Amour et trois generation La veille(前夜祭)


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「おい、三代吉!そこまだ絵の具乾いてないから気をつけろ」
「ねえ真由、服の型紙どこに置いたっけ?」
「キャーッひ、比呂美!?それは切っちゃ駄目!」
 文化祭を一週間後に控えた土曜日。2-Bも最後の追い込みに入っていた。
 眞一郎が室内の装飾品をデザインし、三代吉たち男子班が入り口や壁などの大道具を実
作する。小物は眞一郎と、男女選抜班が担当し、残る女子は衣装の制作に追われていた。
 コスプレ喫茶といっても、所詮は模擬店である。本来ならそれほど本格的である必要は
ない。衣装も本格的に造るつもりはなく、自前の服にそれらしい飾りをつけて済ませるつ
もりだった。
 だが、3-Bが同じコスプレ喫茶を開くとわかったこと、それに加えて生物部が「ジャング
ル喫茶」などというこれもまたコスプレが想像できる模擬店を出す事が判明し、それを聞
いた朋与の闘争本能に火が点いてしまった。
 加えて、3-Bにコーヒー専門店「ヴァスコ・ダ・ガマ」、生物部にはフレンチレストラン
「トラ・ヴォロジュ」更に天文部の「プラネタリウムカフェ」にも洋菓子屋「ハイバリー」
がバックにつく(と言ってもそれぞれの店の子女がそこに所属しているだけだが)事がわ
かると、今度はお茶・お茶請けを担当する真由とそれにパン屋「ジェルラン」の娘である
美紀子を本気にさせてしまった。
 かくして、当初の計画は大幅に変更され、コスプレの衣装からオール自作、コーヒーは
豆から挽いてドリップする本格志向、パンは「ジェルラン」秋の新作を独占先行販売とい
う、巨大プロジェクトとなっていったのである。
「比呂美、だからそこは切らないで!」
「あ、ご、ごめんなさい」
「比呂美、ここはいいから小道具手伝ってて」
 シュンと落ち込んだ比呂美がとぼとぼと眞一郎に近づいてくる。
 文化祭準備が始まって以降、比呂美は手先が不器用という意外な弱点を見せ、服飾でも、
室内装飾でも見事な無能っぷりを発揮していた。日頃文武両道のイメージが強く、一人暮
らしとあって料理も一通りこなしているだけに、男子には非常な驚きを提供していた。
「まあ、湯浅の場合は当日になれば集客力で最大戦力になるからなあ」
 いつの間にか準備に合流していた下平が三代吉に他人事のように話しかける。弓道部と
の掛け持ちなのでそれほどクラスには顔を出さない。
「そりゃそうだが、他の女子に聞こえないようにしろよ」
「全くうらやましい話だ。こっちは射的大会の景品くらいしか客寄せ出来るものがないっ
てのに」
「大体弓道部は運動部じゃねえのかよ?なんで出展してるんだよ」
「うち実績ないから予算少ねーんだわ。中等部の連中今のうちから勧誘しとかないと部員
もやべえしよ」
「大変なんだな、色々と」
「何せ現在部員七名、内三年生三名で来年新入部員がいなけりゃ同好会に格下げだ」
「・・・・・・・・影ながら応援してやるよ」
 一方、眞一郎は比呂美を慰めていた。
「しょうがないさ、誰にでも不得意なものはある」
「私、お裁縫は苦手で・・・・あ、いえ、美術と音楽も」
「気にするなって。しかし、美術と音楽は知ってたけど、裁縫は意外だったな、料理があ
れだけ出来るんだから家庭科は得意だと思ってた」
「お料理は、レシピを辿っていけばそんなに失敗しないから。包丁はお母さんいた頃から
つかってるし。でも、ミシンはあまり使ってないから・・・・」
 そういえば、野菜の皮もピーラーで剥いている。美術や音楽が苦手なのは小学校の頃か
ら知っているが、こうまで不器用とは思わなかった。
「・・・・今、笑ったでしょ?」
「え?いや、笑ってないよ。本当だよ」
「嘘。今絶対笑った!酷い、人が本気で落ち込んでるのに」
「いや、だから笑ってないってば・・・・」
「ひ・ろ・み・さん。手伝えないのはいいけど、仲上君の邪魔はしないでもらえません?」
 比呂美の背後で朋与が怖い顔をして睨んでいた。
「キャッ!と、朋与!?」
「むぁーったくぅ、ちょっと目を離すとすぐ二人の世界に入るんだから。いい?仲上君も
比呂美も、文化祭当日はイチャイチャ禁止だからね!」
「イチャイチャなんて、私達別に――」
「比呂美、自分の立場わかってる?あなたはうちのエースなのよ、アイドルなのよ、看板
娘なのよ!そのあなたが彼氏持ちじゃ集客力激減だわ。ライバルは星空だけじゃないのよ、
高岡キャプテンや石動さんとも戦わなきゃいけないのよ」
「ちょっと待て、なんでそこで乃絵が・・・・?」
「なんだお前、知らなかったのかよ?あいつ二年になってから、生物部に入ったんだぜ。
ジャングル喫茶は、部長が石動乃絵に可愛い格好させたいだけだって、A組の奴らが言って
たぞ」
 眞一郎に三代吉が説明する。春になっても一向に修繕されない鶏小屋に立腹した乃絵が、
生物部に直談判に乗り込み、なぜか生物部に在籍させられたという事だった。
「まあ、いわゆるクジラ捕りがクジラに、て奴ね」
「ミイラ取りがミイラに、だよ、朋与・・・・」
「でもさ、比呂美じゃやっぱり不利なんじゃないかなあ?石動さんも、高岡先輩も、とり
あえず今はフリーって事になってるけど、比呂美はかなり有名になってるんじゃない?仲
上君の事」
 あさみが的を射た疑問を口にする。
 元を辿れば、眞一郎と比呂美の交際を言い触らして回ったのは朋与である。停学や、そ
の後の蛍川との練習試合の一件で比呂美に纏わりついた醜聞を一掃する為、二人が実は中
学から相思相愛であり、些細な誤解から破局寸前となるも、停学の原因となった事故の後、
眞一郎自ら4番と対決して比呂美を取り返したドラマなどを、もっともらしく吹聴して回っ
たのである。
 実際の所、相思相愛になったのは中学どころか小学校からなのだが、ともかくも、この
朋与の暗躍により比呂美のイメージは回復し、眞一郎はその株を大いに上げた。
 乃絵と4番の兄妹はこの物語では悪役を演じさせられるが、乃絵は別段噂を否定するでも
なく、変わりなく振舞っている。
「心配無用。確かに校内のシングル男共からの人気では石動さんに一歩譲るかもしれない
けど、アンケートは外部の客だって対象なのよ。仲上君の事を知らない男なら、コロッと
だまされる事請け合いよ」
「騙すって言わないで・・・・」
「それに、単純に美人メイドが見たいマニアックな層にも比呂美は最高よ。写真撮るだけ
なら別にモデルが処女だろうがそうでなかろうが関係ない筈――モガッ!?」
 直接的に過ぎる表現に比呂美が慌てて朋与の口を塞ぎ、眞一郎は他の男子から果てしな
く八つ当たりに近い暴行を受けた――。



「これでウエイトレスするんですかあ?」
 当日の衣装を試着した乃絵が、部長に訊いた。
「うん、そう。それなら格好いいでしょ?」
「この前よりははるかにいいけど・・・・どうしたんですか、これ?」
「買ってきた。女子の分は全員ね」
「そんなお金どこから――」
「部の予算から。これだけで四割以上使っちまった」
「そんなお金があるんだったらもっと早く鶏小屋修繕してください!」
 乃絵が至極真っ当な指摘をする。
「まあまあ。終わったらこの服はそのまま自分の服にしていいから。これで上位入賞すれ
ばその賞金修繕費にも回すから、ね?」
「まあ・・・・そういう事なら」
 不承不承引き受ける乃絵。それを見ながら他の部員が囁きあう。
「丸め込まれたな」
「どう見ても衣装代で修繕費くらい出せるよな」
「しかし部長も懲りないね。この前の衣装は断られたんだろ?」
「そりゃお前、豹柄のハーフのタンクトップにミニスカじゃ、誰だって怒るわ」
「にしてもいきなり部長を指差して『あなたに不幸が訪れますように!』だもんな。悪い
けど笑ったよ」
 呪いの効果があったか否かはともかく、部長も今回は妥協した。今回彼が用意したのは
所謂サファリファッションで、タイトなホットパンツをジャケットに合わせたものだった。



「こんちわ――て、あれ?何してるの?」
 背後からの声に振り向くと、この場にいるはずがない人物が立っていた。
「愛子、何してんだ?」
 三代吉の物言いを思い遣りに欠けると言うべきではないだろう。大きな箱を抱えた愛子
は、まるで当然のような顔をして、
「差し入れ。今川焼き持ってきたよ」
「いや、よく通してもらえたなと思って」
「そう?教室訊いたらすぐに教えてもらえたよ」
 無用心な学校だ、と三代吉は思った。
「これ、どこに置けばいい?結構重いのよ」
「ああ、悪い悪い」
 そう言うと三代吉は机をひとつ、荷物をどけて空けてやった。愛子は机の上に箱を乗せ、
蓋を開けた。
「それじゃ、一回休憩しましょうか。コーヒーと紅茶、どっちがいい?」
 真由が予行演習よろしく注文をとり始める。皆口々に好きな方を注文していく。今川焼
きにコーヒーか、という疑問は、とりあえずないようだ。
「はい、少々お待ち下さい」
 本番さながらに営業スマイルを浮かべて見せ、真由と美紀子はお茶の準備に取り掛かっ
た。
「ね、何あれ?」
「コーヒー淹れるサイフォンだそうだ。当日には使えないが、持ってきたらしい」
「初めて見たわ」
「火気禁止だからな。あれ下からアルコールランプでお湯沸かすから」
 自ら担当に名乗りを挙げただけのことはあり、紅茶担当の真由も、コーヒー担当の美紀
子も、手際よく進めていく。それまで教室の飾りと化していた比呂美も、名誉回復と給仕
をして回る。三代吉、愛子もコーヒーを受け取り、眞一郎らの輪に加わった。
 愛子がコーヒーに口をつける。
「おいしい、このコーヒー」
「美紀子はコーヒーにこだわりがあるから」
「当日はサイフォン使えないけどねー。その代わり、紙コップじゃなく陶器のカップを用
意するから、来てくださいね」
 簡単に後片付けをした美紀子が戻ってきて愛子に言った。愛子も勿論と答える。
「おい、野伏、その娘誰だよ?ありえないとは思うがお前の彼女か?
 男子の一人がひどい事を言う。三代吉は精一杯余裕を持って、さも当然というように、
「おう、俺の彼女で、愛子だ。商店街で今川焼き屋やってる。今度買いに来てくれよ」
「何自分の店みたいに言ってんだよ」
 別の男子がツッコミを入れ、愛子が改めて来てくださいねと宣伝すると、主に男子から
必ず行くと返事が帰ってきた。
「ね、衣装ってどれくらい出来たの?三代吉も何か着るの?」
 やや早口で愛子が三代吉に訊ねた。彼女、と紹介され、恥ずかしかったのである。
 恥ずかしいのは三代吉も同じだった。噛む事なく言い切ることが出来てほっとしていた。
愛子に話を向けられてもすぐには気付かなかった。
 その間を見逃さない者がいた。朋与が顔中をニヤケ笑いで覆うと、嬉しそうに
「着ますよ~。見ます?」
「黒部、てめっ――」
「あーでもー、やっぱり当日のお楽しみの方がいいかなー。仲上君共々間違いなく受けま
すよお」
「受ける・・・・?」
「あ、愛子!そろそろ店の準備した方がいいんじゃないか?箱は後で持って行くから、待
ってなくて、いいぞ」
「?まだ大丈夫だけど」
「いやいやいやいや。俺も後で行くから、名?先に準備しておいてくれ」
 三代吉が追い立てるように愛子を教室から送り出すのを見ながら、眞一郎が深々とため
息を吐いた。
「・・・・俺、本当にあれ着るのか?」
「くじ引きで決まったんだから文句言わないの」
 そういう比呂美も今から笑いをかみ殺している。眞一郎はますます落ち込んだ。


                 了


ノート
蒲生美紀子:
麦端高校2年B組、ソフトボール部員
身長 167cm
家族構成 両親、妹
趣味 料理、コーヒー
パン屋「ジェルラン」の娘。姓は真由の氏郷と合わせると蒲生氏郷になります


生物部部長:
フレンチ「トラ・ヴォロジュ」の息子。あと文化祭当日にチラッと出て出番終了
女子の衣装もっと粘ってビキニで押し通せよ・・・・


基本的に文化祭は保管庫11「true MAMAN 番外編 今、俺は最低なおっさんじゃなかったか」の別視点になります
http://www39.atwiki.jp/true_tears/pages/218.html
今度は視点が三代吉、乃絵、比呂美、朋与と色々変更しながら語れるのでなるべく賑やかにするつもり


乃絵について
眞一郎が思い遣りを空回りさせるように、比呂美が眞一郎の事となると視野が狭くなるように、乃絵の自分が正しいと思った
事は引き下がらない性格もまた不変だと思って書いています
ただ、以前は相手の立場や価値観を認めずに主張していた所を、一度立ち止まって相手の考えを検討できるようになったと
論争を厭わないので、弁護士向けの性格、と捉えています
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