true MAMAN 私が怒ってるのは・前編


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 4時限目である。外は朝からの雨が勢いを弱め、それでも止むことなく降り続いている。
空は濃い灰色、黒板に目を向ければ英語のグラマー、どっちを向いても眠くなる。
 三代吉は同級生達の顔貌を見回すことにした。睡魔との闘いに苦戦する者、既に
敗北を喫している者、機械のようにノートを録り続ける者。各々が各々らしい過ごし方を
していた。
 頭に何かが当たった。三代吉はもう一度周りを見渡すと、黒部朋与がこちらを見ていた。
 足下に落ちた紙を拾い上げ拡げて見る。紙には「比呂美と仲上君何かあったの?」と書
かれていた。
 もう一度朋与を見る。目配せで合図してきた。合図のままに眞一郎と比呂美を見る。
 一見いつもの光景だった。比呂美は授業に集中し、眞一郎は時折比呂美の事をチラチ
ラと気にする。だが、言われて見れば今日はいつもと違った。
 眞一郎はほとんどずっと比呂美だけを見ていて、授業はほとんど聞いていない。普段は
授業中に何度かは眞一郎に視線を返す比呂美が、今は視線を意識的に無視するかの
ように前だけを見ていた。
 朋与に視線を戻す。
(変でしょ?)
(変だな)
(何か知ってる?)
(いや)
(役立たず)
(いやいやおいおい)
 目の動きと表情だけでこれだけの会話をした後、三代吉はもう一度噂の2人を見た。
(昼休みに訊くよ)
 朋与に小さなジェスチャーで伝え、会話を打ち切った。


「比呂美、お昼食べよ」
 昼休みになると、朋与が待ちかねたように席にやってきた。
「うん」
 比呂美も弁当箱を取り出す。
 天気が天気だけに、学食に行き、弁当を拡げる。
「いつもおいしそうよねぇ」
「そう?」
「ね、たまには仲上君のお弁当も作ってあげてるの?」
「え?してないよ、そんなこと」
「そうなの?でもさ」
 朋与は声を低くした。
「時々は泊っていくんでしょ?そういう時のお弁当はどうしてるの?」
 公然の秘密とはいえ、さすがに校内で大声でする話題ではない。
「止めてよ、こんな所で」
 比呂美は少し不機嫌そうに顔を背けた。朋与がすかさず畳み掛ける。
「仲上君と何かあったの?」
「・・・・何かって、何?」
「どーも彼の話をしたくなさそうに見えるのよねー。喧嘩したんでしょ?」
「・・・・朋与、最近性格悪くなった」
「観念なさい。で、何があったの?馬も食わない夫婦喧嘩、聞いてあげるわよ」
「朋与・・・・それを言うなら犬」


 舞台は前夜の比呂美のアパートに遡る
 眞一郎と比呂美は夕食を食べた後、借りて来た映画を観ていた。
 比呂美は部屋着に着替え、眞一郎も制服は脱いでいる。
 二人並んで画面を見る。自然に、眞一郎の手が比呂美の肩にまわされた。
 比呂美が身体を寄せてくる。眞一郎が比呂美を見ると、比呂美も眞一郎を見つめていた。
 すっかり慣れた手つきで比呂美の眼鏡を外し、顎を軽く上げ、唇を重ねる。ゆっくりと
離れ、お互いに少し気恥ずかしげに笑う。
 もうこの甘ったるい空気も日常になりつつあった。
 眼鏡を外した比呂美は、少し潤んだ目で眞一郎を見つめていたが、不意に悪戯っぽい
笑みを見せて、質問してきた。
「ね、最初にキスされた時、どう思った?」
 眞一郎の心象風景が花咲き乱れる丘から一気に剣が峰に変わった。思わず比呂美の
顔を見直す。
(なんで!?どこで愛ちゃんのことを!?)
 三代吉の顔が脳裏に浮かんだ。あの野郎明日どうしてくれよう。
 幸い、比呂美は怒ってはいないようだった。この1年間以上の時間が比呂美に自信を与え
ているのだろう。もう過去の事故みたいなキスなどで動じないだけの積み重ねがあった。
「いや、どうって・・・・急だったし、ただびっくりしちゃっただけだよ。予想もしてなかったし」
「なーんだ、少しは嬉しいとか思わなかったの?」
「喜んだって・・・・まさか、俺の事そんな風に思ってるとは思わなかったし」
「えっ?」
「本当だよ。俺もそんな風には見れなかったし、その・・・・」
「・・・・誰のこと、言ってるの?」
「え・・・・愛ちゃんの事じゃなくて?」
「愛ちゃん!?なにそれ!?」
 眞一郎はここで初めて自分のミスに気がついた。
 比呂美とのファーストキスも比呂美からしてきたのだ。
 ただ、比呂美の場合は意外ではあっても、シチュエーションも、タイミングも最高で、
「された」という感覚がなかったのだ。
「愛ちゃんがどうして眞一郎くんにキスするの?ねえどうして?」
「いや、その、色々な事情があってね・・・・まだ比呂美がうちにいた頃の話だよ」
「じゃあ私より先なの、愛ちゃんの方が?」
「で、でも俺はそんな風に見てなかったんだって!ホントだよ」
「その頃だったらもう愛ちゃん野伏君の彼女じゃない。何してるの、もう!」
「だから三代吉にも謝ったよ。もう事故みたいなものだってば」
 プイッ、と比呂美がそっぽを向く。ふくれっ面も可愛い。
「そりゃ、その頃はまだ私と付き合ってるわけじゃないし、怒る筋合いじゃないのかもしれ
ないけど。でもなんだか面白くない!」
 あまりにも攻撃されて、眞一郎も少し反撃したくなってきた。大体、あの時期は比呂美は
4番の事が好きなんだと思っていたんだぞ。比呂美ほどじゃないが、俺だってそこそこ
参ってたんだ。
 比呂美の怒り方がなんとなく愛らしいため、少しくらいならやり返してもいいような気に
なっていたかもしれない。
「不可抗力だよ。昔の話持ち出すなら・・・・お前だって、その・・・・4番と――」
 二度目のミスだった。
 しかも、今度のはより深刻だった。振り向いた比呂美の顔が蒼ざめていた。
「なに・・・・それ・・・・。私、4番とは・・・・何も・・・・」
「あ・・・・・いや・・・・」
「・・・・帰って」
「比呂美――」
「帰って!」
 制服とカバンを投げつけられ、眞一郎は追い出されるように部屋を後にした。携帯にかけ
てみたが、出てくれなかった。


「ア、ホ、か、てめえは」
 話し終わっても、三代吉はしばらく無言だった。それから顔を目一杯言葉がこれだった。
「俺が湯浅にそんな事チクるわきゃねえだろ!考えりゃわかんだろうが!」
「いや、まあ、その、・・・・悪かった」
「で、その後4番の話ってなんだそれ?わざわざ喧嘩売ってどーする気だ?」
「・・・・売り言葉に買い言葉って奴で」
「買うな、そんなもん!とっとと謝って来い」
「え、あ、でも、なんて言えば――」
「土下座でも何でもして許してもらわんかい!とっとと行け!」


 同じ時刻にほぼ同じ内容の告白を聞いたもう一人の人物は、なだめる事に腐心していた。
 朋与の前にいる比呂美は、淡々と話を進めていた。時折笑みを浮かべながら、些末事
のように話していた。
 だが、朋与にはわかった。この顔貌になった時の比呂美は危ない。
「いや、でも、ほら。売り言葉に買い言葉ってのもあるし、仲上君も本気で疑ってたわけ
じゃないよ」
「うん、わかってるよ。ああいう時って、つい心にもない事を言っちゃうのよね」
「そうそう、そういうものだって」
「でも、普段言わないように気をつけてることがつい出ちゃうものでもあるのよね」
 にこやかに比呂美は付け足した。
 ――仲上君早く謝りに来い。
 朋与の願いが通じたか、眞一郎が近づいてくるのが見えた。朋与の視線に気付いて、
比呂美も眞一郎を見つける。表情が険しくなる。
「よ、よう、比呂美――」
「そうだ朋与、今度の練習試合の先発なんだけどさ」
「あのさ――」
「一度三条さんを試してみたらどうかと思うの。あの高さは大きな武器だわ」
「えっと、比呂美、その話は後でいいから・・・・」
「午後の練習で早速フォメの確認したいの。もう少し付き合ってよ」
「・・・・比呂美!」
 眞一郎が語気を強めた。食堂にいた他の生徒も気がつく。
「せめて話くらいは聞いてくれよ」
 比呂美は眞一郎に顔を向けると、にっこりと微笑んだ。
「話なんか何かあったっけ?」
「いや、だから、昨夜の・・・・」
(昨夜!?)(昨夜って言った)(昨夜なのか・・・・)
 昨夜、と言う単語に辺りが一瞬騒然となる。朋与は天を仰いだ。
「ああそのこと?別に気にしてないよ。お互いまだ付き合う前の話だし、あの頃はちょっ
とした誤解もあったもの。仕方ないよ」
「・・・・4番との事疑ったのは悪かったよ、謝る」
「私が怒ってるのはそこじゃない!」
 比呂美が爆発した。乱暴に席を立ち眞一郎に詰め寄る。
「眞一郎くん、何にもわかってない!私がどうして・・・・」
 比呂美は首を振った。
「もう・・・・いい」
 そう言うと比呂美は食堂から出て行った。朋与が2人分の弁当箱を持って追いかけていく。
 残された眞一郎は呆然と見送っていたが、やがてその後を追うように食堂から出て行った。
 食堂では、3人がいなくなると同時にこの話題で持ちきりとなった。


                      続

ノート
おかしい・・・・こんな深刻な喧嘩を書くつもりなかったのに・・・・
三代吉は愛子と眞一郎のキスについては当たり前のように知っていますが、Amour~の三代吉は知らないままです。
比呂美はアニメの性格に忠実なら、一度爆発したら最後まで言う事言い切りそうですね。本文みたいに途中で切る事はないと思います。
そこは眞一郎との交際で少しづつ変化したと思ってください。
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