託された想い


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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第46弾


『託された想い』



 本日は 年頃の男性諸氏にとって様々な意味で特別な日。
 あるものは歓喜の声を上げ あるものは悲嘆の涙に暮れる また あるものは何者かによる陰謀だと主張する。
 そう 本日は全国的に いわゆるバレンタインデー当日だったりする。

 もうじき別れを告げる見込みの教室で、数ヶ月前、身辺にささやかな変化のあった少年、眞一郎も例によって
朝から落ち着きを失っていた。
 なぜならここ数日、ささやかな変化をもたらした少女、比呂美が彼を避けるような素振りをみせていたから
である。
 こういう場合、いくつかの可能性があり、それぞれにある程度の可能性はそれなりに存在し、数ヶ月前の熱烈な
記憶がいまだ覚めやらぬ今日この頃とはいえ、眞一郎が多少の不安を覚えたとしても仕方のないことだろう。
 時刻はもう夕方、じき帰宅となる。
 だというのに 比呂美からは何の合図もない。このまま帰宅となるのだろうか?
 かといって、要求するのもおかしなものだ、比呂美からは小学校を最後に、義理チョコさえもらっていない。
もしかしてチョコを必要とする段階を過ぎているとの判断から、比呂美はそんなイベントに関心はないのだろうか?
相談しようにも、すでに親友である三代吉は、町内の今川焼き屋に向け進撃中である。

『俺何か怒らせるような事したかなー』

 などと考えながら眞一郎は教室をあとにした。
 出がけにチラと様子を窺うと比呂美はひとりで席に着き書き物をしている様子だった。

『黒部さんに捕まってないならくれればいいのに…』

 などと考えながら廊下を過ぎ、階段に差し掛かる。
 今現在ふたりにとってのささやかな意見の相違点、それは、ふたりの間柄の周囲への示し方だった。眞一郎は無理せず
普通にしようと主張していたが、比呂美は自分の受けた停学処分、また、その際に広まった無責任な噂話… それらに
眞一郎を巻き込むことを恐れ、未だに校内においては、大っぴらには眞一郎に接してこなかった。

『どうしたものか…』

 そんな考えに浸っていたせいだろうし、比呂美と異なり、いまだ修行の足りない眞一郎は、背後から自分との間隔を
狭めつつある聞き間違えようのないはずの足音のリズムを聞き分ける事が出来なかった。

「眞一郎くん…」

 待ちに待った甘美な声が背後から遠慮がちに聞こえてきた。
 校内で接触してきてくれたことに軽く驚きも覚えながら、眞一郎は安堵感と期待感とともに振り向いた。

「あ、な、なに?」

 眞一郎の冷静さを装う予定は予想通り失敗し、さらに言えば自分の顔が期待感に満ちている事にも気付いていない。

「バレンタイン どうだった?」

 比呂美は周囲の人目を窺いつつ、一緒に階段を下りながら、なんでもない会話をするフリをしながら小声で訊ねた。

「いや、何にもなかった」

 ある意味、無実を主張できる事を感謝しつつ、眞一郎は期待感で鼓動が高鳴りだしていた。

「そう…」

 比呂美の表情は少し沈んでいるようにも見えた。
 眞一郎が疑問を感じると同時に比呂美のことばが告げられた。

「…眞一郎くんに …逢いたいって子が居るの…」

「え?」

 ポツリと告げられたことば、聞き間違いだろうか?

「…」

「あの… 誰?」

 一体何の話だろう?

「身に覚え… ない?」

 打って変わった比呂美の悪戯っぽい表情に困惑する。

「み、身… え? 俺?」

 眞一郎の困惑はさらに深まった。

「うん」

「なっ 無いって そんなの」

 自分の知らない所で、何か起きているのだろうか?

「ふうん、知らないフリ するんだぁ?」

 比呂美は本気ではないものの『わたし怒ってます』モードに変化した。

「フリッ… なんかじゃないよ ホントに知らないって」

 眞一郎は最初の少し大きめ声を改め小声で続けた。

「そう… でもそんな事言ったら悲しむよ きっと」

「え…?」

 なんでだろう?
 悲しそうなのは比呂美自身に見える。

「でね、わたしのお部屋で逢ってもらうようにしたから」

「比呂美の部屋?」

 比呂美の口からは眞一郎の理解を超えたことばが静かに告げられた。

「うん、だから 1時間くらい時間を置いて… 帰りに寄ってあげてね」

「でも、比呂美…?」

 階段を下り終えた下駄箱の手前で、眞一郎の耳元に そんなことばを残して比呂美は去っていった。
 比呂美は教室に戻るのだろう階段を急ぎ足で登っていく。眞一郎の位置からは表情は読めない。

 「ふう」

 事態の進展に取り残された眞一郎はため息を吐くしかなかった。






 眞一郎は本屋で時間をつぶし、頃合をみて比呂美の部屋に向かった。
 立ち読みをする本の中身は全く理解できず、ずっと考えていた。だが、比呂美の引き合わせようという人物に思いあたる
フシは無かった。
 比呂美の部屋という場所であるのなら、おそらく比呂美の知り合いだろう。眞一郎の知っている範囲での比呂美の交友範囲
といえば、朋与をはじめとしたクラスメイト、バスケ部のメンバーくらいである。だがしかし、それらの中に自分と比呂美の
仲を知らない者も居ないだろうから、はたしてそんな頼み事を比呂美にするだろうか? 眞一郎の混乱した頭はそれ以上の
可能性を探るには役に立たなかった。

『えらい事になった… 自分は今度どんな過ちを犯したのだろう?』

 比呂美のアパートまで来ると階段の入り口に比呂美が立っていた。学生鞄を持ったまま、スクールコートにマフラーという
いつもの登下校スタイルである。

「来たよ」

 眞一郎はどう声を掛けていいかわからず当たり障りの無い事しか言えなかった。

「いらっしゃい」

 比呂美に即され階段を上がる。

「相手の人、待ってたのか?」

 眞一郎は沈黙を何とかしたくて訊いてみた。

「うん」

 先を行く比呂美はそう答えたものの、表情は見えない。眞一郎はふたりきりのうちに言っておかないといけないと思い、
考えを告げた。

「ごめん 本当に分からない、身に覚えなんて無いんだ、信じてくれ、としか言えない…」

 比呂美は足を止め、ふり返らずに言った。

「ううん、ごめんなさい… 変な事お願いして…」

 そのままふたたび歩き出し、やがて玄関までたどり着くと鍵を開けた。

「ただいま…」

 比呂美は薄暗い部屋にそう声をかけ明かりをつけた。

「上がって」

 眞一郎は比呂美の言葉に従って靴を脱ぐ。

「お邪魔します…」

 眞一郎の見たところ玄関にはやはり比呂美の靴だけだ。室内にもひとの気配は無い。眞一郎は奥へ即されて座布団に座った。

「コーヒーでいい?」

「ああ」

 しばらく流しから比呂美のコーヒーを準備する物音が聞こえた。

「お待たせ」

 盆に載せカップをふたつ運んできた。

「なあ いつ来るんだ」

 眞一郎は気になっている点を訊ねる。

「うん もうちょっと」

「ふう」

 やはり誰かは来るのだろう、眞一郎はその日何回目か忘れたため息を吐いた。

「ねえ、目を閉じて」

 ため息を合図にしたように比呂美の言葉が聞こえた。

「え?」

「いいから」

 室内の明かりは点いているものの、窓の外の夕空のせいで逆光になっており、眞一郎の位置からは比呂美の表情はよく見えない。

「なんだよ急に」

「お願いっ」

 比呂美の切迫した声、ただ事ではない。

「ああ」

 眞一郎は比呂美の言うとおりにする事にした。背筋を伸ばし目を閉じてじっとした。サプライズパーティーでもあるのだろうか?
比呂美の座っているであろう位置あたりから、物音が聞こえる、これは衣擦れの音だろうか。

「もう いいよ」



 比呂美の声に、困惑しながらも眞一郎はゆっくりと目を開けた。

 目の前にはひとりの少女が座っていた。

 最近は逢っていなかったが…

 比呂美のことばの意味が全て理解できた。

 俺に身に覚えがあって、俺に逢いたがっている少女…



「ご紹介します、湯浅比呂美さん 中学生です」

 中学時代の制服に身をつつんだ少女、比呂美はそう言って不安と期待の入り混じったような表情で少し笑ってみせた。

 眞一郎が聞いた衣擦れはさっきまで着たままにしていたスクールコートの音だったのだろう、今は脇の床に綺麗にたたんで
置かれていた。

「…」

 眞一郎は目の前の少女に感じる懐かしさや愛おしさ、様々な感情に圧倒され身動きも出来ず、そのまま座り続ける事しか出来なかった。

「ごめんなさいっ、やっぱり恥ずかしいっ!」

 眞一郎の反応を前に比呂美は耐え切れず、スクールコートで前を隠した。

「あー」

 眞一郎は何かを言おうとしたが何を言ってよいのか言葉が思いつかなかった。

「あの、引いちゃったかな?」

 比呂美はスクールコートで身を隠しながら恐々と訊いた。

「いやっ びっくりしたけど…」

 衝撃の強さの前に停止していた眞一郎は何とか そう ことばに出来た。

「…笑っていいよ」

 うつむいた比呂美からの声した。

「…そんな事しないよ」

 眞一郎はやっと判断力を回復しつつあった。

「おかしいよね?」

「いや、うれしかった」

「え?」

 比呂美は驚いた顔をあげた。

「コホンッ くれないのか?」

 眞一郎も態勢を立て直し、目の前の少女に向き合った。

「いいの?」

 比呂美はなおも不安そうに訊ねる。

「もちろん、欲しかったからな ずっと」

 眞一郎は今日始めて比呂美に笑いかける事が出来た。

「うんっ」

 比呂美はスクールコートを床に戻し、脇においてあった手提げから包みを四つ取り出した。何かを確認するように包みを
ひとつひとつテーブルの上に並べていく。その動作はゆっくりで、ひとつひとつの包みを大事そうに扱っている。

「じゃあ、いきます」

 比呂美はそう告げると背筋を伸ばした。

「ああ」

 眞一郎もつられて背筋を伸ばす。

「はい、これが中学1年生だったわたしから、幼馴染ってことで渡すのももう限界だったし…」

 比呂美は頬を赤く染めながら ひとつめの包みを差し出した。

「そんな感じだったな ありがとう」

 眞一郎も何かを思い出すようにしながら受け取った。

「これが中学2年生だったわたしから、もう忘れられてるんじゃないかと思ってた」

 比呂美は少し寂しそうな顔をしながらふたつめの包みを差し出した。

「忘れるもんか 俺の方こそ そう思ってた ありがとう」

 眞一郎は比呂美に言い聞かせるようにそう答えてから受け取った。

「これが中学3年生だったわたしから、色々あって…」

 比呂美はことばを詰まらせて、俯きながらみっつめの包みを差し出した。

「ごめん、つらいときに何にもしてやれなくて… 俺、受け取る資格 あるのかな…」

 今度は眞一郎も少し躊躇した。 

「ううん… お願い 受け取って?」

 比呂美は顔を上げ泣き笑いの笑顔で精いっぱい眞一郎に差し出し続けていた。

「…ごめんな ありがとう」

 眞一郎は比呂美の想いをかみしめるようにゆっくりと受け取った。

「あ… これね、今年の分です。どうしよう…」

 比呂美はよっつめの包みを手にしたものの、計画に問題が発生したようだ。眞一郎は受け取ったみっつの包みをテーブルに並べて
愛しそうに眺めている。着替えるので退出を願い出るのも煩わしい。比呂美は声をかけるのをためらった。その場でスクールコートを
羽織り、きちんとボタンを留めた。

「じゃあ はい これ カタチだけですけど日頃の感謝を込めて」

 比呂美はこの日初めて陰のない笑顔でよっつめの包みを差し出した。

「はい ありがたくいただきます」

 眞一郎も自然な顔で受け取った。

「いいえ これからもよろしくお願いします」

 比呂美が少しおどけた声でその場で頭を下げた。

「ハイ 承知しました」

 眞一郎はお願いの意味を色々思い描きながら返事をした。

「クスッ」

 比呂美が楽しそうに笑った。

「ふうッ 今年もらえなかったら どうしようかと思った」

 眞一郎は正直に今日の気持ちを打ち明けた。

「心配だった? えへへっ もう少し焦らせば良かったかな?」

 比呂美は謀が成功したのがうれしそうだ。

「いや、もう勘弁してください」

 眞一郎は降参宣言。

「クスッ」

 比呂美はもう一度笑うと、背筋を伸ばし正座した。何が起きるのかと眞一郎が見ていると、比呂美が話し出した。

「ごめんなさい、今日、眞一郎くんを試すような真似をしちゃいました。最初はおふざけのつもりだったんだけど…
 眞一郎くん、ここの階段の所であんなに悩んでくれてたなんて… そこまで考えてなくて… 途中でもうやめようか
 とも思ったんだけど…」

 比呂美はさっきまでと変わり、申し訳無さそうにしている。
 眞一郎もちょっと考えてからことばを告げた。

「いいや、あれは俺が気がつかなきゃいけないことだったし、結局気がついてやれなかったし、比呂美が悪いなんて事無い」

 眞一郎は気がつけなかったことが悔しかった。

「ううん、試すような真似なんて… 」

「いいって、おかげで中学の比呂美に逢えたんだし」

「あ、うん、そうだね」

「あ、コート…」

 眞一郎は改めてスクールコートを羽織っている比呂美に気付いた。

「え?」

「もう おしまい?」

 眞一郎は少し期待した顔をする。

「え…と、まだ見たい?」

 困惑顔の比呂美も僅かに頬が緩んだ。

「ああ、久しぶりだし」

「うん」

 比呂美はスクールコートのボタンに手を掛け外し始めていった。

「…」

 比呂美のコートの下の姿を期待した眞一郎の目は、自然と比呂美の指先に集中していた。

「あの…」

 比呂美は眞一郎のそんな視線に気がついた。

「ん?」

「じっと見られたら恥ずかしいから…」

 比呂美は恥ずかしさに身をすくめた。

「あ、ごめん」

 眞一郎は慌てて後ろに向きを変えて座りなおす。比呂美はそんな眞一郎をおかしく思いながらコートを脱ぎ終え脇に置いた。

「もういいよ」

「うん」

 眞一郎は身体ごと向きを戻すと、改めて中学時代の制服を身につけた比呂美に見とれた。

「…」

「…」

 眞一郎の視線が自分の顔や身体に注がれている事を自覚した比呂美は、しばらく我慢していたものの、ついに耐え切れなくなり
両手で身体を隠すしぐさをした。

「だ、だから、じっと見られたら恥かしいよ…」

 比呂美はなるべくこういう発言は控えたかったが恥ずかしすぎてもう限界だった。

「あ… つい…、そうだ、これ、今開けていいか?」

 眞一郎も自分の恥知らずな行為を恥じ、話題をそらそうと受け取ったチョコの包みを手にした。

「え…うん、あ、やっぱりダメ」

 比呂美は眞一郎の視線と会話がそれた事に一瞬安堵したものの、チョコを目の前で同様にじっと見られたらと思うと
急に恥ずかしくなった。

「どっち?」

 眞一郎は慌ててる比呂美を愛らしく思い微笑みながら訊ねた。

「あの… ダメ」

 比呂美は自分の慌てぶりさえ恥ずかしくなり俯いてしまった。 

「そう」

 眞一郎は残念そうにしながらも比呂美をこれ以上いじめるのは気が引けたのでそこで終わらせた。

「うん、お家に持って帰ってから開けて? それからね、色々ヘンでも笑わないでね? それで、あの、明日からも
普通にしてね、約束っ」

 比呂美は昨晩遅くまでかかった作業の間はつくる事に集中していたので平気だったが、いざ眞一郎を目の前にして
制服の事や包みの中身の事を考えると、どんな顔をしていいか分からなかった。

「あ、うん、分かった、約束する」

 眞一郎は確かに手作りチョコの出来栄えをあれこれ言われるのは恥ずかしかろうと約束した。






 その後しばらくは中学時代のいろんな思い出をふたりで語り合った。
特徴のあった教師、難しかった授業、修学旅行、キャンプ…
同じ空間で過ごした日々は決して無駄ではなかった事をふたりは知った。

 楽しい時は経つのも早い、いつのまにか夕食時になった。
比呂美はチョコに手を取られ食事までは準備できていないと申し訳無さそうに詫びた。
もちろん眞一郎は一人暮らしをこなしながら、成績を維持し、部活も頑張っている比呂美に対しいささかも文句は無く、
ならば仲上の家で、と提案したが比呂美は疲れているからと告げ遠慮した。
そのかわり明日も予定のある週に何度かある仲上家での夕食は、予定通りお邪魔させていただくのでおばさんに宜しく、
との確認のみに留めた。
たぶん手作りチョコの準備で寝不足なのだろう、無理をさせないよう今日は引き上げる事にした。
 眞一郎は部屋を辞す際にその格好のままで外に出てみないかと誘ったが、比呂美は「ばか」そう一言言って黙ってしまった。 







 眞一郎は夕食を終えた席を立ち際、母から

「眞ちゃん、今年は母さん、あげなくてもいいんでしょ?」

 と訊かれ、返事に困ったが、

「比呂美が 明日の夕食楽しみにしてるってお伝えください ってさ」

 そう答えて返事にした。

「比呂美ちゃん、いつまで頑張るつもり、戻ってきたそうな素振りがあったら、すぐ言うのよ」

 もう何度も聞かされている事を、母はまた繰り返した。母に笑みだけで答えると自室に向かった。

 眞一郎は椅子に座り鞄からさっそくよっつの包みを取り出して机の上に並べた。
 込められた比呂美の想いに暫し思いを馳せてからゆっくりと、ひとつづつ丁寧に包装を解いていった。
 それぞれ違う包装紙はいずれも売り物ではない事を教えてくれた。
 中からでてきたのはよっつとも同じハート形をした板状のチョコだった。
 ただ、違うのは表面にホワイトチョコだろうか、それともクリームだろうか? 文字が書かれていた。

1枚目は「今年の分です」

2枚目は「忘れないでね」

3枚目は「ごめんなさい」

4枚目は「これからもよろしくね」

そう書いてあった。

その時々の比呂美がチョコをくれるときに言いそうな言葉だった

幼馴染みの義理チョコのふり

少なくなるふれあい

同居と疑惑

そして、今

それぞれのメッセージをその時々の比呂美と重ねあわせてイメージした
これほどまでに自分を想ってくれていたというのに…、自分は何が出来たんだろう…
しばらく思いに沈んだ

並んでるチョコを眺めていて気がついた
最初、明かりの加減だと思ったが違った
これは色が微妙に違う

まさかと思い1枚目を手に取り文字を残すように端だけかじった
普通に甘い味がした
かすかに何か混ざってるみたいだった

2枚目を手に取り同様に端だけかじる
間違いないビター味だ、1枚目より濃い

3枚目も味を予想しながらかじった
今度は確実に苦味の効いたビターだった

最後の4枚目、どんな味だろうか予想がつかない
胸の高鳴りを感じながら端をかじった
最後の1枚はミルクの甘い味だけがした

この味は その時々の比呂美の気持ちだろう
手の込んだ事を…
そう思いながら最後のチョコも元に戻した



比呂美のチョコ、ひとかけらさえ無駄にしたくは無かった
体温で僅かに溶けたチョコも味わおうとして指先を見た
すると茶色の中に小さく白が混ざっているのに気がついた

文字は傷めなかったはず…
改めて眺める
どのチョコも文字は綺麗なままだ…

まさかと思い1枚を手に取り裏を見た
そこには文字が書かれていた
慌てて他のチョコも全部裏返す
その全てに文字が読み取れた

眞一郎は机に座ったまま身動きが出来なかった
熱い涙があふれ出て来るのを感じたが
そのままでいることにした
比呂美が密かに流し続けたであろう涙と
同じだけの涙を自分も流したいと思った

少女が自分のことを想っていてくれた事を感謝した
この少女に出会えて本当によかった





裏面にはこんなメッセージが書かれていた

1枚目は「同じ好きならうれしいな」

2枚目は「好きでいてもいいですか」

3枚目は「それでも好きです」

4枚目は「ありがとう 大好きです」








●あとがき

くすん、本命チョコなんてもらった事ないんでよく分かりません。
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