ある日の朋与2


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バスケットシューズが立てる高めの音が、体育館中に響いている。
今日は実戦形式での紅白戦。
朋与と比呂美は別々のチームとなり、コート上で戦っていた。
……だが……
向かってくる比呂美の顔が視界に入るたび、連鎖的に眞一郎のことが思い出され、朋与の集中力を削ぐ。
慎重に出したつもりのパスを簡単に比呂美にカットされ、さらに朋与のリズムは狂った。
「朋与!なにしてる!ポイントガードが試合を組み立てられなくてどうするの!!」
高岡キャプテンの激が飛ぶ。
(……そんなこと言われたって……)
比呂美との実力差は歴然としている。それに加えて今は……。
点差はどんどん開き、結局試合は朋与チームの惨敗に終わった。

壁にもたれて休んでいると、比呂美がスポーツドリンクを持って来てくれた。
二人でそれを飲み干し、失った水分を補給する。
「なんか、調子悪そうね」
朋与が比呂美を気遣う事はよくあるが、その逆は珍しかった。
「そんなことないってば、私の実力なんてこんなもんよ~」
ニハハと笑って誤魔化す。
比呂美に知られるわけにはいかない。悩んでいる事を、その内容を。
(話を切り替えなきゃ)
朋与は話題を比呂美自身のことへ振った。
「比呂美はいいわね~、絶好調って感じで」
最近の彼女は、女の自分が見ても眩しいくらいに輝いている。
比呂美は元々、何でもこなす優等生であったが、ここのところは実力以上の物を発揮している気がした。
「やっぱ石動さんかな~元気の素は、ヒヒヒ」
人差し指で比呂美の肩を突付く。こうした時に比呂美がどんな反応を返してくるか、朋与には分かっている。
……そんなんじゃないわよ……
そう言うに違いない。口だけでも否定して欲しかった。彼の為に。
…………
黒部朋与はあの日から変わった。
眞一郎を『おんぶ野郎』と罵った朋与はどこかへ消え去り、今その身体を操っているのは、全く別の朋与だった。
眞一郎の希望を摘み取らないで欲しい。心底から、朋与はそう願った。
しかし…………
「ん~そうかもね」
比呂美はあっさりと肯定する。しかも、聞いてもいない4番の話を延々と喋りだした。
楽しそうに4番の事を語る比呂美の横顔に、数日前に見た眞一郎の泣き顔が重なる。
朋与は心に生まれた黒い何かを押し留めることが出来なかった。
近くにいるだけで楽しかった親友に、今は明確な殺意を抱く自分を自覚する。
(なに楽しそうにしてんのよ……仲上くんはあんなに……あんなに苦しんでるのに!!)
この女を消してしまいたい。そうすれば……そうすれば……!!!…刹那、朋与はそう思った。
「朋与?」
比呂美が顔を覗き込んでくる。
「どうかしたの?」
我に返る。今……自分はとんでもない事を考えていた!?
「な、なんでもない!……やっぱ疲れてんのかな」
高岡キャプテンが叫んでいる。集合だ、戻らなければ。
一瞬早く反応した比呂美が駆け出す。
その背中を見送る形となった朋与は、比呂美に聞こえないように呟いた。

「比呂美……仲上くんのこと、ホントに何とも思ってないの?」

紅白戦の次の日は、部活の練習が無い。
その日、日直だった朋与は六時間目の授業が終了すると、日誌を届けに職員室に向かった。
担任に日誌を渡して挨拶を済ませると、鞄を取りに教室へ戻る。
職員室と朋与たちの教室の間には結構な距離があった。
往復するにはそれなりの時間が掛かる。
戻っても誰も残っていないだろう。朋与はそう思っていた。

「すみません、もうすぐ出ますから、ハイ、ハイ……」

教室から声がする。
(比呂美?)
携帯で誰かと話しているようだった。会話の内容から察するに……。
(4番と待ち合わせ、か)
例の公園で4番が待っているのだろう。
比呂美が電話を切る。……まずい……。このまま教室に入れば、立ち聞きした事がバレるではないか。
朋与は一旦廊下の端まで戻り、偶然に入り口で鉢合わせという状況を装おうとした。
(そろそろ出てくる頃……って、あれ?)
なぜか比呂美は外に出てこない。
教室の中を覗くと、比呂美は窓際に立ち、外に視線を巡らせていた。
(4番待たせて……何してんの?あの娘)
窓の外に見えるものといえば、この時間、下校中の生徒の集団くらいである。
入るタイミングを逸した朋与は、そのまま比呂美の観察を続けた。
左右に動いていた比呂美の首がピタリと止まる。
次の瞬間、比呂美は鞄を手に取ると、朋与が陣取るのとは反対の入り口から教室を出て行った。
朋与には気づかず、去っていく比呂美。
朋与も比呂美が発する妙な雰囲気に、なぜか声を掛けることが出来なかった。
(比呂美、なんか捜してたのかな)
入れ替わりに教室に入り、比呂美の居たところから外を覗く。
瞬間、心臓が早鐘を鳴らし始めた。
(仲上くん……)
見下ろした視線の先に、眞一郎の後姿があった。
あれ以来、眞一郎との間に会話はない。
(当然といえば……当然だけど……)
ずっとこのままなのだろうか。そんなことを考えて、ひとり暗い気分になる朋与。
眞一郎は苦しみ続け、朋与は彼を傷つけた女として、近寄ることも許されず見ているだけ……。
(キツなぁ、ホント)
泣きたい気分で眞一郎の背中を見ていると、視界の隅に比呂美が飛び込んできた。
(?!……比呂美?)
全力で眞一郎に追い付くと、そのすぐ後ろにピタリと張り付く。
(??…なに……何のまね??)
比呂美は眞一郎に気づかれないように呼吸を整えている。
そしておもむろに携帯を取り出して電話を始めると、そのまま眞一郎を無視して横を通り過ぎていった……。
(!!!!!)
呆然と立ち尽くす眞一郎の様子から、朋与は比呂美が何をしたのか瞬時に理解した。
教室でひとり、何をしていたのかも。
(仲上くんに見せ付けるタイミングを計っていたんだ、比呂美の奴!!)
おそらく先週も、先々週も、その前の週も!
(酷い、酷すぎるよ、比呂美!)
許せないと思った。仲上家で比呂美がどんな扱いを受けているかは知らないが、
少なくとも、眞一郎だけは味方をしてくれているはずだ。……それを……。
どうして……そこまでしなければいけない?
4番が好きならばそれでもいい。
でも、自分に好意を寄せてくれる男の子に、そんな仕打ちをしていいはずがない。
…………
眞一郎が歩き出す。それを見た朋与は一瞬、追い掛けようとしたが直ぐに思い止まった。
私が行っても、また喧嘩になるかも……。
そう考えると怖くて堪らなかった。眞一郎の泣き顔を見たら、と想像するだけで脚が震えてくる。
朋与はその場から一歩も動けず、眞一郎の姿が見えなくなるまで窓際に立ち尽くしていた。

眞一郎と物理的に『距離』を取るため、朋与は学校で時間を潰してから帰路についた。
(……あぁ、今日も寝れないかも)
家路を急ぎながら、先ほどの比呂美の行状を思い出してみる。
一週間前の朋与なら、比呂美の行動には理由があると考えていただろう。
だが、今の朋与の中では、物事の優先順位が完全に逆転している。
もはや朋与にとって、比呂美の事などはどうでもよかった。
それよりも心配なのは……。
(仲上くん、かなり参っていたみたいだけど……)
遠目に見ても、眞一郎の落胆振りはハッキリと見て取れた。
それはそうだ。好きな相手にあんな仕打ちを受けたら……。
(普通は……耐えられないよね……)
あれこれと考えながら歩いているうちに、一週間前から避けていた海岸通りに出てしまう朋与。
(あちゃ~、ここには来たくなかっ……!!!)
驚いた。本当に心臓が壊れるのではないかと思った。
目の前の防波堤の上で眞一郎が寝転がっていたのだ。
(嘘、な……なんで……どうしよう…)
朋与がボンヤリと歩いていたせいで、二人の距離はかなり接近してしまっている。
気づかれずに通り過ぎる事は不可能に思われた。
…………
恐る恐る近づく。仰向けになって眠っているようだった。
チョットだけ顔を覗き込んでみる。朋与の頭が日除けになって、眞一郎の顔に影が差した。
「愛ちゃん、今日は放っておいてくれよ、頼むから」
????アイ…ちゃん??
どうやら寝てはいないようだが、朋与を誰か別人と間違えているみたいだった。
そのまま素通りしたかったが、存在を感づかれた以上、声を掛けないわけにはいかない。
朋与は意を決して話しかけてみた。
「……アイちゃんって……誰?」
パチッと目を開けた眞一郎が、「うわああああ」と奇声を上げて飛び起きた。
相当驚いたのだろう。胸を押さえて荒々しく息をしている。
「あ……ゴメン、驚かして……」
朋与の顔を見て、眞一郎の瞳が少しだけ曇った。
「……黒部……」
当然の反応だった。でも……分かっていてもちょっと悲しい。
「なにしてんの?」
先週のことなど、何もなかったかのように平静を装って話しかける朋与。
「え?……あ……いや、その……昼寝……」
喧嘩を売られると思っていたのだろう。普通に接してくる朋与に安堵し、眞一郎も警戒を解く。
「ふ~ん」
朋与はバスケで鍛えたバネを活かして、ヒョイと防波堤に飛び乗ると、眞一郎の横に陣取った。
(良かった。もっと落ち込んでるかと思った)
自然に笑みがこぼれる。素直に嬉しかった。
眞一郎がなんとか自分を保っている事も、こうして喧嘩せずに話せる事も……。
「なんだよ、ニヤニヤしてさ」
「別に、なんでもないわ」
まだ空は蒼かったが、この季節だ、日が暮れるのは早いだろう。
この至福の時は、あまり長くはない。
朋与は舞い込んだ幸せに感謝しつつ、一体何から話そうかと考えを巡らせていた。

朋与と眞一郎は砂浜に降りていた。
最初、朋与はショッピングモールに行こうと誘ったのだが、眞一郎はのってこなかった。
『女ってさぁ、落ち込んでる奴を見つけると買い物に連れて行きたくなるのか?』
と、意味不明な事をいう。
『アイちゃん』とやらが関係しているのだろうか?
眞一郎の場合、何が地雷になるか分からないので、朋与は深く追求しないことにした。
「風、冷たくなってきてるね」
「あぁ、冬だしな」
二人で意味の無い会話を続ける。
朋与も眞一郎も、互いが相手に謝りたがっていることを感じていた。
でも、話を切り出せば先週の話題を蒸し返すことになる。
…………
世間話のネタも尽きてきた頃、眞一郎が何気なく朋与に訊いた。
「黒部はさ……好きな奴いないの?」
朋与の身体が硬直する。
眞一郎の予想では、朋与の『好きな人』は今回の問題とは無関係な人物らしい。
恋愛相談でお茶を濁す……眞一郎らしい逃げ方だった。
(鈍感なんだね……仲上くん)
さぞ、沢山の女の子を『気づかずに』泣かせてきたことだろう。
『アイちゃん』も犠牲者のひとりかも知れないな、と朋与は思った。
「訊いちゃまずかった……か?」
朋与は的外れな問い掛けを続ける眞一郎に、ゆっくりと向き直る。
その表情は優しく、どこか寂しい……そして何かを決意した顔だった。

「仲上くんは?好きな人、いるんでしょ?」
「………」
そう切り返されるとは思わなかったのだろう。
「知っているのに訊くのか」と言いたげに、眞一郎は顔を背けた。
「フラれるのが分かっているからって、それは告白しない言い訳にはならないよ」
「そうじゃな……」
眞一郎が『言い訳』しようとするのを遮って、朋与は言った。
「私は仲上くんが好き」
「……え……」
呆気に取られている眞一郎の頬に手を添え、顔を引き寄せると、強引に唇を奪う。
「!!!」
朋与はあえて、眞一郎の意思を無視した。
この後の話を分からせる為には、朋与自身の気持ちに偽りが無い事を、まず証明しなければならなかったから。
唇が離れても光の糸がふたりを一瞬繋いでいたが、すぐに切れた。
「……ごめんね、無理矢理で……。でも本気だって信じて欲しかったから……」
「……俺……俺は……」
眞一郎は、必死に朋与を傷つけない言葉を捜している。
でも、そんなことは朋与にはどうでもよかった。
どう転んでも、朋与の想いが叶うことは……ない。重要なのは眞一郎の方……。
…………
「比呂美にちゃんと言って」
眞一郎が絶句して固まる。一週間前と同じ『男の子』が、朋与の目の前にいた。
「なにか事情があるのも知ってる。4番が手強いのも知ってる。……でもね……言わなきゃだめ」
朋与は続けた。
「私は…ダメなのわかってたけど……仲上くんならきっと…」
比呂美を取り戻せる……そう言いかけた時……

   ドサッ

眞一郎が砂地に膝から崩れ落ちる。
朋与はそれ以上話せなくなった。
「……仲上くん……」
「…違うんだ…黒部……そうじゃないんだ……俺と……俺と比呂美は……!!」
『何か』を言いおうとするが、溢れてきた大粒の涙に邪魔され、眞一郎も話すことが出来ない。
というより、自ら嗚咽の海に沈むことで、秘密をせき止めている様に朋与には見えた。
(……しん……いちろう……くん……)
女としての本能だろうか。朋与は反射的に眞一郎を抱きしめていた。
頭を優しく抱え込み、顔を自分の胸に埋めさせる。
ほんの少しでも、眞一郎の涙を吸い取ってやりたかった。
(……また……泣かせてしまった……)
声を掛けるんじゃなかった……。砂浜になんか誘うんじゃなかった……。
(私……また余計な事をしてしまったんだ……)
一週間前の比ではない、激しい後悔の念が朋与を襲う。
日暮れと共に風が強まり、容赦なく二人を鞭打った。

「入って」
朋与は泣き疲れ、憔悴しきった眞一郎を自宅に連れ込んだ。
「……家の人は?」
「貧乏だから共働きなの。夜の九時まで私ひとり」
眞一郎が動揺していのが分かる。
「こっちよ」
制服の袖を引いて二階へ、自分の部屋へと連れて行く。
扉を閉め、念のため鍵をかける。暖房のスイッチは入れたが、照明は点けなかった。
所在無げに立つ眞一郎に背を向けながら、朋与は制服を脱ぎ捨て始める。
「!!……黒部!よせよ!!」
「わかってて来たんでしょ?……仲上くんも脱いで……」
眞一郎は動かない。朋与は構わず淡々と服を脱ぎ、ついに下着だけになった。
最後に髪留めを外し、テーブルの上に置く。
普段は左側に上げている前髪が顔に掛かり、朋与を大人びた印象にしていた。
「く、黒部……俺はお前の気持ちには……」
赤面して目を泳がせる眞一郎だったが、逃げ出そうとはしなかった。
静かに眞一郎に近づき、身体を寄せる朋与。
「好きになって欲しいんじゃないの……ただ……ただね……」
落ち着きのなかった眞一郎の視線が、朋与の真剣な眼差しに捕らえられる。
「ほんの少しの間でも……忘れさせてあげたいの……」
何を言っても救えないなら、何をしても傷つけるなら、せめて忘れさせてあげたい……。
「もう…なにも訊かないから……だから……」
「黒部……」
眞一郎の腕が、戸惑いながらも朋与の背中を包んでいく。
(私の身体……使って……)
二人は二度目のキスを交わした。朋与の指が眞一郎の制服のボタンを外していく。
少しでも早く、朋与は眞一郎の肌に触れたかった……。

身に着けていた物を全て脱ぎ去った朋与と眞一郎は、
ベッドの中で身体を密着させ、互いの唇を貪り合っていた。
声にならない声が、室内に響く。
「ふん……ふ…はぁっ……」
先に相手の口腔に舌を侵入させたのは朋与の方だった。
緊張でガチガチと震える眞一郎の前歯をすり抜け、その奥にいる同類に挨拶する朋与の舌。
朋与に先手を取られた事に発奮したのか、眞一郎の舌もすぐに丁寧な挨拶を返しに掛かる。
渦を巻くような動きで逆に朋与の口腔に滑り込み、舌のみならず、歯茎や上顎の裏まで刺激する。
(ッッ!)
痺れるような快感を感じた朋与は身を引こうとするが、眞一郎の腕がそれを許さない。
お返しとばかりに、徹底的に朋与の『なか』を蹂躙する眞一郎。
両腕に力を込め、胸板で朋与の乳房を押し潰し、勃起した陰茎を下腹部に押し付ける!
(やぁ……い、イクッ!!!)
朋与の首から上が桜色に染まり、指先が眞一郎の肩と鎖骨に食い込む。
身体全体がブルブルと震えだし、朋与は最初の絶頂に達した。
…………
「……ぷはぁぁ……」
ようやく唇を離し、新鮮な空気を補給する二人。
朋与は眞一郎に組み敷かれる形で、軽い虚脱状態に陥っていた。
「悪い…はぁ、はぁ、やり方良く分からないから……無茶苦茶したかも…」
息も絶え絶えに眞一郎が言う。
(嘘……適当だったの?……もしかして、天才!?)
リードするつもりだった相手に、まさかキスだけでイカされるとは朋与も思っていなかった。
どうやら眞一郎には、誰も気づいていない隠れた才能があるらしい。
「黒部……」
「え……ちょっと待…」
タガの外れた眞一郎は貪欲だ。遠慮なく朋与の全てを求めてくる。
今この瞬間、確かに眞一郎はあらゆる『しがらみ』から開放されていた。
それは朋与が望んだことではあったが、このまま攻め続けられては、朋与の体力が持ちそうもなかった。
(そうだ、アレ試してみよう)
…………
「待って、仲上くん」
朋与の弱点を探り当てようと伸ばしてきた眞一郎の手を押し留める。
「?」
身体の位置を入れ替え、眞一郎の『上』を取る朋与。
教室では絶対に見せない妖艶な笑みを浮かべ、眞一郎の耳元で囁く。
「先に……私がしてあげる……」
そのまま身体をズラし、朋与は眞一郎の下半身に顔を近づけていった。

身体を下に移動させると同時に、掛け布団を足元へと追いやる。
ふたりの体温が上昇している今、それはもう邪魔物でしかなかった。
「黒部……」
眞一郎が半身を起こして覗き込む。
「口でしてあげる。じっとしてて」
眞一郎の両脚の間に身体を納める形になる朋与。
目の前には、限界まで血液を充填された眞一郎の男性器がそそり立っていた。
初めて目にする勃起した陰茎は、なんだか不思議な臭いがする。
普段なら拒絶反応を起こす類の臭気だったのに、なぜか「臭い」とは思わなかった。
(ええっと、まずは……)
ティーンズ雑誌で仕入れた知識を、脳内で検索にかける。
…………ペロリ…………
舌先で亀頭の裏側、『縫い目』のようになっている部分を舐め上げた。
「うぅっ」と呻いた眞一郎の声が、自分の行為に意味があると知らせてくれる。
躊躇うことなく茎を握り、上下にスライドさせる。
そして先端を、カリ首を、全体を……
アイスバーを溶かす様に、自らの唾液をまぶしながら朋与は愛撫し続けた。
「うっ……うっ……く、黒部……」
眞一郎が情けない声を上げるたび、胸の奥が熱くなる。
(もっと……もっと気持ち良くしてあげるよ、仲上くん……)
陰茎を絞り上げる圧力を強めると、鈴口から一気に透明な雫が溢れてきた。
先端に吸い付き、その蜜を吸い上げる。
内側から押し出されてくるのを待ちきれず、朋与は亀頭を口腔で包むと、
陰茎裏の『管』のようになっている部分をしごき上げた。
「うわあっ!……ま、待ってくれ……それ…キツ過ぎる……」
与えられる刺激の強烈さに、おもわず眞一郎の手が朋与の頭髪にかかる。
空いている方の手でそれを払い除けると、朋与は蜜の吸引を続行した。
絶えることなく湧き出してくる眞一郎の淫水……。
(……おいしい……)
舌の上に溜まった蜜を、唾液と混ぜ合わせてコクコクと嚥下していく。
カウパー氏腺液に味らしきものは殆どない。
だが今の朋与にとってそれは、聖杯に注がれた酒にも勝る美味だった。
首を左右にくねらせ、更なる愛撫を加える。陰茎を握る指にも力が篭る。
突然、悶絶する眞一郎に限界が訪れた。
「あ、あぁっ!で、出るッッ!!!」
何が?と思った瞬間、朋与の後頭部に眞一郎の手が伸び、動きが固定される。
「!!!!」
眞一郎の尻の筋肉が緊張して、腰全体が朋与の顔へ突入するように突き出された。
陰茎が一回り大きく膨らみ、輸精管を駆け抜けた白いゲル状の液体が、
鈴口を内側から広げて飛び出し、朋与の喉奥に撃ち付けられる。

ドピュ!ドピュ!ドピュ!…………

「んんんっ!んんんんっっ!!」
口の中に吐き出されるドロリとした暖かい液体。青臭さが喉から鼻腔に広がり、息が出来ない。
(……シャセイ……射精……してるっ!!)
カウパー氏腺液とはまるで違う『牡』そのものを体現する物質……。
(仲上くんの精液……赤ちゃんの素……)
……身体の中に受け入れたい……。朋与はそう思った。
…………
……ゴクリ……
喉奥に溜まったものを飲み込む。精液が食道を抜けて内臓へと落ちていく感覚に、朋与はうっとりした。
(仲上くんが私のナカにいる……仲上くんの子供たちが……)
そう思うと、身体の中心に注がれた『熱』が全身に拡散していく気がして、心まで温まってくる様だった。

「……飲んじゃったのか……」
脱力していた眞一郎が、目線だけを動かして様子を伺う。
朋与はティッシュで自分の口元と眞一郎の陰茎を拭っていた。
「うん……まぁね」
吸血鬼に襲われた被害者のように、身動きできないほど疲れ果てた眞一郎の陰部を、甲斐甲斐しく清掃する朋与。
「ごめん……口に出すなんて……最悪だよな…」
眞一郎はまだ呼吸が整わないようだった。それほど激しい射精だったのだろう。
「ううん、平気。仲上くんの…だもん」
そう言うと朋与はベッドから降りて、扉へと向かう。
「少し休んでて、うがいしてくる」
「……え……」
一人にされるのが怖いのか、眞一郎はすがりつく様な視線を送ってくる。朋与はそれが無性に嬉しかった。
顔を近づけ、悪戯な微笑を浮かべながら囁く。
「なに?自分の精子の味、知りたいの?」
真っ赤になった顔を背ける眞一郎を、朋与はとても可愛いと思った。
「待ってて。すぐ続きしよ」
鍵を開けると、朋与は裸のままで一階の洗面所に降りていった。

                    [つづく]
ある日の朋与3
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