ある日の眞一郎


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比呂美スレに来るのは初めてなんですが、
本スレで誘導されたもので……
お願い、石投げないで


ある日の眞一郎

 あわてて飛び出た脱衣所のドアごしに聞こえてきた小さな声。
その「ごめんなさい…」という消え入るような声を聞いた時、
眞一郎はただ無性に腹がたった。この家に来てからもうかなり
たつというのに、いつもおどおどと仲上家の人間に気を遣い、
同い年の自分にさえしばしば他人行儀な話し方をする比呂美。
早くに両親を亡くした娘をいたわるどころか事あるごとにつらく
あたる母の不可解な態度。そして何より、そんな比呂美を守って
やりたいと思いながら何もできない無力な自分への怒り。なのに
俺は、比呂美になんて言った?

「どうして謝るんだよ。謝るのは俺で! なのに、どうしてそっちが」

 ああ、最低だ、最低だ! 自分の不甲斐なさから
くるイライラを当の比呂美にぶつけるなんて!
 自室に返ってもスケッチブックを開く気にさえなれず、
しばらくベッドの上で天井を睨みつけていた眞一郎は急に
起き上がると階段を駆け下りた。あれからさほどたってないし、
比呂美はまだ風呂からあがってないはずだ。だから何だ?
俺はいったい何をする気なんだろう。

「ここはおまえの家だぞ。もっと威張ってろ!」

 そんなことを比呂美に言っても仕方ないことはわかっている。
それでも、それでも言わずにはいられない。宮殿を守る衛兵の
ように脱衣所のドアの前に座りこんでしばらくすると、風呂場の
戸が開く音がした。のぞいていると勘違いされても嫌なので、
背を向けたまま辛抱づよく待つ。カラリと戸を開けた比呂美が
立ちすくんだところで振り返る。

「あがったか?」
「うん……ごめんなさい、待ってるって知らなかったから……」
 また「ごめんなさい」だ。
「よし。じゃあ、もどれ」
「え?」
「いいから、ほら」
 薄い部屋着1枚の比呂美に触れないようにして強引に脱衣所へ
押し戻す。
「なに?……どうして?」
「やりなおしだ! 全部! やりなおし! いいか、おまえは
今から風呂に入るとこ。そこへ俺がノックもしないで戸を開ける。
そしたら比呂美は『キャー! エッチ!』と叫んで俺を一発なぐる。
わかったな?」

「え……だって……」
「『だって』じゃない! ほら、バスタオル持って! さっきのポーズで!」
 ぴしゃりとドアを閉めて息を整える。
「準備いいか? 開けるぞ? ほら!」
 ガラッ!
 途方にくれた顔で比呂美が立ちすくんでいる。
「ダメ! もう一回!」
 ガラッ!
「……えっち……?」
「ダメダメ! もっと元気よく! もう1回!」
 ガラッ!
「えっち」
 キャーが抜けてるし、なんだか笑ってるし……でも
「……まあ、いいか。そこではい、一発!」
「だって……」
「いいから!」
 比呂美はおずおずと手をあげると、ぽそっと頭にのせた。
「んんん…………まあ、いいか。今日は最初だからな。特別におまけだ。
でも次は許さないからな。バッチリ手形がつくような強烈なやつでなきゃ」
「次って……次があるの?」
「いや……ないよ、そんなの……もちろん、ないけど……」
「エッチ」
 微笑みながらドアをくぐる比呂美と入れ違いに眞一郎は脱衣所に
入った。考えていたのとはだいぶ違ったが、一応よしとしよう。
とにかく、そう、笑ってもらえたのだから……。
 さっきまでのイライラが嘘のように消えて、眞一郎は鼻歌を
歌いながら服を脱ぎはじめた。汗まみれのシャツを洗濯機に
放りこみ、ジーンズを脱いだ途端、
 ガラッ!
 びくっと振り向いたドアからのぞいているのは、いたずらっ子の
ような比呂美の笑顔。
「ちょ……ひろ……、なんだよ?」
「ほら、眞一郎くんだって、できてないじゃない。『キャー、
エッチ』でしょ?」
「そ……、そりゃ……、男はいいんだよ、男は!」
「ふふふ」
 あー、びっくりした。比呂美があんな風にふざけるとこ、初めて見た。
まさかもう開けないだろうな……。パンツ脱ぐぞ? 脱ぐぞ?
 ガラッ!
「キャー、エッチ!」
「はあ……? 何やってんだ、おまえ」
「う………」
 怪訝そうな顔の父の背中ごしに、必死に笑いをこらえている
比呂美の前髪が揺れている。まあいいか……まあいいや。
今日の君は笑っている。笑っているのだから。
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