新年度の始まり-6


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=注記:仲上酒造が誇張して描かれています。
=   これは、朋与とあさみが始めて訪問するから、です。
=   何もかも珍しくて大げさに感じている、と考えて下さい。
=5のあとがきで予告した新キャラは、ボツになりました。


新年度の始まり-6


がばっと眞一郎が抱き寄せる。背中に腕が回り、少しきつめの抱擁。
「えっ!? ちょっ!」
「比呂美ぃ~」
眞一郎はまだ寝ぼけていた。
「もう…、しょうがないなぁ~♪」
これ以上無いくらい甘ったるい比呂美の声が、朝日が差し込む部屋で響いた。

「ほぉ~らぁ~♪ 起きてぇ~♪ 眞一郎く~ん♪」
比呂美が自分の体を全て押し付けるようにして、眞一郎の腕の中でくねくねと
甘えるように暴れている。
「比呂美ぃ」
しかし、それを押さえ込むようにして、眞一郎の腕に力が入る。
「あっ、こらぁ♪ ダメだよぉ♪ 起きてぇ~♪ 起きてってばぁ~♪」
ますます声が甘くなる。"頬をすりすり"が追加された。
「ん~、比呂美を捕まえたぁ~」
完全に寝ぼけている眞一郎は、まだ夢でも見ているようだった。
「…」
比呂美の動きが止まった。
「放すもんかぁ~」
「うん、放さないでね…。私も…このままずっと…んっ…」
朝ごはんの為に起こしに来た事をすっかり忘れてしまったようだ。
1階から「二人とも! ごはん冷めるわよ!」の声がかかるまで、そのままの
姿勢で止まっていた。比呂美は大慌てで眞一郎を起こしてから、朝食をとった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「あっ! 来た来たっ! お~い!」
愛子が元気に手を振っている。
「よぉ、愛ちゃん!」
三代吉が駆け寄ってきた。
「遅い!」
「女の子を待たせるなんて!」
朋与とあさみは腕を組みながら、抗議していた。
「わりぃ、ちょっと家の手伝いを…って、何だか3人とも気合入ってんなぁ、
 一番は愛ちゃんだけど」
愛子、朋与、あさみは"勝負服だろ? それ?"な格好だ。春らしく淡い色使いが
多いが、どれも良く似合っていた。
「愛ちゃん、似合ってるよ~」
三代吉がだらしない顔で愛子に擦り寄っていく。
「はいっ! 全員揃ったから、行こう!」
愛子が先頭に立って歩き始めた。

(うぅ…、眠い…)
朋与は夜遅くまであさみの電話に付き合い、寝不足だった。少しだけ元気がな
いが、始めて眞一郎の家に行くのでそれなりに緊張していた。

(な、仲上くんのおうちかぁ…。部屋とか入ったり……うっ…)
あさみは違った意味で緊張していた。眞一郎の家には比呂美がいる。自分では
明確に意識してはいないが、ある意味"敵地"と言うこともできた。
しかし、昨日の会話を思い出してしまう。
(『当たって砕ける?』)
(「ああぁ、今当たったら、絶対砕ける…、砕け散っちゃう…」)
あさみは少ししか眠れなかった。昨日の今日で、いきなりお宅訪問である。
しかも、眞一郎の両親がいるであろう家に。
(ど、どうしよう?…)

三代吉が愛子にあれこれと話しかけて、それに答えている以外には会話がない。
朋与とあさみは何となく言葉少なに歩いていた。やがて、仲上の家が近づいた。
「ほら! 見えてきたよ! あれ! あの敷地全部が眞一郎の家だよ!」
愛子が指差す先を見ると、
「えっ…」
「うそぉ…」
始めて見る朋与とあさみは言葉を失っていた。
「やっぱデケェよなぁ、眞一郎の家は。ほとんどが酒蔵だとしてもなぁ」
「そうだね、アタシ達は慣れてるけど、始めてだと驚くかもね? どお?」
愛子が朋与とあさみに振り向く。
「…」
「…」
まだ驚いているようだ。
「でもね? 実際に眞一郎が住んでるのは端の方だから、全部が家じゃないよ?」
愛子の声が耳に届いていないようだった。
「はいはい、さっさと行きましょう?」
後ろに回りこまれて背中を押され、やっと2人が歩き出した。
(マ、マジで? こんな家だったんだ…)
朋与は聞いていた話で何となく想像していたが、それ以上の規模と重厚な作りに、
驚きを隠せないでいる。
(仲上くん、やっぱり、すごいなぁ…)
あさみの興味は家ではなく、眞一郎だった。やがて、4人は玄関にたどり着いた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

訪問客を迎えるため、玄関は大きく開かれていた。
「こんにちはーっ!」
愛子が大きな声で呼びかけると、
「あれ? 愛ちゃん? まだ早いよ?」
大きな木の衝立の上から、眞一郎の顔がひょっこりと現れた。
「何か手伝うことがあればって思ってね!」
「そっか…、ありがと。丁度良かったかも…」
そう言いながら眞一郎が全身を現した。
「あれ~? 今日は和服なんだ?」
「馬子にも衣装か?」
眞一郎は着物を着ていた。それを愛子と三代吉に指摘されたのだった。
「あぁ、これね? 一応着るみたいなんだよね、今日は」
背筋を伸ばしてきびきびと愛子達の方へ歩いてきた。
「玄関は靴でいっぱいになるから、皆の分は向うに置こうかな? うん。
 さあ、遠慮しないで上がって、こっちだから…」
眞一郎は勝手口の方へ案内した。その後、家の奥の方へ行き、
「比呂美ー、皆が手伝ってくれるってさー」
と、声をかけた。

振袖姿の比呂美が、襖の向うから眞一郎と共に何か小声で話しながらすすすと
歩いてきた。
「あれぇ? まだ1時間くらい早いよ?」
「比呂美ちゃん! やっぱり似合うね!」
「ありがとう、でも愛ちゃんも今日は可愛い服だね? あっ、朋与もあさみも、
 うん、いい感じだよ~」
比呂美は朝から上機嫌を継続中だ。穏やかな笑顔で淑やかな対応だった。いか
にも和服姿に合った声色だ。
「…」
「…」
朋与とあさみは、またも言葉を失っていた。
「どうしたの?」
小首を傾げながら比呂美が2人に近づく。
「あっ、うん。振袖、いいなぁと思ってね」
朋与はやっと我に返ったようだ。
「ちょっと、色々驚いちゃった…」
あさみが驚いたのは、眞一郎と比呂美の姿と、自分では言葉に出来ない二人の
一体感だった。比呂美へ話しかける時の動き、言葉、そしてそれに答える振袖
姿での仕草、佇まい。何よりも寄り添って並んだ時に眞一郎を見る瞳。
自分が羨望してやまないものが、目の前にあったのだった。
(あぁ、いい…それ……いいなぁ。うん…そう…それよ、それ)

「まあ、昼飯分は働かないとな? 俺や比呂美もそうだけど…」
「任せとけって、旨いもん食えると思って、朝メシ少なめにしてきたしよー」
「お前…、前にもそんなこと言ってたよな?」
「いいじゃねかよ…、そん時もちゃんと働いたろ?」
「まぁな、俺は三代吉と向う、比呂美は愛ちゃん達と母さんの方へ行ってよ」
「うん、眞一郎くん、またね?」
「ああ、後でな。じゃ、行こうぜ三代吉」
「おおっ! さあ、今日は何が食えるんだろうなーっ?」
「…」
眞一郎は三代吉を連れ、酒蔵の方へ行ったようだ。

「あっ! こんにちはぁ」
眞一郎の母へ気安げに声をかけたのは愛子だ。
「あらぁ、愛ちゃん。早いわねぇ」
着物姿で振り向いて笑顔を向けた。
「手伝いますよ! この2人も!」
「ありがとう、助かるわ。よろしくね?」
「はいっ」
「は、はいっ!」
必要以上に気合の入った返事は、勿論あさみだ。朋与は心配そうな視線を向け
ていたが、あさみは気付かなかった。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

仲上家での"集まり"が大広間で始まってから、30分くらい経過している。
眞一郎の父が上座に座って、訪問客と話したり、自らが動いて酌をしたり、普
段とは違う顔を見せていた。母親の方は基本的に料理を運んだりしているが、
訪問客との会話も多い。自然と比呂美に負担がかかりそうな状況だが、近所の
主婦達も"集まり"が始まった時点で手伝うようになったので、それ程忙しくは
なかった。結果的に、"特定の一人"の世話をするようになる。
「はいっ、眞一郎くん」
「おっ、ありがと。比呂美もなるべく食べなよ?」
「うんっ」
終始笑顔を崩さず、かといって大きな声で笑ったりはしていない。あくまでも
振袖に合った仕草は崩さなかった。しかし、きっちりと眞一郎の隣に寄り添い、
出来上がった料理を持ってきたりしていた。
上座で二人が仲良くしている姿は、とても微笑ましく訪問客の目に映っていた。

三代吉、愛子、朋与、あさみは、4人で上座に最も近い場所が割り当てられて
いる。振舞われている料理は、仕出しと思われる高級そうなものに、心づくし
の手料理が追加された、とても良い組み合わせだ。
「おおーっ、コレすげぇ旨いぜぇ~」
三代吉は上機嫌で食べていた。
「良くそんなに遠慮なく食べれるね?」
愛子が少し呆れ気味に話しかけるが、
「ん…んぐっ。え? だって、旨いぜ?」
「あのさぁ、周り見てみな? お偉方ばっかりだよ?」
愛子が指摘したのは、自分達と周囲との差だった。眞一郎の昨日の話では、大
した事無い"集まり"だったが、実際にはそれなりに地元の名士と言われている
お歴々が勢揃いしていたのだ。しかし、自分達は普通の高校生だ。居心地がい
いとは言えなかった。
三代吉以外の3人は、小さくなって少しずつ料理を口に運んでいた。
(ちょっと、何これ? 私達、いていいの?)
朋与も愛子と同じ様な感想を抱いていた。
(私も着物、着たいなぁ)
あさみは違う意味で食事が進んでいないようだ。周りなんて見る余裕はない、
眞一郎が昨日から気になって仕方ない状態が続いている。さらに和服姿を見て
からは、そちらばかり見ないようにすることで精一杯だった。

そんな時、眞一郎が自分の隣に戻ってきた比呂美と少し話し、その後に父親に
何か確認を取っていた。そして比呂美にもう一度何かを話すと、自分のお膳ご
と4人の前に移動してきた。
「や、お邪魔していいよな?」
「どうしたんだよ? やっぱ、オレらといた方がいいんか?」
「まぁな。あ、比呂美はそっちな? あと何を持ってくればいいんだろ?」
「いいよ、私が運ぶから。眞一郎くんは座ってて」
「ん~、分かった。じゃあ、頼むな?」
「うん。ねぇ? 朋与とあさみも少し、飲んでみる?」
「えっ?」
「え?」
「ふふっ、お試しだよ? お試し」
と、笑ってから比呂美が何かを取りに行ったようだ。
「眞一郎、アタシ達に気を使ったの?」
愛子が何かに気付いて質問した。
「ん? まぁ、向うだと窮屈で、人がいっぱい来るし。ここの方が気楽そうだっ
 たからね。やっと食べれるようになるよ。朝から動いていて、腹減ってるん
 だよなぁ」
そう言って、眞一郎はいつもの表情で、ほとんど手付かずだった料理を食べ始
める。その様子は三代吉と変わらない。
(ふ~ん、眞一郎もそういう事が分かって、できるようになったのかな?
 それにしても、これだけの人の前でよくもまあ、堂々としてるわね。
 どっちかって言うと、三代吉は馬鹿っぽく見えて、実は度胸があるのかな?)
愛子はそんな2人を見比べるようにしていたが、気付くと自分も普段の様な落
ち着いた気持ちになって、周囲があまり気にならなくなっていた。
「ん?」
よく見ると、三代吉の料理があまり減っていないことに気付いた。食べ始めた
眞一郎と同じくらいだ。
(え? 三代吉ってば食べてるフリして、騒いでいただけ?。アタシ達が緊張
 してるのが分かってたの? 眞一郎は三代吉に気を使ってたんだ…)

「お待たせ~」
比呂美が料理などを沢山持ってきた。
「朋与とあさみは、後でね? はい、眞一郎くん、これ」
「ん? さんきゅ。おっ、きたきた~。おい、三代吉。湯のみ出せよ」
「あ? まだお茶なんて飲まねぇぞ?」
「いいのか? "特別なお茶"だぞ?」
その口調で何か気付いた三代吉の表情が変わった。
「お? そうかぁ、"特別"かぁ。ちっと、もらおうかな?」
「ほれ」
「お、うんうん。確かに"特別"、だな?」
「だろ?」
眞一郎と三代吉は、何やらニヤニヤしながら"特別なお茶"と料理を交互に楽し
んでいた。
「ほどほどにね?」
比呂美がその様子を微笑んで見ながら、一応注意した。
「分かってるって。比呂美はやめといた方がいいよな?」
「うん、私は皆と話してるね?」
「了解。三代吉、もう少し、いるか?」
男同士で仲良く食べたり飲んだりしている。それを見てから愛子が比呂美に話
しかける。
「比呂美ちゃんも食べたら? 減ってないよ?」
「うん、これからやっとだよ~。愛ちゃん、どお?」
「そうだね~。何だか、すごいね? この"集まり"。ちょっとびっくり」
「え? そっち? お料理はどお?」
「あら、その話だったの? うん、おいしいよ。比呂美ちゃんも作った?」
「ううん、私は下ごしらえばっかり。"まだまだ"なんだってさ…」
「厳し~い」
「そうでもないけどね」
「眞一郎がいるから、耐えられる?」
「えっ? あ…あの……その…、えっと…」
言葉を詰まらせてしまう比呂美を見て、朋与とあさみも会話に加わってくる。
「せっかく振袖着てるのに~、いつもの比呂美になっちゃった」
「はははっ、ホントだぁ~」
「今のがどうして、"いつもの"私なのよ~」
これを機に4人にとって、ここがまるで"あいちゃん"にいる時のような調子で
会話が始まる。高校生らしい、騒がしい会話だ。
それを横目で見た眞一郎の目が少し細まる。リラックスして楽しげな比呂美の
様子に、安心したようだった。
時折眞一郎が呼ばれ、それに比呂美が付いていってその場にいなくなっても、
4人は緊張することなく、普段通りにしていた。楽しい時間はあっという間に
過ぎていく。二人が席を外している時に、眞一郎の父がやってきた。
「こんにちは。料理はどうかな?」
愛子が代表して応対する。
「とてもおいしいですよ! 今日はありがとうございます!」
「手伝ってもらったようだから、こちらがお礼する方だよ。家内がデザートを
 後で用意するから、食べ過ぎないようにしてもらうと有難いな」
眞一郎の父は、なるべく優しい口調になる様に気をつけていた。
「はい!」
愛子の返事を聞くと、眞一郎の父が一つ頷いて、他の訪問客へ挨拶に行った。

「そろそろお開きかな? 帰る人がいるみたいだ」
眞一郎が言うと、
「じゃあ、私はお見送りしなくちゃ。眞一郎くんはどうするの?」
比呂美が聞いてくる。
「俺も行くよ。皆はまだここにいてくれる? 母さんがお手伝いのお礼するっ
 て言ってたし。」
「わかった。ここでだらだらしてればいいのか?」
「それか、奥の居間でもいいよ。場所、分かるだろ?」
「ああ」
「片付けは?」
愛子が会話に加わってきた。
「そっちは大丈夫、近所のおばさん達がしてくれるって」
「いいのかなぁ?」
「ああ、気にしなくていいって」
それだけ言うと眞一郎は見送る為に玄関へ向った。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

招待客を見送って玄関の扉を閉めた後、二人は立ち話をしている。
「ふぅ、疲れたぁ」
「結構大勢きたね?」
「比呂美、お疲れさん」
「うん、眞一郎くんも」
「俺はまだ大丈夫だけど、比呂美は着替えるのか?」
「そうしようかな? デザート食べたいもん」
「なるほどね。じゃあ、先に居間にいるぞ。待たせない方がいいだろ?」
「うん、そうだね。後でね?……ん…」
周囲を見回した眞一郎が、軽く唇を合わせた。
「もう…、慌てないで?」
「簡単に言うなよ、比呂美だって…」
「あ~っ! 私のせいにした~♪」
「ははっ」
笑顔でしばしの別れを惜しんで、それぞれ元の比呂美の部屋と居間へ向った。

すっと、襖を開いて居間に入ると、少し油断していた4人が、
「「「「わっ!」」」」
びっくりしていた。
「はははっ、何でそんなに驚いてるのさ?」
眞一郎は笑いながら座った。
「あのなぁ、オレはこういうの慣れてないんだよ~。ちっとは分かれ」
「あれだけ食べておいて、良く言うよなぁ」
「まぁな」
「眞一郎、お茶飲む?」
何故かお茶担当をしている愛子が聞くが、
「紅茶を比呂美が入れるみたいだから、それを待とうかな? ケーキだから」
の回答に、
「ケーキ!」
いち早く反応したのは、あさみだった。
「あさみ…」
朋与は、夜遅くまで延々と相談しておきながら、ケーキに反応したあさみを少
し睨んでいた。しばらく5人で話していたが、あさみの視線はちらちらと眞一
郎へ向けられている。朋与は心配だった。
(この子、何かする気? まさか…ねぇ?)

そこへ、普段着に着替えた比呂美と眞一郎の母が、居間へやってきた。
「はい、遠慮しないで食べてね? 今日はお手伝いありがとう」
「みんな~、ケーキだよ~」
2人が座って、紅茶と一緒に配り始めたところで、眞一郎が立ち上がった。
「俺は着替えてくるから、先に食べてて」
「うん、分かった」
眞一郎が居間を出てから、遂にあさみが動いた。
「トイレ、借りていい?」
「うん、場所分かるよね?」
「大丈夫、一回借りたから…」
あさみも居間を出て行った。
(ま、ま、ま、まさか! あの子…)
朋与は大きな不安を感じていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

<サントラの"溢れ出る、気持ち"を再生しながら読むとアニメ風、かな?>
<上手くペース配分して遅めで読むと、いいところでサビになるはず…>

(どこかな? 仲上くん…)
朋与の不安は的中していた。あさみは眞一郎を探している。

(どこ? どこなの? 仲上くん…)
全身の神経を研ぎ澄まし、目で、耳で、肌で、眞一郎を探す。

(どこにいるの? 仲上くん…)
昨日、今日とずっと考えていた。体中を焦燥感が駆け巡り、自分でも抑えきれ
ないくらいだった。

(もう見ているだけじゃイヤ。もっと近くで…もっと近くに…)
視界に入ったり、声が耳に届く度に心臓がどきどきしていた。

(仲上くん…。私に笑顔を向けて欲しい…、私を見て欲しい…、私に…)
自分を抑える為、普段通りにしていたつもりだが、それが気持ちの暴走を無理
矢理押し込む結果となってしまった。

(もっと……もっと……近くに、一緒にいたい……)
今、眞一郎は一人。いいチャンスだと感じた瞬間、体が動いていた。

(あの時…そう、あの時から…、雪の降る日に見た時から…)
"当たったら砕ける"とか、比呂美の存在さえ頭にはない。今、あさみが感じる
のは、眞一郎を想うことの心地良さ、他は何もない。

(仲上くん! 仲上くん! 仲上くん!)
眞一郎を追い求めることだけが、全ての思考を支配している。

「あっ…」
廊下の曲がり角で眞一郎の着物の色がすっと消えた。全身は見えなかったが、
何度も見ていた色だ、見間違いはない。彼の父親の色とは全然違う。

あさみが突撃する。眞一郎を想う心が体を動かす、背中が見えた。
そのままの勢いで抱きついてしまう。
抱きつかれた方は、"何かとても軟らかい物"が押し付けられ、ぐにゃっとした
感覚に体が固まってしまった。

「好きなの!」
「えっ?」
あさみの気持ちが心臓の鼓動となって、背中に伝わっていく。


続き…読みますか?


END

-あとがき-
7話風に切ってみました。この辺りから本格的に朋与とあさみが主役のはず。
さて、次はどうなることやら…。

この後も比呂美&眞一郎のイチャイチャ描写+朋与とあさみの奮闘路線で。
 ありがとうございました。

 

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