ある日の比呂美16


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「朋与。ちょっとフザケすぎ!」
比呂美は朋与の用意したスポーツドリンクをラッパ飲みしつつ、眉をハの字に曲げて抗議した。
勝負を始めてから開く一方の点差に焦り、早々に脱いでしまったコート。
自分がへたばっている隙に、その中から勝手に携帯を取り出して、眞一郎に電話するなんて……
…………悪戯の域を超えている…………
「バ~カ。そんなんじゃないから、心配しなさんな」
僅かに不安の色を見せる自分の瞳に気づいたのだろうか?
朋与はカラカラと明るく笑って、手にしたペットボトルの中身を飲み干した。
「小遣い稼ぎよ。……ヒヒヒ」
唇を片方だけ吊り上げ、悪巧みをしていますと表情で語る朋与は、まるで時代劇の悪代官のようだった。
お主もワルよのう、と思わず言ってやりたくなる。
「さて! 次、行ってみようか!」
パンと弾けるように立ち上がると、朋与は脇に置いていたボールに手を伸ばした。
この拷問はまだ続くのかと思うと溜息が出るが、ぶっ倒れるまでやると言った以上、途中で投げ出す事は出来ない。
惨めな結果を示す得点ボードを睨みつけてから、比呂美も立ち上がり、センターサークルへ移動する。
格下の朋与が相手でも、やはりこの服装と上履きでは実力を出し切れないのは、嫌と言うほど分かったのだが……
(でも、眞一郎くんが来るまでに……必ず引っくり返してやる!)
バスケで朋与に負けているところなんて、眞一郎には絶対見られたくない…… エースのプライドに賭けても。
…………
自分自身に喝を入れるため、平手で頬をピシャリと叩く比呂美を、朋与はボールを弄びながら鼻で笑う。
「無駄よ。今日の比呂美はアタシには勝てない」
「! ……言ってくれるじゃない」
何度も偶然が続くわけ無い!と比呂美が吠え、低くディフェンス姿勢をとった時だった。
右を抜いてくると思われた朋与の身体が、比呂美の裏を掻いて左に振れる。
「クッ!!」
対応が遅れたのは服のせいではなかった。
脚を踏ん張って朋与の動きに追いつこうとした瞬間、股の中心にピリッとした痛みが奔り、気力と集中力を削ぐ。
またか、と内心で舌打ちした時にはもう遅く、鹿のような俊敏さで左へ抜けた朋与は、ゴール下に突入していた。
バッシュが鳴らす『キュッ』というスリップ音と共に、斜め後ろへジャンプする朋与。 そして!
「!!」
比呂美の十八番、フェイダウェイ・ジャンプシュートを、朋与は見事に決めてみせた。
悔しさで端麗な口をヘの字に曲げる比呂美に向かって、ニヤけた表情でボールを拾いながら朋与は言う。
「痛いでしょ? ……ア・ソ・コ……」
「!! な……な…………何を言い出すのよ!!」
ペンキでも被ったように真っ赤になった比呂美を、朋与は容赦なく言葉で突付き回した。
歩いていると、何だか棒が挟まったような感じがする…… 脚を開くと『乙女』があった所に激痛が奔る……
処女を失った比呂美の状態を、朋与はズバズバと言い当てていき、そして最後にこう付け加えた。
「ケイとアキが教えてくれたのよ。『なんだか比呂美の動きが鈍い』ってね。ヒヒヒ」
チームメイトからのメールを読んで朋与は、こりゃ間違いないな、と確信したという。
……つまりこの決闘は…………巧妙に仕組まれた朋与の罠だったのだ。
「ひ、卑怯よ!朋与!!」
「フフ……甘いわね、比呂美。アタシは勝つためには手段を選ばない女よ」
ニヤニヤといやらしいく口角を捻じ曲げたまま、朋与はボールを放って寄こした。
それを受け取りつつ、比呂美はへの字だった唇を尖らせて、赤い頬をプーっと膨らます。
比呂美らしくないその仕草を見て、挑戦的だった朋与の表情がフッと緩み、少し悲しげな笑顔に変わる。
「…………いいじゃん。……今日はアタシに勝たせてよ」
「………朋与……」
その解読が難しい笑みを目にして、比呂美は思った。
…………これもまた、朋与の気配りなのではないかと…………
…………自分を打ち負かすことで、眞一郎を奪っていく罪を……心の重荷を減らそうとしているのではないかと……
…………
「隙ありィ!!」
朋与の風のような一閃が、思索の海に潜った比呂美の手からボールを叩き落とす。
「ッ!! と、朋与!!」
比呂美から奪ったボールを操りながら、朋与は踊るようにコートを跳ね回った。
「待ちなさいッ!」と叫ぶ比呂美の声と、そこに駆けつけた眞一郎が発した「比呂美ッ!!」という絶叫。
その二つが混じり合うように体育館の壁を反響したのは、ほとんど同時だった。

(ありゃ? 随分と早かったな)
ボール目掛けて喰らいついてくる比呂美を、蝶のように舞いながら翻弄しつつ、朋与は眞一郎を見遣った。
比呂美の携帯で眞一郎を呼び出してから、まだ十分と経ってはいない。
どうやって駆けつけたかは知らないが、眞一郎が乏しい体力を極限まで酷使したらしいことは、一目見れば分かる。
大きく肩で息をしている様子は、本当に気の毒なくらい疲れて見えた。
「待ちなさいっ、朋与ッ!!」
ところが比呂美の方はというと、頭に血が上っているのか、今は眞一郎よりボールが恋しいらしい。
(まったく、この娘は)
やれやれ、という表情で追撃をかわすと、朋与はレイアップシュートを軽く決めて、勝負を一時打ち切った。
「チッ! も、もう一本よ!!」
「熱くなりすぎ。あれでも見て落ち着けば?」
親指を立てて、入口の方を指差してやる。
眞一郎は状況を理解して安心したのか、その場で膝をつき、脱力して倒れこんでいた。
「はぁ、はぁ、……お…お前ら…………はぁ、はぁ……」
そのまま仰向けに身体を転がし、大の字になってしまった眞一郎に、二人は駆け寄った。
「ちょっと、大丈夫? 比呂美、水よ水!」
「う、うん」
壁際に放置してあるペットボトルを比呂美に取りに行かせる。
眞一郎はまだ呼吸が整わない様子だったが、朋与は仁王立ちのままで、手を触れようとも助け起こそうともしなかった。
(それは私の役目じゃない)
心の内に自分でそう言い聞かせながら、朋与は比呂美を待つ。
すぐに駆け戻ってきた比呂美はしゃがみ込み、飲みかけのスポーツドリンクを差し出した。
「これ、飲んで」と言って手渡されたそれを一気に煽る眞一郎。
そして一呼吸おいてから、彼は怒りを発火させた。
「お前らっ!!ふざけるのもいい加減にしろよなっ!!!」
激しい雷を落としてから「心配させやがって」と愚痴る眞一郎を見て、比呂美はシュンとなってしまう。
だが、この程度の悪戯をする権利は、自分には充分あると思うので、謝ろうなどとは微塵も考えない。
「殴り合いでもしてると思った? んなわけないじゃん。ハハハハハハ」
快活に笑う朋与に呆れたのか、負けたと思ったのか、眞一郎はゆっくりと立ち上がた。
ハァと大きく溜息をついてから、「俺、帰るわ」と力なく言う眞一郎を、朋与は呼び止める。
「用があるから呼んだのよ。普通に声かけても来ないでしょ?」
そう告げて、今度は自分が壁際に置いてあるバッグに駆け寄り、中身を漁り出す朋与。
なんなんだ?と眞一郎と比呂美が顔を見合わせていると、朋与はきれいな包みを持って戻ってきた。
……袋状の包装が施された一抱えほどの大きさの……一見してプレゼントと分かる…それは……
「……それ、もしかして……」
眞一郎には一目で、その中身が分かったようだ。
その反応に満足し、口元をほころばせながら「うん」と頷いた朋与は、それを眞一郎の手に握らせる。
あの日、比呂美の手に渡ることなく、グシャグシャになってしまったプレゼント……
朋与はそれを、市販の包装材で包み直すことで、眞一郎の真心を再生させていたのだ。
「渡してあげなよ。仲上君の気持ち」
「…………」
包みを握る眞一郎の指先に力がこもる。 華奢な肩も……少し震えているように見えた。
(感激しやすいんだから……もう……)
でも、そんなところも……と考えかけたが、ダメだと自戒して、まだ振り切れない想いに朋与は蓋をした。
眞一郎の背中に回って、軽いタックルでその身体をを小突き、「早くしろ」と発破を掛けてやる。
その朋与の応援に頷いて、眞一郎は比呂美に向き直った。
「比呂美……これ……」
比呂美に向けて差し出される……あの時、渡せなかった『想い』。
…………
……そして朋与は一歩後ろに下がって、向かい合う恋人たちから身を引いた……
…………

「……私……それ、受け取る資格……ない……」
目線を斜め下に落として、比呂美は戸惑う。
当然だろう。 包装の中身はあの日、比呂美が雪と泥の中へと叩き落した『あれ』なのだから。
「お前が初めてアドバイスしてくれた絵本、あっただろ?」
「……うん」
眞一郎が初めて入選し、賞金を獲得した絵本には、どうやら比呂美の力が加わっていたらしい。
朋与にとっては初耳となる話だったが、今となっては嫉妬することもないし、端からする筋合いも無い。
むしろ、ちゃんと二人が『恋人』していたことが分かって、朋与は嬉しかった。
「あの本の賞金で買ったんだ。 ……お前のために買ったんだ」
眞一郎の腕がゆっくりと動き、朋与がそうした様に、比呂美の手にそれを握らせる。
「…………でも……」
この期に及んで、比呂美はまだ困惑の表情を朋与に向けてきた。
…………まるで許しを請うように…………
(ホントに……)
……比呂美はバカだ。 頭は良いけど…バカだ。
眞一郎の気持ちを受け取るのに、何を遠慮することがあろうか。
それはこの世界でただ一人、『湯浅比呂美』だけに与えられた正当な権利なのだ。
……胸を張って、堂々と行使すればいいのに……
(でもまぁ……そんなところも可愛いんだけどさ)
遠慮、躊躇い、戸惑い…… それが無くなってしまったら、それは比呂美ではない気がする。
その態度は他人の気持ちを思いやる優しさの裏返し…… 
比呂美がそんな娘だと知っているから……自分は彼女の『親友』をやっている。
…………眞一郎を……愛した男を託すことが出来る…………
…………
朋与はクスリと笑ってから、助けと許しを求めている比呂美の望みに応えた。
「さっさとソレに履き替えな。まだボコられ足りないの?」
「!」
腰が引けていた比呂美の背筋がピンと伸び、視線が眞一郎の方に向く。
いいのかな?という比呂美の気持ちを受け止めてから、眞一郎は答えた。
「本人がいいって言ってるんだ。遠慮なく叩きのめせ!」
眞一郎がウインクをするのを合図に、比呂美の涙腺が崩れるのを、朋与は見た。
自分と眞一郎の贈り物を、まるで生まれたての赤ん坊のように、比呂美は大事そうに胸に抱える。
「……ありがとう……ありがとう…………」
抱きしめた物に顔を埋めるようにして呟かれた声は、嗚咽も混じって、とても聞き取りづらかった。
その比呂美の目の前で、どうしよう?と立ち尽くす眞一郎の背を、朋与はトンと軽く押してやる。
(ったく!決まってんでしょ!!)
振り返った眞一郎は、声を出さずに「バカ」と動いた朋与の唇を見て、何をするべきかを悟った様だった。
そして朋与は再び二人から離れ……恋人たちに背を向ける。
眞一郎が比呂美に近づく足音…… 柔らかく、優しく……比呂美を抱きしめる気配……
それは直接見なくても、朋与にはちゃんと感じることが出来た。
(……うん……それでいいのよ……)
顔をあげ、天井に……その向こうにある空に視線を向ける。
まだ微かに聞こえてくる、比呂美の「ありがとう」という声。
自分の目からも涙が零れるのではないかと、朋与は少し心配になったが、それは杞憂に終わった。
(そりゃそうか。もうこの二人の為に流す涙なんて、残ってないもんね)
身体中の水分が無くなるくらい…自分は泣き腫らしたのだ。 ……もう勘弁して欲しい……
…………
…………
しばらくすると比呂美は、眞一郎の腕の中に涙を置いてきたかのように、ケロリと泣き止んでしまった。
崩れてしまった自分を恥らうように、「履いてくるわ」とだけ告げ、体育館を後にする比呂美。
更衣室の方へ消えた彼女の背中を見て、朋与は思い出していた。
新しいバッシュを履く時に、比呂美はいつも楽器の調律をするように、入念に靴紐の調整をしている……
…………
「フフ…… 次のゲームはしんどい事になりそうだわ」
「??」
呟いた独り言に眞一郎が振り向いたが、朋与は相手をすることなく、その場から離れた。

開放されている側面扉の脇に立ち、朋与は外を見遣った。
彼方に小さく『王様の城』が見え、その中の地べたが餌をついばんでいるのが、遠目にも良く分かる。
(私……ちゃんと出来た……よね?)
その心の呟きは、地べたに向けられたものではなかった。
今は遙か遠くに暮らす『十五分だけの親友』が、朋与の内側にぼんやりと姿を現し、そして微笑みかけてくる。
「偉かったよ」と言ってくれる石動乃絵は、もちろん、自分が勝手に作り出した幻影でしかない。
バカだな、という自覚は充分にあるのだが……
それでも、朋与は乃絵に……石動乃絵にそう言ってもらいたい気分だった。
…………
「なに、見てるんだ?」
入口に置き去りにしてきた眞一郎が、いつのまにか横に並び、朋与の視線の先に何があるのか捜そうとしている。
だが、朋与はその質問には答えなかった。
戸枠に手をついて外の光を見つめたまま、もう一つの用事を眞一郎に切り出す。
「私たち、もう話しするの止めようよ」
突然放たれた朋与の言葉に、眞一郎は声を詰まらせた。
…………朋与は、以前と変わらない友情を示してくれる…………
…………全部終わって……また新しく『友達』としてやっていける…………
眞一郎はそんな風に、甘く考えていたのかもしれない。
「……なんでだよ…… そんな、話ししないなんて……」
明るい雰囲気だった朋与に安心しきっていた眞一郎は、冷水を浴びせられたように動揺している。
「……ケジメ…だからかな……」
男と女が別れるということ…… それはとても重たい出来事なのだ……
それを眞一郎に分からせるため、朋与は汗を吸ったバンダナを外し、『黒部』から『朋与』に変わって見せた。
寄せていた髪がハラリと落ち、悲しげな笑みが眞一郎に向けられる。
「…………」
朋与の『変身』を見て、喜びと戸惑いが浮かぶ眞一郎の表情……
それは朋与の奥にある燃え滓を僅かに震わせたが、決別を完全な物にする決意が揺らぐことはなかった。
…………
…………
「もうこれっきり、仲上君とは話ししない。いいでしょ?」
朋与からの『サヨナラ』を真正面に受け止めた眞一郎は、凍結されたように固まっている。
しかし、それは短い……刹那の時間だった。
すぐに瞳の光を取り戻し、張り付いた氷を振り払うように動いた眞一郎の手が、朋与の右手を掴む。
「っ! な、なに?……」
いきなりの接触に驚く朋与を無視して、眞一郎はゆっくりと、少女の人差し指を自分の額の傷へと導いた。
そして指先を絆創膏の上にあてさせると、静かに目を閉じ、そして言葉を紡ぐ。
「傷……圧してくれないか?」
「……え…… な、なんで?」
いいからさ、と呟いて、それ以上教えてくれない眞一郎を朋与は訝しんだが、とりあえず言われた通りにしてみる。
軽く力を加えると、眞一郎は一瞬だけ痛みに眉を歪めたが、すぐに凪いだ海のような静かな表情を取り戻した。
「何なの……これ?」
「うん……『おまじない』……かな……」
前にもこういう風にされたことがあってさ……と呟きながら、眞一郎は自身の中で何かを租借している。
そして、噛み砕いた何かを、己の力にしているのが……傷に触れている指先から伝わってくる……
(…………そうか……)
朋与にはすぐに分かった。
以前にこうしたのは、きっと乃絵だ。
いつ、どこで、どんな時にそうしたかは分からないが……きっとそうに違いない……
……確証はない。 でも……同じ経験をした女の勘が……間違いないと告げていた。
乃絵との繋がり、記憶は、間違いなく、今の眞一郎を形作る力になっている。
そして眞一郎は、それと同じことを……自分にも求めてくれた…………
(……眞一郎の中に乃絵がいる…… そして……きっと私も……)
自分と友の記憶が、愛した男の力に……本当の愛を見つけ、育む力になっている確信を、朋与は得た。
それは、あの電車内で指を絡めた時に感じたモノとは、比較にならないほど強固な実感だった。

グリッと指先に捻りを加え、傷口を痛めつけながら、朋与は眞一郎を突き放すようにして圧し返す。
さすがに痛覚が我慢の限度を超えたのか、眞一郎は「痛っ!」と叫び声をあげた。
「『私たち』はもっと痛かったわよ。心にザックリ、深~い傷を負ったんだから」
「…………」
朋与は冗談めかして笑ったが、眞一郎はそれを真剣に受け止め、また固まってしまった。
でも、それでいいのだ、それが眞一郎なのだと、朋与は思う。
その真摯さ、相手の心の傷を、自分のものとして感じる感性は、眞一郎の一番の武器になる。
…………比呂美を守る……力になる………… 
…………それが…分かる…………
…………
「たっぷり苦しみなさい。 そして強くなるの…… 比呂美の為にね」
それは以前、情事の後のベッドで、朋与が眞一郎に送った言葉だった。
言いたい事を言い終わり、朋与はバンダナを付け直して『黒部』に戻ると、眞一郎に曇りの無い微笑みを向ける。
眞一郎は、再会できた『朋与』が消えたことに一抹の寂しさを見せたが、彼女を追いかける様な真似はしなかった。
「やっぱ厳しいな、『朋与』は…… でも……ありがとう……『黒部』……」
首を小さく右に傾げて、眞一郎も同じ様に透明な笑みを返してくる。
その仕草は朋与の想いをグッと締め付け、心を強く震わせた。
泣くもんか、と自分の魂に言い聞かせながら、朋与が目の前の……己のモノではない太陽を凝視した時………
…………
「お待たせ!」
入口に現れた比呂美の張りのある声が、体育館の内壁に反響して朋与の耳に届く。
新しいバッシュを履き、どこで見つけたのか、輪ゴムで髪をポニーにまとめたその姿は、完全に戦闘体勢に入っていた。
不敵な顔でこちらを見つめ、フフッと笑みを零す比呂美。
その余裕に朋与は苦笑すると、ドリブルで接近してくるライバルに向かって駆け出していく。
……だが……
「あ、忘れてた!」
そう叫ぶと朋与は、何を思ったか途中でUターンして眞一郎の前に引き返してしまう。
ポケットから四つに折り畳んだ紙を取り出して、何事だと呆気に取られる眞一郎に、それを突きつける朋与。
「な、なにこれ?」
「請求書よ」
「はあ???」
眞一郎が紙片を拡げてみると、そこにはプレゼントの再梱包に掛かった必要経費がビッシリと書き込まれていた。
包装袋、リボン代は言うに及ばず、それを買いに行く時の電車代まで、会計にしっかりと計上されている。
中でも『技術料』は飛び抜けて高く、ボッタクリと罵っても問題ないのではないか、と眞一郎には思えた。
「……ちょ…これ…高くね??」
「支払いは比呂美を通してちょうだい。分割でもいいけど、お金は自分で稼ぐこと。いいわね?」
眞一郎の目の前で人差し指をチッチとチラつかせると、朋与は比呂美に向かって再び駆け出して行く。
「オイ!マジかよ~」
「マジよ! 割引は利かないからね!!」
眞一郎にきつく念を押すと、朋与は改めて比呂美に駆け寄り、そして対峙した。
「待たせたわね」
「朋与……今度は私がもらうわ。……悪いけど、二対一だしね」
そう言ってバッシュのつま先で床を蹴る比呂美は、憎らしくもあり、可愛らしくもある。
「よくもまぁ……ぬけぬけと言ってくれるわ、アタシに向かってさぁ」
隙を伺って姿勢を低く構える比呂美に対し、朋与は大きく両腕を拡げ、防御の体勢を取った。
……ゴールを狙う牝豹と化す朋与と比呂美……
闘いの高揚感が身を震わせ、二人の口角を吊り上げていく。
「…………いくよ……」
「フッ…………来い!」
比呂美の操るボールのバウンド音が、一際大きく場内に響き渡る。
背中の方から「比呂美!負けるなよ!」という声が聞こえたが、それはもう、朋与にはどうでもいいことだった。
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