七夕の夜・比呂美 ~短冊に込めた願い事~


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7月7日。今日は七夕
この町の夜空にも、綺麗な天の川が流れていた
満天の星空には花火が打ち上げられ、人々は七夕祭りを楽しんでいる
「お待たせ。行こう」
「あっ……」
「どうしたの?」
「……それ、似合ってるよ」
「ふふ、ありがとう。おばさんに買ってもらったのよ」
「母さんが?」
あれから眞一郎の母は比呂美に着付けや料理を教えたりしている
険悪な雰囲気は消え、比呂美も穏やかな表情でいることが多くなった
さりげなく二人きりにさせないようになど気を遣っていた眞一郎は
大きく変わった二人の関係に嬉しい戸惑いを感じていた
「種類が沢山あって迷ってたら、おばさんが『眞ちゃんはこの色が好きよ』って教えてくれたの」
「え?そんなことまで……」
確かに比呂美が着ている浴衣は眞一郎の好きな色だったが
母に全てを見透かされているようで、眞一郎は気恥ずかしくなる

「眞一郎君、あれ何かしら?」
比呂美が指さす方、祭り会場の中央には竹が何本か並んでいる
「坊ちゃん、こんばんわ」
「あ…町内会長さん、こんばんわ」
「あれは短冊を吊るす竹ですよ。お父様の提案で町内会が竹林から取ってきたものを立てたんです」
「父さんがそんなロマンチックなことを……」
「よかったら坊ちゃんたちも、短冊に願い事を書いていってください」
「面白そう!眞一郎君も書こうよ」

「願い事か……」
筆ペンを手にしたまま、眞一郎は考え込んでしまう
(絵本作家になれますように?……ダメだ。夢は自分の力で叶えなきゃ)
(比呂美が幸せになりますように?……これだと今の比呂美が幸せじゃないみたいだし)
(比呂美とずっと一緒に………ってのはちょっと女々しいかな)
(比呂美が……比呂美と………比呂美に………比呂美のために………)
そんな眞一郎の隣で、比呂美はスラスラと筆を走らせる
ようやく眞一郎も何かを思いつき、願い事を短冊へ書き込んだ

「屋台も出てるし何か食べようか?」
「そうだね。私もお腹すいちゃった」
「そういえば、この辺りに……」
眞一郎はキョロキョロと広場を見渡す
「あった!」

『売れないのは三代吉の接客が悪いからでしょ!鼻の下伸ばしちゃって、最低!』
『えぇ~!?それは誤解だってば……』
『どうだかねぇ』
“愛ちゃん”の看板の下、屋台の中で愛子と三代吉が言い争っている
「また痴話喧嘩してるのか?」
その声に気づいた二人が眞一郎のほうに振り向く。三代吉は“助かった”という表情だ
「おっ、眞一郎。デートか?」
「わぁ~、比呂美ちゃん可愛いね!浴衣似合ってるよ」
「ありがとうございます」
比呂美は愛子に褒められて照れくさそうに笑っている
「比呂美はどっちにする?」
「えっと…白がいいな」
「白と黒1つずつ」
「はいよ~」


防波堤に座って海を見ながら今川焼きを食べる二人
祭りの笛や太鼓の音が少し遠くに聞こえ、打ち上げられた花火が海に映っている
「黒餡も美味しそう……ちょっとちょうだい♪」
眞一郎が持っている今川焼きにかぶりつく比呂美
身を乗り出したときに揺れた髪から石鹸の香りが漂う
「眞一郎君も一口あげる。はい、あ~ん♪」
「あ~ん……」
普段は大人びて落ち着いる比呂美だが、二人きりになるとこうして甘えてくる

「小学生のとき、眞一郎君の家で七夕祭りしたことあるよね。覚えてる?」
「懐かしいなぁ。あのときも短冊書いて庭の竹に吊るしたっけ」
「眞一郎君は『かめんライダーになりたい』だったよね(笑)」
「早く忘れてくれ……。たしか比呂美は…」(…しまった!)
そこまで言って眞一郎は黙り込んでしまう



 『おとうさんとおかあさんとずっといっしょにいられますように ひろみ』



「あのときの願い事は叶えてもらえなかった……」
「…………ごめん」
「ううん。いいの。………でも今日の願い事だけは…叶えてほしいな……」
「……何て書いたんだ?」
「あのね…………」

比呂美の小さな声は、大きな花火の音にかき消されたが
眞一郎の耳まではしっかりと泳ぎきった
そして眞一郎は比呂美の耳元で囁く

浴衣の上に大粒の涙がこぼれる
「……証明して」
「えっ?」
「その言葉、嘘じゃないって証明して……」

「んっ…んっ……んぅ……んきゅ……」
眞一郎の口の中に白餡の味が、比呂美の口の中には黒餡の味が広がる
二人は文字通りの甘いキスに夢中になる
眞一郎が比呂美を優しく押し倒そうとしたそのとき
海岸線沿いの道路を走る車のヘッドライトが二人を眩しく照らす
慌てて海のほうへ座りなおすと、車が通り過ぎるのを静かに待った
「ここだと見られちゃうかも……」
「そうだな……」
眞一郎は身長ほどの高さがある防波堤から飛び降りた
続いて比呂美も手を借りて浜辺へ降りる
「ここなら大丈夫……だよな…」
「大丈夫……かもね…」
防波堤をブラインドにすることで道路からは見られることがなくなったが
いつ浜辺に人が来るかはわからない
それでも二人はアパートまで帰る時間さえ我慢することができなくなっていた

「ん…ふ……ふぁ……んっ……んゅ……」
情熱的なキスに比呂美の足はぶるぶると震えている
防波堤に背中をつけているから、これ以上後ずさりことはできない
それでも眞一郎は更に比呂美に迫る
比呂美の膝が崩れても、腰が砕けても、誓いを証明するために心と身体を押し付けた


「汚れちゃうから、ちゃんと捲って……恥ずかしいけど………」
「うん……」
防波堤に手をついた比呂美が、眞一郎のほうへ白いお尻を突き出す
「もうちょっと足広げて……背中下げて……」
「やっぱり恥ずかしいよ……」
比呂美は強い羞恥心に赤面したが、眞一郎が挿ってくるとそんなことも忘れてしまう
「んっ…うぅ……アッ……ッ!ひゃっ!…もっとゆっくり……」
「……ッ…ぐっ……比呂美」
「アっ……あんっ……きゃっ!…んぁっ!…はやっ……んんっ!」
眞一郎はスピードを落とすが、すぐに我を忘れて激しく動かしてしまう
今はこうしてただ夢中で打ちつけることが、比呂美のためにできる全てなのだと信じて疑わない
「比呂美……比呂美……比呂美ッ!」
「うッ!あぁっ!んっ…んんっ……あっ!ふわぁっ!」




指を絡めて手を繋ぎ、星空の下を歩く帰り道
「今日は晴れてよかったね」
「そうだな。天の川も見えてるし」
「織姫と彦星はちゃんと逢えたよね……」
織姫と彦星は一年に一度逢えるけれど、比呂美は両親と一生逢うことができない
大切な人を失う悲しみを知っているからこそ、もう誰も失いたくない
「眞一郎君……」
比呂美の手に力が入る。眞一郎もそれに答えるようにギュッと握り返した
比呂美の願いを叶えることができるのは、織姫でも彦星でも神様でもない
この世界で仲上眞一郎だけなのだ
―終―
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