新年度の始まり-16


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=最終回です


新年度の始まり-16


自宅の台所で、眞一郎は掻き込むようにお茶漬けを食べていた。
「どお? おいし?」
比呂美はテーブルの対面に座り、微笑んでその様子を見ている。出かける前に
栄養補給が必要だと言って、有り合わせで作ったものだが、食べる勢いを見て
いると充実した気持ちになっていた。
「んぐ…………うん、旨い、んぐ…んぐ…んっ…」
短い返事の後、食事を再開。
「今日も、こっちでごはん食べるから、後でアパートまでお願いね?」
眞一郎の帰りをここで待つつもりらしい、その"意味"をお互いが認識していた。
「…んぐ…ん…………んぐっ…、ふぅ、よし!」
食べながら頷く。そして、"元気"をもらったことを示すように気合を入れる。
「眞一郎くん…」
信じてはいるが、やはり心配だ。恋人(比呂美「きゃ♪」)を見つめた。
「…」
何も言わず、笑顔を見せる。
「うん」
比呂美も笑顔で応える。


「行ってくる」
「うん、いってらっしゃい♪」
眞一郎は普段着に着替え、勝手口から自転車で出かけていった。見送った後、
台所に戻ると声をかけられる。
「また、しんちゃんに待たされてるの?」
眞一郎の母だった。
「あ、えっと…」
「今度は、何?」
「あ、あの…」
説明できない。まさか「眞一郎を好きな女と話しに行った」とは言えない。
「まぁ、言いたくないならいいけど。丁度いいわ…。手伝う?」
「はい…。今日もこちらで夕飯を…」
「もちろんいいわよ? じゃあ、そっち、お願いね?」
「はいっ」
しばらくの間、2人は黙って夕食の準備をしていた。

「しんちゃんは、あなたを待たせてばっかりね?」
突然、眞一郎の母が言い出した。
「…」
「でも、いいの?」
「眞一郎くん、私のこと、見てくれてますから…」
それは誰にでも、はっきりと堂々と言える。とても嬉しいと同時に誇らしい。
「そう…、私はいつも二人には注意してばかりだけど…」
「はい…」
「どちらかと言うと、しんちゃんが危なっかしくてね…」
「え?」
「すぐ調子に乗るから…。見てると、つい、ね?」
「あ…」
正直言って自分の方が…、と比呂美は思うが、母親の意見は違うようだ。
「二人でいると、"ベタベタ"するでしょ?」
「あ…いえ…」
「そういう意味じゃなくて、しんちゃんには"隙"があるのよ?」
「"隙"、ですか?」
「そうね、誰かを甘えさせる、"隙"」
「…」
身に覚えがあった。いつも眞一郎に抱きついたりするのは自分だ。
母親はよく息子の事を見ている。それが分かり、尊敬の念を抱いた。
いい所だけではなく、それ以外も見なくてはならない、そう感じていた。
「だから、しんちゃんには話し易い感じがするでしょ?」
「あ、はい…」
「それが間違って取られると、困りそうね?」
「はい…」
「そうならないように、なるべく守ってあげなさい。頼むわね?」
つまり、"眞一郎を任せる"という意味だ。
「はい」
今はそこまで分からない。でも、嬉しい事には変わりない。
「これからも色々と教えるわよ?」
「はい、お願いします」
「私は迷惑かけたし…」
少し小さく、低めの声に真剣な響きがあった。
「そんな…」
「"あの嘘"だけじゃないのよ…」
「え?」
「私は大家なのに、居候に対して辛く当たったわ…」
「…」
「立場をわきまえずに、ね?」
「…」
「それは、いけない事ですもの…。その分、きちんと返すわ…」
「…」
「それでいいかしら?」
「…はい…」
少しずつ、少しずつ、眞一郎の母との時間が増えていく。それは比呂美にとっ
て、とても勉強になることであり、嬉しいことでもあった。わだかまりが無い
わけではないが、明らかに"向うから歩み寄って"きている。意地を張らずに素
直に聞き、恋人(比呂美「まだ2回目? もっと言って♪」)の為になるよう、
頑張ることが多いようだ。
二人がお互いの為に"何か"をする。"隣"にいるということ意味の一つが、
そこにあるのかもしれない。
「ところで…」
声の調子が戻って、少し厳しい口調になる。
「あ、はい」
「さっきから、手が止まっているわよ?」
「あ…」
「"まだまだ"、ね?」
指摘した本人は、ずっと休まずに準備をしていた。
「はい…」
「頑張りなさい」
優しい声と共に、眞一郎の母は穏やかに微笑んでいる。
「はい」
その笑みを見て、自分が見守られていることを感じ、また喜びが心に溢れる。
恋人(比呂美「3回目♪」)との距離が縮まれば、縮まるほどに色々と悩みもあ
るが、嬉しいことが多い。

比呂美は、日々の充実ぶりを実感している。心に暖かいものを感じた。
これからも"ずっと"と、願わずにはいられない。不思議と力がわいてくる。
眞一郎のことを想いながら、手伝いをしていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

「朋与ーっ! お友達が来てるわよーっ!」
扉の向うから母親の声がする。
「だ~れ~?」
今日、誰かが来るとは聞いていない。不思議に思った。
「仲上君っていう男の子よーっ!」
「!」
驚いた、まさか家に来るとは思ってもみなかった。大急ぎで服装を整えて、玄
関へ向った。

「突然、ごめん。ちょっと話しないとって、思って…」
「上がる?」
「いや…、外で話した方がいいと思う」
「上がってよ」
「外で話そう」
「…」
「いきなり来たのに、上がれないって」
「分かったわ……………お母さ~ん、ちょっと出てくるから!」
2人は、近くの小さな神社へ向っていく。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

<朋与のシーン、長いです。200行くらい…>
<サントラ"一陣の風"を繰り返し再生とか、お好みでどうぞ>

境内で2人は並んで座っている。
眞一郎が座った位置に対して、朋与は明らかに"友達以上の関係"の場所に座る。
それは、意思表明であり、譲れないことだから。
「あたしの部屋で話せばいいと思うんだけどな?」
「そういう訳にはいかないだろ?」
「あたし、今、怒ってるの知ってるでしょ?」
「…あぁ、まぁ、聞いた…」
「それなら、誠意を示して欲しいんだけど?」
「何だよ? それ?」
「あたしを抱いてよ」
「…」
「あたし、初めては部屋でって決めてるの。だから、あたしの部屋。分かる?」
「…」
「どうする? 戻る? やっぱ、外でってのは、ね? 初めて、だし…」
「変だな…」
「何が?」
「変だって、そんなこと言うのが」
「どうして? はっきり言うわ。あたし、あなたが本当に好きなの。
 だから、何をされてもいいし、どんなことでもするわよ?
 比呂美がさせないことでも、してあげないことでも…。何でも…」
「おかしいって」
「何でよ! 当たり前でしょ!? あなたが好きなんだから!
 それとも、比呂美じゃないと抱かないって言うの!?
 同じでしょ? 女の体なんだから!」
感情の抑制が効かない。自分でも分からない、抑え切れない気持ち、苛立ち。
「いや、違う」
眞一郎が目を見た。"あの目"が朋与を捉える。
「な、何よ…」
体が震えた。心が求める"あの目"が自分を見ている。
抱きつこうと思ったが、体が動かない。不思議だった。
「俺のこと、好きじゃない…な?」
眞一郎には違和感があった。朋与の言っている事が心に伝わらない。
夕方、あさみと話した時の様な感触が無い。まるで、表面だけで話している言
葉に聞こえた。
「は? 何言って…」
「違う、変なんだ、何かが違うんだ」
「だから! さっき言ったでしょ!? あなたが本当に好きなの!
 比呂美よりも好きな自信あるわ!」
「う~ん…」
「だから! 何よ!」
「変なのは、さっきから比呂美って言ってることか…」
「それがどうしたのよ!」
「何で比呂美と比べるんだ? 比べるなんておかしいぞ?」
「え…」
「比呂美は関係無いんじゃないか?」
「…」
「さっきから何回も言ってるぞ、比呂美って。何でだ?」
「…」
「どうも、違うんだ。何かが違う。変なんだ」
「…」
「何で、嘘つくんだ?」
「ウソ…」
その言葉を聞きたくなかった。それは、自分でも禁句だった。
「嘘でなくても、本当の事を言っていない。何でだ?」
「ウソ…」
「なあ? 自分でおかしいって思わないか?」
「聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない!」
朋与は叫ぶ。"何か"から逃げるように。認めたくない、気付きたくない。
「落ち着けって」
「聞きたくない! 聞きたくない! 聞きたくない!」
「落ち着けって!」
朋与を肩を掴んで揺すりながら、叫んだ。
「!」
「落ち着けって、俺は責めてるんじゃないって」
「…」
「大丈夫か? 話、できるか?」
「できない、できない、できない…」
全身を震わせて呟いていた。"何か"を恐れるように、逃げるように。
「分かった。何か飲み物買ってくる。待ってろ、お茶でいいな?」
「…」
「ここ、動くなよ?」
「…」
黙ったままの朋与をそのままにするのは心配だったが、とりあえず落ち着かせ
る為に飲み物を買いに行った。幸い自販機が近くにあったので、時間はかから
なかった。

「これ、飲めよ…」
「…」
朋与は黙ったまま受け取る。
「まず、飲んで。落ち着けって…」
「…ん…んく……んくっ…、何で、あんな、こと、言ったのよ…」
少し時間が経って、落ち着きを多少取り戻したようだが、声は震えていた。
「…ん…んくっ……、まぁ、違うって思ったのは…」
「うん…」
「比呂美と比べてばっかりに聞こえたから、かな…」
「…」
「だって、おかしいだろ? 好きかどうかなんて、比べるもんじゃないし」
「言いたいこと、言うね?」
「あぁ、ごめん」
「あたしが、聞きたくない事、はっきり、言うなんて、酷いよ…」
「…」
「あたし、比べてたんだ…」
「そう聞こえた。だから、変なこと言うんだって思った」
「比べて、たんだ…」
「あ…あの…な? だか―――」
「………うぅぅ…」
両手で顔を覆って泣き始めた。声を殺して、全身を震わせて。

朋与は、1年前心の闇に負けそうになった。それで、眞一郎の事を忘れ去った。
あさみのことで思い出した時、心の闇に負けた。

比呂美に対する劣等感が心の闇の正体だった。それを嘘で誤魔化していた。

勉強、運動、部活、全て勝つことはできなかった。努力してもだめだった。
そして同じクラスになった時、眞一郎の存在を知り、最初は比呂美を通して見
ていたものが、いつの間にか本人を見ていた。なのに、それすら奪われる気が
した。怖かった。心の闇に負けそうになり、忘れ去ることにした。
知らなければ、無かった事にすれば、気持ちが楽になる。しかし、思いがけず
復活してしまう。それは心の闇、劣等感の復活でもあった。

思い出したくない、感じたくないもの。だから、自分に対して嘘を使った。

推理小説の"空 鍋子"は劣等感ではないが、違う意味で心の闇に負けていた。
それから逃避する為に自分を苦しめていた。朋与はそれすら最後まで真似する
事ができず、全てを失った気がしていたのだった。
眞一郎に執着したのは、"男"なら"女の体"があれば奪えると思ったから。それ
なら、"機能的"に問題は無いはず。他に劣等感を覆す方法がなかった。

哀しい選択、哀しい決意。朋与には他の"道"を見つけることができなかった。

今日、はっきりと告げられて自覚したことで、開き直った。劣等感がある、と。
本当に自分には何も無い、そう考えるとさっぱりする。もう、嘘は使えない。

眞一郎は朋与が泣き止むまで辛抱強く待っていたた。
「はぁ、随分みっともないとこ見せちゃったわね?」
腫れあがった瞼のまま、朋与が笑顔を見せた。
「別に…」
「慣れてるって? 女の涙を見るのが?」
声の調子、口調、いつもの朋与に近い。
「いや…別にそうじゃなくって……あれ?」
「ふん」
「落ち着いたのか?」
「えぇ、大丈夫よ。誰にも言わない約束してくれると、嬉しいけど?」
「分かった」
「誰にもって意味、分かる?」
「分かってるって。猫とか犬にも、だろ?」
「そうよ」
「…」
「引っ叩いてもいい? そういう風に試されるの、嫌いなんだけど?」
「ごめん、悪かった」
「ま、それはともかく。ありがとう」
「ん?」
「お礼よ、お礼。あたしが何に悩んでたか、教えてくれたから」
「あっ、うん…」
「はぁ…、これだからなぁ…。皮肉なんだけど?」
「何だよ?」
「まぁ、いいけど…。そういえば放課後、あさみ、告白した?」
「いや…されてない…」
「はぁ?」
「されてない」
「本人に直接聞くからいいわ。でも、断ったんでしょ?」
「いや、そういう話はしてない」
「分かんないっつ~の」
「聞きたきゃ自分で聞けよ」
「そうするわ…。ついでに、ちょっと話聞いてくんない?」
朋与の目つき、口調が変わる。唇が震えていた。
「いいぞ」
「あたしには、何も無いと思ってたわ…。何も…」
「何も?」
「そう、全て失ったと思った。でも、仲上眞一郎への気持ちだけ残ったと
 思ってた。結局は違ったけど…」
「…」
「やっぱ何も無かった。だから、全部粉々に砕けちゃったって感じ…」
「粉々、ねぇ…」
「そ」
「…」
眞一郎は何か考え事をしている。
「何? 人の話を聞いている間に、考え事? まぁったく…」
あっけに取られ、いつもの朋与に戻った。
「あぁ、ごめん。絵本のこと、だけどな…」
「あのねぇ…」
「今、描いているのがそんな感じなんだ」
「あのねぇ…」
「途中で粉々になるんだけど、もう一度練り直すんだ」
「…」
その言葉は心に直接響いた。
「練り直して、新しくする」
「…」
その言葉は心にわずかな光をもたらした。
「絵本って、ハッピーエンドじゃないと、すっきりしなくて…って、ごめん…」
「…」
「いや、悪かったって。絵本、関係無いな…」
「…ううん、ありがと…」
"道"を見つけることができた。嬉しい。少しだけ力が戻ってくる。
「え?」
「参考になったわ…。ふぅ…、しっかし…、みっともないなぁ…」
「別に…」
「言わない約束、守れる?」
「あぁ、絶対」
「そ、ホントにありがと」
「礼はいいけど…」
「何?」
「大丈夫か?」
「そうね…、今夜一晩あれば…、練り直せると思う…」
「う~ん…」
「な、何よ?」
「そう言うなら、それでいいか…」
「あのねぇ…」
「家まで送る」
「近いし、いいわよ」
「夜だからな、一応、女なんだろ?」
「あっ! 最初の辺りのこと、言わないじゃなくって、忘れてくんない?」
「いっこ、貸し?」
「しまったぁ~、取り乱してたぁ~」
朋与がわざとらしく頭を抱え、大げさに体を動かしている。
「言わないって、忘れるし」
眞一郎が少しだけ笑顔を見せた。やっと安心したようだ。
「家まで、ね?」
"友達"としての笑顔を見せた。
「はいはい」

家の前まで送り、眞一郎は帰宅した。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

朋与は自室でパソコンの前にいる。電源は入れていない。ただ、呟いていた。

「はぁ…、まさか、あんな事を言われるとは…」
眞一郎の言葉を思い出した。
「まぁ、おかげで、あぁぁ…」
劣等感に苛まれる。思い出したくない、感じたくない、自覚したくない。
しかし、今はそれに向き合わなくてはならない。それには"道"が必要だ。
「粉々になっても、新しく練り直せ、か…」
ばらばらでは出来ない、粉々になって、何もかも形を失ったから、練り直せる。
決して良い方法とは言えないが、心が壊れそうに、気が狂いそうになるくらい
苦しんだことが無駄にはならなかった。今なら、何とかできる。練り直せる。

心に光が差し込み、闇を照らす。劣等感を薙ぎ払い、打ち破っていく。
闇に埋もれ、隠れていた本当の自分を探し始める。

「いっちょ、やりますか?」

布団を敷いて、天井を見上げた。傷ついた心が生まれ変わろうとしていた。

― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

<サントラ"入射光、右手にかざす"を再生しながら読むとアニメ風、です>

翌朝、眞一郎は既に登校している。机で絵本の下書きをしていた。朝練のない
比呂美と一緒に教室に入った時、あさみが待っていた。

「おはよっ、比呂美、仲上君」
あさみはいつも通りに挨拶してきた。しかし、その表情はいつもより明るく、
元気に満ち溢れていた。完全に吹っ切ったとは思えないが、少なくとも表面に
は一切出さない。以前とは異なる明るい笑顔。同じ様で全く違って見えた。

眞一郎は朋与やあさみとの会話について、一切比呂美には伝えていない。
ただ、「ちゃんとしてきた」、「お前の友達だもんな?」と言っただけだった。
それで比呂美には十分だった。

「おはよう、あさみ」
2人は机を囲んでいつもの雑談。和やかなのに騒がしい。そこに、朋与が来た。
「おはよう、比呂美、あさみ」
いつもの声、口調だと思ったら…、
「え? 朋与?」
「朋与なの?」
全く違う印象に2人は驚いた。あさみは昨日の事があるから、同じ原因なのか
とは思ったが、それにしても、と考えている。比呂美は2人が眞一郎と話した
ことは知っているので原因は分かるが、それにしても、と考えている。
それ以前に、比呂美は眞一郎と付き合うようになってから、最もいい方向へ変
わっているのだが、自覚はない。3人とも、自分の事には気付き難いようだ。
「何言ってるの? 確認する? 普通?」
まだ、"練り直す"過程にいるのだが、朋与は確実にいい方向へ変わった。

声や口調はそれ程変わっていない。変わったのは全身を包む"雰囲気"だった。
どことなく憂いを帯び、どこか危うい。何となく目が離せない、独特な佇まい。
女っぽい仕草ではないのに、どこか色気がある。内面から溢れ出す"雰囲気"。

「朋与ってそうだったの?」
「なんか、ずるい…」
2人はまだ驚いていた。
「そう言えば、比呂美、昨日、ごめん」
素直に昨日の夕方のことを謝る。いつもの朋与っぽい。
「気にしないで、私も日曜日、ごめんって思ってるし…。で、何があったの?」
とにかく比呂美は不思議で仕方ない。眞一郎から話を聞いていないので、尚更
だった。
「聞いてないの?」
「ううん、聞いてみたら、2人が話すかどうか決めるから言わない、って」
「そ、そう…」
あさみは微妙な反応だが、朋与は違う。
「比呂美。あんたの旦那、やっぱ凄いわ。離しちゃダメだよ?」
「だ、旦那って…、あ…でも……あの…その……まだ…早いかな?って…」
あっという間に頬を赤く染め、しどろもどろな比呂美。
「「はぁ…」」
朋与とあさみは揃って溜息。結局、2週間前に戻っただけだった。
しかし、2人の内面は大きく変わった。

朋与は、心の闇と向き合い、克服することで、本当の自分を探す準備ができた。
今までの様に他者と比べるのではなく、確固たる"個"を築き始める。
それが朋与にとって、"何か"の始まり。

あさみは、生まれて初めての様々な経験で、前へ進むことに躊躇が無くなった。
今までの様に単純な行動を起こすのではなく、それが持つ"意味"を考えられる。
それがあさみにとって、"何か"の始まり。


新年度の始まり、それは、新たな"何か"の始まり…。


お・わ・り


-あとがき-
朋与ファンの方、ごめんなさい。無茶な設定を与えました。
長いシーンは、自信ないです。上手い展開が考えつかなかった。orz


-"新年度の始まり"の長いあとがき-
実は、この"新年度の始まり"、アニメ本編を真似した構成にしています。
始めはゆるゆる話が続きましたが、あさみが眞一郎を仲上家で追いかけてから、
話が動き出します。朋与は眞一郎であり比呂美、あさみは乃絵であり愛子。
それぞれの心情と役割を変化させ、掻い摘んで与えました。

特に朋与とあさみの関係において、あさみの役割について書きます。
愛子のポジションは眞一郎にとって姉代わりの幼馴染。1年間比呂美に冷たく
されていた間、実は愛子に支えられ、癒されていたのでは?
7話で眞一郎が戸惑っている時、相談しようとしてキスされた。つまり、眞一
郎が支えとしての相談相手を失った?
この2点を利用して、あさみへ愛子の役割に近いものを与えました。
眞一郎も7話ラストの時点で、恋愛に関する事を相談できなくなってましたよ
ね。つまり、愛子が最後の砦だった、という解釈です。ただでさえ1年間で、
比呂美の笑顔を取り戻すことが出来ずに自信を失っていて、比呂美との距離が
離れ、乃絵と「自分でもよく分からない」けど付き合うことになって、相談し
ようとした。なのにキスされた、という流れを"最後の砦"が無くなったと解釈
しました。それを失って眞一郎は、どうにもならなくなった。8話で乃絵に絵
本を褒められてから、少しずつ自信を取り戻していったとは考えていますが。
この"新年度の始まり"の朋与が、あさみに相談されている間は自分の気持ちの
代弁者であるので、6で丁稚ではなく、眞一郎本人に告白して失敗していれば、
元の朋与に戻るだけ。
描写不足が多くて申し訳ない。朋与は途中で方針を決めたことが良くなかった
ですね。反省…。

そして、比呂美と眞一郎のテーマは"不安"です。アニメ本編では、何も持たな
い状態から始まっていましたが、今は持っている状態。それを失くすかもしれ
ないという"漠然とした不安"にどのように二人が立ち向かうかを描きました。
なので、最も近い位置にいる、友達でもある朋与とあさみを眞一郎にアプロー
チさせました。よく知らない他人なら簡単ですが、友達ですからね、難しい。

だらだら描きましたが、これらを比呂美と眞一郎のイチャイチャとラブコメ描
写で覆い隠して、なるべく面白い話にしたつもりです。
む、難しい…。そして、長かった…。


おまけの小ネタ:最終回キャストコメント
「"綺麗なTOMOYO"に心が震え…、ちっ、ちがっ、そういう意味じゃ…ぐぇぇ」
比呂美さんのコメントは無理そうなので、お次の方どうぞ。
「ガンバレ~! 眞一郎~! あっ、次? アタシには三代吉がいる!」
「愛ちゃ~ん」

最後に主役?の朋与さん、あさみさん、どうぞ。
「主役だって言われたから、がんばったのに…。微妙?」
「私も綺麗にしてぇ~!」


 ありがとうございました。
ツールボックス

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