お留守番


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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第41弾

『お留守番』



「お留守番お願いね」

ついさっき
そう言い残して比呂美は部屋を後にした
今日は休日、お昼時

午後からはふたりで見頃の筈の桜を見に
近所の公園に行く予定
本当はお弁当持参でお花見と行きたいところだが
人出の多さを予想してお散歩のみに計画変更
その代わりに比呂美の部屋での昼食会
何でもヒミツの新メニューのお披露目という事だった
のだが…

どんな顔をして比呂美を迎えよう?
しばらくの間時間が稼げた





「眞一郎くんは座ってて」

そんな比呂美の言葉を守らずに
何か手伝おうとしたのがまずかった
狭い流しに立つ比呂美
背後からフライパンの中を覗き込もうとした

「あー、見ちゃダメー」

おふざけ声で抗議しながら
比呂美が振り返った
心の準備のないままに
俺の眼の前には俺と見つめあう比呂美の顔があった
一瞬、あの日の記憶がよみがえる
祭りの前、海での出来事…

多分、比呂美も同じ事を思い出したのだろう
ふたりとも動きが止まってしまった
俺の眼の前
30センチに満たない位置に
比呂美の唇があった
俺の目は自然と比呂美の唇に引き寄せられる…

あの日の記憶
そして、今、この瞬間
比呂美はどう思っているのか?
望んでいるのなら…
でも、
望んでいないのなら…

比呂美の表情を窺う

俺が間違っていなければ
微かに怯えを含んでいるものの
どこか期待するような眼差しに見えなくも無い
だが…
あの日のことはどう捉えたらよいのか未だに迷う
比呂美に俺の想いを告げたあの日
聞かされた比呂美の告白
あんなに比呂美を想いつめさせてしまった
そんな想いつめから発生した比呂美の行動
それを基準にしてよいものだろうか?
そんなことを考えた数瞬…

バシャッ

音がした

ふたりとも音のした方へ視線をむける

「あ…」

一拍遅れて比呂美が呟く
シンクには牛乳パックが倒れてる
さっきまで比呂美が手にしていたものだ
分量を量るところだったのだろう
位置が低かったせいか
飛沫は殆んどなかったものの
横倒しになったパックの口から
白い液体がトクトクとこぼれ落ちる
シンク一面が白一色に染まった
スローモーションのよう…
すぐに直せば間に合っただろう
しかし
そんな簡単なことが思いつけなかった
おそらく比呂美もそうだろう
やがてパックは空になり
シンクの白さも引いてゆく
鈍い輝きがゆっくりとよみがえる

「牛乳… こぼれちゃった…」

比呂美がぽつんと言った
心ここにあらず
といった風だ

「…ごめん、脅かしちゃったかな…」

俺は起きた事を整理しながら謝った
俺の言葉に比呂美が振り向いた
再び視線が絡み合うと
ふたりともほぼ同時に一歩下がった

「あのっ、ごめんなさいっ」

「いやっ、俺こそっ」

お互いにチラチラと相手を窺う
相手は
何かを望んでいるのか…
それとも
望んでいないのか…
そして、自分は…

「いけない、牛乳無いと…」

比呂美はそう呟くとコンロの火を止めた

「あ、あのっ、牛乳っ、買ってくるから」

比呂美は顔を伏せたまま
突然そう告げると
トトッと俺の前から逃げ出し
机の上にあった財布を手に取り
再び俺の脇をすり抜け玄関へ向かった

我に返る

「あ、俺が行こうか?」

やっとそう言えたときには
比呂美はすでに靴を履き終えノブに手を掛けていた

「ううん、眞一郎くんはお客様だから… お留守番お願いね」

比呂美はずっとうつむきながらしゃべっていたが
なんとか最後に顔をあげてくれた
少し困ったような表情のままではあったが
一瞬目が合ったあとすぐにそらしてしまった瞳と
赤く染まった頬や耳元が
それは主に恥じらいのせいだと教えてくれた

「あ、ああ、気をつけて」

俺はなんとも締まらない声を掛けるのがやっとだった

「行ってきます」

比呂美の言葉の余韻が消えぬ間に
ドアの閉まる音が響くと室内は静寂が支配した





肉とタマネギ…
それに、これは… バターか?
香りのハーモニーが程よく空腹を刺激する
つくりかけの料理…
脇には料理用ワインのビンまで出番を待っている
自惚れでなければ俺のために頑張ってくれたのだろう
さっきまですぐ傍にいた少女の
愛情…
の残滓を感じる
この暖かな気持ち…
大切にしてやりたい…

比呂美の部屋
考えてみれば
主不在の比呂美の部屋に
俺一人で居るというのはなんとも
不思議な感覚だ
この空間
比呂美の居場所
そこかしこに比呂美の息遣いが残ってる

改めて見回す
白を基調とした家具類
薄いピンクのカーテンが目に優しい
ウチに居た時とは部屋の雰囲気がまるで違う
やはりこちらが比呂美にとって自然なのだろう
だとすると…

まだまだ課題は多い
考えなくちゃいけない事…
確かめなくちゃいけない事…

ま、それよりも
今はどんな顔をして比呂美を迎えるか考えよう








●あとがき

作者なりに13話直後のふたりの距離をイメージしたおハナシです。
過度なあせりや不安がなければ基本的にふたりとも奥手だと思うのですが…
いかがでしょうか?
ちなみにヒミツの新メニューはビーフストロガノフの模様です。
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