Amour et trois generation festival de l'ete


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 夏休みも半ば。三代吉と愛子はカフェでデートの中休み中だった。
「どうしたのよ三代吉。ぼーっとしちゃって」
「別にボーっとしちゃいねえけど」
「ウソ。じゃ、あたし今何の話してた?」
「え?今度の夏祭りの話だろ?・・・・違うのか?」
「・・・・あってる」
 三代吉は表情では当然だというように、内心では勘が当たって安堵した。実際に三代
吉はあまり愛子の話を聞いていなかった。
 ルミとの事がどうにも後ろめたいのである。
 不可抗力である事は議論の余地がないが、それでも他の女とキスした事実に変りは
ない。
 あれはなんだったのか。礼と言ってはいたが、礼で唇にキスなどするものだろうか。自
分はまだ愛子ともキスしてないのに、なんでたいして面識もない、友達の友達みたいな
女からキスされてるのか。
「・・・・なあ、愛子?」
「ん?何?」
「お前、どんな時キスする?」
「ふぇっ!?」
 愛子の声が裏返る。愛子からは、かつて眞一郎にキスしたことは言っていない。男の
親友同士は、そんな事まで隠してはおけないものなのか。
「な、なんで、そんな事・・・・?」
 愛子が目を逸らしながら質問を返す。双方にとって幸いな事に、愛子の質問の意図は
三代吉に正確に伝わる事はなかった。
「あ、いや、えー・・・・そう、姪っ子がさ、最近お礼と言っちゃあひとにキスしようとするん
だよ。それも、口にして来るんだよな。だから、愛子もそんな頃があったのかな、て思っ
てさ」
 咄嗟にしては上出来な言い訳は、愛子にとっても都合がよかった。
「え?あ、ああ、そんな事?いやだな、もう!」
「何がいやだななんだ・・・・」
「・・・・でさ?三代吉はやっぱり気にするの?・・・・その、あたしが、今までにキスしたこ
とがあるのか、なんて?」
 全くさりげなくはないのだが、愛子は精一杯さりげなく訊いたつもりである。もっとも、
自分の事で気を取られた三代吉には、もっとぎこちない訊ね方でも気付かれる
心配はなかっただろう。
「ガキの頃の話なんて気にしねえよ。俺だって姉貴の実験台させられてたらしいし」
 噛合ってるようでいて、微妙にすれ違った会話は、カフェに入ってきた新たな客に愛子
が気付いた事で中断された。
「あれ、高岡さん」
「え?なっ――」
 三代吉が反射的に身をすくめる。振り返って顔を合わせるのが気まずい。
 しかし、ルミは別の約束があってここに来ていた。ルミはまっすぐに窓際の席に向かう
と、大学生風の男の座る席に、男と向かい合う形で座った。
「あの人が、この前ドタキャンした彼氏かしら?」
「どうだろうな・・・・」
 男は、あまりスポーツ観戦などを楽しむタイプには見えない。見てくれはいいが、ルミ
に似合う中身があるようには思えなかった。
 微妙に距離があるため、会話は聞き取れない。その代り凝視していても見つかる心配
もない。2人、特に男の表情から察するに、あまり愉快な話題でない事は容易に想像で
きた。
「別れ話、かな?」
「そんな感じだな」
「ね、ね、ね!男の人泣き始めちゃったよ!」
「・・・・」
「あ、高岡さん席立っちゃった。彼氏さん手を掴んで引き留めようとしてる」
「・・・・・・・・」
「あ・・・・高岡さん、相手の顔見もしないで手振り切った」
 相手に一切の情をかけない、という意味で、ルミの対応は模範と言えた。残された男
は暫らくその場に残ってなおも泣いていたが、その内諦めて店を出て行った・・・・。
「なんか・・・・元彼氏、可哀想だったね」
「・・・・」
「何があったんだろうね?どっちか浮気でもしたのかな?」
「そこまで知るかよ」
 浮気、という言葉に反応して、少し声に険が篭った。しまったと愛子の方を窺う。しか
し、愛子は目の前で起きた修羅場の余韻に浸り切って気付いていない。
 今の茶番(アプシュルド)で気がついた事があるとすれば、ルミがこの手の問題に非常
に手馴れているという事か。泣きつく男に全く感情を揺らさない姿は、これが初めてでは
ないと確信させるものだった。
 そう考えると、ルミの腕を組んできた動きの滑らかさや、目の前に立ってからキスする
までの一連の動作の澱み(よどみ)のなさも納得がいく。要するに、そういう思わせぶり
な仕草を自然に出来る女性なのだ。
 ほっとしたような、少しだけがっかりしたような、妙な気分だった。
「愛子、そろそろ花火大会の話に戻ろうぜ」
 三代吉は愛子を現実に呼び戻した。



 少し強引に過ぎたかしら。
 私は本当の所、少しだけ相手の男に悪いと思っていた。普段ならもっと上手く別れて
いる。少なくとも泣かせるような事はしない。
 店に入った時、安藤さんがいる事にはすぐに気がついた。顔は見えなくても向かいの
席が三代吉君であることは間違いない。
 三代吉君が見ていると思ったら、目の前の相手を思いやる余裕がなくなってしまった。
気持ちが少しでも相手に残ってると思われたくなくて、一気に斬り捨てるような別れ方を
してしまった。
 でも、これは必要な事だ。予定にはなかった事だが、男関係を全て清算した事を知って
もらえると考えれば、悪い展開ではない。
 これで何の負い目もない。作戦開始だ。



 夏祭り当日はやはり人が多かった。
 比呂美、愛子、朋与、あさみ、見習いの少年、それに眞一郎と三代吉の7人は、花火を
見るために確保した陣地にシートを敷いて座っていた。朋与と三代吉以外は浴衣姿である。
 藤色の浴衣を着た比呂美と、濃紺の浴衣を着た眞一郎を見て、水色の浴衣姿の愛子
はTシャツにGパンの三代吉を非難した。いたたまれなくなった見習いが
「よかったら、自分の浴衣着てください」
 と申し出た所で、朋与が
「浴衣が似合いすぎて逆ナンされたりしたら、また機嫌悪くなるくせに」
 と茶々を入れてその場は収まった――。
「さて、じゃ、買出し行ってくるわ」
 三代吉が立ち上がると、見習いが自分も行くと言い出した。一応彼は年長者である。
ここは遠慮せずにゆっくりしていてくれと眞一郎がとりなし、結局、動きやすい服装の朋
与が三代吉に同行する事となった。
「――でも、愛ちゃんは先にどんな格好で来るか、野伏君と相談しなかったの?」
 2人が買出しに出た後、比呂美が愛子に訊いてみた。
「訊かなかった。あたしの浴衣姿見たいとか言ってたから、てっきり自分も着てくるものと
ばっかり思ってた」
「去年は野伏君浴衣だったんですか?」
 これはあさみだ。
「ううんと、去年はあたし屋台出させてもらってたから、三代吉と一緒じゃなかったのよ。だ
から今年が最初になるから浴衣で一緒に歩くの楽しみにしてたのに」
「ああ、そういえばそうだったな」
 眞一郎も思い出した。去年は三代吉と回ったのだ。
 眞一郎が比呂美を見る。比呂美も眞一郎を見ていた。去年の花火大会、比呂美は部の
友達と一緒に観に来ていた。お互い来年は一緒に来たいと願いながら、一方はその願い
が叶う事はないと半ば諦めていた。
 今年は一緒に来れた。来年も、その先も、ずっと――
 急に照れくさくなって、眞一郎は目を逸らした。比呂美も赤くなって俯いている。
「比呂美」
「うん?」
「三代吉たちが戻ったら、俺たちも屋台見て回ろう。一緒に」
「うん」
 愛子はそんな2人を見て、羨ましいと思う。この2人はもの凄い遠回りをしたかもしれない
が、お互いに対して何の負い目もない。自分の全部で相手を愛していて、相手の全部を
愛したいと思っている。それは素晴らしい事だ。
 自分は三代吉に負い目がある。三代吉はそう思っていないのかもしれないが、全面
的に許されていることが却って愛子には辛い。もしも、だが、何の負い目もなく三代吉を
好きな女性が現れた時、自分はどうするべきなのか――
 ふっと、何の脈絡もなく頭の片隅に引っ掛った事があった。
「ね、三代吉ってさ、学校ではどう呼ばれてるの?」
「どう、て。俺は三代吉だけど」
「でも、比呂美ちゃんもあさみちゃんも『野伏君』よね?女子はみんなそう?」
「え?う、うん。女子は名前で呼ぶ人ほとんどいないんじゃないかな」
「朋与も名字で呼んでるよね。野伏君も女子は名前で呼ばないし」
「・・・・そう」
 それがどうかしたのと言う比呂美に、愛子はなんでもないとごまかした。
 ならば、高岡さんは誰の影響で、三代吉を名前で呼んでいるんだろう?

 一方、買出しに出た三代吉と朋与も、浴衣の話題だった。
「浴衣なんて動きづらいし、一体どこがいいんだか」
「いや、俺は女の子の浴衣好きだぞ。洋服じゃ見られない色気がある」
「いやらしい!」
「俺に限らず男はみんなそう言うわ!俺だけ変態みたいな目で見るな」
「ああ気持ち悪い。どうせ浴衣の下に下着着けてるのかとかそんな事考えてんでしょ?」
「考えるかボケ!」
 2人を知らぬ者が見れば、さぞ長い付き合いの友人に見えるだろう。実際は、眞一郎と
比呂美が付き合いだすまでただの同級生でしかなかったのだが。
「で、そこまで言うって事は、黒部は浴衣着た事ないのか?」
「・・・・去年着た」
「着たのかよ」
 三代吉が思わず突っ込む。
「仕方ないじゃない、去年はうちのお祖母ちゃんが比呂美の浴衣着付けてあげたんだか
ら。あたしも着るって言わないと比呂美が遠慮するでしょ」
 三代吉が朋与を見た。朋与が何よ、という目で睨み返す。
「お前、いい奴だな」
「今更気付いたの?湯浅比呂美の親友やってるのよ」
 朋与が誇らしげに言い返した。「いい奴」ではなく、「比呂美の親友」である事の誇りだった。
「野伏君こそどうして浴衣にしなかったの?似合いそうなのに」
「足下がスースーするから嫌いなんだ」
 三代吉にとっては、女子が兵器でスカートを履いているのも理解できない。男とはセン
サーが違うのだろうと思っている。
 その時、前方に朋与が見知った人物を発見した。
「あー、高岡先輩、日生先輩!」
 呼ばれて振り返った2人の一方は、間違いなくルミだった。すらりとした長身を、若草色
の浴衣で包んだ、落ち着いた雰囲気だ。
「あら朋与。それに・・・・仲上君の友達も」
 そう返事を返したのはルミの連れである。背は朋与より少し低いくらいだが、髪にシャギー
を入れた、すっきりした容貌の女性だ。
「なに、あなた達、付き合ってたの?」
「違います」
「やめてくださいよ」
三代吉と朋与が同時に否定する。ルミが笑いながら補足する。
「カナ、三代吉君は他に彼女がいるわよ。ほら、練習後に時々寄った今川焼き屋さんの」
「え?ああ、あの小さくて可愛い娘!へえ」
「バスケ部なんですか?」
 見覚えがあるようでないルミの連れに訊ねると、
「あ、ちょっとショック。私は君の事知ってるのに」
「すいません」
「野伏君、日生香苗先輩。女バスの前副キャプテンよ」
 それでようやく三代吉にもわかった。
「あー、5番」
 失礼である事に変わりない。
「そうそう、5番。今度からは名前で憶えてね」
 ここで朋与がようやくルミのファッションに触れた。
「高岡先輩、浴衣着てきたんですか?」
「あ、うん、バスケも引退しちゃったし、少しは女の子らしい格好もしたいなと思って。・・・・似
合わないかしら?」
「とぉーっても似合ってます。すんごい格好いいです」
「格好いいって・・・・可愛いって言われたくて着てみたのに」
「あ、すいません」
「いいのよ朋与。私もルミには格好いいって言ったんだから」
 隣から5番――カナが茶化す。
「三代吉君はどう思う?やっぱり、可愛いより格好いいかしら?」
 唐突に話を振られて、三代吉はどう答えたものか、一瞬迷ったが、思う通りの感想を述
べた。
「可愛いというか、綺麗ですよ」
「おや~?」
{あら~?」
 朋与とカナが、同時に冷やかした。しかし実際、比呂美とは全く違うタイプの美しさがある。
 比呂美が儚さとしなやかさを併せ持つ美しさなのに対し、ルミからは強さと脆さが共存
した美しさを感じる。
「ルミ、キレイだってよ。人の彼氏だけど獲っちゃえ獲っちゃえ」
「野伏君、実はホストの才能あるんじゃないのぉ~?」
「2人とも馬鹿なこと言ってないで、行くわよ、カナ」
「あ、先輩。よかったら私達と一緒に花火を見ませんか?いい場所とってあるんですよ」
「でも・・・・お邪魔じゃない?」
「全然。ね、野伏君?」
「まあ、・・・・2人くらい増えても狭くはない」
「ほら、大丈夫ですよ。比呂美も愛子さんもいるし、寂しい一人身男もいますから」
 三代吉は見習いがくしゃみをする姿を想像した。
「・・・・どうする、カナ?」
「せっかくだからご一緒させてもらいましょ。こんなところでナンパされたって、どうせ大
した男じゃないし」
「決まり!じゃあ、行きましょうか」



 4人が戻ると、入れ替わりに眞一郎と比呂美、なぜか見習いとあさみが夜店巡りに出か
け、5人が残った。
「愛子、お前は見に行かないでいいのか?」
 三代吉が愛子に訊いた。勿論、愛子が見に行くといえば一緒に行くつもりでいる。
「ううん、どうせ知ってる人ばっかりだし、いかさまの仕組みもわかってるし」
 実も蓋もない事を言って愛子は断り、ルミと話し始めた。
「高岡さんの浴衣、凄く似合ってるね」
「ありがとう。下世話な話、結構奮発したのよ」
「今年買ったの?」
「ええ、今までは着ようなんて思わなかったから。いざ探すとなると、私のサイズって中々
なくて困ったわ」
「・・・・そうなのか?」
 三代吉が小声で朋与に訊く。
「私や比呂美も見つからない。比呂美は今年のはあつらえじゃないかしら?」
 朋与が答える。
「安藤さんの浴衣も素敵よ。安藤さんに合ってるわ」
「ありがとう」
 愛子も礼を返す。
「でもよかったあ。ルミったら、急にお祭りに行こうとか言い出すんだもん。結局誰も集まら
ないし、女2人で夜店回るだけなんて寂しすぎだわ」
「ごめん。せっかく買ったんだから、着て外を歩きたくなっちゃって」
「それならあの彼氏と、夏祭り終わるまでキープしておけばよかったのに」
「ちょっと、カナ――」
「え!?高岡先輩彼氏と別れたんですか?」
 朋与が食いついてきた。ルミは仕方がない、とでも言うように首を振りながら
「まあね。元々あんまり熱心だから少し相手してあげただけで、好きだったわけでもないし、
今は他に好きな人が出来たから」
「ちょっと、それはカナちゃん聞いてなかったよ」
「好きな人って、どんな人ですか先輩」
「また年上の人?それとも同級生?」
 3人からの質問攻めに、ルミはさりげなく返答した。
「一つ下よ」
 エーっという合唱を聞きながら、三代吉はルミが自分の方を見た気がした。


                         了


ノート
浅海 絹(あさみ):
麦端高校2年B組
身長 155cm
家族構成 、両親、兄
趣味 映画鑑賞
絹というおばあちゃんのような名前を嫌い、同性にも名字で呼ばせている

日生香苗(5番、カナ)
麦端高校3年B組、女子バスケットボール部前副主将
身長 163cm
家族構成 両親、兄、弟
趣味 TV(主にお笑い)、フットサル
名前は小山田いく「すくらっぷぶっく」の登場人物から。元キャラのカナは比呂美タイプです
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