をかけて、自ら酒をあおって いる。次第に先ほどの賑わいが戻ってきた。 眞一郎はここぞとばかりに自分も酒を飲み始める。 その後、比呂美は少しずつ料理を眞一郎のもとへ運び、その度にからかわれ、 何度も何度も台所と大広間を往復する。一度に持っていけばいいのに、とい う周囲の視線を感じながら。 比呂美が行き来する度に、酔っ払い達がからかい、その一言一言に反応する "覚醒"した眞一郎の母が周囲の人々を脅す、ことが何回も繰り返された。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 「ふう」 「ふう」 そして深夜、昼間の喧騒が嘘のような仲上家の部屋で二人はベッドに並んで 寝転んでいた。 「なんか、すごい大騒ぎだったなぁ」 「毎年こんな感じなの?」 「いやぁ、違ったと思うけどな。どうだったか」 「お酒飲むから、忘れちゃった?」 「そんなに飲んでないって、比呂美も飲んだ?」 「ちょっと舐めただけ」 「楽しかったね」 「すごく楽しかった」 「いっぱいからかわれたなー」 「…」 「ん?」 「思い出しちゃった」 「…」 「…」 二人は何度も言われたことを思い出して、天井を見上げたまま黙ってしまう。 「…」 「…」 「…」 「あ、あのさ」 眞一郎は答えない。 「すー…」 「寝てるし」 比呂美は、眞一郎の寝顔を見ながら、昼間のからかわれたことを思い出す。 (若奥様、若奥様、若奥様、若奥様、若奥様…) (お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん、お嫁さん…) 一人頭の中で繰り返し再生する比呂美、顔は真っ赤、昼間の眞一郎に負けな いくらいのだらしない表情。 「ふふふっ♪眞一郎くん♪」 うれしい気持ちを声に出してから、キスをする。 「うぷっ…」 酒臭かった。飲みすぎはいかんぞ、眞一郎。 END -あとがき- 最初に比呂美エンド後のエピローグを書こうと思ったのは、このようなエピ ソードがアニメやゲームでは蛇足的なものとなり、あまり目にしないからで す。 調子に乗っていくつも書いてしまったので、そろそろどうかな?と考え中。 最後に、読んで下さってありがとうございました。

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