truetearsVSプレデター6


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真っ白く連なる雪原の道で、一人の少年が自転車を転がしている。
空からキラキラと輝く結晶が舞い、辺りの家々ははシンシンと静かに眠っていた。
と、彼の背中を眩いライトが黄色く照らす。
「あら、眞ちゃん?こんな遅くに出歩くなんてダメじゃない」
ミニバンが少年の隣まで来ると、運転席の窓から女性が顔を出した。
その容姿はまだ20代といっても通じる美貌を維持しており、妖艶とさえいえた。
「送ってあげるから上に自転車載せなさい」
言われるまでもなく、助手席から坊主頭の少年が降りてきて、
眞一郎のハンドルをとる。
「ささ、どうぞ、坊ちゃんは助手席に。後は自分がやります」
自転車というのは、転がすには容易にできてるが、実はかなり重い。
しかし、普段から力仕事をこなしてる故か、軽々とそれを持ち上げ、
荷台にスルリと載せてしまう。

「・・・ん?」
ふと、眞一郎が違和感を覚える。
どこか何かがズレたような、だが確かにひっかかりを覚える。
「どうしたの眞ちゃん?」
「何か不味かったですか坊ちゃん?」
二人が口々に尋ねるが、なにか不快なことがあるわけではない。
長いあいだ、寒空の下を彷徨ってきたのだから、
いまようやく家族と会えてとてもホッとしているのだ。
それなのに、どこか合点のいかないこの感じ。
「比呂美がいないんだけど・・・知らないかな?」
様子から察するに期待はできないが、一応聞いてみる。
「さぁ、見つからないわ。明朝まで戻らなければ警察に連絡してみましょう」
「そっか・・・」
やはり見つかっていない。が、あの母が彼女を探しにでてくれただけでも嬉しいことだ。
それにもし危ない事件に遭遇したとして、
最近の子が一晩戻らないだけで警察はすぐには動いてくれないだろうし、
自分なりの当ては散々探したのだ。ここはやはり、一度家に戻って体勢を整えたほうがいい。

「じゃ、ほら早く乗りなさい」
「うん、・・・あ」
助手席に回ろうと丁稚の横を通ったとき、さきほどの違和感に気付いた。
彼の体から母親の臭いがするのだ。
香水などの類ではなく、普段慣れしたんで意識もしない、肉親独特の香り。
「どうかしました?」
丁稚が怪訝な顔をするが、それには応えず眞一郎はしばし熟考する。
一緒の車で、一緒に動き回っていたから臭いが移った、などという冤罪裁判のような言い訳は信じない。
というより、その‘気付き’に達した時点で十中八九結論は出ていた。

「母さん・・・悪いけど、先帰っててくんない?」
当然、驚く母親。雪はどんどん積もり、気温はますます低くなっていくというのに。
「あの子をまだ探すの?じゃあ私たちと一緒にいきましょうよ」
てっきり引き止められると思っていたのに、この提案は驚いた。しかしそうもいかない。
「え~と・・・その、つまり、ちょっとまだ気になってるとこがあってさ・・・」
「じゃあ車で行きましょ?ね?」
「坊ちゃん?」
参ったな。お世辞にも口が回るタイプではない。が、天啓というべきか丁度いいひらめきが降りてきた。

「学校の友達に聞いたんだけどさ、その、ストリップ・バーで比呂美に似た子がいたとかいないとか。
で、もしかしたらって思ったんだけどやっぱりあーいうとこは、女性がいくと不味いでしょ。
俺も心細いんだけど、彼(丁稚)とだったら大丈夫かなって。
あ、もちろん入らないよ、入れないし。ただ近くの喫茶店とかで張ってたらいるかもしれないでしょ?
いや、いないと思うけどね。だから、万が一分の万が一だけど、イチオー行ってみようかと。
だから母さんはこないでね」

「・・・・・・」
眞一郎の長々しい話に呆気にとられた母だったが、比呂美を大事にしている眞一郎が
彼女の名誉を傷つけるような嘘はつかないと思ったのか、渋々といった感じで了承した。

役にたたない自転車は車で持って帰ってもらい、眞一郎と丁稚は夜道を歩く。
「でもまさか・・・いるわけないですよね?」
「・・・というか、あれは全部嘘」
「・・・?え、えぇー!?」
眞一郎を清廉潔白な正直者とも評していないが、あんな弁舌があるとは思わなかった丁稚が驚く。

「ははは・・・流石坊ちゃん。物語りの才がありますね」
「いやまぁ・・・うん。それはさておき」
「え。てことはホントに色町に行きたくて?・・・しょうがないっすねぇ。じゃあ今日はとっておきの・・・」
「あ、いや・・・じゃなくて」
とっておきの何なのか気になったが、もっと気になることを片付けておきたい。
「もし間違ってたら大変失礼なんだが・・・俺の勘違いだと思うし・・・非常に言いづらいんだが」
言葉をつっかえつっかえしながら、なんとか搾り出す。今ならまだ引き返せる・・・
そう、それに言ったところで俺はまたいらぬ混乱を作るだけ・・・

「おれ奥さんと寝てるんです」
「え?」

眞一郎が喉まで出掛かった疑問を押さえ込んだとき、丁稚の少年が心を読んだように言葉を発した。
「・・・って、言ったら信じます?」
「あ・・・いや・・・その」
言葉に詰まる眞一郎。

二人の仲を疑ったのは何も体臭だけのことではない。その服のよれ具合、汗や髪の微かな乱れ、
仕事とは別の目線の呼吸、そういった仕草がどこか親密なそれを思わせたのだ。
なにも街中をゆくカップルの交際度判定ができるわけではない。
ただ、日常ごく親しい間柄の人たちにも、今まで自分が見ていたのとは別の側面があるのでは、と思い始めたのだ。

記憶を辿れば、丁稚と母はよく一緒にいる姿が浮かぶ。
それほど親しいとも思っていなかったが、逆にそんな素振りもないのに妙に連携がとれているというか。
子の贔屓目もあるが、同世代の親に比べて、眞一郎の母はとびぬけて美しい。
これは授業参観なり、出入りする業者たちの密やかな話からも確信しているし、内心自慢でさえあった。
が、この丁稚は我が家と近しい付き合いをしてるとはいえ、そんな美人妻に対してなんら青い性の欠片も見せないのだ。
淡白といえばそれまでだが。

ただその推理は半端としても、車内の2人の雰囲気が若干怪しかったのが決め手だ。
以前の自分ならそんなサインは、朴念仁のように見過ごしたろうが、
愛子の痴態を見たあとだと、致した直後の男女の気まずさのようなものが、読み取れるようになっていた。
その代償は大きかったが。

「信じるよ、というかそう思ったんだし」
眞一郎は平静にいった。内心、そう穏やかでもないのだが、どこか諦めてる節があったのもある。
ああ、またオレの知らないとこであった話か、という諦めが。
「驚きました」
「ん?何が」
「普通は殴ったり、怒鳴ったり、怒ったり、誤魔化したりするかと思って。・・・お父さんに似てるんですね、やっぱり」
父に似ている。そういわれるのは少し嬉しい。
顔は母に似てるとたまにいわれるが、からかわれているようで不遜だったからか。
「実はちょっとカルチャーショックがあって。しかもそれで失敗したせいかな。どうすればいいのか分からないんだ」
眞一郎の困ったような物言いに丁稚も少し戸惑う。何か計算があって告白したわけではない。
ただ、疑われた以上、下手に勘繰られるよりは自分が罪を引っ被るほうに仕向けられれば、と思っただけなのに。

「オレが知らなかっただけなら、知ったところで、
それは今までとなにも変わってないってことだもんな」
「坊ちゃん・・・」
「母さんが浮気してるなんてかーなーり、ショックさ・・・でも、だからって」
みんな大切なひとたちだ。比呂美や乃絵、愛ちゃんや三代吉もそうだったのに。
でもあのバスケットマンは例外だな。オレから何もかも奪いやがってからに。
まぁでも、それがあいつの欲してるもので、得ようと努力してるなら譲ってもいい。比呂美も乃絵も。
「そんなことで俺はいちいち変わりたくない」
「あ、あの坊ちゃん、なんかヤケになってません・・・?」
青臭かった眞一郎があまりにクールになってしまったので気味悪くなる丁稚。

「オレには他人の恋路にわけいって止めたり指南したり、なんてとんと縁がないし、素質も無い
そんなやつが端から勝手気ままに何かいってどうなる。黙るのだって言葉のうちだ」
「坊ちゃんは何もできないひとじゃないっす」
「もちろん。でも、オレにはせいぜいこの穏やかな生活を守れるよう精進するのが限界で、
それにおれ自身、あくせく縛られて愚痴たれるのが割と好きなんだろう」
「愚痴るのがいいんすか?」
「いいんだ。いっちゃなんだが、母さんや比呂美は、きっと面倒ごとを愛してるんだろう、
そうと知らずゆえにか。
オレにとっては面倒は面倒でしかない。うまく収めるなんてできない。やっても掻きまわすだけだ」
「はは・・・まぁちょっとそうかも・・・」

「オレはオレの考える分かりやすい日常を見て、過ごして、守って、それが全部だ」
そこまでいって、父さんは丁稚と母さんがデキてるのを知ってるのだと気付いた。
丁稚と母さんはうまく隠したつもりだろうけど、全部知ってて黙ってる。
責めるような目つきも態度もせず、家族と部下を真摯に愛して、落ち着いた生活を守り続ける。
それが自分にあった生き方なんだ、というその考えはパズルの最後のピースがハマるようにしっくりときた。

そのとき、目を焼くような閃光と、地を揺るがす轟音が2人に向かってきた。
母さんが戻ってきたのかと思ったが、それは運送用の大型トラックだった。
キイィィィィィーーーーッッ!
「眞一郎!」
「乃絵・・・?」

トラックが道路の真ん中で止まると、ドアからなんと石動乃絵が出てきた。それも運転席側からだ。
厚手のコートと、右腕になにかおもちゃのような機械をつけているが変人だから気にしない。
「おまえ大型免許なんて持ってたのか?」
「そんなのいいから、早く乗って!湯浅比呂美の危機よ!」
女子高生が、雪道の無免許運転、恐れ知らずと責めるべきか、大した才能と褒めるべきか。
しかし、その顔には一点の悪ふざけのなく、真剣の一色だ。
「坊ちゃん?奥さん呼びますか?というか呼びましょう」
「だめよ!下手に動いたら殺されるわよ!」
「へ?な、なんすか?」

女子高生が‘殺される’なんていっても漫画も真似にしか見えない。だが眞一郎はそれを信じた。
「いったい何があったんだ乃絵?比呂美を知ってるのか?」
「いーかーらっ!早く乗っててばぁ!もう手遅れかも知れないのに!
お兄ちゃんがあの女を殺すかもしれないんだってばぁ!」
「な、なんかヤバイ事件ですかね?警察行きましょう?」

丁稚の提案には応えず、眞一郎はトラックの助手席に向かう。
「母さんにはストリップ見てたって、伝えてくれ!」
「ちょっと?ストリップ見に行く気だったの?」
乃絵が頬を膨らませて食いかかる。
「あー、そういえばいいとこあるって言ってたなぁ・・・。すまん、説明だけしてくれないか?」
丁稚の台詞を思い出して、逡巡する眞一郎。露骨に嫌悪の顔色をする乃絵。
「みないとどうせ信じないわ」
「おまえがいうかね、そんな人並みな解説を。いいから話せよ、全部信じるから」
どこか落ち着いた眞一郎に妙な違和感を覚える乃絵だが、
いわねば動かないようなのでここは折れる。
「どこから言ったらいいのか・・・」
信じるというからには、嘘八百並べようかとも思ったが、一分一秒も惜しいのでなくなく真面目に徹す

「プレデターっていう宇宙人、こいつらは狩りをすることが大好きなモンスターなんだけどね。
そいつが今、ユタニっていう会社、ほらたまに聞くあの有名なやつの。
そのプレデターとユタニの秘密軍隊が今、あっちの山の向うで戦争やってんのよ。
あ、プレデターは一人なんだけど。
で、仲間のプレデターが武器を奪われたくないから、助けにきたんだけど、
掟がどーやらかーやかいって、いきなり家に押しかけてきて。
お兄ちゃんに確かシンビオート?黒くて気持ち悪いネバネバの宇宙生物を合体させて、
それはプレデターじゃないんだけど。
お兄ちゃんはハイになって、仮面ライダーの真似するし。
あ、そうしないと私のコレ(といって腕のガントレットをかざす)、
が爆発するの。無理にとっても腕を切り落としても爆発するんだって。分かった?」

矢継ぎ早に捲くし立てる乃絵。傍で聞き耳を立てていた丁稚は呆れていたが、
眞一郎は内容をじっくり租借する。
「それで、比呂美はいつ出てくるんだ?」

思い出したようにハッとする乃絵。
「そう!プロフェッサー?お兄ちゃんを改造したプレデターなんだけど、そいつが見せてくれた映像に湯浅比呂美が映ってたの」
その言葉には強く反応する眞一郎。
「そこに偶然居合わせて、巻き込まれたってことか?」
「えっと、切れ切れでよくは分からないけど最初はそんな感じだった。
でも、プロフェッサーがいうには、なんかすごく仲良いんじゃないかって。
プレデターって種族は平気で人殺すくせして、友情とかを感じると凄く大事にするそうで、今一緒に闘ってるらしいの」
「比呂美VSプレデターってことか?」
「じゃなくて、比呂美&プレデターみたいな。いや、一緒には闘ってないんだけど、一緒にいるのよ今」

「じゃあアニキにそう言えばいいだろ。倒すのは比呂美じゃないんだし」
その言葉には頷きつつ、悩む乃絵。
「そうなんだけど・・・お兄ちゃんもプレデターになっちゃうかもしれないの」
暗闇を覗くものは注意しなければならない。何故ならば、暗闇もまたこちらを覗いているのだから、だっけか。
「湯浅比呂美がプレデターの仲間になったら、2人とも殺しちゃうよ、きっと」
なんか既に比呂美は、平気で人殺して喜ぶ怪物の仲間として話が進んでる気がするが・・・。

「分かった?信じる?信じなくていいから早く乗って」
「信じるよ」
眞一郎の言葉に目を丸くする乃絵と丁稚。その言葉は冗談めいた雰囲気は一切無く、清らかに真っ直ぐだった。
「じゃあ・・・!」
「だが断る」

「え」
一瞬、ノリ突っ込みかネタかと思ったが、車体から離れる眞一郎に乃絵は慌てる。
「ちょ、ちょっと!だから信じなくていいからっ」
「信じる。だから行かないんだ」
どういうことだ。湯浅比呂美の危機とあらば、色々厄介ごとを起こす彼が、なんか迷いもなく断ってきてるんだが。
「分からないの!?どうなってもいいの!?命の危機なの!」
必死に訴えるが、どこまでも眞一郎の顔は冷静そのものだ。
「分かるし、そりゃどうにかせにゃ、な事態だが俺には何もできない」
「え?ちょ、ちょっと坊ちゃん?行ったほうがいいですよ!」
乃絵の話は信じないが、緊迫した雰囲気に偽りはない。いま、ついていくべきだとは丁稚も思う。
「いや、俺がいってもまた困らせるだけだよ」
「んな弱気なっ・・・!」
「弱気じゃない。分かるんだ。俺に比呂美は救えない、まして4番など論外」

乃絵がようやく理解したように、重く哀しく彼を見つめる。
「眞一郎。いま行かないと、見つからないよ・・・?」
「もう見つかったよ。比呂美は御淑やかで人気者で綺麗な幼馴染み。だから俺は家で待ってる」
「そんな女いないじゃない・・・そんな女じゃないって知ってるでしょ!!」
乃絵の激昂も眞一郎は受け流す。それは馬鹿にするでも揶揄するでもなく、ただ淡々と自分の考えを述べているだけだ。
「俺には比呂美を助けられないんだ。
でも帰ってきたら、血で汚れたアイツと今までと変わらずに過ごしたいと思ってる」
「いま、必要なのは待つことじゃない!動くことよ!」
「俺は待つしかできない。動いても大事なものを置き去りにして、取りに行ったものだってあとで捨てちまう」

「違う・・・そんなの、眞一郎じゃない・・・雷轟丸じゃないよ・・・」
乃絵の目じりに熱いものがこみ上げる。そんな気がしたが、そこからは何も流れなかった。
悔しい。とても悔しかった。
裏切られたのでも、見捨てられたのでもない。
眞一郎は籠の中を選んだのだ。翼はいらない、と決めたのだ。
湯浅比呂美が好きだ、といってくれたほうがずっとずっとマシだった。
そんな風に思うときが来るなんで思わなかった。
飛ぶことを諦めたのでも、逃げたのでもない。そもそも飛ぶことに興味がないのだ、眞一郎は。

(バッチコイ!)

あのとき、地べたで自分を受け止めてくれた瞳はもう見えない。また、孤独になってしまった。

「分かってくれたか、乃絵?」
乃絵は応えず、助手席のドアを閉じると、ハンドルを回し、強引に元きたコースに戻っていく。
「いいんすか?」
あれほど大きかったトラックが、今は吹雪に包まれ、視界の遠く向うに消えていった。
「よくもないんだが・・・これが最善だよ」
哀しげに眞一郎が呟くと、つま先の方向を変える。
「で、さっきのとっておきだけどさ・・・」

「こんなとこで宇宙人を引っ掛けてるとは思わなかったぜ、流石富山の好色小町」
ヴェノム=石動純が地面に半分のめり込んだアームスーツの上から、舌を伸ばして比呂美に問いかける。
「そんなコスプレしてるひとよりはマシだと思うけど」
と強がったものの、内心はとびつきたい程嬉しかった。
疑問はつきないが、この状況で知った人間が助けに来てくれるとほど嬉しいこともない。
4番は伊達ではないということか。
「ははっ!なかなかイカした恰好だろ、ってうぉわっ!?」
足元の強化兵器がジャンプするように立ち上がると、純の片足を掴んで真上に放り投げた。
花火のように垂直に上昇して、その影はたちまち小さな黒点になる。
「砕けて燃えちまいなぁ!」
続けてアームスーツが背から煙を上げて空き缶サイズの弾頭を3発打ち出すと、
それが美しい放物線を描いて、鳥のように純目がけて飛んでくる。
一発でも喰らえば大気の塵となって富山の空と同化してしまうだろう。
「純君っ!」
比呂美が咄嗟に名前を叫ぶ。

「やぁばいっ!!」
空中で体を絞るように撓って最初の一発を紙一重でかわし、同時に両手首から黒い糸を放出した。
それで2発目と3発目を縛り上げてぶつけ、一編に爆発させると、ターンして背後の天空から一発目が戻ってきた。
超感覚─スパイダーセンス─で察知し、振り返って弾丸のように固めた糸を高速発射してそれも爆発させる。
「近すぎっ!!」
しかし爆風の衝撃で叩かれて、純の体は紙のように吹き飛ばされ、地面に埃を巻き上げて落下した。

「うわぃ!?」
慌てて踵を返した比呂美の鼻先に、後方にいたはずのアームスーツが降り立って視界を埋めた。
「ただの子どもにしか見えないが・・・あの化け物たちを惹きつける何かがあるのか?」
彼女の胴体をまるまる掴めそうな手の平が迫る。
「あ・・・ああぁ・・・う」
そのパワーとスピードを目の当たりにした比呂美は無抵抗しか最善の選択が浮かばない。

「ヴェノム・ウェブスロー!!」
そのとき、つんざくようなバイクのエンジン音が走ってきた。
体中に鉄や石の破片が突き刺さったままの黒い筋肉、赤い口の怪物純ヴェノムだ。
寄生体の一部を分離させて槍の形にし、それをアームスーツに撃ちながら向かってくる。
「効かん!!」
蚊が当たる程度にしか感じない鎧は、さらりと槍を受け、二の腕からグレネード弾を発射してくる。
「おれ様も効かん(当たらなければ)!」
純ヴェノムは雨粒を避けるような繊細なハンドル捌きでそれを潜り抜けると、
外れた弾頭が起こす爆炎を背に、天空に向かって高い稜線を描いてジャンプした。
「ヴェノム・トルネェエドッ!」
「ジャンプするだけか?」
上空の純に注意を惹かれる強化外骨格。
しかし、彼の腕から伸びた蜘蛛糸はバイクの車体に結ばれていて、振り子のようにその鉄の塊がアームスーツへ叩き込まれた。
「フン」
しかしアームスーツの腕がドリルのように回転すると、竜巻さながらのパンチをそれに打ち込む。
クレーンのように飛んできたバイクは中央から真っ二つに割れ、糸伝いに衝撃を受けたヴェノムはまた吹き飛ばされた。
それでも大地にペシャリと叩きつけられる寸前、猫のように身を返してからくも着地する。
「他愛ないわ」

ドウッドウゥッ!
そのとき、遥か離れた鉄塔の真ん中辺りから、ぶら下がったプレデターがプラズマキャノンを撃ち込んだ。
アームスーツのセンサーは一瞬で干渉波クローを展開して、電磁バリアーで光線を綺麗さっぱり消滅させてしまう。
「まだまだぁっ!」
ビームに注意が及んだその短い隙に、大地を滑るように駆けてきたヴェノムがマシンの太い足にスライディングをかまして、
巨大なボディを大地になぎ倒すことには成功した。
そのとき、プレデターやヴェノムさえ予期しないほうから攻撃が追加された。

「おおおあああぁぁぁっっっ!!」
その隙に比呂美が純の放った寄生体を固めた槍を拾って、背の低くなったマシンに駆け寄る。
無論、彼女の腕力では、その強靭な槍を以ってしても、頑強な装甲を貫けるわけがない。
が、そこから生えた電磁フィールドを作り出す幾本ものアンテナのひとつ。その根元に、ズブリと黒い槍を突き刺す。
ドグォオンッ!!
「づぁああ!!?」
プレデターのプラズマ砲を防いでいたシールドのバランスが崩れ、
コントロールを失った熱エネルギーが暴れて、丸太のように太いアームスーツの右腕を根元から千切れ飛ばした。
本体から切り離され、大地に投げ出された腕は、ミミズのようにのたうち回り、獲物を求めてあさっての方向を引っ掻く。

「ひぅっ!!?」
しかし、その瞬間比呂美はパイロットの放つ、視線だけで殺せるような凍る憎しみを装甲ごしに受けた。
「おっと・・・って!」
触れただけでミキサーのように獲物を分解する腕をヴェノムがよけてる隙に、
胴体部分から蟻の足のように生えた2本の腕、パイロット自身の腕が比呂美の顔を掴んだ。
「ふぐっ!」
錠を噛まされたようにがっちりと締めてくる腕を外そうと、もがく比呂美。
プレデターも下手にキャノン砲を撃てば彼女に当たるため、照準を定めようとして撃ちあぐねる。
「もらっていくぞ、この女」
ロケットパックがオレンジ色の炎を輝かせ、空気を震わす排気音を通して、
アームスーツの巨体がふわりと宙に舞い上がる。
「ふ、ふぐぅーーっっ!!」
ヴェノムもプレデターも空は飛べない。逃げの一手をかまされたら防ぐ手は無い。

「石動ヴェノム・ファングゥ!!」
が、背後から跳びあがった黒く巨大な牙を揃えた口が鰐のようにガブリと喰いついて、強化外骨格を逃さない。
「石動ウェブ・クラッシュ!!」
そしてヴェノムの全身を覆う寄生体を限界まで膨張させ、
自らを巨大な網に変形させてアームスーツの全身をグルグルに包み込み、空中で拘束してしまう。
バリバリバリバリバリィッ!!
アームスーツが装甲表面から高圧電流を放出して、ヴェノムを引き剥がそうとする。
「うえええっ、ぐぉおおっがが・・・!」
電気には耐性のあるシンビオートだが、あまりの熱にびっくりして、元の人型に戻ってしまうヴェノム。
それでも、その間に比呂美をパイロットの腕から引き剥がして、感電し炭の塊になるのを防ぐのは間に合った。
「きゃぁあっっ!」
落ちればぺしゃんこになってしまうという、高度に対する原始的恐怖で悲鳴を上げた比呂美だが、
美青年の面影がない純の首にしがみつくだけの冷静さはあった。
が、アームスーツは蜘蛛のように張り付く純から、比呂美を狙って手を伸ばしてくる。

「これはてめぇの女じゃねぇぇええっっっ!!」
ヴェノムがマシンの顔面に膝蹴りを刺すと、
右手首から蜘蛛糸を発射してアームスーツの胴体を縛りあげる。
さらに遠く鉄塔にいるプレデターに向かって自身と繋ぐように左手首からも蜘蛛糸を発射すると、
その怪物が横たわっている鉄柱へ幾重にも巻きつけた。
プレデターと純の視線だけが交わされ、生涯を寄り添った夫婦のように思考が通じ合う。
「死んでも振り落とされるなよ比呂美・・・・・・きばれマザーファッカアアッ!」
「カシャァアオォオエエエエエッッ!!」
プレデターの豪腕が柱に巻かれた蜘蛛糸をグイと掴むと、それを渾身の力で引っ張った。

プレデターの怪力がブラックホールのように鉄塔へアームスーツを吸い寄せられる。
純も糸が切れないよう、全身の筋肉の隅々まで力を漲らせて、寄生体と一体化する。
「俺の妹は富山一スウィイングウウウウウウッッ!!」
プレデターとヴェノムのパワーが合わさって、蜘蛛糸はバネのように撓んで収縮する。

「ううううううううううううううっっ!!!???」
比呂美は自分が回りすぎてバターになってしまうのではないかと考えた。
まるで洗濯機の中にいるような、この勢いなら自分の残像が見れるのではないかとさえ思った。
ジェットコースターのような振り回される遠心力で、純の首から引き剥がされてしまいそうだったが、
ヴェノムの首周辺の寄生体がガムのように彼女の腕をくっつけていたので助かっていた。

アームスーツは高い高い鉄塔の中間までその周辺をグルグルと回転しながら引き寄せられていく。
「キシャァアッッツ!!」
どちらからともなく合図の発した奇声。
蟻地獄のように鉄塔に向かっていくアームスーツがぶつかる直前に、
純の黒いボディがその身を離れて、宙に飛んだ。比呂美もその腕に抱えて。

「待たせたな・・・っておまえか」
一瞬、体にしがみついて腕に抱く感触から、妹を思い出した純だが、比呂美の顔を見て心底うんざりする。
一方、不覚にも声がよく聞こえない比呂美は、ヴェノムの裂けた赤い口と、牙のような白い目に、
その真っ黒い筋肉にお姫様だっこされて少し胸が高鳴ってしまった。

ゴガァラガアアンンッッ!!
耐震強度の保障された鉄骨が曲がるほどの衝撃で、アームスーツのボディが叩きつけられ、
鉄塔が貧乏ゆすりのようにブルブルビリビリと震動する。
この連携攻撃には強化外骨格も相当なダメージを受けて、動きが固まる。



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