新年度の始まり-9


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=読む前の注意事項:ラストシーンで朋与のキャラが変わります


新年度の始まり-9


ぐいっと肩を掴まれ、体の向きが変えられた。
「!!!」

"あの目"があさみを見ていた。

「仲上くん!」


(あぁ…、"あの目"が、私を見ている、私を…)
思わず名前を呼んでしまった。自分の目を真っ直ぐに見ている"あの目"。
目と目が合った瞬間、何も考えることができなかった。

「…………」
次の言葉が出てこない。息が、胸が苦しい。両手を握り胸元へ添えた。
手が震える、掴まれている肩が熱い、唇も少し震え出す、目に涙が滲む。
ぼやける視界の向こう側に、眞一郎の"あの目"。

「どうした?」
あさみの様子がおかしいことを心配していた。強引に振り向かせたら、見る見
るうちに顔が赤く染まりだしたのを見て、さらに心配した。

「…ぁ………………」(あぁ…、仲上くん……)
眞一郎の優しい声が心に響く。懸命に言葉を紡ぎ出そうとする。
しかし、溢れる想いで呼吸すらままならない、声が出ない。

あさみの心が震え始めた。

「大丈夫か? おいっ! …………え?」
眞一郎は出来る限り手加減して肩を揺する。そして、あさみの変化に気付いた。

「…ぁ…………ぁ…ぃ………」(あぁ…、仲上くん……)
あさみは、自分が涙を流していることに気付いていない。
心を支配するのは、眞一郎への想いと"あの目"。
見られているだけで、自分に向けられただけで、何も考えられなくなった。
溢れる想いが全身を包む。どんな言葉でも言い尽くせない幸福感に浸る。

今、手を握られたら、今、抱き締められたら、今、キスされたら、あさみは…。

バタバタバタッ、バタバタバタッ、バタバタバタッ。
机に置かれた眞一郎の携帯電話が踊った。そちらに一瞬だけ視線をそらした後、
もう一度あさみの目をしっかりと見た。
「大丈夫…か?」
「うん、大丈夫。電話、鳴ってるよ?」
電話が鳴っていると思った瞬間に比呂美の顔が頭に浮かぶ、あさみが眞一郎の
呪縛から解き放たれた。震えている自分の声に驚きながら…。
「だけど…」
「大丈夫、電話の後に、話す……から…」
「…」
「早く! 出ないと!」
掴まれた肩を振りほどき、立ち上がった。その時、始めて自分が涙を流してい
ることに気付いて、慌てて拭った。
(私、こんなに…好きだったんだ? もう…止まらない…止めたくない…)
あさみは自分の気持ちの大きさ、強さを実感して、覚悟を決めた。

「え? 愛ちゃん? 今は…ちょっと…」
眞一郎の声が聞こえる。
(あれ? 比呂美じゃない?)
「いや……だから…、え? 何で? ………………分かった。
 愛ちゃんが話があるって、ほら」
「…」
あさみは何を言われているのか分からず、ぽかんとした顔。
「電話、出来るか? 話せないなら…」
「大丈夫! かして!」
一瞬で気持ちを入れ替え、眞一郎の手から携帯電話をもぎ取った。
「あ…」
いきなり元気になった様子に戸惑いを隠せなかったが、少し安心したようだ。
「もしもし?」
『あさみちゃん!? 今、ちょっといいかな?』
「うん…」
春休みに一緒に出かけて以来、たまにしか会えないがいい友達になっていた。
声を聞いてあさみは安心する。いつものタメ口になっていく。
『今、眞一郎と一緒なんでしょ?』
「うん…、そうだよ…」
『離れてくれる? 声が聞こえない場所まで…』
「え? どうして?」
『聞かれてもいいの?』
「ちょっと、待ってて…。…………仲上くん、ごめん、作業続けててくれる?」
あさみは眞一郎の返事を待たずに廊下へ出た。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「もう大丈夫…」
『あさみちゃん、眞一郎のこと、好き?』
心臓がどきんと跳ねた。
「…」
『アタシ、こないだ分かったよ? あさみちゃん、分かりやすいね?
 眞一郎ばっかり見るんだから!』
愛子は仲上家での"集まり"以来、あさみの事を心配していた。自分と同じ様に
暴走して、最悪の結果になった時、どんなに苦しいか知っていたから。
あさみに同じ苦しみを味わってほしくなかったのだった。三代吉にそれとなく
質問して、状況を掴んでいた。今日、2人きりになっていると知り、電話した
のだった。あさみが自分の携帯電話に出ないため、仕方なく眞一郎にかけた。
「でも…どうして? 今、一緒だって…」
『三代吉のこと、忘れてる?』
「あっ、ごめん…」
『別にいいけどね? 眞一郎しか頭にないんでしょ?』
「…」
『いい? はっきり言うよ?』
「うん…」
『聞く勇気、ある?』
「さっき、覚悟、したから、大丈夫」
『……そう…みたいね? 強い声だもん』
「…」
『じゃ、言うね?』
「覚悟できてる」
『告白してもムダだけど、告白した方がいいよ。言いたい事、全部言いな!』
「…」
『分かった?』
「あのぉ、無駄…って?」
『分かってるでしょ?』
「…」
『それでもいいと思って、好きになったんでしょ?』
「…」
あさみの中で"何か"が急速に消え去っていく…。
『あれ?』
「…」
『おーい、あさみちゃん?』
「愛ちゃん…」
『なに? 勇気出た?』
「か、勘違い、だったかも…」
『ハァ!? あっ!』
電話の向う側で、愛子が盛大にズッコケてます。どんがらがっしゃーん。
「だって、当たったら砕けるって思ってたけど、無駄って言われると…」
『あいたたたた…』
「愛ちゃん? 聞いてる?」
『ちょ、ちょっと待って…。いったぁ…。お尻、痛ぁい…』
「だ、大丈夫?」
『まだ痛いけど…、勘違い?』
「うん、こないだ仲上くんが比呂美をかばった時から、悩んでたんだけど、
 違ったみたい…。比呂美がいるから、断られるって思ってて…。
 私が仲上くんのこと気になってるのは確かだと思うけど…」
『…』
「仲上くんが私をどう思ってるか、全然考えてなかった、かも…」
『…』
「う~ん、どうしたらいいかな? さっき、目の前で泣いちゃったし…」
『…』
「愛ちゃん?」
『自分で何とかすれば?』
「えっ!? ちょっと、何か言ってくれても…。心配してくれたんじゃ――」
『話はそれだけ? 切ってもいいよね?』
あさみの言葉を遮って、愛子が少し冷たい声で返してきた。
「い、いや…。あのぉ…」
『だって、勘違いなんでしょ?』
「た、たぶん…」
『それなら話は簡単でしょ? さっさと言い訳でも何でもすればいいじゃん!』
「あ、愛ちゃん、怒って…る?」
『怒ってない! 呆れてるだけ!』
「あのぉ…」
『もういいかな? アタシ、忙しいから! 切るね? また店にきてねっ!』
「あ、愛ちゃん!」
『ツー、ツー、ツー……』
「………ま……また…ね…」
最後は電話に向って独り言になってしまった。

(う~ん…、勘違いだなぁ、たぶん。そういえば、仲上くんが私のこと、
 どう思ってるかなんて、考えもしなかったなぁ。だって、無駄だもんね?
 仲上くんは、本当に比呂美だけ見てるもんなぁ。私のこと見てないもん。
 でもなぁ……、さっきあんなに好きだったのになぁ…。なんでだろ?)
腕組みをしながら考え込んでいた。…きゅぅ…
(あっ、お腹、空いちゃたぁ。そうだっ! 言い訳考えないと!)
少し時間をかけて言い訳を作成してから、教室に入った。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「あっ! だいぶ終わったねーっ!」
あさみの明るい声が教室に響いた。
「えっ!? お前、さっき、泣いてたんじゃ…」
眞一郎は、ぽかんとした顔で作業の手を止めた。
「ああっ! またサボってる! 電話、ここに置くね?」
「どっちがだよ!って、いや…大丈夫…なのか?」
やはり先程のあさみの様子が頭から簡単には離れない。
「うん! 大丈夫! さっさと終わらせようよ!」
それを合図に、2人は作業を再開した。
「でも…」
「さっきはね? ちょっと昨日見た映画と状況が似てて、思い出し泣き!」
資料整理の手を休めずに、いつもの明るい声で涙の言い訳をした。
「はぁ? 思い出し泣き? 何だそれ?」
眞一郎はあさみの声の調子に安心して、こちらもいつもの調子を取り戻す。
「だってさぁ、すっごくいい話だったんだぁ…。帰ったらまた見よう…」
「…」
「何? 私の涙が見れて、得したでしょ?」
「そんなにいい映画だったのか?」
「まぁねぇ~。思い出させないで! 帰ってからのお楽しみなんだから!」
眞一郎と屈託なく話せることが、あさみは嬉しい。先程までの苦しみから解放
されると、こんなにも嬉しく楽しいのか、そう思っていた。
「でも、思い出しただけで泣くくらい、いい映画なんだろ?」
「だから! 思い出させないで! そんなに映画が気になるの?」
「いや…さっきの涙のことを考えてた。その………何て…言ったらいいか…」
眞一郎の声が少しだけ低くなった。
「私の涙なんて、どうでもいいって言うの? 失礼だなぁ、比呂美以外はだめ?」
…ずきん…自分で言っておきながら、何故か胸が痛んだ。
「そうじゃないって、さっきのお前は、違ったと思う…」
「ふ~ん、どう違うって?」
あさみはそれ程興味なさそうに、作業しながら聞いている。
「変な事言うって思うなよ?」
「もったいぶるなぁ…。大丈夫、聞いたげるから、言ってみれば?」
「俺の目を見て流れた涙、あれは違ったんじゃないか、ってね…」
「だからぁ、何が言いたいのか分かんないって!」

あさみは眞一郎が何を言いたいのか、想像もつかない。気楽に次の言葉を待つ。
しかし、その言葉は衝撃的なものとなる。

「あの涙は心を震わせた涙だと思った。心の底から溢れてくるみたいだった」
「…」
眞一郎の言葉は心に直接響いた。何故か全身が一瞬だけ震えた。
「だから、そんなにすごい映画なら、俺も見たいし」
「…」
「今度、俺にも教えてくれよ、その映画…」
「…」
あさみは勇気を出してちらっと横を見る。"あの目"が見えた。…どっくん…
慌てて視線を元に戻した。
そして、眞一郎の言葉を思い出す。自分でも勘違いだと思いそうになっていた
気持ちが、そうではないことを告げられてしまった。他でもない、当の本人に。

(仲上くん…、私………私……ありがとう………そんな事…言われたら…)
胸がドキドキした。本物の想いだった。嬉しかった。本当に嬉しかった。

しかし、何とか涙を必死で堪える。今、涙を見せてはいけない、そう感じた。
理由は自分でも分からない。まだ早い、そんな言葉が頭をかすめた。

「おいっ! 聞いてんのか? だから、変って思うなって言ったろ?」
「うん…、聞いてるよ? 大丈夫、そんな風に思ってないから…」
心が喜びに満たされ、眞一郎の言葉へ素直に答えることができる。嬉しい。
「まぁ、いいや。今度教えてくれよな? 今でもいいけど?」
「ダメ……今は…………まだ……ダメ。もう少し、したら。言う……かも…」
もう眞一郎を見れない、手元に視線を集中させている。
「ちぇーっ、ケチだなぁ…」
眞一郎の声が普段どおりになった。あさみは少しだけほっとした。
「ケチじゃない…、そんなんじゃない…」
今はまだ"その時"じゃない、そう言いたかったが、言えるはずが無い。
「そうかぁ? ま、いいけどね…」
自分の言葉がどんな影響を与えたのか、この時点では当然分かっていない。

2人は、そろそろ終盤に差し掛かってきた資料整理の作業に集中している。
作業がほぼ同時に終わりそうだった。あさみはあまり貢献してないが。
「ふぃーっ、終わったー!」
「うん…、私も…」
「角、揃えるぞ。俺がやるから、積んでくれ。うるさくても我慢な?」
「うん…、大丈夫…お願い…」
バンッバンバンバンバン!と分厚い資料を持ち上げ、落として角を揃えている。
2人の他に誰もいない教室に響き渡っていて、結構うるさい。会話はできない。

あさみが資料の具合を確認するフリをしながら、眞一郎の方を向いた。
その音に紛れさせるようにして、横顔へ呟く。

バンッバンッバンッダンッ!!「好き…」ダンッ!! バンッ! バンバンッ!

小さいが本心の告白は、騒音にかき消された。"まだ"眞一郎には届かない。
この時、あさみは自分の想いを、直接眞一郎へ向けて声に出すことができた。

嬉しかった。溢れそうになる涙を必死に堪える。

(今はまだ…伝えちゃダメ! 無駄になんてしたくたい!)

本気で決意を固めた。覚悟ではなく、決意。前へ進み、何かを得る為に。
困難であることは分かっていた。それが不可能に近いことも理解できる。
でも、諦めたくない。これほど強い想いをあさみは経験したことがなかった。
なるべく自分らしく、明るく、元気に、そう思っていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

学校からの帰り道、あさみはスキップするように歩いている。
比呂美を待つ眞一郎と別れて、一人での下校だ。朋与を待とうとは思ったが、
色々と考えたいので先に帰ることにした。

(実際には何をすればいいのかな?)
あさみは考える。
(その前に、これから大変だぁ…。がんばんなきゃ!)
空を見た、昨日とはまるで違う世界。何もかもが新鮮に感じられる。
(やれるだけやって! がんばって! そして!…………うまく…いくかなぁ?)
手に持った鞄の重さ、歩く度に足の裏に感じる体重、自分がそこにいた。
(あ~あ、ホントに大変だぁ…)
頬に、髪に、風を感じた。不安もあるがそれを上回るやる気で満ちていた。
(まぁ、どうせ私だしね? できる事はそんなにないし…)
やはり、不安が付きまとう。
(とりあえず帰ったら、何か食べながら考えよう! で、朋与に電話!)
あさみの考えは脈絡もなく、まとまらない。それでも考える。

その表情は、とてもいい笑顔で彩られていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「あっ、眞一郎くん!」
校門で待っていると、比呂美が駆け寄ってくる。
「おおっ、お疲れ!」
笑顔で軽く手を振って出迎えた。
「あれ? あさみは?」
眞一郎と居残りだったはず、朋与の質問は当然だった。
「え? 資料整理が終わったら帰った。腹、減ったって…」
比呂美と手を繋いでから、答えた。
「…」
嬉しくて無言で頬を染めるのを横目で見て、
「……はぁ、あの子は…」
溜息を漏らす。
「比呂美は大丈夫か? 途中でどっかに寄るか?」
「…」
笑顔で出迎えられ、いきなり手を握られ、労わりの声をかけられ、まだ無言。
「はぁ…、どうしてあたしの周りの女共はこうなんだか…」
溜息が続いてしまう。
「う~ん、どうすっかなぁ? どっかで買って食べるか? 俺が金出すぞ?」
繋いだ手から比呂美の暖かさが伝わり、機嫌がよくなっていた。
「きょ、今日は、眞一郎くんの家で、ご飯、でしょ? て、手伝わないと…」
やっとの思いで言葉を出すことができた。
「はいはい、それなら、あたしはここで」
さすがに2対1では分が悪い、二人の会話を止めたくても止められない。帰り
道を急いだ方がいいと判断した。
「あっ! 朋与っ! 今日も調子悪かったね? ちゃんと休んでね?」
眞一郎相手でなければ、いつもの比呂美だ。練習で調子が悪かったことを思い
出して念のために言っておいた。
「はいはい、言われなくても分かってるっつ~の! じゃね! ばいばい!」
朋与はさっさと駆け足で走り去っていった。
「ばいばい!…………し、眞一郎くん…帰ろ…っか?」
そして、二人きりの恥じらいモードにチェンジ。
「ほんと、比呂美はまだ慣れないのか? 俺に?」
その様子を見て、眞一郎がからかう。
「な、慣れないんじゃなくて………あ…あの…、ちょっと嬉しくて…」
眞一郎の顔を見れないくらい、喜んでいた。
「ん? 何で? 手なんていつも繋いでるだろ?」
よく分からなかった。
「そ、それもあるけど…、出迎えられると………嬉しくて…」
「………分かった」
眞一郎の表情が、悪戯っ子のようになった。
「え? な、何が?」
その横顔を見つめながら聞いた。
「へへっ、俺が先に家に上がって、勝手口で『おかえり』って言おうか?」
「…」
返事できない。
「ん?」
「…」
その代わりに眞一郎の腕を取り、密着した。全身で「当ててんのよ」する。
「ひっ、比呂美?」
「……うん、言ってくれると、すごく…嬉しい…かも…」
さすがに密着体勢では歩けない。しばらく、そのままで立ち尽くした。

家に着くと"お出迎え"が実行された。
「おかえり、比呂美」
先に勝手口から入って、笑顔で出迎える。
「ただいまぁ~♪ 眞一郎く~ん♪」
ほんの少しの時間差で"ご帰宅"。満面の笑み。
「あ!…っと」
誰も見ていないと思って大喜びで抱きついてくる比呂美を受け止めた。
その時、
「ん………まぁ、その…なんだ…。程々に、な?」
「相変わらず仲がいいわね? 但し、外 で は し な い で ね?」
眞一郎の両親に見つかってしまう。抱き合ったままでは、言い訳できない。
「「はい…」」
声を揃えて素直に返事をした。

その日、比呂美は張り切って夕飯の支度から片付けまで手伝うことになる。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
<サントラ"うねり/ねじれ/揺らぎ"を聞きながら読むと臨場感がUPします>
<上手くペース調整できれば、いい感じで空白行に。1分くらいがベスト>
<後半は少し早めに読んでください。 "SeLecT"もいいけど…、お好みで>

夜、朋与は自室で風呂上りにあさみと電話していた。興奮するあさみに対して、
「ふ~ん? 本気になっちゃたんだ?」
ちょっと冷たい言い方だった。
『あっ! またぁ、私なんかじゃ、どうにもならないって言いたいのっ!?』
「そうじゃないけど…」
朋与は手に持った小さい瓶を弄びながら電話している。
『私! 決めたの! 誰が何て言おうと、できるだけ頑張るって!』
「そう…」
『ああぁ…、朋与が冷たぁ~い…』
「そうじゃないっつ~の! だって、そんなの聞かされたって…」
『なに!?』
「あたしには何もできない、でしょ?」
『あっ、そうかぁ…。比呂美は親友だもんね? 朋与は何もできないか…』
「そ」
『う~ん、でもさぁ…。私、びっくりしちゃった』
「またその話? 何回目?」
『あぁ~ん、言いた~い! 聞いてもらいた~い!』
「ごめん、眠い」
『うう゛~』
「唸ってもだめ」
『うん! こっちこそごめん! オヤスミ!』
「はい、お休み」
『明日!』
「明日ね?」
ピッ、通話を終了した。


「そうか…、あさみまで本気か…」
電話での口調と明らかに変わった、冷たい平坦な声。
コトンと瓶を置いて、パソコンを起動する。画面を見ながら思いにふける。
しばらくすると、ログイン画面が表示された。

「……ちょっと効きが悪くなってきたなぁ…」
表情が失われ、目つきも変わる。
瓶のラベルには睡眠導入剤と書かれていた。
蓋を開けていつもの量を取り出し、コップの水と一緒に飲んだ。

「こくっ…んぐ………ふぅ…、最近…独り言も多い…な…」
上半身を反らし、椅子の背もたれに体重をかける。

「今日は、みんなに調子落ちすぎって言われちゃうし…」
両手を頭の後ろで組んで、天井を見上げた。
少しだけ目を細めた。

「仕方ない…か…、一日一食が限界…、何冊読んでも夜は眠れない…」
イガグリ頭事件以来、朋与は毎夕食後、トレーニングと称して外に出る。
そして、人気の無い場所で食べた物を吐いていた。
本来は食欲が無いのに、家族の手前無理に胃に押し込んでいのだった。
朝ごはんはダイエットで誤魔化している。
視線をログイン画面に戻す。

「あたしがこんなに悩むとは…、笑っちゃいそう…」
キーボードに手を添える。

「比呂美、あさみ、ああそうだった、愛ちゃんに…………石動乃絵…か…」
慣れた手つきで"特別な"アカウント名とパスワードを入力する。

「ホント、やるじゃん……………………私の眞一郎…」
ギリッと歯を食いしばった。

入力されたアカウント名は"本当の私"、パスワードは"I Love Shinichiro"。

「よぉし、明日からは、きちんと食べて…寝よう…」
朋与の瞳に暗い光が宿る、本気になった。

「今は、比呂美に…預けておく……………けど…………きっと…」
デスクトップ画面が表示された。壁紙は春休みに6人で撮った写真。


眞一郎と朋与以外の顔は、黒く塗りつぶされていた…。


続き…どうしよう? 少し不安…

END


-長いあとがき-
どうでしたか? あさみの告白。そして、悩み、苦しんで黒くなった朋与。
朋与は直ぐに元に戻るから、安心してください。ちょっと悩みすぎて一時的に
ああなっただけです。でも…、ですけどね。勿論、最後はハッピーエンドです。

今後は朋与とあさみの本気アタック開始…たぶん。それを比呂美と眞一郎が
ラブラブなままで状況を打破!な予定です。イチャイチャもさせます。
二人の絆と気持ちは一切ブレないので、ご安心を。

ついでに、ここまでの流れをおさらい。あさみは分かり易いので省略。
朋与の心情描写の布石(伏線?とか言われるけど)
新年度の始まり=無し。この時は続きがあるなんて思ってなかったので。
続き=あさみが声をかけても聞こえないが、比呂美だと反応するのを見てる。
   実はずっと前から二人を見ていたということ。
3=とにかく比呂美と眞一郎の関係を茶化し、追及する。
4=愛子に自分達がいつも二人のイチャイチャを見ていることを言ってしまう。
  あさみとの会話は全て自分の気持ち。
5=あさみとの電話で"当たったら砕ける"、"死んだ?"等、結果への恐れ。
6=あさみの暴走を不安に思う、つまり自分の気持ちの暴走への恐れ。
7=失敗したあさみに優しく接する、結果に対する恐れから同情。
8=何かと比呂美と眞一郎の会話を遮る。
9=下校時、二人のイチャイチャを見ていられない、逃げるように帰る。
  あさみの本気を聞いて、朋与も決心を固める。
  いつも明るいあさみは心の支えだった。それも失ってしまう。

5のあとがきで、"朋与の本心はまだ未定。先を考えずに書いている"は、
本当ですよ? 5までは、細かく散りばめておけばいいか?なノリでしたが、
6を書き終えた時点で方針を決めました。

尚、このお話はあくまでもラブコメ調SSです。描写範囲はそれを超えません。

 ありがとうございました。



― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―
おまけ
― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

=比呂美が眞一郎に抱きつくシーンをさらにバカップル化します。
=非現実的過ぎますが、ご容赦…
=書いて恥ずかしい…、読んでも恥ずかしい…
=警告!
="溢れ出る、気持ち"とか聞きながら読んではいけません!
=アニメ本編を大切にしましょう!


― ― ― ―<新年度の始まり-9 原文>― ― ― ―
そして、二人きりの恥じらいモードにチェンジ。
「ほんと、比呂美はまだ慣れないのか? 俺に?」
その様子を見て、眞一郎がからかう。
「な、慣れないんじゃなくて………あ…あの…、ちょっと嬉しくて…」
眞一郎の顔を見れないくらい、喜んでいた。
「ん? 何で? 手なんていつも繋いでるだろ?」
よく分からなかった。
「そ、それもあるけど…、出迎えられると………嬉しくて…」
「………分かった」
眞一郎の表情が、悪戯っ子のようになった。
「え? な、何が?」
その横顔を見つめながら聞いた。
「へへっ、俺が先に家に上がって、勝手口で『おかえり』って言おうか?」
「…」
返事できない。
「ん?」
「…」
その代わりに眞一郎の腕を取り、密着した。全身で「当ててんのよ」する。
「ひっ、比呂美?」
「……うん、言ってくれると、すごく…嬉しい…かも…」
さすがに密着体勢では歩けない。
― ― ― ―<新年度の始まり-9 原文ここまで>― ― ― ―

<さて、イチャイチャ開始です。恥ずかしくなったら読むのを止める様に>

比呂美は恥ずかしいのか、黙ったまま体をもじもじと動かしていた。
赤くなった顔を見られないように、眞一郎の肩におでこを当てている。

「比呂美…」
「…」
まだ、もじもじしている。比呂美は気付いていないようだ。
体を動かす度に"何か"がぐにぐにと形を変えていることを。

「ひょっとして、気付いてない?」
「?」
もじもじ、継続中。よって、ぐにぐに…。

「当たってる…ぞ?」
「!」
ぴたっ…、止まった。抱きついたまま、硬直。耳まで赤くなるのが見えた。

「…」
「…」
そのまま、二人とも一時停止。

「じゃあ、離れるか?」
ふるふる…、頭を少しだけ横に動かす。イヤ、と言っているつもりらしい。

「離れたくないの…か?」
こくん…、少しだけ縦に動かす。うん、だそうだ。

「まぁ、俺も離れて欲しくないけど…な?」
こくん…。

「でも、このままだと、困る…よな?」
こくん…。

「離して…いいか?」
ふるふる…。

「困ってる…よな?」
こくん…。

「どうしたら…いいかな?」
もじもじ、ハッ!、ぴたっ…。
 比呂美は「どうしよう?」を表現しようとして、もじもじ。
 また、当たってることが分かって、ハッ!。
 恥ずかしくて、ぴたっ…。

「俺にまかせる…か?」
こくん…。

どかっ、眞一郎が鞄を下に落とした。
「!」
びくぅ、ハッ!、ぴたっ…。
 比呂美はびっくりして、びくぅ。
 またもや、当たってることが分かって、ハッ!。
 恥ずかしくて、ぴたっ…。

「……比呂美、俺もこうしたいぞ…」
ぎゅうぅぅっ!

「!………んふぁ、眞一郎くん…」
思いっきり抱き締められて、色っぽい吐息。

「どうだ?」
こくん…。満足したらしい。


<<バ、バカ過ぎる!…………>>
<<本当はもっと書けるんでけどね、もう限界… orz>>

― ― ― ―<新年度の始まり-9 原文再開>― ― ― ―
しばらく、そのままで立ち尽くした。
ツールボックス

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