負けるな比呂美たんっ! 応援SS第40弾
『憧れのひと』
もうお昼休み半ばクラスの当番のせいで遅れてる体育館へ急ぐ高校からバスケをはじめた子達のために自主練習が行われてる参加は自由、正式な部活じゃない指導してくれる2年生の先輩達も部活の時より優しいでも それより なんといっても今日も逢えるかもしれないその想いが私を急がせる私がバスケなんてコトをはじめてみようと思ったのはそのひとのせい
忘れもしない入学式の日中高一貫校のこの高校に別の中学から転入してきた私慣れない校舎で迷子になって困ってた通りかかった上級生らしきひとに声を掛けた『新入生? ひょっとして場所、分からないの?』そう声を掛けてくれた上級生さんは長い栗色の髪をして綺麗な眼をしたひとだった遠慮する私を『いいから』と教室まで連れてってくれた『がんばってね』にっこり笑って その上級生さんは去っていった落ち着いた物腰と途中いくつか交わした会話緊張してたんで思い出せない優しく言葉を掛けてくれた事と最後に『ありがとうございましたっ』やっとそう言えたコトだけ覚えてる制服の襟、赤い線が3年生だと知ったのは後のこと私もあと2年したらあんな上級生さんみたいになれるのだろうか?
そんな上級生さんと再会したのは新入生へのクラブ紹介のとき体育館で開かれたオリエンテーションで各部の代表の人たちが勧誘メッセージを読み上げるその中にあの上級生さんがいた『女子バスケ部』最初何かの間違いだと思ったあの優しそうな上級生さんが運動部に所属してるなんて…運動部ってもっと厳しい人たちの集まりだと思ってたでも立ち上がってメモも見ずに勧誘メッセージを告げるそのひとは間違いなくあの上級生さんだったピンと背筋を伸ばしたその上級生さんは凛とした声でこう締めくくった『よかったら 一緒に頑張りましょう』そういって微笑んで最後に礼儀正しくお辞儀をした遠くからでも分かったホントに楽しそうな笑顔実績を誇示するでなく皆に迎合すわけでもなく私みたいなシロウトでも一緒に頑張れそうなそんな気になったそして私は受付開始と同時に入部届けを出した
あれから1ヶ月今はゴールデンウイークも明けた5月校内の緑の木々を抜け体育館へ急ぐ湯浅キャプテン、今日も会えるかな?毎日じゃないけれどよく顔をだしていただける部活の時間はすこし厳しい表情だけどこの自主練習の時間だけはとても優しい表情になる私も含んでバスケの基本もできてない子達の面倒もよくみてくれるこの時間、無駄にはしたくない
体育館の入り口にたどり着いた出入り口のところ男子生徒がいるなんだろうと思いながら靴を履き替えていると
「女子バスケの方ですか?」
その男子生徒に声を掛けられた
「…はい」
ホッとしたような笑みを浮かべながらその男子生徒は近づいてきた襟元をみると 3年生…?なんだろう?
「比呂… 湯浅… 3年の湯浅に渡して欲しいんだけど… いいかな?」
そう言いながらあるものを差し出してきたなんだろうと思いながら受け取るえーと これは 箸箱?なんでまたこんなものを…?
「はい… あの、お呼びしましょうか?」
「いや、部活の邪魔しちゃ悪いんでな、『俺のほうに入ってた』って言ってくれれば分かるから…」
「あ… はい、じゃ、お渡しします」
「お願いします、ああ、なるべく早めに…」
「はい…」
その人は最後ににっこり笑うと校舎の方へ歩き出した物腰の柔らかい感じのひと湯浅キャプテンの知り合いだろうか?
大切な湯浅キャプテンへのお使いだ急いで館内に入り湯浅キャプテンの姿を探すあ、いた黒部先輩と並んで何か話してる急いで駆け寄る
「あら、どうしたの あわてて?」
「あのっ 湯浅キャプテン、」
「なあに?」
「これ、あ…、えーと3年の男子の人が…」
言いながらドジっぷりを思い知る名前聞いてない大切な湯浅キャプテンへのお使いなのに…気の効かない子だとあきれられる事を覚悟しながら箸箱を差し出す
「あれ、なんで?」
湯浅キャプテンポカンとしてるこれ何かの間違いだろうか?あ、伝言言わなきゃ
「あの、『俺のほうに入ってた』って伝えてくれっておっしゃってました」
「え? あっ、そ、そう、やだ…」
湯浅キャプテン顔がころころ変わってるなにが起きてるんだろう?
「持ってきてくれたんだ、あ、…どこで?」
「さっき出入り口の所で… 」
湯浅キャプテン、出入り口の辺りに顔をむける私も見たけどやっぱりもう誰もいない
「お礼、言ってきたら」
黒部先輩がニヤニヤしながら湯浅キャプテンの耳元で囁いてる
「でも…」
湯浅キャプテン、練習中の部員達を見たり私達を見たり、視線があちこち泳いでるこんな湯浅キャプテン見たこと無い
「ほーら、まだ間に合うよ」
黒部先輩の諭すような声
「あ、あの、すぐ戻るから…」
顔を少し伏せながら湯浅キャプテン歩き出した見てるとだんだん早足になって行く出入り口で靴を履き替えると駆け出す湯浅キャプテンの背中が小さくなっていくのが見えた
なんだか呆然…あの、いつも凛としている湯浅キャプテンが…
「どうしたぁ?」
黒部先輩に声を掛けられて我に返る
「あ、あの、ひょっとしてさっきの方が湯浅キャプテンの…」
1年部員の間で伝説になっている湯浅キャプテンの彼氏さん?
「そうだよ」
さも当然の事の様に肯定なさるいい機会なので勇気を出して訊いてみることにした
「じゃ、あの、暴走族に誘拐された湯浅キャプテンを彼氏さんが 追いかけてバイクごと暴走族を火だるまにしたとか、 そのせいで彼氏さんが停学処分になったとかって言う…」
信じられない、もっとゴツイ人だと思ってたのに…
「プッ、なに、1年生の子達の間ではそんな話になってんだ?」
黒部先輩、ふき出しちゃったあれ、違うの?
「え、違うんですか?」
「さあ、どうだろ、私もよくは知らないんだよねー」
「そうなんですか」
「気になる?」
「あ、いえ、そんな…」
「ふふん、あんた、比呂美のファンでしょ?」
「え? それは… その…」
「見てりゃ分かるわよ」
「はあ」
「比呂美に憧れてる?」
「あ、あの、…はい」
「そ、…比呂美はね、天才じゃないんだよ」
「え?」
「比呂美はね、努力のひとなの」
「そうなんですか?」
「そ、成績がトップクラスなのも… バスケも… それとあなたが会った彼も… 全部努力して勝ち取ったの」
「はあ…」
「だからね、あんたも、努力してれば比呂美みたいになれるかもよ?」
「そうでしょうか?」
「ま、近づけることだけは確かじゃないかな…」
「あ、そーだ」
「なんでしょう」
「後で比呂美に、『お似合いですね』って言ってごらん、真っ赤になってすっごく可愛くなるから」
「そ、そうなんですか?」
「うん、あ、でも気をつけて、」
「はい?」
「間違ってもね『素敵な人ですね』なんて言っちゃダメ」
「嫉妬に狂うと手がつけらんなくなるから」
「そうよー、怒ったら怖いんだからー」
黒部先輩、そんな楽しそうに言ってもリアリティないですよぅ
「こほん」
「え?」「あ!」
振り返ると湯浅キャプテンが居たいつの間に…
「ちょっと、指導してきまーす」
黒部先輩は危険を察知したネズミのように去っていったずるいですひとり取り残された私にっこりほほえんでる湯浅キャプテン、ちょっぴり怖いかも…
「ありがとう」
そう言いながら手を差し出してきたあ、私、箸箱持ったまま
「ど、どうぞ」
箸箱を渡すさっきの黒部先輩の言葉が頭をよぎる『お似合いですね』言おうかとも思ったけど貫禄負けだ憧れのひとにそんな口なかなかきけない
「練習、頑張ってね、悪いけどお昼にさせていただくから」
湯浅キャプテン私にそう告げると隅においてあった手提げの中からお弁当を取り出して体育館の外、縁石のところでお弁当を広げだした『いけない』と私も我に返る湯浅キャプテンお弁当も食べずに私達に付き合ってくれてるのに…まじめに頑張ろう
練習中こっそり湯浅キャプテンを見てみるとニコニコしながらとても幸せそうにお弁当を食べている
私の大切な湯浅キャプテンあんなに幸せそう嫉妬してるのは私のほうだ…
でも彼氏さんには悪いけど部活の時間だけは湯浅キャプテンは私のものなんだから…
そうですよね比呂美おねえさま…
了
●あとがき
true tears 第2章 第1話『憧れのおねえさま』ってタイトルつけちゃダメですか?運動部の雰囲気とかよく分からないんで不自然な点はご容赦を…
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