true MAMAN特別編・こんな想い出もいいよね~三日目・復路~


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「……あった」
 眞一郎はショーケースを見て呟いた。
 熊本城下の土産物屋で、ついに眞一郎は自分の希望に叶う品を見つけたのである。
 青磁ではなく白磁だったが、細やかなフルーテッドが入ったペンダントで、白地に椿の
花が描かれたデザインは、眞一郎から見て、旅館で見たペンダントよりむしろ比呂美には
似合ってるように思える。
 問題は……
「高え……」
 値段は旅館で見たものよりはるかに高かった。いくらなんでも予算オーバーだ。
「でも、これなら比呂美にも……」
 簡単には諦めがつかない。
 あまり比呂美に何かをプレゼントしたことはない。バイトもしていない高校生では資金
力に問題があるし、比呂美もそれをわかっているから、何かを欲しいとは言わない。誕生
日も安物のマグカップを揃いで買っただけだ。
 だが、昨日のキーホルダー。あんな安物でもあんなに喜んでくれた。口には出さなくて
も、何か想い出に残るようなものが欲しかったのだろう。そして眞一郎は、何か想い出に
なるような、出来れば身につけていられるものを上げたいと思っていた。
「よく似た別のものがないかなあ」
 口に出してそうは言ったが、それがあるなら今までに見つけている。まして、あのペン
ダントを見たあとではなにを見ても見劣りした。
 そこへ
「眞一郎、さっきから何見てんだ?」
 三代吉が声をかけてきた
「ん?このペンダントか。ああなるほど、湯浅に似合いそうだな」
「うん……」
「しっかし高えなおい。お前買えるのかよ?」
「………無理」
 その返事を聞いた三代吉はほんの数瞬考える仕草をしたが、すぐに
「金、貸せるぞ」
 と言った。
「え?でもお前、ポーカーで…」
「昨夜取り返した。それどころか勝ち越した。今の俺は家出た時より金持ちだ」
「……」
「他人の、それも賭けで儲けた金で彼女のプレゼントなんか買えるか、か?だがな、こんな
あぶく銭持ってても碌な使い方しねえよ。だったらこれが一番ましな使い途だ。大体、やる
とは一言も言ってないぜ?帰ってから返してくれりゃいい。どうだ?」



「比呂美」
 呼ばれて比呂美が振り返ると、眞一郎が立っていた。
「眞一郎くん、どうしたの?」
「あの…これを受け取ってくれ」
「これ…?」
 きれいに包装された、細長い箱を受け取る。
「…開けてみてくれないか」
 包装を丁寧に剥がし、箱を開ける。
「…これは?」
「似合うかな、と思って」
「高かったでしょ、これ?」
「……気に入らなかった、かな?」
「……ううん、うれしい」
 心の底から幸せそうに比呂美は呟き、プレゼントを両手に押し抱いた。
「よかった…旅館で見てた奴とは違うから、ちょっと心配だったんだ」
「え…もしかして、これの事?」
 そう言って比呂美は、バッグから眞一郎からの贈り物と同じような、細長い箱を取り出した。
「え?……それ…買ってたの…か?」
「うん、でも、ううん。これは自分に買ったんじゃないの」
「じゃあ…なぜ…?」
「これ、おばさんに似合うかな、と思って」
「母さんに?」
 言われて眞一郎はペンダントを思い返した。確かに、比呂美には落ち着きすぎたデザインだが、
お袋になら――。
「私、まだおばさんには何も贈った事が無いの。だから、これを見た時、これだ、と思ったのね」
「そっか、そうだな」
「おばさん…気に入って、くれる…かな……?」
「絶対に気に入るよ」
「本当?」
「俺が保証する」
「よかった……」
 眞一郎はこの愛しい人を優しく抱き寄せた。



 帰りの市電では、朝と違って座ることが出来た。眞一郎と比呂美、朋与とあさみが向かい合って
座り、三代吉は通路を挟んだベンチ席に座っている。
「比呂美、疲れた?」
 眞一郎が訊くと、比呂美は
「ううん、平気」
 比呂美が微笑む。夕陽を浴びたその横顔は、神秘的なまでに美しくて……
「三代吉、席替わってくれ」
「え?なんだ?」
 意味のわからないままの三代吉と席を替わると、眞一郎はカバンからスケッチブックを取り出した。
旅先でいいモチーフがあったら描き写そうと思って持ち歩いていたが、これまでほとんど描いていな
かったものである。
 だが、これこそが。
「やだ、眞一郎くん」
「自然にしてて、比呂美」
 鉛筆を走らせる。事情に気がついた立ち乗り客が、二人の間に入らないように場所を開ける。
 色鉛筆を使い分け、素早く、しかし優しく線を重ねていく。比呂美は自然に見せながら、極力動か
ないようにしていた。
 やがて眞一郎が満足したように笑顔を見せ、
「出来た」
 と言ってスケブを表に返した。
 窓からの夕陽を浴びながら、静かに佇む少女。
 色鉛筆のみの簡単なスケッチだが、モデルに対する優しい視線が画面全体に溢れていた。
「これ、上げるよ」
「ありがとう、大切にするね」
 比呂美は絵を愛しそうに見つめながら、こう続けた。
「今回の旅行、たくさん写真撮ったけど、でも――
「こんな想い出の残し方もいいよね」


                         了


ノート
ペンダントの伏線、いかがでしたでしょうか?一日目の時点で予想してた人いるかな?
ペンダントに描かれた椿はソウルイーターの名塚さんの役にもかけていますが、熊本市の市花でもあります。比呂美にも似合いそうでしょ?
ラストの眞一郎の絵の構図、朋与の席から正面の構図で描くか、本文のように夕陽を構図に加えて横からのアングルにするかで悩みましたが(1時間以上悩みました)、絵本作家志望なら風景も含めて描くだろうと思い上のようになりました。
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