Amour et trois generation Un retour


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「三代吉、今日は早めに閉めよ?」
「いいのかよ、そんないい加減な商売で」
「誰も来ないのに店開けてても無駄なだけよ」
 事実ではある。今日はこの3時間一人の客も来なかった。
「こうゆう暇な時こそ眞一郎とか比呂美ちゃんとか来てくれないかなー」
「そう言えば女バスの送別会とか言ってたな。湯浅がそっちだから眞一郎も来ねえだろ
うな」
「送別会!?じゃあ2次会にここに来てくれるかも――」
「2次会って言ったらカラオケ定番だろ?この時間じゃもう2次会も終わりかけだろ」
 三代吉の見解は至極妥当なものであったが、愛子の不満は解消しない。
「つまんない、つまんない、つまんない!」
「俺に言うな!子供かお前は」
「朋与ちゃんとか高岡さんもいるならこっち誘導してよ、も~」
「黒部はともかく、先輩がここ勧めるかな」
 三代吉は愛子と対照的な、長身の女性を思い出した。なんとなく、こういう子供っぽい
場所は似合わない気がする。
「なあ、先輩とは小学校で一緒だったんだろ?どんな人だったんだ?」
「どんなって・・・・あのまんまだよ?背が高くて、スポーツが出来て、物静か」
「子供の頃から背が高いのか」
「上級生の男子から人気があったのよね。5年生の時にはもう中学生から告られてたみ
たいだし」
「それは凄いな」
「でも、高岡さんは迷惑してたみたい。男の人が嫌いて言うか・・・・」
 そこはなんとなく納得する。
「どうしたの?高岡さんの事気になった?」
「そんなんじゃねえよ。ただ、愛子と合うタイプに見えねえなと思ってな」
「うーん、そうだね、あんまり話はしなかったと思うけど」
「そっか」
 それでこの話題は終わった。



「いやぁ~歌いすぎて喉痛いわ」
 朋与が満足げに戻ってくる。
「お疲れ様」
 比呂美は優しく声をかけるが、
「3曲連投すればそりゃ疲れるでしょう」
 と、ルミは容赦ない。
「先輩が歌わな過ぎるんですよぉ~。何かないんですか得意な曲?」
「私、聴くだけで歌うのは苦手なのよ。それより比呂美も歌ってないでしょ?歌えば?」
「わ、私も歌は・・・・」
 この場でメタルなど歌ったら、逆にドン引きだろう。
「仲上君ともこういう所へは入らないの?」
「こういう所は、あまり・・・・」
「キャプテン、駄目ですって。この2人のデートって、ほとんど映画観てウィンドウショッピ
ングして、最後は比呂美の部屋がお決まりコースなんですから」
「朋与!」
「最後に確実に2人きりになれる場所があるのはいいわよね」
「誤解を生む言い方やめて下さい!」
「おやぁ~?誤解なのぉ~?」
「う・・・・」
 比呂美は沈黙した。朋与1人ならどうとでもあしらえるが、ルミが加わるとさすがに分が
悪い。というより、普段のルミならこういった話題に乗ることはないのだ。
「朋与も誰かいい人見つければ?朋与、人気あるのよ」
「私はキャプテン路線で行くのぉ。周りを美少女で固めてハーレム作るの」
「朋与、私は別に女の子が好きなわけじゃないわよ」
 ルミは否定するが、彼女が同性にモテる事は事実である。校内ではテニス部キャプテ
ンの土井、演劇部部長の如月と三強を形成するといわれており、今年のバレンタインに
は77個のチョコを集め、女王として認定された。
 ちなみに、比呂美は12個、朋与は17個を記録している。
「え、キャプテン男の人好きになった事あるんですか?」
「と言うより、告白されて何人かと付き合ったことがあるって感じかしら。あまり長続きは
しないけど」
「キャプテンはどんな男性がお好みなんですか?」
 朋与が追及する。
「そうね・・・・現実的な人、かな」
「現実的?」
「そう。ちゃんと物事を現実的に判断して考える事の出来る人。理想ばかり言ってる人
って、却って他人を傷つけるから」
「だってよ。よかったね比呂美。キャプテンがライバルにならなくて」
「ちょっと、どういう意味よ?」
 比呂美がやや本気で怒る。眞一郎を悪く言われるのは、冗談でも気分が悪い。
「安心して比呂美。そういうのとは別に、仲上君を取ろうなんて思わないから」
 ルミがすかさずフォローする。一時期の眞一郎に苛立ちのようなものを感じていた者は、
女バスには大勢いる。彼への評価が辛いものになるのは、ルミには理解できた。
「別に、キャプテンが人の彼氏奪うとは、思いませんけど・・・・」
「そう?・・・・買い被りかもよ?」
 朋与と比呂美は顔を見合わせた。そして揃ってルミの横顔を見たが、その表情からは
冗談とも、本気とも読み取る事は出来なかった。



 カラオケを出て、解散した。途中までは一緒に帰っていた仲間たちも、次第にバラけて
いき、今はルミ1人で帰途に着いていた。
 治安のいい田舎町ではあるが、この時間はさすがに1人は不安になる。
 と、前方にルミと同年代の男が3人、こちらに向かって歩いてくる。明らかにルミの事に
気付いており、彼女に向かって近づいて来る。
(3人か・・・・少し面倒ね)
 ルミは内心で舌打した。ルミの身体能力は高く、1対1なら男でも逃げ切る自信がある。
しかし3人となると、少し荒っぽい方法も考えないといけない。
 男たちが目の前まで来た。やはり自分を通す気はないらしい。男たちが何か言おうと口
を開いた――。
「おい、ルミ!先に行くなんてひどいじゃねえかよ!」
 声はルミの後ろから聞こえた。男たちがルミの後ろから来た新たな登場人物の方に注
意を向ける。
 三代吉だった。
「三代吉君、何――」
「何じゃねえよ、トイレ行ってる間くらい待っててくれてもいいじゃんよ。ま、いいや、追い
ついたから」
「なんだよてめえは」
 この場の主役を奪われた若者の一人が、三代吉に向けて凄んでみせる。
「あ?ああ、悪いな、こいつは俺の連れなんだ。心配してもらって感謝しておくよ」
「後から来てふざけてんじゃねえぞ――」
 その時、やや下がって見ていた別の若者が、三代吉の顔を見て表情を変えた。
「お、おい、待てよ。そいつ・・・・」
「・・・・げ、マジかよ!?」
 決して良識があるとは思えない3人が、明らかに良識以外の要素で、その場を立ち去っ
た。捨て台詞すらなかった。
「ありがとう」
「いえ・・・・」
「顔見ただけで・・・・本当に有名なのね」
「・・・・悪名ですよ」
 面白くもなさそうに三代吉が答える。
「家まで送りますよ。またあんなのがいてもつまらないし」
「お願いするわね。少し、不安だったの」
 2人は並んで歩き出した。
 ルミが、三代吉の腕に自分の腕を差し込む。
 三代吉がルミを見る。愛子より遙かに近くにあるルミの顔貌が、自然な笑顔を湛える。
愛子の、全身でぶら下がるような腕の組み方とは違う、さりげない所作。三代吉は拒否
するのも失礼な気がして、全く関係ない話題を出した。
「家、ここから遠いんですか」
「ここからだと30分くらいかしら」
「そんなに?ほとんど市の外れじゃないですか」
「外れとは言ってくれるわね。まあ、その通りだけど」
「・・・・ん?あの辺りだと愛子と同じ小学校にならないんじゃ」
「越境してたの。どうせ近所に仲のいい子もいなかったし、学校のレベルもかなり違い
があったし」
「・・・・そんなもんなんですか?」
 私立の小学校ならともかく、公立小学校で学業レベルを気にするとは、三代吉には理
解できなかった。
 その後も当たり障りのない話題を続けながら、ルミの家に着いた。特に特徴のない一
戸建て住宅である。
「ありがとう。本当に助かったわ」
 ルミが腕から離れ、三代吉の前に回って言った。
「じゃ、俺はこれで」
「待って。こんな距離一緒に歩いてもらったんだから、一休みしていって。お茶くらいな
ら出せるから」
「いや、いいですよ。もう遅いし。ご両親もこんな時間じゃ迷惑でしょう」
「私、父親はいないの。母は看護士で今夜は夜勤。だから、誰もいないから遠慮しなく
ても平気よ」
「・・・・もっとまずいでしょう。誰もいないんじゃ」
「なぜ?仲上君だって比呂美のアパートに寄ってるんでしょう?」
「あいつらは、もう、同じ尺度で見る関係じゃないでしょう」
 三代吉は言葉を選びながら答えた。
 ルミは少しだけがっかりした顔をして見せた。が、すぐに元の表情に戻り、
「そっか。でも、お礼はさせてね」
「礼なんて、別に――」
 言いかけた三代吉の言葉は、本人の意思ではなく中断された。ルミは三代吉に近づ
くと、そのまま背伸びをして唇を重ねた。
 唇を離すと、ルミは何事もなかったかのように
「それじゃ、おやすみなさい」
 と言って、家の中に消えて行った。
 三代吉が正気に戻るのは、それから5分後の事だった。


                      了

ノート
高岡ルミ:
麦端高校3年B組、女子バスケットボール部前主将
身長 167cm
家族構成 母
趣味 読書

黒部朋与:
麦端高校2年B組、女子バスケットボール部主将
身長 165cm
家族構成 両親、祖父母、弟、妹
趣味 食べ歩き
ツールボックス

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