冷戦 -仲上家の女たち-


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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第18弾

『冷戦 -仲上家の女たち-』


 1989年11月9日、当時の世界中の人々の誰ひとりとして、さらには、世界中の情報機関のどのアナリスト
でさえ予測できなかったベルリンの壁崩壊により冷戦構造は一気に崩壊への途を辿ることになった。
 その後の新しい世界秩序は多極化構造への転換というかたちで21世紀初頭の人類文明世界を新たな方向へ導い
てゆきつつある。
 さて、世界政治の舞台ではもはや年表上にしか出てこない、この言葉が相応しい状況はしっかり生き残っていた
りする。

コト、
カタ、
チン、
ガチャ、

 静寂の中、無機質な音のみが響く風景。
 仲上家の朝食風景である。
 そんな中、一人の少年が椀を口につけ一口すする。
 2秒ほどしてそっと斜め向かいの少女に視線で合図を送る。
 視線の内容は高度に暗号化され発信されているのだが、通信内容を推測するのはそれほど困難なことではない、
状況を観察しているアナリストが居れば全員一致で
『今日は比呂美だね、おいしいよ』
との正確な分析結果になるだろう。
 それを受けた少女は口元に微かに笑みを浮かべる。
 少年はその笑みを自分の賛辞に対しての返信と理解していたが、実はそれは本質の半分しか意味を理解できてい
ない事になる。
 なぜなら少女の笑みは少年が気付いてくれた事への喜びのを素直に表すものであったが同時に向かいに座る仮想
敵に対しての勝利の笑みでもあったからだ。
 当然勝利の影には敗北がある。
 今日の敗北は少女の向かいに座り、一見無関心を装っている女性である。
 当然、少年のサインが発信された瞬間にそれは傍受されきわめて正確に分析されていた。
 いつの世も男の腹芸は女の前では無力であるようだ。

 この冷戦構造が発生するきっかけは少女が初めて味噌汁を作った日にさかのぼる。
 その日の食卓で女性は味噌汁の味付け、豆腐の大きさなどありとあらゆる部分を懸案とし不満を表明した。
 これを受け少女は釈明の機会さえ与えられず困難な立場に立たされた。
 事態を静観していた少年が仲裁に入り食文化の多様性はこれを保持すべきであり、画一化した食文化は緩やかな
衰退しかもたらさない事を主張し事態の沈静化を図った。

 その後も同様の小競り合いが数回繰り返される過程で新たな動きが観測される事となった。
 少年が少女の担当した時に少女に応援のサインを送るようになったのである。
 少年の心理が一方的に非難を受ける少女に味方する結果となり、戦術的優勢を得る為の行動が、同時に戦略的劣
勢を招く事態になりかねない事に女性はこの時ようやく気が付いた。
 女性の攻勢はここで一時中止され、ここに一時的な平和が訪れる事となった。
 だが平和な時代はまた争いの準備の為の時代であるのと同様に新たな火種が育ちつつあった。

 女性と少女は交代で味噌汁を担当していたが、女性はこの交代制をランダムに変更し、同時に女性としては屈辱
的ではあったが逆に少女の味付けを模倣する作戦を開始した。
 これが見事に成功し、女性の担当した味噌汁に口をつけた少年が、誤って少女に対しサインを送る事件が発生し
た。
 後にいう『第1次味噌汁誤認事件』である。
 自分が担当していないのにサインを送られた少女は、一見冷静さを装ってはいたものの少年に笑みを返さず、そ
れから3日間少年とは口をきかない、という少年にとって耐え難い制裁を発動する事態に発展したのである。
 女性としてはこの作戦がもたらしたこの副次的な結果に大いに満足したという。
 その後、少女もなんとか対抗したものの、経験の差はいかんともしがたく、女性の模倣作戦は少女を圧倒する寸
前まで追い詰めた。
 少年はこの悪化する事態の収拾を図るべく、細心の注意を払い味噌汁を味わったのが的中率は半分以下という無
残な結果にとどまった。
 少女としてもこれ以上いたずらに少年に対しての制裁を続けにくい内部事情をかかえ戦術の転換を企図した。
 初心者の立場を最大限に利用しワザと豆腐の大きさを不揃いにし
『まだ刃物に慣れてなくて…』
と申し訳無さそうに少年に表明し許しを請う作戦である。
 もとより少年は少女との摩擦を可能な限り回避したかった為、直ちにこの謝辞を受け入れた。
 この少女の新たな反攻作戦に対してはさすがに女性側としても技量を落として模倣する事はプライドが許さず、
模倣作戦はここに事実上終焉した。
 これ以降、少年の少女に対するサインはほぼ100%正確に発信されるようになり再び平和な時代が訪れた。

 ところが最近新たな心理戦が開始されたフシがあり少女側の忍耐が試されているようだ。
 女性が不揃いの豆腐をあざ笑うかのように不適な笑みを浮かべ始めたのである。
 このサインは明瞭に相手に伝える為のものではなかったが、直ちに少女はその意味するところを正確に察知した。
 現在は少女自身のプライドとの戦いにその主戦場が移されている。
 平和が保たれるのはあと何日のことであろうか?

 仲上家の朝食風景、それは人類史の縮図である。






●あとからあとがき
6話まで視聴済み

7話キャプ画の味噌汁の味見をする比呂美、同シーンの悲しそうな横顔に触発されました
作者はこんな味噌汁の味見する女性の姿にものすごく弱いんです
ただ、当の比呂美が悲しそうにしてるのが切なくてこんなカタチで逆襲です
NHKスペシャルのドキュメンタリー張りのナレーションで脳内再生していただければよろしいかと…
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