あいちゃんが「かな~り」黒くなってます。


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「うわぁ、こりゃ積もりそう……」
 今川焼き「あいちゃん」の開店準備で、私はお店の扉を開く。
暖かいお店の空気が少し、お店のほこりをつれて外にあふれていく。
そしてかわりに、綺麗にすきとおって冷たい外の空気を連れてくる。
私の声は、白く形を変えて、ゆらりと空に消えていった。
「……あれ?」
 外は雪が降って、とても寒い。準備に戻ろうとした私は、
お店の前にいる人影に気づき、驚いた。
――眞一郎……
 眞一郎は傘も差していない。肩が、そして頭が、真っ白な雪で化粧
されてしまっている。
「やだ、どうしたの? 何やってんのよ!」
 私は眞一郎のところに駆け寄る。どうしたんだろう、傘も差さない
で。そんな疑問と、そして、ちょっとした幸せの気持ちと一緒に。

「もう、ホントに風邪ひくよ!」
 とりあえずお店に入ってもらい、タオルを準備しながら私は眞一郎
に声を掛ける。こうやって二人っきりになれる時間が、ちゃんとある
のは嬉しい。そう思う。
 最近眞一郎のそばに、あの石動乃絵とかいう女がいる時間が増えて
るみたいだけど、でも、眞一郎のそばにいる時間だったら、私だって
負けてない。そりゃ、湯浅比呂美には最近は負けてるかもしれないけ
ど……
「ねえ、こないだのこと……」
 カウンターに腰掛けてる眞一郎は、よく見なくても本当に寒そうで、
だから私は、いい機会だと思って切り出すことにした。
 眞一郎に、手編みのセーターを……
 そう。いい機会だと、思ったんだよ?ねえ、眞一郎。
 なのに、なのに――

   乃絵とつきあうって、どういうこと?

 眞一郎のことが好き。
 眞一郎のことが好き。
 眞一郎のことが、大好き。
 わたしは、わたしは……
 なのに、なのに、あんたはどうしていつもいつも……

 自分でも、よくわからない?そんなの、そんなの、こっちの方が
わかんないわよ!なんで、乃絵とつきあうって、どうしてよ!
 私はずっとあんたを見てた。あんたのそばにいられるだけで幸せ
感じちゃうくらい。なのに!

 あんたの背中を追いかけるのが楽しかった。
 あんたがお店に遊びに来てくれるのがうれしかった。
 あんたが私の焼いた今川焼きを食べるその右手を、眺めているの
が幸せだった。
 あんたを街で偶然見かけるたびに、いつも心臓が壊れそうだった。
 あんたは知らなかったでしょ? でもそうなんだよ。ねぇ?

 何も、考えたくなかった。何か考えたら、きっと今も、何も出来
なくなっちゃうから。いままでいっぱい臆病してきたけど、今日が、
最後のチャンスだって、きっとそうだって、頭の奥でおせっかいな
天使がささやいてるから。だから、私は。
これが、眞一郎の唇……

 柔らかくて、冷たくて、かさかさして、ちょっぴりしょっぱくて、
柔らかい向こうで歯がぶつかって、だからちょっぴり失敗で。
 背伸びして、精一杯首を伸ばして。どんなに遠くたって、絶対、
逃がさない。やっとつかまえた、この暖かさ。
 私の、初めての相手。大切な、男。
 ねえ、だからお願い。私のことも見てよ。
 お願いだよ、眞一郎……

 目の前には、眞一郎の驚いた顔。私の、大好きな人。
 びっくりして、半開きになった口。あれは、もう私のもの。誰にも
渡したりしない。私の、大切なはじめて思い出。あんたはどうなの?
まさかもう石動乃絵に……
 そう思うと、いてもたってもいられなかった。
 私は、はじめてをあげたよ。あんたが望むなら、もっともっと、して
あげられる。石動乃絵なんかに、負けない。後からやってきた変な女に、
あんたを取られるなんて、我慢できない。ねえ、眞一郎? どれだけ
してあげたら、あんたは私のことを見てくれるようになるの?
 セーターなら、百着でも二百着でも編んであげる。今川焼きなら、
毎日ただで焼いてあげる。お弁当だって、毎日作ってあげる。踊りの
練習に、毎日公民館に差し入れ言語道断に行ってあげる。どれだけ尽くせば、
あんたは私を……
 私はね、もう限界なの。

 毎日あんたのことを思い続けて。お店で今川焼き焼きながら、お客
さんが来るたびに眞一郎かなって気になって。夜寝る前は、今日眞一
郎とあんまりお話できなかったなとか思って。それで、眞一郎のこと
思って、寝る前に毎日……
 ねえ、あんたのために、私がどれだけ下着を汚してきたと思う?

 ただの幼なじみじゃ嫌だった。お姉ちゃんぶったことしても、つらい
だけだった。でも、一歩踏み出してその関係すら壊れるのは、もっと嫌
だった。そんな勇気出すくらいなら、隣りにいるだけでも我慢出来た。
でも、今日は、もう。
 私は、あんたにはじめてをあげちゃった。このままお別れなんて、
もっと嫌。だから、だからね……

 ごめんね。嫌な女の子だけど、許してもらうから。
 今まで、こんなに私を苦しめた、罰なんだよ……

 眞一郎のコートをゆっくり脱がせていく。眞一郎はびっくりして、
だからぜんぜん抵抗しない。それを良いことに、私はどんどん眞一郎
を剥いていく。コートを脱がせて、シャツをゆっくりまくり上げて。
「ちょっと、あいちゃん。何やってるんだよ。それに、寒いよ」
 眞一郎が、ちょっとだけ我に返る。
「そっか、そうだよね。寒いよね。奥、暖房効いてるから」
「そういう事じゃなくて……」
「いこ。誰か来るかもしれないし」
 誰か……
 それが、誰とは言わないけど。
「ちょっと、あいちゃん」
「先、行ってて。店、閉めとくから」
「そうだよ、店開けないと」
「ううん、いいの。今日はもう閉店。理由は、そうだ、店員の体調が
悪くなったから」
 実際体中が火照って、きっと血圧も心拍数も正常じゃない。
 そう、だから嘘じゃない。
「だから、今日は閉店。眞一郎? 看病、してよ」
 絶対離さない。そう決めた。
 だから、今日は……
「あいちゃん、本当にどこか……」
「先、行ってて。すぐ行くから」
 さっき開けた入り口の鍵を、内側からしっかり閉める。外は、ずっと
降り続く雪。結構、積もった。その外の景色と、店の中を区切るカーテン
を、私は両手で勢いよく閉めた。店の中が、真っ暗になる。
 私と眞一郎だけを包む、静かな闇が生まれる。

「眞一郎、着替えさせて」
 店の奥の、階段を上ったところにある私の部屋。畳に敷かれた布団の上
に女の子座りして、私は眞一郎にお願いする。
「やっぱり、俺帰るよ」
「お願い、待って。今日は、お願い。私、今日逃したらもうがんばれない
気がするから」

 嘘。だって、絶対逃さないって決めた。

「でも、そんな。こんな事って……。俺には」
「石動乃絵? 眞一郎、ホントに彼女のことが好き?」
「それは……好きだよ。当たり前じゃないか」

 嘘。そんなわけない。だってあんた、この前まであんなに湯浅比呂美の
事が好きだったじゃない。私は、あんたのことなら、何だって知ってる。

「私、こんなこと他の誰にも頼めない。眞一郎だけ。ずっと、あんただけ
見てた。嘘じゃないよ、これは」
「あいちゃん、なんで? だって、あいちゃんは」
「言わないで。お願い……。こんな時に、聞きたくない」

 本当。あいつには悪いけど、今あいつのこと思い出したくない。

「あい、ちゃん……」
 眞一郎の、泣きそうな声。もっと、聞かせて、あんたの声。もっと、ずっと
もっと近くで。誰よりも、あんたの近くにいたい。
「脱がせて。お願い」
 私は、眞一郎のためならなんだって出来る。だからお願い。拒絶しないで。
「それくらい、自分で……」
 臆病者。
 あ、臆病だったのは私も、か。
「眞一郎も脱いでよ。風邪、ひいちゃうよ」
「あいちゃん、だめだって、ちょっと!」
 聞こえない。
 聞きたくない。
 私の、男。

 抵抗する眞一郎を押さえつけて、シャツとズボンを脱がせる。ちょっと
頼りない胸板。顔を埋めてみると、暖かいにおいがして、大きな心臓の音
が聞こえた。可愛い。だって、私の心臓より速いんだもん。
「ねえ、脱がせてよ。ここまで来て、女の子に恥かかせちゃだめだって」
 自分勝手な言い分? 知らない、そんなの。
 眞一郎の為なら、いくらでも自分勝手になってみせる。
「……本当に、いいんだよな?」
 やった! そうだよ、私はずっとそれを待ってたんだよ。ねえ、はやく
して。女の子を待たせちゃ、だめなんだから。
「……やさしく、してね」
 今更、何言ってるんだろう。ま、いいや。
「わかってる」
 知ってる。眞一郎は、とっても優しい奴だって。だから、好きになった
んだよ?

 眞一郎の手が、私の服を脱がせていく。シャツが脱がされて、下から
小振りな胸と、それを覆うブラが現れる。今日のはあんまり、可愛くない。
失敗したな。でも別にいいや。どうせ脱ぐんだし。
「小さくて、ごめん。私体も小さくて、だから」
「気にしない。小さいかもしれないけど、それを含めてあいちゃんだろ?」
「ひどい。こんな時までそうやってバカにする」
「あ、いや、ごめん」
 そこで謝らないで。もう、デリカシーが無いんだから。
「スカート、脱がせるよ」
 眞一郎の手。私の腰を抱く、大好きな手。
 腰を這うその感触で、私は軽くイッてしまう。気持ちいい。
 今川焼きを握ってた、指先。ずっと見てた、指先。ずっとほしかった、
指先。やっと手に入れた、指先。
 今日はこの指、今川焼きにもあげない。
 私だけの、もの。
「うん、これミニだから脱がせにくいかも」
「え、ホントだ。なかなか、これは。あいちゃんのお尻にひっかかって」
「またそういうことを言う。もう……」
 ふくれてみせる。きっと今の私、外から見たらものすごく可愛い。自信
あるよ。
「ごめ、って、謝っちゃいけないんだっけ。じゃあどうすれば」
「聞かないでよ、そんなこと。私だって、その、恥ずかしいし……」
 嘘。もうつっこむのも馬鹿らしい。
「わかった。って、やっととれた」
 スカートが脱がされる。眞一郎はトランクス一枚。私は、ブラとショーツ
だけ。畳の部屋の真ん中で、男と女。布団の、上。
 私は、だまって電気を消した。

 朝。窓から差し込み朝日がまぶしくて、私は目を覚ます。
 枕元の目覚まし時計を見る。七時の、二、三分前。ちょっとだけ、寝坊。
隣を見る。眞一郎の寝顔。ずっとほしかった、眞一郎の……

 急に、胸が痛み出した。
 どうしてだろう、なんだか悲しくて、寂しくて。

 嬉しい筈なのに。やっと手に入れた、大切な宝物なのに。昨日だって、
あんなにやさしくしてもらったのに。たくさんたくさん、膣を突かれて、
痛くて、血だって出て、もちろん初めてで、眞一郎はぎこちない動きだけ
どとっても優しくて、それで、いっぱいいっぱい、愛してもらって。何度
も何度も、子宮の奥まで熱いものを注いでもらって。こんなにも、幸せに
なったはずなのに。
 なのになんで、寂しいなんて思うんだろう。

 もう、眞一郎は私のもの。昨日一日で、さんざん刻みつけられて、だから
さんざん刻みつけた。周期とか詳しくないからちゃんと当たったかは自信な
いけど、それなら当たるまで何度だって注いでもらうだけ。
 私は幸せだ。こんなにも愛してる人に、こんなにも愛してもらったんだ
から。たくさん眞一郎のものがたまっている子宮のあたりを左手でさすり
ながら、私は思う。右手は、そっと、眞一郎の髪を撫でて。
 私は幸せだ。ずっとほしかったものを、ようやく手に入れられたんだから。
 私は、幸せなんだ。

「あい、ちゃん?」
 眞一郎が目を覚ました。
 まだ寝ぼけた目をこすりながら、私の方を見てくれる。
 優しい、目。眞一郎の寝起きって、こんななんだ。
「しん、いちろう……」
「あいちゃん? 泣い、てるの?」
 泣いてない。泣いてなんか無い。だって、私はこんなに幸せなんだから。
「あいちゃん、なんで?」
 だから、泣いてないってば。大切な人と、大切な絆を作って、なのにどう
して、泣かなきゃいけないの?

    ねえ、どうして私は泣いてるの?

「ねえ、しんいちろう」
「なに? あいちゃん」
「しんいちろう、どこにも行かないでね」
「……わかってるよ。俺はあいちゃんを一人にさせたりしない。これ以上、
こんな寂しがり屋の女の子を放っておいて、悲しませたりしない」
「……ありがとう」
 嬉しかった。眞一郎の優しさが。こんな私でも包んでくれる、大きな暖
かさが。
 知らなかった。自分がこんなに寂しがり屋だったなんて。男の子が一人、
どこかに行ってしまいそうになるだけで、こんなにも取り乱す、かっこわ
るい女だったなんて。
 ありがとう、眞一郎。ごめんね、ミヨ吉。
 本当に、ごめんね。
 私は、こんなにひどい女だった。
 幸せになる資格なんかないかもしれないけど、地獄に堕ちるかもしれな
いけど、それでも私は幸せになってみせるから。眞一郎と一緒に。
 眞一郎と一緒なら、地獄に行っても、きっと幸せだから。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。