オレンジ色の交差点


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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第21弾

『オレンジ色の交差点』



 図書室で課題の為の調べ物を済ませた帰り、夕日がその速度を増す時間帯の校門脇、オレンジの色彩がやけにキツい。
 こんな日はあの日のことを思い出す。



 その日もオレンジの色彩がキツかった。
 今と同じこの場所で背後から呼び止められた。
 黒部である。
 俺の目は自然に比呂美を探す。
 黒部の後ろ、半ば隠れる位置に比呂美はいた。
 他にも女子バスケのメンバーが2人いた。
 どういう訳か黒部は俺に話しかけてくる事が少なくなかった。
 話の内容は様々だったが、試験範囲の確認だったり、提出物の期限の確認だったり、それほど重要な話はなかったように思う。
 そんな時は何故か決まって、少し離れた位置に、比呂美も側にいた、少しだけ困ったような顔をして。
 その頃の俺は、この二人はいつも一緒にいるのでそのことを特におかしい事とは思わなかった。
 尤も最近は必要を感じなくなったのか、黒部は俺にあまり話しかけてこなくなった。
 その日の黒部の用向きは確か選択授業の課題の確認だった。
 確認を済ませると、皆、帰りの方向は同じなので、付かず離れずの距離で自然と歩きだす。
 いつものように少女達の中で比呂美は俺から一番離れた位置にいた。
 この事に、いつ気が付いたのかは覚えていない。
 だが、こういう場面では、比呂美は必ず俺から一番離れた位置にいた。
 比呂美から俺に直接会話を求めてくる事も記憶にある限りはなかった筈だ。
 やはり、もう昔とは違うのだろうか。
 あの頃とは何もかも変わってしまったのだろうか。
 寂しくもあったが、いつまでも子供ではないのも確かだし、それが自然な事だとそのときはそう思っていた。
 道すがら、少女同士の会話を聞く、クラスの誰それがどうしただの、俺のよく知らない話題だ。
 しばらく歩いた交差点での信号待ち。
 ベビーカーを携えた女性と並んだ。
 突然、赤ん坊が泣きだした。
 母親は赤ん坊をあやしながら哺乳瓶でミルクを与えだした。
 すぐに赤ん坊は泣き止み、哺乳瓶に口をつけている。
 少女達はそんな光景を微笑みながら見守っている。
 母親と視線が合ったのだろう、少女の一人が軽く会釈して話しかけた。

 「いくつなんですか?」
 「8ヶ月になるの」
 「かわいー」

 少女達は赤ん坊の周囲に集まり目を細める。
 女は赤ん坊や動物となるとやたらと騒ぎ立てる。
 分からないでもないが、男の俺は正直それほどの関心はない。
 俺は少し離れた位置から、このまま先に行ったものか、それともとどまったものかと思案した。
 ふと、比呂美の横顔を観察する。
 比呂美も目を細めて母子を見守っている。
 少し、安心した。
 比呂美も子供好きであってくれる事が何故か嬉しかった。
 そんな比呂美の横顔を見ていると、ある違和感を感じた。
 なんだろう?
 数秒で気が付いた。
 顔の動きが他の少女達とは異なるのだ。
 他の少女達は赤ん坊を目で追っているようだが、比呂美の視線は確かに赤ん坊にも向けられていたものの、それよりはるかに多く、
赤ん坊を見守る母親に注がれていた。
 しばらく見守る。
 やはり比呂美だけは、赤ん坊でなく母子を、特にわが子を見守る母親を見つめていた。
 夕暮れのオレンジ色に染まる比呂美の横顔は少し寂しそうで、どこか赤ん坊を羨んでいるようにも見えた。
 その事に気付き、俺は、慄然とした。
 眼の前の光景、幸せそうな母子、見守る少女達。
 なんともほほえましい光景であるが、比呂美だけは他の少女達と見ている世界が違う。
 同じ制服に身を包み、同じ部活に汗を流す仲間達と一緒にいるというのに。
 俺はそれまで同じ屋根の下に暮らしていても、比呂美の見ている世界なんて想像した事も無かった。

 その時感じた無力感、苛立ち、焦り…
 それがはじまりだったように思う。
 その後の様々な出来事、喜びや、悲しみの積み重ね。
 それらが全て今に連なっている。
 この季節、オレンジ色のこの色彩が訪れるたびに、俺はあの日のことを思い出すのだろうか。



 「眞一郎くん」
 「おう」
 「おまたせ」
 「お疲れさま」
 「えへへ」
 「今日はどうだった? 部長さん」
 「もう、その呼び方はやめて」
 「はい、前部長さん」
 「もうっ! いじわる」
 「ハハハッ」
 「クスッ」

 今日は帰りの時間が合いそうだったので、校門脇で待ち合わせ。
 連れ立って歩く。
 軽口くらいは言える間柄。
 あの頃よりは、笑顔が増えた。
 手を伸ばせば届くほどの距離。
 あの頃よりは、すぐ側に。
 だけど、手をつないで歩けるようになるには、
 もう少し時間がかかりそうな、そんな距離。

 しばらく歩いた道半ば、並んで待つ、あの時の交差点。
 比呂美はあの時のことを覚えているだろうか?
 今まで訊いてみたことはない。
 何の変哲もない日常のひとコマ。
 思い出すことなどない筈の出来事。

 ふと気付いた。
 横断歩道の反対側。
 2、3歳くらいの子供を従えた母子連れ。
 信号が青に変わり歩きだす。
 向かいからの母子との距離が縮まる。
 幼子と比呂美の視線が合わさったのだろうか、
 幼子が比呂美に手を振った。
 受ける比呂美も手首でバイバイ。
 幼子に微笑んでから
 続けて母親に軽く会釈、すれ違う。
 やがて交差点を渡り終えた。

 まさか?

 「比呂美?」
 「ん?」
 「今の…」
 「なあに?」

 2年前の出来事を覚えているのだろうか?
 比呂美はきょとんとしている。
 偶然だろう、そんな事そうそうあるわけない。

 「いや、なんでもないんだ」
 「ヘンなの」
 「ああ」

 比呂美がオレンジ色の夕空を見上げてつぶやく。

 「夕日が綺麗」
 「ああ、なあ?」
 「ん?」
 「今度の休みさ、どっか行こうか?」
 「どっかって?」
 「どこでも、比呂美の行きたい場所」
 「なーに、それじゃまるで…」

 軽口口調であった比呂美がハッとして俺を見上げた。

 「その、『まるで』なんだけど、どうかな?」

 向けられた俺の視線を避けるように比呂美は慌てて俯くと、立ち止まってしまった。
 永遠の長さに匹敵する数秒後、

 「うん、嬉しい、何処行こうか…」

 比呂美は顔を上げ微笑みながらそう答えてくれた。
 染まった頬は夕日のせいばかりでは無さそうだ。
 何処に行くかをあれこれ話しながら並んで家路を歩む、さっきまでより少しだけゆっくり。
 並んで歩く二人の距離は、さっきまでより少しだけ近づいた。







●あとからあとがき
7話まで視聴済み

他メインキャラの影響を受けなかったふたりの二年後のワンシーンを仮想してます。
封印については未解決ながら時の流れが徐々に閉ざされた心を溶かしていったらこんなカンジかと…
個人的にはこのふたりには他キャラを巻き込んでの恋の迷走劇よりも
家庭とか夢とか別の障害を乗り越えていくおハナシ方がお似合いだと思っているので…
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