新年度の始まり-5


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新年度の始まり-5


キィ…、扉を開けて部屋に入ると、
「あら?、お帰りなさい。勝手に中で待たせてもらっているわよ?」
盛り上がっている二人が目にしたのは、正座した眞一郎の母の姿だった。

「どうしたの? そんなとこに二人で止まって。比呂美ちゃん、ごめんなさい
 ね? 勝手に入って」
眞一郎の母は、普通に話している。
「な、何でここに…母さんが…」
かすれた声で眞一郎が聞いた。
「電話の後で用事を思い出して、ここが丁度通り道だったのよ。ついでに比呂
 美ちゃんを迎えようと思って帰りに寄ったのよ? どうかした?」
「い、いや。別に…」
「…」
眞一郎は何とか会話ができているが、比呂美には無理だった。まだ扉の前での
事が頭をよぎり、まともに"お義母さん"の顔を見れないでいた。
「迎えに、って?」
鞄を握り締めたまま眞一郎が会話を続けた。比呂美の様子が気になるが、今は
それどころではない、必死に口調を抑え、努めて冷静を装った。
「ほら、明日の話。朝から準備が必要だから、手伝ってもらいたいのよ。
 ついでに家に泊まればいいでしょ?」
「あ、そ、そうなんだ。比呂美、どうする?」
隣で硬直していると思ったが、会話の流れからして話かけざるを得ない。「頼
む!」と心で念じていた。
「あ、はい…。行きます…」
眞一郎の願いが通じたようだ。まず"いつもの比呂美"と言っていい声だった。
「そう、助かるわ。着替えて準備できるかしら? 私達は外で待ってるから」
「はい、そんなに時間はかからないですから…」
眞一郎は2人の会話にほっとしていたが、思わぬ指摘を受けてしまった。
「ところで…、いつまで手を繋いでるつもりなのかしら?」
「あっ」
「あ…」
そう、部屋に入ってから今まで、比呂美はずっと眞一郎の手を握り締めていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「仲いいわね? あなた達…」
「ま、まあ…」
母親の言葉に、目を合わせないで返事をする眞一郎は、さっきの事を何て言え
ばいいのか、ちょっと困惑していた。
「少しは話を聞いているけど、あんまり目立っちゃだめよ?」
「分かってるって」
比呂美の仕度が終わるまでの10分くらいの間、眞一郎は母親からの質問やら、
説教じみた言葉に、ほとんどの体力を使い果たしていた。

「お待たせしましたぁ。はぁ…はぁ…」
比呂美が少し息を切らせて、階段を降りてきた。私服に着替え、少し大きめの
バッグを持っている。
「ほら、しんちゃん。持ってあげなさい?」
「あ、ああ。比呂美、俺が持つよ」
「えっ、いいよ。そんなに重たくないし…」
一泊分の荷物はそれ程多くは無い。しかも、"何度も仲上の家にお泊り"してい
るから、慣れている重さだった。
「遠慮しなくていいわよ。しんちゃんは男の子なんだから、当然でしょ?」
「だって、はい」
眞一郎は比呂美の手からバッグを受け取った。
「あ、ありがと。眞一郎くん…」
「いいって」
目を合わせる二人に、冷静な声が降りかかった。
「あなた達…、いつもそうなの?」
「「え?」」
もう一人いることを二人はすっかり忘れていたようだ。
その後、比呂美は"お義母さん"と並んで歩いて、明日の準備について色々と相
談しながら、仲上家の玄関をくぐった。

4人での夕食は"以前"と異なり、和気藹々と様々な話をして、それぞれが楽し
い時間となった。食事の後、お茶を飲みながら"明日の集まり"について詳細に
相談していると、あっという間に深夜となっていた。
入浴を済ませて就寝する前に、比呂美が眞一郎に言った。
「今日、残念だったね?」
「明日の集まりが終わったら、な?」
「うん…。おやすみ、眞一郎くん…」
「ああ、おやすみ、比呂美」
キスはしなかった。二人ともそれで止められるとは思っていなかったからだ。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

その夜、朋与の携帯電話が鳴った。
「あさみ? 遅かったじゃない」
『ごめ~ん』
「で、何だっけ?」
『…』
「じゃ、オヤスミ~」
『待って待って! 仲上くんの話!』
「はぁ、頭はそれでいっぱいってことかな?」
『う…うん。ごはん食べても、お風呂入っても、そればっかり…』
「あちゃ~、時間が経ったら少しは冷めてるかと思ったけど。違うみたいね?」
『うん、落ち着かない。今日のこと色々思い出したら、もうダメ…』
「うわぁ」
『そんな言い方やめてよぉ。ねぇ? どうしよう?』
「考えるんじゃなかったっけ?」
『か、考えると、仲上くんの声が…』
「ああ、あの"告白"?」
『うん…』
「あさみに言ったんじゃないのは分かってるよね?」
『だって、もしって思ったら…』
「すごい妄想膨らましてない? ちょっと危ない感じ」
『うっ、だって、あんな風に言われたら…、朋与だったらどうなの?』
「あたし? そぉ~ねぇ…………」
『どお? きた?』
「やるじゃん、仲上眞一郎」
『でしょう?』
「あのねぇ…」
『どうしよう? どうしよう?』
「当たって砕ける?」
『ああぁ、今当たったら、絶対砕ける…、砕け散っちゃう…』
「はははっ、そうだねぇ」
『わ、笑うとこ? 今?』
「だって、想像できるじゃない? ごめん、比呂美がいるから…、って」
『…うん。……………』
「あっ、死んだ?」
『死にそうだよぉ…。そういう事言う?』
「ごめん、ごめん」
『ホント、どうしよう…』
「かなり敵は固いよ?」
『うわぁ、比呂美ってば強そ~。普通にレーザーとか反射しそう…』
「シューティングかっての! 違うって、あん時の事、覚えてる?」
『え? いつ?』
「ほら、あんたが祭りの後、教室で仲上君に話しかけてた時、比呂美が…」
『あっ…、思い出した』
「今思えば、あの二人が人目を気にしないのは、比呂美の影響だね?」
『そうかも…』
「あんたに真似、できる?」
『皆の前で?』
「そう」
『…する、かも』
「うわぁ、うわぁ。ね? ひょっとして本気モード?」
『…』
「あたしは何もしないからね?」
『うん、朋与には迷惑かけない、つもり…』
「つもりって何? つもりって?」
『言葉のアヤ?』
「あんた、比呂美にバラすよ?」
『アイス一本』
「随分と安い女だね? あたしって…」
『…』
「まぁ、それだけ余裕があれば、暴走はしないかな?」
『当たったら砕けるの分かってるから…、どうしよう?』
「そろそろ切ってもいい? 明日の服決めたいし、お風呂まだなのよ」
『さっさと入ればいいのに…。何してたの?』
「…電話…待ってたんですけど?」
『ごめん』
「背中がかゆい」
『ちゃんと洗わないとダメだよ?』
「切る」
『ああっ! 待って! 切らないで! 私を捨てないで!』
「俺には比呂美が…」
『ぐあぁ…………』
「あさみぃ、今度こそ死んだ?」
『ホント死にそう…。あっ、コレにしようかな?』
「ちょっと、相談しながら服選んでんの?」
『うん…。コッチもいいなぁ…』
「やっぱり切る」
『話聞いてよぉ』
「はぁ…。そういえば、メール読んだ?」
『読んだ…』
「比呂美、今日は仲上君の所に泊まるみたいだね…」
『二人はそこまで進んで…』
「はい、妄想はその辺までにして」
『は、裸エプロン…。うっ…』
「興奮すんな!」
その後、なんだかんだとあさみとの電話は長引いていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

翌朝、眞一郎の部屋。二日連続で起こしにきたのは、
「おはよ」
優しく声をかける比呂美。
「…」
「お・は・よ♪
「ん゛」
もそっと身じろぎするのを見て、ベッドに腰掛け、顔を近づける。
「お~は~よ~♪、しん♪いち♪ろう♪くん♪」
「ん~ん゛」
まだ起きない様子に、またもや大胆な行動に出ることにする。
「いたずらしちゃうぞ~♪」
甘ったるい比呂美の声。
「…」
無反応なので実行に移すことにした。
「えいっ!」
「んっ!…ん……ぷはっ…」
目を見開いたまま驚きつつ寝ぼけた表情を見て、朝の挨拶。
「おはよ~♪、眞一郎くん♪」
間近で頬を染めつつ上機嫌な比呂美の顔を見たが、返ってきたのは、
「…」
完全に目が覚めていないので、無言だった。
「ちゃんと起きた?」
「ん~? 比呂美?」
「うんっ♪」
がばっと眞一郎が抱き寄せる。背中に腕が回り、少しきつめの抱擁。
「えっ!? ちょっ!」
「比呂美ぃ~」
眞一郎はまだ寝ぼけていた。
「もう…、しょうがないなぁ~♪」
これ以上無いくらい甘ったるい比呂美の声が、朝日が差し込む部屋で響いた。

続く…よ?

END


-あとがき-
あさみのキャラは本編で描写がないので作ってみましたが、どうでしょう?
呼称も仲上くんになりました。微妙な変化ですが、ニュアンスが伝われば。
朋与の本心はまだ未定。話が進むと勝手に現れてくるでしょう。
基本的には先の話を考えずに、頭の中で自動的に動いている様子を文章に
してます。なので、自分でもどうなるかわからない…。
オチだけは作為的に話の途中で止める方向で。

さて、次は仲上家での"集まり"。新キャラを一人追加予定…。
 ありがとうございました。
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