純の真心の想像力 比呂美逃避行前編

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 true tears SS第三弾 純の真心の想像力 比呂美逃避行前編 「あんた、愛されているぜ、かなり」  バイクの故障により屋根のある停留所に避難する比呂美と純。  雪が降るのを眺めながら、比呂美は母が病死した幼い頃の夏祭りの心情を語り始める。  第九話の内容を予測するものではありません。  本編で不明瞭な仲上湯浅両家の設定を追加しております。  比呂美母は比呂美の幼い夏祭り前に病死。  父子家庭であった比呂美父は一年前の夏に病死。  比呂美が仲上家に引き取られた理由は比呂美父の遺言。  後編は完成しているので、時間を置いて投下します。  雪がさらさらと降っている。このまま積もってしまうかもしれない。  比呂美と四番は屋根のあるバスの停留所の中に避難をしている。  ベンチに腰を下ろして、そばにある自動販売機で比呂美はミルクティーを買った。  比呂美は一口を含んで身体を温める。  四番はヘルメット一つ分だけ離れて右横に入る。  そばには電灯があるので、お互いの顔を見られるほどに照らしてくれている。  ふと時刻表を見ると、もう朝まで便はない。 「バイクを故障させてごめんなさい」  比呂美は深々と頭を下げた。四番は見開いて、 「運転したのは俺だから、俺のせいにされると思った」  言ってから、コーヒーに口を付ける。 「そこまでは言わないわ」 「何でもすると約束したからな。謝らなくてもいいだろう」  余裕を含んで見つめてきた。 「お金がかかるのかな? こういうのはよくわからないわ」  考えるだけでも頭が痛くなる。居候の身であり、今回のは私が招いたことだ。  逃げるならば他の方法を考えれば良かった。  雪の降らない街なんて漠然とした目標だけで、仲上家から飛び出してしまった。  四番の家に行って、強引にバイクに乗せてもらい、ここまでたどり着いた。  よく知らない場所でも、雪は降っている。 「レッカー移動してもらうしかないな。  保険には入っているが、どこまで適応されるかわからない。  お金は俺が出すから心配しなくていい」  まったく怒ることなく、淡々と説明した。  私の懸念を解消させようとしてくれた。 「ありがとう」  心を込めて微笑んだ。 「事故らなくて良かったと考えるべきだ。走っていたら気分はすぐれるからな。  俺もよくやるが、さすがに雪の日は避けたかったんだが」  かすかに口元を歪めた。 「でもあまり気晴らしにはならなかったかも」 「そうだろうな。乃絵たちとすれ違ったのに気づいたか?」  そっと優しく視線を向けている。 「眞一郎くんと目が合ってしまったわ。驚かせたみたい」  石動乃絵を家のほうに庇っている姿が浮かんだ。  さりげなく、眞一郎くんはそういうことはできるようだ。 「あいつは今回のを把握できているということか」  今頃、眞一郎くんは何を考えているのだろう。 「あなたに一つだけ質問させてあげるわ。何を訊きたかったか知りたいから」  左手で髪を押さえながら提案した。  私が四番にしてあげられそうな唯一なこと。 「いつかまたゲームを申し込もうと思っているから、やめておく」  憮然とこちらを眺める。 「スポーツマンね。こういうときまでも」  くすりと微笑んでしまった。 「やっぱり質問しよう。ゲームのときに用意していたものでなければ」  前言を撤回するのは男らしくないが、興味深い。 「いいわよ」  かすかに鼻息を洩らして、四番は窺ってくる。 「あんたが、今、考えていることを話してくれ」  まっすぐで濁りのない眼差しだ。 「何よ、それ」  ただ口にして抵抗するのが、やっとだ。 「考えていないなら黙っていればいい。いくらでも付き合うよ」  四番はゆったりと背をベンチに付けて構える。  しばらく雪を眺めながら考える。  あの嫌いな雪。四番と会うときも雪。今も雪。  まったくやみそうもない。  四番は体勢を崩すこともなく、何もして来ない。  正面を見据えて、比呂美は口を開く。 「私のお母さんは幼いときに亡くなったの。  夏祭りの前に病気でね。  とても悲しくて置いてかれたように感じたわ。  まだお父さんがいるのにね。  そんな私を幼馴染たちが祭りに誘ってくれたわ。  そのときに私ははぐれてしまったの。すごく怖くて、泣き出して。  ある男の子の名前を呼びながら、下駄が脱げても走ったわ。  そしたら男の子が傾斜面から滑って来て、私を驚かすの。  私はしゃがみ込んでしまったわ。  しばらくして手を繋いでくれて、みんなのところまで並んで歩いたわ」  眞一郎くんとの大切な思い出で私の拠り所。  あれからお母さんのことでは泣かないようにしてきた。  でも仲上家を飛び出すときには、涙が溢れて止まらなかった。 「そいつ、今、何をしているんだろうな」  四番のほうを見ても、さっきと同じ姿勢だ。  そいつが眞一郎くんであるのを、気づいているかはわからない。 「よくわからないわ」  少しくらいは心配してくれているのかな? 「乃絵みたいに強くなれたみたいだな。そいつのおかげで」 「私は泣いてしまったけどね、さっき」  よくわからないけど、石動乃絵の原動力は泣かないことかもしれない。 「それが普通だろ。泣けるときは泣けばいいさ。いつでも付き合うし」  四番の眼差しは偽りのない純粋なものだ。  女を口説こうとするような濁りがなさそうで、何か別のものがありそう。  石動乃絵のためだけにここまでしてくれるのは不可解だ。 「何でそこまでするの?」 「あんたが他の女と違うからな。  俺に近づいて来る女は、最初のデートのときのように大人しいのばっかり。  あんたはゲームのルールに口を挟むし、シスコンと罵るし、接していておもしろい」  あまり恋愛と関係ない理屈だ。  別に悪いように受け取られていないのでいいかも。 「私はあなたがかわいく思えてきたわ。練習中に入って来るいけ好かない男だったのに」  無表情で評価を下した。 「まあいいよ。それで。元気が出て来たようだな。  あんたには、そういう姿がお似合いだ。  どうせ、あいつの前では大人しくしているんだろ?」  まったくこの男の思考は読めない。  仲上家から逃げた理由を訊かないくせに、眞一郎くんのことを探ろうとする。 「もう何もかも忘れたいの。これが私のお母さん」  おばさんに顔を切られた写真をコートから出して、この男に渡す。  受け取ってから、写真の匂いを嗅いでから、予想外のことを告げる。 「あんた、愛されているな、かなり。  これをやった人なら、俺の彼女を預かってくれているのを感謝したい」  心の底から喜ぶように満面な笑みを浮かべている。 「なんで、そう思うのよ。私のお母さんの顔がないのに……」  隣でにこやかにされていると、力が抜けてしまう。  涙を流す力さえも奪われてしまう。 「さすがに切られた時期まではわからないな。  隣にいるのはあんたの親父とすると、かなり古くて、 あんたが生まれるくらいかもしれないな。  注目すべきは焼け跡だ。匂いがするから最近だろうな。  あんたが仲上家から飛び出す前だろう。時刻までは不明で。  だが焼こうとしたのは明確な意思が込められている」  自信ありげに高説を述べた。  もったいぶるように途中で止めるやり方が気に入らない。 「だから私に見せ付けるためでしょ。何を言っているの?」 「それだと切り取るだけで焼く必要はないだろ」  男は諭すように語った。 「切るだけでは飽き足らずに焼こうとしたけれど、焼け残っただけでしょ。  何の問題もないわ」 「俺がこの写真があった状況を当ててやるよ」  男は自信たっぷりに宣言した。私は黙っておく。 「あんたが玄関に入るまでのところにあった。  仲上家の見取り図はわからないので、庭としておこう。  他にも焼かれたものがあったけれど、この写真だけは焼かなかったんだよ。  あんたの母親だけはね。  この写真の焼けたところには、何があったかがわかれば教えて欲しい」  一旦、区切って訊いてきた。どこかの名探偵のつもり? 「私も形見として同じ写真があるから、わかるわ。  焼けたところには眞一郎くんのお父さんとお母さん。  それと一年前の夏に病死した私のお父さんの遺言で、  私は仲上家に引き取られるようになるほどに、眞一郎くんのお父さんとは親友よ」  情報を与えるために余計なことまで教えてあげた。 「焼いたのはあいつの母親か? 良い人だな」  年下に見えるほどに安らぎのある笑顔だ。 「怒る気力もないわ」 「あいつの母親にとってもこの写真は思い出だ。  きっとこれを撮ったときは幸せだったんだろうな。  それとあんたの母親とも仲が良かったんだろう。  そしてあんたは母親に似ているから、こういうことしか愛情を伝えられないんだ」 「何度も見たことがある写真だから覚えているわ。両親が健在なときにもね。  どういう理由であれ、お母さんをこんなことをするのは許せない」  飛び出したときのような感情は燃えてしまった。焼けてしまって残されていない。 「バイクが故障していなければ、今すぐに仲上家に乗り込んで推理ショーを披露するのだが」  男は左手で拳を作って膝を叩いた。  でも私は逆に冷徹になってゆく。 「おばさんに愛情なんてないのを教えてあげるわ。  私もあなたと同じ、ブラコン。  眞一郎くんのほうが誕生日が早いからお兄さん。  どれだけ好きであっても結ばれない禁断の愛。  そういうことを言うおばさんに愛情があるわけがない」  吐き捨てたくてもできない。ただ歯を食い縛る。 「それが学校の帰りに言っていたことだろう。  思わずに出た言葉が本心かどうかだ。  あんたとあいつの母親とは似ているんだよ。  あんたのことだから、あいつに愚痴るときがあるだろうな」  言葉とは裏腹に、男からは労わりがあった。 「何でそんなことまでわかるのよ。さっきから適当なことばかり言っている」  押し寄せる波に身を任せて、男を睨み付ける。  男は瞼を閉じてから発する。 「真心の想像力だ」 「何、それ」  眞一郎くんが私の部屋に来たときに言っていた台詞。 「乃絵がよく言うんだ。相手のことを考えればわかるとね」 「私はシスコンではありませんので、使う気になれないわ」  石動乃絵の思考なんて理解できない。  わけのわからない理由で私のせいにされて、取っ組み合いの喧嘩をした。  こんな私の態度に男は苛立っている。 「本当に兄妹なのか確かめろよ。あいつの母親にぶつけてみろよ。  何でそうしないんだ。  話も聞かずに逃げるなよ」 「私は居候なのだから耐えるしかないでしょ。  何を言われても。でも今回はもう耐えられなくなったのよ」  力なく俯いてしまう。まだ雪は降っている。 「あんたはここにいる四人を信じられないのか?  まずあんたの親父は親友に寝取られ、あんたの母親は夫の親友に抱かれ、 あいつの親父はあんたの母親を抱き、あいつの母親は夫を奪われた。  もし事実であっても、あんたは俺よりもましだろ。  戸籍上は問題ないわけだから」  男は耳元でゆっくりと囁いてくれた。  まったく考えなかったことを気づかされて顔を上げる。 「お母さんたちのことを信じてないわけではないよ。  私はお母さんがいなくなっても、お父さんと幸せだったから。  でもあなたは本当に石動乃絵のことを愛しているのね」  軽々とシスコンと罵っていたことを反省しなければならない。 「あんたは俺とあいつとを選べる。俺にはあんたしかいない。  第一、乃絵は俺を兄としか見ていない。  あんたとデートをすると告げると、服装のチェックをして応援するくらいだ。  だが俺にはあんたがいるからいいよ」  力の込められた瞳で見つめられる。 「交換条件で付き合っているだけでしょ。何、本気になっているの?」 「俺、あんたのことを守りたい。あいつの母親には託しても、あいつにはできないな。  あいつがあんたのことをどう思っているかを、はっきりとわからないが、 同い年の幼馴染がここまで苦しんでいるのに何もしなかったのかよ」  敵意を剥き出して今にも眞一郎くんを殴りそうだ。 「眞一郎くんには兄妹かもしれないと告げたわ。  でも石動乃絵を選んだ」  私の言葉に男は溜め息を洩らす。 「それは恋人としてだろ。  同じ屋根の下で暮らす同居人には何もしないのかよ。  俺はあんたのことを比呂美と呼ぶ。比呂美は俺をどう呼ぼうと構わない」  男の勇ましさを称えて、純くんと心の中で呼ぶ。  番号から異性に、そして名前に。  私の中で純くんの存在が大きくなっている。 「純くんと呼ぶわ」  言葉にしてみるとすんなりとできた。 「嬉しいよ。逃げるときに俺のところに来てくれて。  名前で呼んでくれるようになるとはな」  憤っていたのが急に冷やされて、ずっと見てみたくなる笑顔。  純くんは手にしていた写真を渡してくるので、私は受け取る。 「すまない。親指の跡が付いてしまった」 「いいの。それでも」  それだけ真剣に考えてくれているのを知れたから。 「そろそろ仲上家に戻る決心はできたか?」  純くんはそっと寄り添って訊いてきた。 「……うん」  まだまだ不安だけれど、真相を確かめたい。 「そういう顔もできるんだな」  私が純くんに言った台詞をそのまま返してきた。 「どういう顔?」 「迷っている女の子。悪さをして家に入りづらい。  だが心配するな。今回のことは俺のせいにすればいいさ。  俺がバイクに乗せて比呂美を連れ出したって。  どうせ俺の仲上家での印象は最悪だろうし。  わざとあいつと比呂美の家にまでバイクで送るようにしていたしな。  誰かが俺に対して文句があるかと思っていたのだが、あいつさえも何もない」  普通ならこういうときには男のせいにされるだろう。 「私はふしだらな女だから、私から誘ったと思われているはずよ」  目を細めて純くんの罪を和らげてあげる。 「ふしだらと見られても仕方がないな。不思議に思わないのか?  練習中に比呂美を特定できて、あんたと付き合おうとした。  以前から比呂美のことを知っていたが、どうでもいい女ならそこまではしない。  俺は比呂美をかわいいと思っていた。蛍川の連中もあんたのことを覚えている。  一年でレギュラーだし、試合中の比呂美は輝いているからな。  比呂美がどう思っても、注目されてしまうのさ」  男をたぶらかすという性的な意味では語らなかった。  私も似たようなもので、純くんの試合中の姿には惹かれていた。  本当は純くんが他の女の子に人気があるから相手にされないという判断から、 蛍川の四番が好きと言ったつもりだった。  でもそのことを純くんには教えない。 「ふしだらという単語だけで考えないほうがいいということかしら?」 「正解。あいつの母親は比呂美が他人を惹き付ける魅力があると認めているのさ。  嫉妬は愛情の裏返しというのも覚えておいたほうがいい。  真心の想像力が嫌なら別の言葉で補う。  できれば乃絵と仲良くして欲しい」  純くんの発言が私の中に浸透してゆく。 「純くんの妹だからね」 「それと俺の推理が正解していたら、あいつの母親に俺のことを伝えておいてくれ。  今回のことで謝罪と挨拶を兼ねて訪問したいから。  もし間違っていれば笑い飛ばせばいい。  他の手を考えるから。  たとえば俺が仲上家の家の前で居座って訴えるとか」  本当にしそうで怖い。 「ストーカー」 「せめてクレーマーにしろ。  あいつに訴えるという手もあるが、効果がないかもしれない。  比呂美は居候であっても、あいつの親父の親友の娘なんだろ。  もう少し待遇を良くして欲しいと言ってみろよ」 「おじさんには不自由なく暮らせているかを訊いていただいているわ。  でも私よりもお母さんを見ているような気がして……」  兄妹疑惑の一端にはなっている。  でもまなざしは穏やかで憎しみはまったくない。 「もう一度、あの写真を見せてくれないか?  比呂美の母親を見れば、比呂美の将来の姿がわかるんだな」  純くんはコーヒーをベンチに置いてから、両手を合わせている。 「ダメよ。そんなの。顔はわからなくても、他がわかってしまうから」  そう言うと純くんは素直に諦めてくれたようで立ち上がる。 「そろそろレッカー移動の電話をしてみる」 「よろしくね」 「それにしてもゲームをする必要がないほどに、いろいろ知れた」  純くんは自動販売機の前で呟いた。  自動販売機には住所が必ず書かれているので確認しているのだろう。 「私は増えたけどね。純くんが私と他の女と比べられる根拠は何?  デートのときに映画を見るのは、乃絵とばっかりと言っていたよね」  語尾を強めて迫った。 「次回のゲームに持ち越しだな。  今回は比呂美の話を優先したい。  あまり言うとあいつの母親の発言を奪いかねないが。  あいつの母親が黙るまで話を聞いてあげてくれ。  捨て台詞を放つなら、追い駆けてでも訊いてみろ。  そうすれば本心を語ってくれるか、態度で示してくれる。  それでもダメなら、あいつの親父に頼め。  あいつは役立たずだから放置だな。  仲上家が壊れる前に比呂美が壊れないようにしないと。  俺たちがあの四人のような年齢なら、本当に比呂美と逃避行できたのにな。  高校生同士だと、今回ぐらいしかできないのが悔やまれる」  純くんと眞一郎くんと乃絵と私。  複雑な関係であっても、男女がふたりずつ。  最終的な結末はどうなるのだろう。  電話を終えた純くんが戻って来る。  純くんと私はヘッドライトに照らされてから、車が停まる。  パトカーだ。  もう冷めてしまったミルクティーを落としてしまった。  あとがき  このSSを書き上げたときは、あらすじが発表される前でした。  眞一郎が比呂美を抱き締めているような映像があり、軌道を修正しました。  純が好青年で自信家であったために、眞一郎を批判する展開になってしまいました。  八話での少し黒い比呂美を描いてみたくなり、作風を改めました。  焼かれた写真が庭に放置されて比呂美が拾う展開が気になっています。  眞一郎母は四人の思い出として比呂美母だけを焼けなかったのか?  比呂美との接触のために、わざと放置したのか?  たまたま焼け残っただけの演出や展開の都合なのか?  比呂美スレで考察を参考にして、SSにしてみました。  次回は比呂美がパトカーで帰宅します。  眞一郎に抱擁されて、眞一郎母と対峙します。  ご精読ありがとうございました。  予告  true tears SS第四弾 眞一郎母の戸惑い 比呂美逃避行後編 「私なら十日あれば充分」

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