勝手に最終回


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絵本を読み終えた乃絵は満足そうに微笑んでいた。

「…ありがとう眞一郎」

そしてゆっくり顔を上げて真剣な顔で眞一郎を見つめる。

「………もう、行ってあげて」
「乃絵…」

自分の気持ちも、相手の気持ちも今は痛いほど理解できる。

「ごめんな…ごめん…」
「ねぇ、最後、わがまま言っていい?」
「何?」
「…キスして…」
「………」

2人の顔がゆっくり近付き、眞一郎は乃絵の頬にキスをする。
そして踵をかえし、走り出す。

「眞一郎!!!」

乃絵の叫び声に振り返る。

「がんばれ!! 眞一郎!!」

乃絵の言葉に微笑むと、眞一郎は再び走り出す。

「………がんば…れ…しん…」

眞一郎の背中を見送る乃絵の視界がぐにゃりと歪む…

「…あれ? あれえ…」

ぬぐってもぬぐっても溢れ出るあの日無くした  涙。
眞一郎の心のかわりに残されたスケッチブックを抱きしめる。

眞一郎は乃絵が涙を取り戻した事を、もう、知る事はなかった。

比呂美は暗く重い足取りで、俯きながら薄暗くなった海岸線の道を歩いていた。
悲しみと後悔の念で比呂美の心は今にも壊れそうだった。

「比呂美!!」

ハッと顔を上げると、そこには息を切らした眞一郎がいた。
混乱していた比呂美は思わず逃げ出してしまう。

「俺! 全部ちゃんとしてきたから!! 全部!!」
「!!」

振り返る比呂美の瞳に、息をととのえながら優しく微笑む眞一郎が映る。
その言葉の意味は比呂美にとって最高の福音だった。

「眞一郎…君…」
「………比呂美」
「眞一郎君!!」

あの日と同じように迷うことなく眞一郎に走り出す比呂美。

「ッ眞一郎 君!!  …キャッ」

あの日と同じように足を滑らす。が、今度は眞一郎がしっかりと比呂美を抱きしめ支えた。

「同じ所で同じように転ぶか?普通」
「ご、ごめんなさいっ…」
「………」
「………」

見つめ合う2人。
眞一郎は比呂美の頬に流れる涙をぬぐって、優しく深いキスをした。

1年半後

「暑い…空気悪い…人多過ぎ…」

初めての東京で、比呂美は思わず口にしてしまった。

「無理して付いて来ることなかったのに」
「だって、眞一郎君の晴舞台だし、東京見物もしたかったし…」
「やれやれ」

眞一郎のデビュー作は、絵本業界では異例ともいえる大ヒットをとばした。
優しくも切ない話と、素朴な絵。
現役の高校生という話題性も手伝って、ちょっとした時の人になった眞一郎は、
出版社から招待され、大型書店で促販をかねたサイン会が開催される事になった。
夏休みと言うことで、比呂美も半ば無理やり同行したのだった。

「来てくれるかな、石動さん」
「どうかな…」

乃絵と純が母親の勤め先の東京に転校して行ってから、もう1年半が過ぎる。
乃絵との出会いと別れは二人を大きく成長させた。
眞一郎は仲上の家を継ぐ事と、絵本作家になる夢との両方を真剣に向かい合う事を決心し、
酒造りの修行と絵本の執筆活動に忙しい日々を送っている。
比呂美も眞一郎を支える為に仲上家に戻った。 今度は居候としてではなく…

     ( ~BGM: セカイノナミダ~ )

出版社の儀式的な挨拶回りを終え、サイン会が始まった。
整理券を持った200人から差し出される眞一郎の本一冊一冊に丁寧にサインをし、
握手をかわす眞一郎を離れた所から見守っていた比呂美。
その顔が、驚きと喜びに変わる。

最後の1人から眞一郎の前に差し出された物は本ではなく見覚えのあるスケッチブック。
表紙には眞一郎の文字で 「雷轟丸とじべたの物語」

「おめでとう、眞一郎、これにサインしてくれるかな?」

懐かしい声。
笑顔でゆっくりと顔を上げる眞一郎。
そして…

END
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