比呂美のお色気大作戦

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比呂美のお色気大作戦」(2008/03/21 (金) 00:36:48) の最新版変更点

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=このSSでは、3人が同時アタック中としています。なるべく面白くするために。 =愛子の呼び名を"愛子ちゃん"にしています。本編では比呂美と話す場面が =まだないので、仮設定です。気に入らない場合は置換(愛子→愛)してください。 比呂美のお色気大作戦 ある日の午後。 比呂美は学校の廊下を歩いていた時に、とんでもない光景を目にした。 「眞一郎~」 石動乃絵が勢いを付けて眞一郎に抱きついてきたのだ、彼の死角から。 「うわわわっ!」 (あっ!また石動乃絵がっ!!!) 比呂美は自分でも抑えきれない怒りに全身を震わせる。 「眞一郎~」 「うわっ!ヤメロって!離れろっ!」 …ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ… <何の音?、ご想像におまかせします。この後の擬音も全てです> 石動乃絵は自分が何をしているかわかっていないが、客観的に見てそうはい かない。 (あっ!何を押し付けているのっ!?!) 比呂美の怒りは全身を駆け巡り、外部に到達し、発散される、オーラとして。 [ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ] (ひぃぃぃっっっ!!!) 隣にいた朋与にはいい災難だった。比呂美の怒りのオーラが絶対領域として 広がっていく、慌てて退く。 絶対領域、つまり入った者には命が保障されない、そういうものらしい。 「急ぐんだってば!」 眞一郎はなんとか石動乃絵を振りほどき、小走りで逃げていった。 「眞一郎~」 石動乃絵が追いかけていく。比呂美は絶対領域を解除したが、全身を駆け巡 る怒りはそのままずっと持ち越された。 - - - - - - - - - - - - - 放課後。 「あ…あのさ…」 「ふんっ!!」 比呂美はご機嫌ナナメ。眞一郎の弱々しい話しかけ方も癇にさわってしまう。 怒りの為に少しだけ頬を染め、ちょっとあごを突き出している。ここで、眞 一郎が「妬いているの?」なんて言おうものなら…、どうなるんでしょう? (それはっ!何かっ!後ろめたいことがっ!あるってことじゃないのっ!?) ご機嫌が悪いので、いくらがんばっても眞一郎の努力は報われない。しかも、 これから愛子ちゃんの店に行くのである。せっかく比呂美の部活の休みにど うしてそんな約束をしてしまったのか、眞一郎の運の悪さかもしれない。 ここで眞一郎の擁護が必要になる。彼はまだ答えを出していない。それは、 複雑な今の状況では良くない、と判断したからだ。比呂美の"あれ"も解消し ていないのである。擁護終了。 いい迷惑なのは朋与の方だった。部活のない日はどちらかというと、もっと お気楽な過ごし方をしたいところだが、比呂美に同行を頼まれたため仕方な く付いてきているようなものだ。しかも、この状況でなぜ自分が必要なのか、 まだ理解できないでいた。 「え…えっと…」 「ふんっ!!」 また眞一郎が何か言うと、怒った反応を示している。何回目だろうか。 (抱きつかれたくらいでっ!うれしそうな顔しちゃってっ!馬鹿っ!) 比呂美の怒りは留まることを知らないようだ。絶対領域を形成するほどでは ないが、近くに誰も寄り付かないどころか、進行方向の人の流れが自然に少 なくなっているようにも見える。 (大体からしてっ!あんなもの押し付けられたくらいでっ!) 必死な眞一郎は何回か朋与に助けを求めるような視線を送るが、全て無視さ れている。 (巻き込まないでくれる?これ以上?) 朋与の判断は賢明と言えよう。 (でも、ま、そういうことなのよねぇ。ふふふのふ) しかしどうしても顔に出てしまい、それを比呂美に発見されてしまう。 「ちょっとっ!朋与っ!何笑ってるのっ!」 「えっ!私、笑ってた?」 「そうっ!ニヤニヤしてたっ!」 危険だ。渦巻く怒りが矛先を朋与に向けそうである。必死に言い訳をする。 「ちょ、ちょっと思い出し笑いよ。気にしないで」 ぶんっ、空気を切り裂くように顔を戻す比呂美。危機は去ったようだ。 (あ、危なかったぁ。本当に巻き込まれたら…たまったもんじゃないわよ) 朋与の機転の良さが眞一郎にあれば… - - - - - - - - - - - - - 今川焼き屋。 「あっ、きたきた~。眞一郎っ」 にこやかに愛子ちゃんがカウンター越しに手を上げている。 「や、愛ちゃん…」 「こんにちは!」 「こ、こんにちは…」 どれが誰かはおわかりだと思う。 「どうしたの?何か元気ないねー?何かあった?」 カウンターから出てきて、店に入ってくる眞一郎の腕を取りながら、 愛子ちゃんが顔を覗き込んで聞いてくる。 「あ、いや、別にどっか悪いとかそんなんじゃないから、大丈夫」 「ふーん」 と言いつつ、愛子ちゃんの攻撃が始まった! …ぼよん…ぱふっ… 「あっ」 予想外の攻撃開始に、比呂美は一瞬自分の目を疑った。彼女の中に渦巻く怒 りのオーラが勢いを増し、威力がぐんぐん上がっていく。 (なっ!何をっ!腕を何で挟んでいるのよっっ!) ここでもやはり朋与に災難が降りかかりそうになる。 (ひぃぃぃっっっ!!!) 冗談じゃない、と朋与は思っていた。何故、自分が、ここに、必要なのか。 答えはあとがきで。 愛子ちゃんは眞一郎を席につかせ、あれこれと世話を始めていた。 おしぼりを持ってきたり、コーラを持ってきたり、その度に、 …ぼよん… と、眞一郎への攻撃を繰り替えす。 「愛子ちゃん!私も何か飲みたいです!」 「あ、あの、できれば…私も…」 「あっ、ごめんねー。すぐに持ってくるねー」 絶対に言われるまで持ってくる気なんて、これっぽっちもなかった愛子ちゃ んは、"そんなことないのよ、忘れててごめんなさいね"みたいな態度でコー ラを運んでくる。帰り際に眞一郎への攻撃も忘れない。 …ぼよん… しかも、腕が2本あるんだから、簡単に2本のコーラを一度に運べるはずな のに、1本づつ持ってくる。愛子ちゃんの攻撃は執拗を極めていく。 …ぼよん… 眞一郎もさすがの連続攻撃に参り気味だが、多少ニヤけている表情をしてい る。それは、比呂美にとって怒りの燃料にしかならないのだが… (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) その後、今川焼きが出来上がるまでは攻撃は止んでいたが、目の前にいるの だから、カウンター越しに渡せば良いものをわざわざ回り道をして運んでく ることで、攻撃が再開される。 …ぼよん…ぐにょん… しかも、横から渡すのではなく、後ろから抱きつくようにして、である。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) その際の眞一郎の反応を見て、怒りが増していく比呂美。今川焼きが口に入っ た途端に怒りで蒸発しているのではないか?な速度で食べている。 朋与は一言も話さず、誰の視界にも入らないようにして、黙々と食べるしか 選択肢がなかった。だが、今川焼きが無くなると口が開放されるので、何か 話さなくてはならなくなる可能性がある、結果的にひっきりなしに注文する。 そして繰り返される愛子ちゃんの眞一郎への波状攻撃。 …ぼよん… 比呂美はそんな朋与に怒りの一端を向ける。 「どうしていっぱい注文するのっ!?食べていないで何か話そうよっ!」 ごくん、と無理やり飲み込んでから必死の弁明。準備は万端、用意してある。 「お、お腹空いているのよ…、今日は特に…、どうしてかな?…はは」 さすがの朋与も、守りで手一杯。 ぶんっ、空気を切り裂いて顔を戻し、食べることを再開する比呂美。 この後愛子ちゃんの攻撃と比呂美の怒りはしばらく続き、朋与の懇願とも取 れるこの"お願い"でなんとか帰ることができた。 「もう…だめ、お腹いっぱい、か…帰りましょう?」 さっさと言えばいいのに!という表情の比呂美。 名残惜しそうに最後の…ぼよん…ぱふっ…で送り出す愛子ちゃん。 げっそりとした眞一郎。三者三様であった。 - - - - - - - - - - - - - 夕食後。 比呂美は自室で怒りを持て余している。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) 比呂美の怒りは収まるわけがない。哀れなクッションがその矛先に向けられ ていた。 夕食時は、静かなものだった。比呂美の原因不明の怒りに、仲上家チーム全 員が萎縮してしまい、一言も話さなかったのである。1名は怒りの理由にな んとなく気付いていたが、指摘する勇気と根性はない。食器が立てる音でさ え怒りの主に刺激を与えるのではないか、実に静かで、緊張感溢れる食卓で あった。誰もその夕食の献立を覚えてはいなかったと思われる。 眞一郎は母親とさえ一言も話をしていない。彼の両親は夕食後にはそそくさ と自室に入って、その後見ていない。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) (何で!?何で!?どうして?どうしてあんな顔するの?) 比呂美は眞一郎への怒りでいっぱいだ。どうしてそんなに怒るのか、答えは 朋与の放課後に出た反応で間違いない。ふふふのふ。 しかし、比呂美の怒りはどうしようもなかった。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) と、その時、比呂美にある名案が浮かんできた。 「そうだっ!」 拳を握り締めて雄々しく立ち上がる比呂美、カッコイイ。 (そうだっ!私もすればいいんだっ!そうしたら、間近であの顔が見れる!) 先ほどまでの怒りはどこへやら、上機嫌になっていく。 「うふっ、うふふっ、うふふふふふふふっ、ふぁっはっはっはっはーっ!」 腰に手をあてて一人で笑う比呂美、キモチワルイ。 比呂美は、居間に眞一郎を呼びつけた。 「はい、ここね」 眞一郎を座らせる際に、ついに、ついに、比呂美の渾身の一撃が炸裂する! …ぷよん…ぱふっ… 「あがっ!」 眞一郎は何故か変な声を出して痙攣してから、大人しく座った。しかも、そ の表情はなにかを堪えるような、耐えるようなものだ。 あっという間に、比呂美の怒りは頂点に達してしまう。 (なに!?なに!?"あがっ"って!?私の時だけ違うじゃない!ばかっ!) 比呂美はお茶を凄い勢いで飲み干すと、呼びつけたのに一言も話さずにさっ さと自分の部屋に戻ってしまう。 (大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!) 哀れなクッションは見るも無残な姿。怒りが収まるどころか、さらに増大し てしまっている。 (どうして!?どうして!?私の時だけ違う反応なの!大馬鹿!大馬鹿!) 比呂美は怒りに打ち震えながら、次の手を考えていた。このままで引き返す つもりはない、どうしても他の女の時と同じ反応が見たいのだ。 - - - - - - - - - - - - - 入浴後。 (ふ、ふ、ふ、今度はお風呂入ったから威力が違うでしょ?当然よね?) 怒りに身を任せて、比呂美は眞一郎を呼びつける。声は抑えてあるし、口調 もいつもと変わらない。しかし、怒っていることを承知している眞一郎には 処刑台への呼び出しのように感じてしまう。 いつもの口調にも関わらず、しっかりと声に怒りが込められていることも感 じていた。 「な…なに?」 夜も更けたところで廊下に呼び出され、思いっきり不安な眞一郎。 そこで、比呂美は可愛らしくお願いしてみる、怒ってはいるが全力で可愛く しているつもりである、本人は。 「ちょっと頭のてっぺんに何かついているみたいなの、見てくれる?」 残念、声の調子に気をとられ、表情まで調整できなかった。可愛い声と怒り の表情、眞一郎は生きた心地がしなかった。 (これで私の勝ち、ね。全力でいくわよ!眞一郎くん!覚悟はいい?) 「は…はい…、見させて頂きます」 震える足で比呂美に近づき、がんばって確認する。 ここで!本日第二回目となる比呂美の攻撃が炸裂する! …ぷよん…ぐにっ…ひしっ… 「げぎゃぐぼっ!」 比呂美は何と!正面からの攻撃を全身を使って繰り出した!風呂上りのにお い付き!しかし、眞一郎の反応は彼女を満足させなかった。 眞一郎の顔は生死の判別すら難しい、"あの顔"を必死で堪えているのか、耐 えているのか、とにかく比呂美が見たい顔ではない。 (もう…いいわ…どうして私の時だけ違うのか…考えないことにしよう…) 「な、なに、なにも、なにも、ついていないです…」 眞一郎はようやく言葉をつむぎだした、比呂美は既に去っていたが。 自室に戻った時、全ての怒りは消え去っている。 (あきらめた…あれをやっても…だめなんて………………………ばか…) 長時間怒りを維持した疲れから、ベッドに倒れこむようにして眠りについた。 - - - - - - - - - - - - - 翌朝。 朝食時に醤油さしを取ろうとして、眞一郎と手が触れた。その時の彼の顔を 見て、比呂美は驚愕の事実を知る。 (えっ!?"あの顔"だ!なんでっ!?どうしてこんなことで"あの顔"なの?) わかりますよね? END -あとがき- 本編でやってもらいたいですけど、ラブコメになってしまうから希望は 持てませんね… 比呂美が嫉妬して怒ったり、喜んだり、がっかりしたり、色々入れたつ もりです。 朋与が連れられてきた理由=比呂美の八つ当たり相手が必要だったから。 こちらの都合です。朋与に悪いとは思いましたが、演出です。 登場人物である彼女には理解できるはずがありません。正解しましたか? 最後に、読んで下さってありがとうございました。
=このSSでは、3人が同時アタック中としています。なるべく面白くするために。 =愛子の呼び名を"愛子ちゃん"にしています。本編では比呂美と話す場面が =まだないので、仮設定です。気に入らない場合は置換(愛子→愛)してください。 比呂美のお色気大作戦 ある日の午後。 比呂美は学校の廊下を歩いていた時に、とんでもない光景を目にした。 「眞一郎~」 石動乃絵が勢いを付けて眞一郎に抱きついてきたのだ、彼の死角から。 「うわわわっ!」 (あっ!また石動乃絵がっ!!!) 比呂美は自分でも抑えきれない怒りに全身を震わせる。 「眞一郎~」 「うわっ!ヤメロって!離れろっ!」 …ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ…ぷにっ… <何の音?、ご想像におまかせします。この後の擬音も全てです> 石動乃絵は自分が何をしているかわかっていないが、客観的に見てそうはい かない。 (あっ!何を押し付けているのっ!?!) 比呂美の怒りは全身を駆け巡り、外部に到達し、発散される、オーラとして。 [ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ] (ひぃぃぃっっっ!!!) 隣にいた朋与にはいい災難だった。比呂美の怒りのオーラが絶対領域として 広がっていく、慌てて退く。 絶対領域、つまり入った者には命が保障されない、そういうものらしい。 「急ぐんだってば!」 眞一郎はなんとか石動乃絵を振りほどき、小走りで逃げていった。 「眞一郎~」 石動乃絵が追いかけていく。比呂美は絶対領域を解除したが、全身を駆け巡 る怒りはそのままずっと持ち越された。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 放課後。 「あ…あのさ…」 「ふんっ!!」 比呂美はご機嫌ナナメ。眞一郎の弱々しい話しかけ方も癇にさわってしまう。 怒りの為に少しだけ頬を染め、ちょっとあごを突き出している。ここで、眞 一郎が「妬いているの?」なんて言おうものなら…、どうなるんでしょう? (それはっ!何かっ!後ろめたいことがっ!あるってことじゃないのっ!?) ご機嫌が悪いので、いくらがんばっても眞一郎の努力は報われない。しかも、 これから愛子ちゃんの店に行くのである。せっかく比呂美の部活の休みにど うしてそんな約束をしてしまったのか、眞一郎の運の悪さかもしれない。 ここで眞一郎の擁護が必要になる。彼はまだ答えを出していない。それは、 複雑な今の状況では良くない、と判断したからだ。比呂美の"あれ"も解消し ていないのである。擁護終了。 いい迷惑なのは朋与の方だった。部活のない日はどちらかというと、もっと お気楽な過ごし方をしたいところだが、比呂美に同行を頼まれたため仕方な く付いてきているようなものだ。しかも、この状況でなぜ自分が必要なのか、 まだ理解できないでいた。 「え…えっと…」 「ふんっ!!」 また眞一郎が何か言うと、怒った反応を示している。何回目だろうか。 (抱きつかれたくらいでっ!うれしそうな顔しちゃってっ!馬鹿っ!) 比呂美の怒りは留まることを知らないようだ。絶対領域を形成するほどでは ないが、近くに誰も寄り付かないどころか、進行方向の人の流れが自然に少 なくなっているようにも見える。 (大体からしてっ!あんなもの押し付けられたくらいでっ!) 必死な眞一郎は何回か朋与に助けを求めるような視線を送るが、全て無視さ れている。 (巻き込まないでくれる?これ以上?) 朋与の判断は賢明と言えよう。 (でも、ま、そういうことなのよねぇ。ふふふのふ) しかしどうしても顔に出てしまい、それを比呂美に発見されてしまう。 「ちょっとっ!朋与っ!何笑ってるのっ!」 「えっ!私、笑ってた?」 「そうっ!ニヤニヤしてたっ!」 危険だ。渦巻く怒りが矛先を朋与に向けそうである。必死に言い訳をする。 「ちょ、ちょっと思い出し笑いよ。気にしないで」 ぶんっ、空気を切り裂くように顔を戻す比呂美。危機は去ったようだ。 (あ、危なかったぁ。本当に巻き込まれたら…たまったもんじゃないわよ) 朋与の機転の良さが眞一郎にあれば…  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 今川焼き屋。 「あっ、きたきた~。眞一郎っ」 にこやかに愛子ちゃんがカウンター越しに手を上げている。 「や、愛ちゃん…」 「こんにちは!」 「こ、こんにちは…」 どれが誰かはおわかりだと思う。 「どうしたの?何か元気ないねー?何かあった?」 カウンターから出てきて、店に入ってくる眞一郎の腕を取りながら、 愛子ちゃんが顔を覗き込んで聞いてくる。 「あ、いや、別にどっか悪いとかそんなんじゃないから、大丈夫」 「ふーん」 と言いつつ、愛子ちゃんの攻撃が始まった! …ぼよん…ぱふっ… 「あっ」 予想外の攻撃開始に、比呂美は一瞬自分の目を疑った。彼女の中に渦巻く怒 りのオーラが勢いを増し、威力がぐんぐん上がっていく。 (なっ!何をっ!腕を何で挟んでいるのよっっ!) ここでもやはり朋与に災難が降りかかりそうになる。 (ひぃぃぃっっっ!!!) 冗談じゃない、と朋与は思っていた。何故、自分が、ここに、必要なのか。 答えはあとがきで。 愛子ちゃんは眞一郎を席につかせ、あれこれと世話を始めていた。 おしぼりを持ってきたり、コーラを持ってきたり、その度に、 …ぼよん… と、眞一郎への攻撃を繰り替えす。 「愛子ちゃん!私も何か飲みたいです!」 「あ、あの、できれば…私も…」 「あっ、ごめんねー。すぐに持ってくるねー」 絶対に言われるまで持ってくる気なんて、これっぽっちもなかった愛子ちゃ んは、"そんなことないのよ、忘れててごめんなさいね"みたいな態度でコー ラを運んでくる。帰り際に眞一郎への攻撃も忘れない。 …ぼよん… しかも、腕が2本あるんだから、簡単に2本のコーラを一度に運べるはずな のに、1本づつ持ってくる。愛子ちゃんの攻撃は執拗を極めていく。 …ぼよん… 眞一郎もさすがの連続攻撃に参り気味だが、多少ニヤけている表情をしてい る。それは、比呂美にとって怒りの燃料にしかならないのだが… (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) その後、今川焼きが出来上がるまでは攻撃は止んでいたが、目の前にいるの だから、カウンター越しに渡せば良いものをわざわざ回り道をして運んでく ることで、攻撃が再開される。 …ぼよん…ぐにょん… しかも、横から渡すのではなく、後ろから抱きつくようにして、である。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) その際の眞一郎の反応を見て、怒りが増していく比呂美。今川焼きが口に入っ た途端に怒りで蒸発しているのではないか?な速度で食べている。 朋与は一言も話さず、誰の視界にも入らないようにして、黙々と食べるしか 選択肢がなかった。だが、今川焼きが無くなると口が開放されるので、何か 話さなくてはならなくなる可能性がある、結果的にひっきりなしに注文する。 そして繰り返される愛子ちゃんの眞一郎への波状攻撃。 …ぼよん… 比呂美はそんな朋与に怒りの一端を向ける。 「どうしていっぱい注文するのっ!?食べていないで何か話そうよっ!」 ごくん、と無理やり飲み込んでから必死の弁明。準備は万端、用意してある。 「お、お腹空いているのよ…、今日は特に…、どうしてかな?…はは」 さすがの朋与も、守りで手一杯。 ぶんっ、空気を切り裂いて顔を戻し、食べることを再開する比呂美。 この後愛子ちゃんの攻撃と比呂美の怒りはしばらく続き、朋与の懇願とも取 れるこの"お願い"でなんとか帰ることができた。 「もう…だめ、お腹いっぱい、か…帰りましょう?」 さっさと言えばいいのに!という表情の比呂美。 名残惜しそうに最後の…ぼよん…ぱふっ…で送り出す愛子ちゃん。 げっそりとした眞一郎。三者三様であった。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 夕食後。 比呂美は自室で怒りを持て余している。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) 比呂美の怒りは収まるわけがない。哀れなクッションがその矛先に向けられ ていた。 夕食時は、静かなものだった。比呂美の原因不明の怒りに、仲上家チーム全 員が萎縮してしまい、一言も話さなかったのである。1名は怒りの理由にな んとなく気付いていたが、指摘する勇気と根性はない。食器が立てる音でさ え怒りの主に刺激を与えるのではないか、実に静かで、緊張感溢れる食卓で あった。誰もその夕食の献立を覚えてはいなかったと思われる。 眞一郎は母親とさえ一言も話をしていない。彼の両親は夕食後にはそそくさ と自室に入って、その後見ていない。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) (何で!?何で!?どうして?どうしてあんな顔するの?) 比呂美は眞一郎への怒りでいっぱいだ。どうしてそんなに怒るのか、答えは 朋与の放課後に出た反応で間違いない。ふふふのふ。 しかし、比呂美の怒りはどうしようもなかった。 (馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!馬鹿っ!) と、その時、比呂美にある名案が浮かんできた。 「そうだっ!」 拳を握り締めて雄々しく立ち上がる比呂美、カッコイイ。 (そうだっ!私もすればいいんだっ!そうしたら、間近であの顔が見れる!) 先ほどまでの怒りはどこへやら、上機嫌になっていく。 「うふっ、うふふっ、うふふふふふふふっ、ふぁっはっはっはっはーっ!」 腰に手をあてて一人で笑う比呂美、キモチワルイ。 比呂美は、居間に眞一郎を呼びつけた。 「はい、ここね」 眞一郎を座らせる際に、ついに、ついに、比呂美の渾身の一撃が炸裂する! …ぷよん…ぱふっ… 「あがっ!」 眞一郎は何故か変な声を出して痙攣してから、大人しく座った。しかも、そ の表情はなにかを堪えるような、耐えるようなものだ。 あっという間に、比呂美の怒りは頂点に達してしまう。 (なに!?なに!?"あがっ"って!?私の時だけ違うじゃない!ばかっ!) 比呂美はお茶を凄い勢いで飲み干すと、呼びつけたのに一言も話さずにさっ さと自分の部屋に戻ってしまう。 (大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!大馬鹿!) 哀れなクッションは見るも無残な姿。怒りが収まるどころか、さらに増大し てしまっている。 (どうして!?どうして!?私の時だけ違う反応なの!大馬鹿!大馬鹿!) 比呂美は怒りに打ち震えながら、次の手を考えていた。このままで引き返す つもりはない、どうしても他の女の時と同じ反応が見たいのだ。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 入浴後。 (ふ、ふ、ふ、今度はお風呂入ったから威力が違うでしょ?当然よね?) 怒りに身を任せて、比呂美は眞一郎を呼びつける。声は抑えてあるし、口調 もいつもと変わらない。しかし、怒っていることを承知している眞一郎には 処刑台への呼び出しのように感じてしまう。 いつもの口調にも関わらず、しっかりと声に怒りが込められていることも感 じていた。 「な…なに?」 夜も更けたところで廊下に呼び出され、思いっきり不安な眞一郎。 そこで、比呂美は可愛らしくお願いしてみる、怒ってはいるが全力で可愛く しているつもりである、本人は。 「ちょっと頭のてっぺんに何かついているみたいなの、見てくれる?」 残念、声の調子に気をとられ、表情まで調整できなかった。可愛い声と怒り の表情、眞一郎は生きた心地がしなかった。 (これで私の勝ち、ね。全力でいくわよ!眞一郎くん!覚悟はいい?) 「は…はい…、見させて頂きます」 震える足で比呂美に近づき、がんばって確認する。 ここで!本日第二回目となる比呂美の攻撃が炸裂する! …ぷよん…ぐにっ…ひしっ… 「げぎゃぐぼっ!」 比呂美は何と!正面からの攻撃を全身を使って繰り出した!風呂上りのにお い付き!しかし、眞一郎の反応は彼女を満足させなかった。 眞一郎の顔は生死の判別すら難しい、"あの顔"を必死で堪えているのか、耐 えているのか、とにかく比呂美が見たい顔ではない。 (もう…いいわ…どうして私の時だけ違うのか…考えないことにしよう…) 「な、なに、なにも、なにも、ついていないです…」 眞一郎はようやく言葉をつむぎだした、比呂美は既に去っていたが。 自室に戻った時、全ての怒りは消え去っている。 (あきらめた…あれをやっても…だめなんて………………………ばか…) 長時間怒りを維持した疲れから、ベッドに倒れこむようにして眠りについた。  ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― 翌朝。 朝食時に醤油さしを取ろうとして、眞一郎と手が触れた。その時の彼の顔を 見て、比呂美は驚愕の事実を知る。 (えっ!?"あの顔"だ!なんでっ!?どうしてこんなことで"あの顔"なの?) わかりますよね? END -あとがき- 本編でやってもらいたいですけど、ラブコメになってしまうから希望は 持てませんね… 比呂美が嫉妬して怒ったり、喜んだり、がっかりしたり、色々入れたつ もりです。 朋与が連れられてきた理由=比呂美の八つ当たり相手が必要だったから。 こちらの都合です。朋与に悪いとは思いましたが、演出です。 登場人物である彼女には理解できるはずがありません。正解しましたか? 最後に、読んで下さってありがとうございました。

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