悪意


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 会社を出るとすぐ、私は大きくため息をついた。最近では疲れも翌日に残る。
 大学を出た後、地元、富山の製薬会社に就職して25年、営業二部の部長にまで栄達し、社
会的には成功といえる人生を送ってきた。
 しかし、妻との関係は冷え切り、子供もなく、家には一切の会話はない。連絡事項は全て
メモで行われ、この10年妻が台所に立つ姿を見たことがない。ただ、戸籍と屋根で繋がって
いるだけの、赤の他人であった。
 それでも以前は――まだ私が課長だった頃だ――仕事終りに部下と飲み歩くなど、それな
りの息抜きも出来た。だが部長ともなると若い社員は身構えてしまい、私がいるだけで無礼
講とはならない。それがわかっているから私も以前のように部下に混ざって飲む機会も少な
くなり、代わって取引先との接待や自分の会社の役員の供をする事が増え、ストレスは溜ま
る一方であった。
「・・・・また、一人で食っていくか」
 独り言を呟いて、駅前のレストランを目指す。イタリアンは最近少し重く感じるが、そこ
は値段も手頃でよいワインを置いている。
 店の明かりが見え、知らず足を速めた途端、横から飛び出してきた何者かと衝突した。
「ぅわっ」
「きゃっ」
 ほとんど同時に短い悲鳴をあげ、私達は尻から着地した。
「す、すいません。お怪我はありませんか?」
「いや・・・・大丈夫だ。君は?」
 痛む腰をさすりながら、一人で立ち上がる。相手はもう立ち上がっていた。
「私も平気です――あーっ!」
 急に大声を上げて、私に近づいてきた。かなり若い、背の高い女だ。ショートの髪が私の
顔の下に引き寄せられていく。
「大変、どうしよう。アイスがこんなにくっついちゃった」
 女の言う通り、私の胸元には彼女の持っていたソフトクリームが、べったりとくっついて
いた。コーンが胸に刺さっているように見える。
「本当にすいません。どうしよう、シミになっちゃいますよね?」
「まあ・・・・クリーニングに出せば、なんとか」
 それを聞いた女は暫らく考えていたが、やがて思い切ったように
「あの、でしたら、すぐに洗った方がいいですよね?」

 妙な事になった。
 女に連れられて入ったのは駅からは離れているが、繁華街の中核をなしているシティホテ
ルだった。女は慣れた様子で部屋を取り、私をその部屋に案内すると、ルームサービスを頼
むと同時に私の服のクリーニングを至急で要望した。そして私に向かって、
「服の下までアイスでベタついちゃったでしょう?シャワー浴びてきてください」
 と、浴室に追いやられてしまった。
 ここまで来ると私にもなんとなくわかってくる。
 つまり、私は「目をつけられた」のだ。
 適当に金を持っていそうな、そしてまだ男としては現役な中年。自分から素人に手を出す
度胸はないが、相手がその気で誘ってくるなら買ってもいいという程度の下心はある親父。
私はそういう男に見られたのだ。
 まあ、それならそれでいい。私も若かりし頃にはそれなりに遊んだし、妻との関係がおか
しくなった当時はそういう女を買ったこともある。もしそういう目的の女なら今夜くらい愉
しんでも罰は当たるまい。
 シャワーから出ると、女が上着を脱いで寛いでいた。その服装を見て、さすがの私も驚い
た。
 彼女が着ているのは制服だった。それも銀行とか、企業のものではなく、どう見ても高校
の制服で――つまり、まだ少女と呼ぶべき年齢だったのだ。
「君はまだ学生だったのか・・・・」
 私は呆れて声をかける。女――いや少女は無邪気と呼ぶには妖艶に過ぎる微笑を浮かべた。
「ええ、麦端高校の1年生です」
 麦端か。たしか姪が中等部に編入していたはずだ。
「こういう事はよくやっているのか?ええと――?」
「――ルミ、でいいです。よくなんてとんでもない。そんな悪い子じゃないんですよ、私」
 私は苦笑した。言葉と口調が見事に正反対を向いている。
 明るい所で見ると、ルミは美人ではあったが、同時に少女らしさも持っていた。髪は明る
い茶色のショートカット、化粧はほとんどしておらず、少し勝気そうな瞳が印象的だった。
 ルミは私に座るよう促すと、ルームサービスのワインの栓を開け、グラスに注いだ。
「さ、どうぞ」
 私はグラスに口をつけた。重く、強いワインで、空きっ腹には堪えた。
「きついな、これは」
「そうなんですか?よく知らないで頼んじゃいました」
 そう言ってルミも一口。途端にむせ返る。
 私は笑って
「言わんこっちゃない」
「す、すいません。こんなに強いなんて・・・・」
「もっと軽いのを頼もう。私もなにか食べるものが欲しかった所だ」
「あ、でも、私、その・・・・これ以上は、お金が・・・・」
「クリーニング代だけで十分。後は私の奢りだ」
「そんな、それじゃ・・・・でも、ありがとうございます」
 おそらく最初からそのつもりであろうが、それでもこういう反応をされると可愛いと思え
てくる。
「でも・・・・それなら、私、ちゃんとお礼しないと」
 ルミの声が変わった。少女ではなく、女の声に。

 私に背中を向け、制服を脱いでいくルミ。ジャンパースカートを脱ぎ、ブラウスのボタン
を外す。
 裸になっても、ルミの印象はあまり変わらない。胸はあまり大きくないが、痩せているわ
けではなく、スポーツでもしているのだろう、引き締まった、均整の取れた身体だ。
 ショーツとブラも脱ぎ去ったルミは、もう一度ブラウスを羽織り、ボタンは閉めずに私を
振り返った。
「なんでわざわざブラウスを?」
「この方が喜ぶかと思って」
 なにかの雑誌で手に入れた知識なのか、経験上の実感なのか判別できない。ルミはそのま
ま私に近づくと、私に唇を重ねてきた。
 少し迷ったが、舌を差し入れてみる。ルミはそれを受け入れ、暫し舌を絡め合わせた。
 私の手がルミの乳房をまさぐる。外周から円を描くように揉みしだき、先端の突起を指先
でつまむ。唇を重ねたまま、ルミが呻き声を洩らした。
 ルミは唇を離すと、少し悪戯っぽい笑顔を浮かべて私のバスローブの前をはだけた。そし
て私の乳首を唇で挟み、軽く歯を立ててくる。
「お、おい――」
「おかしい。男の人は女にこういう事するのに、女からされるのは恥ずかしいんですね」
 一度口を離したルミはそう言って、すぐに愛撫を再開する。唇は胸から腹に下がっていき、
更に下へ。まだズボンを履いていたが、そのベルトを外すと、ズボンの前を開き、トランク
スの上から私のモノを手でしごき始めた。
 トランクスも下ろされ、むき出しになった一物は、もう久しく記憶がないほどに硬直して
いた。彼女は躊躇うことなく口に含み、舌先で私を責めてきた。
「ん、む、むぐ・・・・」
 我ながら情けない声が自分の喉から絞り出される。10代のガキならともかく、この歳にな
ってこの程度の前戯で果ててしまっては沽券に関わる。
 いつの間に用意したものか、ルミの手にはコンドームの袋が握られていた。封を切り、中
身を口にくわえると、慣れた手際で口で私に装着してくれた。
 再びルミの顔が私の目の高さまで上がってくると、
「続きは、向こうで」
 ベッドを見ながら言う。
 二人でベッドまで歩き――残念ながらお姫様抱っこをするには私は歳を取りすぎた――掛
け布団を剥ぐと、ルミが私をベッドに押し倒した。
 仰向けになった私の上に、ルミが覆い被さる。私のモノを手で持つと、自分の中に導いて
いった。
 16歳、自分の娘と言ってもおかしくない年齢の娘が、私の上で腰を動かしている。この上
ない背徳感と、彼女自身の動きによって、私は大いに昂った。両手を伸ばし、ルミの両の乳
房を鷲?みする。荒々しい愛撫に、ルミの表情が歪む。
「ハァ、ハァ・・・・おじさん、凄い・・・・!」
 ルミの腰の動きが激しくなっていく。私も下から突き上げていく。二人が獣じみた声をあ
げ、動きが最高潮になったとき、二人は同時に果てた。

「ねえ、おじさん」
 事後のけだるさの中で、ルミが私に話しかけてきた。
「ん?」
 煙草を吸いたい気分だが、数年前から禁煙して持っていない。ホテルを出たら買おう、と
思った。
「私、おじさんに言い忘れてた事があるの」
「なに?」
「私ね、フルネームは高岡ルミ、て言うの」
「高岡?」
 なんだろう、どこかで聞き覚えがある名字だ。高岡・・・・高岡・・・・・・・・。
 目が覚めた。さっきまでの気分は全て吹っ飛んでしまった。私は跳ね起き、ルミを見つめ
た。
「そう、私は高岡弥生の娘。あなたのお父さんが手を付け、そして生まれた子供。つまりあ
なたの異母妹。どう?腹違いとはいえ、自分の妹の味は?」
「・・・・・・・・どういうつもりだ、これは?」
「別に。やっぱり私の父方の家系は、男はみんなけだものだって言う事を確認したかっただ
け。でも、こんなこと会社に知れたらどうなるのかしらね?」
「・・・・誰が信じるものか」
「ここの部屋、お兄さんの名前でとったのよ。何驚いているの?当然名前は知ってたわよ。
ルームサービス持ってきたボーイさんは、二人いて男がシャワー浴びてた事を知っている
し、私が高校の制服を着ていた事も見てる。いざとなれば証人はいくらでもいるわ。それに、
写真もあるのよ。私のバッグ。よく見ると横に穴が開いているのに気付かなかった?その粗
末なもの咥えてる時に、リモコンでシャッター切ったのよ。こぴしてばら撒いてもよし、メ
ールで送りつけてもよし、どっちがお望み?」
「そんなことをしてみろ。お前だってここにいられなくなるぞ」
 精一杯の脅しであった。だがルミは唇の端をゆがめて笑うと、
「こんな町に愛着も郷愁もないわよ。妾の子、妾の子って、私や母がどれだけ後ろ指指され
てきたと思ってるの?あなたを道連れなら、町を出ることくらい安い取引だわ」
 私は目の前が暗くなっていくのを感じた。自分ではなく、自分の父の不始末によって、こ
れほどに理不尽な復讐をされていることに、そして反撃の機会が残されていない事に、絶望
していた。
「・・・・何が、望みだ。どうすれば、黙っていてくれる」
「大したことじゃないわ。ただ、片親って色々大変なのよ。大学の推薦もとりづらいし、就
職だって不利だし。お兄さんなら色々人脈も持ってるでしょ?可愛い妹の為に、この先色々
と協力して欲しいのよ、ね、簡単でしょ」
 言葉では簡単だ。だが私には、一生摂り付いてやるという宣告にしか聞こえなかった。

                了
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