Amour et trois generation OK, c'est le jour 1(さあ、本番だその1)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

「さ、もうじき始まるわよ」
 朋与の声が響く。既にヴィクトリア朝を思わせるドレスに身を包み、縦ロールのかつら
まで用意して準備万端だった。
「はーい、パン焼きたて持ってきたわよ」
 美紀子と真由が大きな籠を持って教室に入ってくる。
「男子は?もう準備できた?」
「おい、また看板が傾いてるぞ」
「あさみ、ちょっと背中のリボン結んでくれる?」
 朝の七時半からテンションは最高潮だった。男子も女子もくじで決まった衣装を身に付
け、開場を待つばかりである。
 しかしながら衣装がくじによって決まる以上、全員が不満のない衣装はありえない。朋
与が巧妙にいかさまを仕掛けているのだから尚更である。
「黒部・・・・俺、本当にこの格好でないと駄目か?」
 眞一郎が物陰から情けない声を出す。
「絶対あのくじおかしいぞ。作為というか、悪意を感じる」
 三代吉も不満たらたらである。
「男ならウダウダ言わない。ほらシャキっとする」
 二人がゆっくりと出てきた。朋与と真由が同時に噴出す。
「やめた。絶対にやめた」
「ごめん、ごめん。けどさ、その格好して感心されたらその方がやでしょ」
「・・・・そりゃ、そうだけどさ」
 朋与以外の同級生は、二人に対して同情を禁じえない。三代吉はメイド服、眞一郎に至
っては更に猫耳追加という、罰ゲームのような姿だった。
 朋与と同系統のドレスを着たあさみと、まるで三銃士のような衣装に着替えた美紀子が
比呂美の着替えを手伝っている。手伝わなくても着替えられる程度の衣装だが、二人が面
白がって髪やメイクを弄っているのだった。
「比呂美、着替え終わった?」
「う、うん・・・・」
「どーしたの?出てきて見せてよ」
 さらに十秒ほど待たされた後、ようやく出てきた比呂美。
「おーぅ」
 ため息とも歓声ともつかない声が上がる。
 濃紺のエプロンドレスに白い前掛け、アップにして細いうなじを見せた頭の上に白いフ
リル付のカチューシャ・・・・。
「よし、この勝負、もらった!」
 朋与が早々に勝利宣言を発した事を、先走りと責めることはできまい。
「おーい、仲上君、なんか言ってあげなさいよー」
 朋与にからかわれるまでもなく、眞一郎も何か感想を言いたかった。しかし彼の、多分
に叙情的な語彙をもってしても、今の比呂美を的確に表現するには不足だった。
「あ、えーっと、凄く、きれいだよ」
 陳腐すぎて却って新鮮な言葉しか出ない。もっとも、眞一郎が褒めるなら、どんな陳腐
な言葉でも比呂美には十分すぎるのだが。
「ありがとう、しんいちろ・・・・プッ」
 再び逃亡を図る眞一郎を、三代吉が取り押さえた。



「石動さんは?」
「午前中はクラス出展に出るって言ってたでしょうが」
「お化け屋敷で猫娘だとか」
「似合いすぎだな」
「ぬああ、スタートダッシュに看板娘がおらんのか~」
「部長、だからそれを他の女子部員の前で言わないで下さいよ」
「石動さん以外だってうちはそこそこ可愛い娘が多いって評判なんですから」
「でも俺、午前中2-A見に行こうかな・・・・」



「よし、これで完成、と」
「・・・・日登美、変じゃない?」
「何言ってるの、他が考えられないくらい似合ってるわよ、ね、桜子?」
「本当に。このまま猫娘コンテストがあったら優勝しそうなくらいに」
 明らかにおかしい褒め方だが、桜子の偽らざる感想に、乃絵もようやく自信を持つ。
「うん、それじゃ、私、頑張る」
「午前中だけでいなくなっちゃうのが惜しいくらいだわ」
「もったいないな、こんなに似合うのに暗がりであまりよく見えないなんて」
 桜子の言葉を聞いた日登美が、それだ、と手を叩いた。
「乃絵、あなたこの格好で表立ってなさい」
「え?この格好で?」
「そうよ、乃絵が外で看板持って立っていればそれだけでもいい広告になるわ」
「このキャラクターなら校内の男共だけじゃなく、父兄や小さなお子さんにまでアピール
できるわ」
「そ、そうかな・・・・」
「頑張って乃絵、われら2-Aのスタートダッシュはあなたにかかってるのよ」
「わ、わかったわ、私、頑張る!」
 よしよしと日登美に頭をなでられながら、乃絵は上手く乗せられたかしら、と考え始め
ていた。



 高岡ルミはベストを着ると、改めて鏡の前で襟を正した。鏡の自分に頷いて、更衣室代
わりの美術準備室から出てくる。
 一斉にため息と歓声が混ざり合った声が上がる。比呂美が受けた賞賛と同じものだが、
こちらの方がややため息の比率が高い。
「どうかしら」
「・・・・・・・・いい!凄くいい!最高よ、ルミ」
 大正女学生風の衣装を着たカナが本気で感動している。この企画の発案者が誰あろうカ
ナであった。
「思った通りよ!ルミに執事の格好は絶対に似合うと思ったの。まさにあたしのイメージ
通りだわ」
「大袈裟よ、カナ」
 ルミはそう言ったが、謙遜している風にも、困惑しているようにも見えない。極自然に
男装を着こなし、何の違和感もない事を厭味なく受け入れていた。
「もうお菓子とかコーヒーの用意は出来てるの?」
「勿論、もう準備万端よ。それじゃ、私は看板持って校内回ってるから接客はお願いね、
執事さん」
「おまかせ下さい、お嬢様」
 うやうやしく頭を下げて見せ、ルミとカナはにっこりと笑いあった。



「はい」
 朋与がプラカードを三代吉に渡した。
「なんだこれは?」
「看板」
「そんなの見りゃわかる。これを俺に渡してどうする気だ?」
「決まってるでしょ。校内練り歩いてここを宣伝するの」
「誰が?」
「野伏君が」
 当然というように答える。
「宣伝は黒部と浅海の担当じゃなかったか」
「そうよ、だから宣伝担当として命令してるの」
「何当たり前みたいに答えてる!何で俺が恥を撒き散らすような真似せにゃならんのだ」
「じゃあ接客したい?」
「う・・・・」
「はい、お願いしまーす」
 是非もなくプラカードを持って校内を回り始める。仏頂面したメイド服姿の男が、一声
も発さずプラカード担いで徘徊する姿が、宣伝活動にプラスに作用するのか、甚だ疑問で
はあるが。
 それでも校内は一周しておかないといけない。こんな格好見られたら、暫らくは俺の名
前聞いても怖がらなくなりそうだ、愛子が午後でよかった、など、様々にネガティブな事
を考えながら歩いていると、前から上機嫌に腰振って歌いながらプラカードを振り回す女
子がいた。
「すーぐそこーにお化け屋敷~   二階の突き当たり廊下の左にお化け屋敷」
 乃絵だった。
「石動乃絵、なにやってんだ?」
「お化け屋敷の宣伝」
 乃絵はあからさまに目を逸らしながら
「あなたは何してるの?」
「目に見えるものを否定しながら訊くな」
 俺も宣伝だよ、と答える。
「・・・・全然宣伝になってない」
「奇遇だな。俺も全く同じ事を思ってた」
「せめてもっとにこやかに出来ないの?皆で一所懸命に作ったのに、それじゃ台無しじゃ
ない」
「む・・・・こ、こうか?」
 顔の筋肉で笑顔を作る。
「・・・・真面目にする気ないでしょ」
「この衣装で真面目にやったら不気味さ三乗だ」
「せめて声くらい出しなよ。周り怖がってるよ」
 三代吉は周囲を見渡した。
 なるほど、確かに誰もがやや遠巻きにして、様子を窺っているようにも見える。
「ま、気が向いたらな」
 そうごまかして、三代吉は乃絵と別れた。
「・・・・ま、これ以上何しても恥の上塗りにもならねえか」
 そう三代吉は独り言を呟くと、
「えー、2-Bコスプレ喫茶に寄ってらっしゃ~い、校内屈指の美少女がメイド姿でお出迎え
~」
 自棄気味に大声を張って宣伝を始めた。



 三代吉の投げやりな広告活動にも拘らず、コスプレ喫茶は開店と同時に盛況だった。
「いらっしゃいませ、ご主人様」
 比呂美も直前まで恥ずかしがっていたが、いざ始まると乗り気になって接客していた。
「アールグレイのアイス、ミルク付で」
「美紀子、ウィンナーコーヒー二つ追加」
「メロンクリームパンまだ用意できる?あれば一つお願い」
 裏方の真由、美紀子らも休みなくコーヒーメーカーやポットの間を動き回る。なまじ茶
道楽の二人がメニューを作ったため、紅茶、ハーブティーが八種類、コーヒーも七種類と
メニューで他の模擬店を圧倒している。そのために複数の機材を使ってお茶を淹れ続けて
おり、皿洗い係の男子共々休む暇がなかった。
「はい、ハイビスカスティー二つにクロワッサン。勿論待ってなんかいないわよね。私に
運ばせるなんていいご身分だ事」
 傲岸不遜な接客は朋与である。貴婦人風の衣装のため、それに相応しいキャラを作ると
の本人の弁だが、どう見てもツンデレの勘違い例である。だが、このキャラが意外に受け
ているのが眞一郎にはよくわからない。
「メイドさん、メイドじゃんけんとかそういうのはないの?」
「申し訳ございませんご主人様、当店ではそのようなサービスはいたしておりません」
「じゃあさじゃあさ、ポッキー両側から食べる奴やらない?」
 稀に勘違いした客も来るが、
「はいご主人様、私が承ります」
 と、横から眞一郎他女装組が介入する事でトラブルを避けている。
「なるほど、男にこの格好させるのも無意味じゃないのね」
 あさみが感心して言うと、
「でしょ~。て、実は野伏君の発案なんだけどね~」
 まさか自分が女装する事になるとは思っていなかったのであろう。
 一方、裏では
「――これはパン追加しておいた方がいいかな?」
 美紀子が難しい顔で真由に相談する。
「でも、売り切れたらそれでしょうがないんじゃない。模擬店なんてそんなものでしょ」
「そうなんだけど、うーん・・・・・・・・」
 美紀子の気持ちはわかる。儲けなしとはいえ自家製のパンが好評なのは喜ぶべき話であ
る。「ジェルラン」の名前を公表していることもあり、宣伝効果を考えるとあまりに早い
段階での売り切れは避けたい所だ。
「よし、決めた!残ったらみんなで食べればいいや」
 そう言うと美紀子は携帯で家に電話し、メロンクリームパンとオレンジの蒸しケーキを
追加した。
「美紀子、レギュラー二つね」
 比呂美が注文を伝えに来る。
「了解。喉渇いたでしょ、一杯飲んでいきなさい」
「サンキュ」
 比呂美が中に入ってきてダッチ・コーヒーをカップに注ぐ。オランダ式の水出しコーヒ
ーで、効率が悪い為2-B生徒専用の賄いとなっている。
「しかしよく似合ってるわよね」
 美紀子が改めて感心する。
「本当に。やっぱりベースの問題かしらね」
 真由も同調する。実際、比呂美は驚くほどにメイド服が似合っていた。
 スレンダーなスタイルはコルセットで矯正したかのようで、肩などを膨らませた服のデ
ザインは、スポーツでややいかり肩気味の比呂美の稜線を柔らかくする効果を見せている。
スカートは長からず短からず。比呂美の清楚さと独特の艶を見事に両立させていた。
「いえ、これはデザイナーの愛のなせる技ね」
「もう、からかわないで。朋与じゃあるまいし」
「何?呼んだ?」
 朋与が顔を出す。
「なんでもない。さ、仕事仕事」
――一方、比呂美への愛に溢れたデザイナーはいい玩具にされていた。
「仲上先輩、注文いいですか」
「仲上君、こっちもお願いします」
「先輩、ニャンって言ってみてください」
 ほとんどが女子である。去年の麦端祭以来密かに女子人気が上がっていたのだが、比呂
美が時を同じくして眞一郎の隣を占有したため、特定の恋人はいなかった彼の父のように
は表面化しなかったのである。今回は客と称して比呂美のプレッシャーを受けることなく
眞一郎に声をかけるチャンスであった。
「はい、ただいま!」
 当の眞一郎はなぜ自分ばかり呼ばれるのか全く理解出来ない。あの踊りは乃絵に見せる
ためのものであり、男としての価値基準は比呂美からの評価以外興味がないので、その二
人以外の女子が自分をどう見ているかなど想像もしていないのだ。
 当然、比呂美はこの女子の客の思惑に気付いている。そしてこれまた当然、面白い筈が
ない。
 それでも落ち着いていられるのは、相手が客だからという以上に、眞一郎がこの程度で
他の女に目を奪われることがないと知っているからである。 
 石動乃絵のように感性の一番深い所で共感する相手ならばともかく、踊りが格好いい程
度で騒ぐ女なら心配ない。そして、石動乃絵のような共感は出来なくても、私にしか与え
られない絆だってある――
「うん、大丈夫」
 比呂美は小さく呟く。そしてウェイトレスに戻っていった。



「ルミ、お昼だから一休みして」
 カナが声をかける
「わかったわ、ちょっと奥で休んでるわね」
「でも、本当にいいの?一日中ここにいて。他所も色々回ってきたらいいのに」
「ありがと。でも、いいのよ、特別見たいところもないし。一人で回ってもつまらないで
しょ」
「私回ってあげようか?」
「カナは一緒に回る男性(ひと)がいるでしょ。私に気を使わないで」
 ルミは笑いながらパンを手に取った。

「ただいまー」
「お帰り、乃絵」
「お疲れ様」
「このまま休んで、午後から生物部行っちゃうね」
「あたしも後で寄るわね」
「何かサービスしてね」
「うん、待ってるね」

「客入りはどうだ?」
「悪くありません」
「部長、宣伝してきました」
「ご苦労様。ちゃんと指示したとおりやってくれたろうね?」
「はい、石動さんの後を付いて歩いて、『この猫娘は午後から生物部ジャングル喫茶でお
待ちしています』とビラも配って」
「よし、上出来だ」
「部長、せこすぎて言葉もありません・・・・」



 文化祭も午後になり、一般客も増えてきた。その中に、シャギーを入れたショートカッ
トによく動くルビーの瞳の少女の姿があった。
「ちょっと早く来ちゃったな」
 少女は携帯を開き、アドレス帳を呼び出そうとした。
「・・・・いいや、驚かせちゃおう」
 愛子は携帯をしまい、校門をくぐって文化祭で賑わう校内に入った。


                    了


ノート
生物部部長変態化加速中。
次回は午後編。乃絵のサファリルックやルミの優雅な執事姿、愛子と三代吉、比呂美と眞一郎のイチャイチャは持ち越しで
今回は日登美や桜子、美紀子に真由となかなか出せないサブキャラを出したかったのと、CDドラマの「落ち着きのない小動物」な乃絵を書きたかったのでこんな感じに

ダッチコーヒーは本文にもあるとおり水出し式のアイスコーヒーで、焙煎を深くしたコーヒーの上から少しずつ水を落として、ゆっくりと浸出させるオランダ式の
ドリップです。ちなみに、スパイスを豆に混ぜるとスパイスコーヒーになり、熱で香気が飛ばないのでいい感じに。
ウィンナーコーヒーは最近はカプチーノがメジャーなのであまり見かけなくなりましたが、エスプレッソにホイップクリームを乗せたコーヒーで、店によっては
スプーンの代わりにシナモンスティックがついてくることもあります
そんな僕は紅茶党
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。