Amour et trois generation filles de dimanche(日曜日の少女達)


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「いい映画だったねー」
 愛子が感激した様子で話しかけてくる。
「そうだな。古い映画だけど、映画館で観てよかったな」
 三代吉も素直な感想を口にする。
「ラストの雪が全てを覆っていくシーン、本当に切なかった」
 思い出したのか、愛子が再び目に浮かんだ涙をハンカチで拭う。
 町の旧い映画館で、映画のリバイバル上映が行われており、800円という安さもあって二
人で観に来ていたのだった。
 古いといっても、二人が生まれた頃の映画で、心優しき人造人間と少女の暖かく、そして
悲しい恋物語。三代吉より、むしろ眞一郎の方が好みそうな映画だ。
「しかし、なんかやりきれない終わり方だよな。俺はやっぱりハッピーエンドで終わって欲
しかったな」
「だからこそ心に残るのよ。結ばれる事のない想いを、ヒロインが老後に孫に話して聞かせ
るなんて、もの凄くきれいな物語だと思うな」
「そうかもしれないけどさ」
「眞一郎も、比呂美ちゃん連れて来ればよかったのに。知ってるんでしょ?この映画館」
「一応誘ってはみたんだがな、もう動物園に行くことを決めてたらしい」
「動物園?」
「エミューを見に行くんだと」
「高岡城行ったんだ」
 高岡古城公園ならエミューがいる。しかし、一日過ごすほどの大きさではない。
「絵本のモデルに本物見ておきたいから、とか言ってたが、湯浅はそれに付き合って楽しい
のかね?」
「どこでも楽しいんじゃない?眞一郎の行くところなら」
「そりゃそうだろうが、モデルっていうくらいだから、湯浅の事忘れてスケッチに夢中にな
ってそうな気がする」
「・・・・意外と、比呂美に目が行ってエミューどころじゃなかったりして」
 愛子が口元に手を当てながら、ニヤニヤと笑った。なにか妄想しているらしい。
「愛子・・・・黒部に似てきたぞ」



 エミューの檻の前では、眞一郎がスケッチブックに鉛筆を走らせていた。
 比呂美は邪魔にならないよう、話かけないようにしておとなしくエミューを見ている。
 弁当は稲荷寿司と太巻きを作ってきた。サンドウィッチの方が楽だが、最近理恵子から作
り方を教わり、今回眞一郎に初披露しようとしようと奮闘した。
(喜んでもらえるといいな)
 理恵子の話では眞一郎の好物だという事だが、今回は彼の母親直伝の、いわば正真正銘お
ふくろの味である。自己流、もしくは湯浅家流の料理を食べてもらうのとは緊張感が違う。
 比呂美はちらと眞一郎を窺った。
 眞一郎と目が合った。なぜか慌ててエミューに向き直り、忙しく鉛筆を走らせる眞一郎。
「?」
 比呂美は不思議に思い、スケッチブックを覗き込む。見られまいと隠す眞一郎。
 更に回り込む比呂美。身体で隠す眞一郎。
 スケッチブックを取り上げようとする比呂美。取られまいとする眞一郎。
 その時、比呂美が少し泣きそうな目で眞一郎を見つめてきた。狼狽し、思わず手を緩める
眞一郎。
「チャンス!」
 一瞬の隙を見逃さずスケッチブックの奪取に成功する比呂美。勝利の笑みまで浮かべてい
る。
「きったね!そんなのありかよ」
 眞一郎の抗議も虚しく、比呂美はスケッチブックを開帳する。
 描かれていたのは一人の少女。
 長い髪を風になびかせ、動物を見つめながら微笑む横顔。
 比呂美は頬を赤らめ、照れ隠しにそっぽを向く眞一郎にスケッチブックを返した。



「文化祭の準備は?進んでるの?」
 映画館を出て、昼食をとろうかと店を探している時に、愛子が話を向けてきた。
「微妙だな」
「微妙?何それ?」
「いや、コスプレ喫茶が高岡先輩のクラスと被ったってのはこの前話したろ?」
「うん」
「それ聞いてから黒部が無駄にテンション上がってなあ・・・・」
 愛子が噴出す。
「笑えるだろ?これが巻き込まれる側になると全く笑えねえんだよ」
 渋面を作って三代吉が言葉を継ぐ。
「しかも、紅茶担当とコーヒー担当まで張り切りだしてなあ」
「いい事じゃない、冷めてるよりは」
「まあな」
 実際、仕切り役の実行委員としては楽である。
「ね、食べ物はどうするの?まさかその場で作るわけにもいかないでしょ?」
「おおっぴらに火を使えないからな。食中毒起す危険性考えて本格的な調理は禁止されてる。
「でも、その辺は解決してるんだ。駅前の商店街にパン屋があるだろ?」
「ああ、『ジェルラン』?」
「うちのクラスにあそこの娘がいるんだよ。そこに提供をお願いした。パウンドケーキとバ
ケット、その他も」
「凄い、本格的じゃん」
「もっとも、情報によれば高岡先輩のクラスにはケーキ屋がいるらしい。優勢とは言えねえ
な」
「そうなんだ」
「後、噂じゃ生物部がジャングル喫茶とか言って、本格的なカフェをやるって聞いてる。部
長が『トラ・ヴォロジュ』の息子なんだ」
「あのフレンチレストランの?何を出す気なの?」
「やれる事はたかが知れてると思うんだが、まずジャングルって処からして謎なんだよな
・・・・」



「そうだ、お兄ちゃん、来月、うち文化祭があるんだけど」
 石動乃絵は電話の向こうの兄に向けて言った。
 純は新生活が落ち着いてきたのか、ホームシックか、最近よく電話をかけてくる。第三の
可能性を乃絵は考えようとしない。
『文化祭?そうか、もうそんな季節か』
 純の声も心なしか懐かしそうである。三月に卒業してすぐ上京し、夏休みも結局帰ってこ
なかった。父の墓は東京なので、無理に帰省する必要がないといえばそうなのだが。
「今年ね、私もウェイトレスするの」
『ウェイトレス?なんだ、何をするんだ?』
「ジャングル喫茶。生物部の年間予算の半分をここに注ぎ込むくらい力入れてるんだって」
『・・・・力の入れ方間違えてるだろ、それ』
「ね、お兄ちゃん、文化祭見に来てよ。絶対楽しいから」
 電話の向こうから、困惑したような、気まずそうな沈黙が流れてきた。
『すまん、俺は行けそうにない』
「そう・・・・」
 乃絵は諦めかけたが、思い切って今まで触れないようにしていた事に触れてみた。
「ねえ、お兄ちゃん・・・・湯浅さんとか、眞一郎だったら心配ないと思うよ。もう、お兄ちゃ
んを見ても気にしないと思う・・・・」
『・・・・乃絵、俺はそういうわけじゃないんだ。ただ、こっちが忙しいから行けないんだ。そ
れだけだよ』
 言葉とは逆に、どうしても帰ってきたくない理由があるようにしか聞こえない。しかし、
問い質したところで答えは返ってこないだろう。
 乃絵はこの話題はここで終りにしようと、別の話題を出した。
「あ、ところでお兄ちゃん、高岡さん、て知ってる?うちの女バスのキャプテンだった人」
 兄の反応は乃絵の予想とかけ離れたものであった。
『何か言われたのか?』
「え?何かって何?」
『あの女、お前に何を言った!?』
「いや・・・・別に、何も・・・・ただ、お兄ちゃんによろしく、て・・・・」
 兄の声に、何か言いようのない危機感を感じ取り、乃絵は困惑した。その兄も、取り乱し
た自分に気が付いたらしい。
『そうか、それならいい。大声出してすまなかったな』
「お兄ちゃんとあの人、なんかあったの?」
『いや、別に・・・・これから行くところあるから、もう切るぞ』
 そう言うと、兄は早々に電話を切ってしまった。
 乃絵は、何がなんだかわからないといった様子で、電話を置いた。



「でも、黒部さんて、根っから勝負事が好きなんだね」
「ありゃもう病気だ」
 三代吉が断言した。
 比呂美が眞一郎と付き合い始め、「あいちゃん」にも立ち寄るようになって、他の友人た
ちも愛子と見知るようになった。そのおかげで、三代吉と学校の話題をある程度共有できる
ようになった事は、愛子には嬉しい変化だった。
「愛子のところは?文化祭は同じ頃だろ?」
「そうだけど、うちはほとんど盛り上がらないから」
「そうなのか?」
「多分だけど、麦端みたいに盛り上がる方が珍しいと思うよ。なんでそんなに必死になるの?」
「う~ん、教師が全く口を出さないってのと、予算が他の学校よりかなり多いらしい」
「そうなの?」
「よく知らないけどな。あとは、そう、アンケート上位に入ると賞金がもらえる」
「賞金?何それ、いくらくらい?」
「トップ3で十二万」
「じ、120,000!?」
 思わず愛子の声が裏返る。
「ああ――。お、ここいいな。ここに入ろうぜ」
 三代吉はイタリアンのファミレスを見つけ、中に入った。



 愛子らが入ったファミレスの斜向かいにあるラーメン屋では、ひとつの闘いが終焉を迎え
ようとしていた。
「朋与、あと五分だよ」
「うぉう、うぁかせほ(おう、まかせろ)」
 あさみの声に、朋与がペースを上げる。店内の他の客も、いつの間にか朋与絡目を離さな
い。
 朋与の前では店員がストップウォッチ片手に仁王立ちしている。
「エホッ、ゲホッ、グォフォッ!」
「と、朋与!?大丈夫?お水飲む?」
「あ、あ、ありがとう」
 あさみに渡された水を飲み干し、一度深呼吸をして再び戦闘再開。
 だが、もう趨勢(すうせい)は決していた。皿の上にはもう一口二口しか残っていなかっ
た。
 最後の一口をほおばり、飲み込む。そして店員を見上げる。
「・・・・完食です」
 朋与がレンゲを高々と掲げてガッツポーズすると、他の客から拍手が巻き起こる。あさみ

「恥ずかしいよ朋与」
 と顔を覆う。特製超大盛りチャーハン二十分完食で五千円、その女性三人目の達成者誕生
の瞬間であった。



「なんでそんなに賞金が出るの?学校行事のレベルじゃないじゃない」
「俺に言われても知らねえよ。けど、四半世紀前にはもう十万出てたらしいぜ」
「二十五年前に十万!」
「その頃は一クラス四十人だったし、部にしても部員が今より多かったから、一人当たりの
割り当ては今よりかなり少ないけどな。うちは二十九人だから、一人当たり――四千円ちょ
っとか」
 食べ放題の店なら十分すぎる予算になる。
 なんでも、元々予算が優遇されていて、合宿の打ち上げなども予算から使い込める体育会
に対し、文化部は通常活動で一杯一杯の予算のため、奨励金的な意味合いで始めた制度だそ
うだ。
 バスケ部はじめ体育会クラブの参加率が低いのもここから来ている。運動部は原則クラス
出展に参加する事で、その賞金レースに参加するのである。
「一応名目は賞金じゃなく『お食事券』なんだけどな。実際みんな打ち上げなり、後で宴会
なりに使うし」
 この食事会にも教師は一切タッチしない。実質的には飲酒も黙認されている状態である。
それでも問題起した事はない。
 校長も使い道について一切訓辞をしない。ただ表彰する際に一言こう言うのみである。
「この制度を来年以降も存続できるよう、有意義に使ってください」
 逆に言えば、それほどまでに麦端の生徒は分別を持っているのである。
「――でもさ、要するに賞金を頭割りするわけでしょ。だったら人数の少ない同好会か何か
作って入賞すればその方がよくない?」
「実際毎年いるらしいな。この時期だけのサークルみたいなのは。それに去年入賞した天文
部は確か部員九人だったはずだ」
 毎年プラネタリウムなのだが、去年はそこに星座の由来になった神話を寸劇で上演すると
いう奇策で入賞したのだった。今年はここも星空カフェを開くとの事で、入賞の最右翼とい
われている。
「でも、ま、そんなニワカサークルは実際にはめったに票を集めないからな」
「今までにあったの?そういう急造サークルが賞金もっていった事」
「昔あったって聞いたぞ。それこそ四半世紀前の話だが、男女二人ずつ、四人だけでハード
ロックのライブ開いて一位になったってのが」
「凄い、どんなことしたんだろう」
「女の子二人がトップクラスに可愛かったらしいぞ。教えてくれた先生も直接教えた生徒じ
ゃないから詳しくは憶えてなかったが」
「ふーん。結局女の子頼みか。・・・・てことは、コスプレ喫茶いけるんじゃない?美少女なら
いるわけだし」
「男はコスプレしないでいいって言うんならな・・・・」
 三代吉は嫌そうにそう言った。この時は、まだ冗談のつもりだった――。



 眞一郎は太巻きを一切れ手に取り、口に運んだ。
 比呂美が緊張の面持ちで見守る。
 一口食べ、もう一口で残りも一度に口に入れる。ゆっくりと飲み込み、比呂美の方を向くと、
にっこりと微笑んで見せた。
「うん、美味いよ。凄く美味い」
 比呂美の表情がぱっと明るくなる。自分も太巻きを取り、口に入れる。
 芝生の上で、二人だけの時間が流れていく。



「そうか、もうすぐ、文化祭なのか」
 ひろしが昼食後のお茶を飲みながら言った。
「今でも、賞金は出ているのか?」
「そのようですね。思ったほど金額は上がっていないようですけど」
 理恵子が答える。
「あの頃の十万はでかかった。ボーカルとギターには、感謝しないとな」
「やめて下さい。今思い出しても恥ずかしいんですから」
 ひろしが真面目な顔でからかうと、理恵子はわずかに赤くなった



 ファミレスから出た後、愛子と三代吉はゆっくりと歩いていた。
 あとはブティックでウィンドゥショッピングして、それから開店準備。いつもの日曜日で
ある。
(やってみようかな)
 突然愛子は思いつき、三代吉の後ろに回った。眞一郎より一回り広い背中が前を歩いてい
る。
「てやっ!」
 助走をつけ、掛け声とともに三代吉の背中に飛びつく。首にしがみついて貼り付いた。
「うわっととっ。なんだ?」
 三代吉も驚いたが、さすがに倒れない。そして降りろとも言わない。
「やっぱり大きい、三代吉の背中」
 背中の上でバランスを取り直すと、三代吉も身体を前に傾けて愛子を背中に乗せる形にす
る。 
「結構恥ずかしいぞ、これ」
「じゃ、降りようか?」
「・・・・いい、もう少しこれで運んでやる」
 そうして二人二脚は、街を歩いていった。



「お早う、ルミ」
「お早う、お母さん」
 もう昼下がりだが、夜勤明けの母に野暮な事は言わない。
「丁度よかった。チャーハン出来るからもうちょっと待ってて」
 中華鍋から目を離さずルミが言う。
「ルミ、友達と遊びに行かないでいいの?」
「お母さん、私の友達は今受験勉強追い込みよ。一緒に遊んでくれる子なんていないわ」
「この前の大学生の彼氏っていうのは?彼だったら勉強はないでしょうに」
「とっくに別れたわよ。全然面白くない人だったから」
「また別れたの?お前、そんなに次から次へと――」
「本当に好きだって思える人となら、私だって絶対別れないわよ。この前のはそういう人
じゃなかっただけ」
「そう?でも、あまり自分を安売りするような真似はしないでね」
「わかってるから。それに私は、本当に好きなら誰にも遠慮しないもの」
 二人分の遅い昼食をテーブルに並べながら、最後の一言を母親に聞こえないようこう付け
加えた。
「私はお母さんとは違うから」


                               了


ノート
僕が高校生の頃は、まだ愛子達が観に行ったような旧作専門の映画館(所謂名画座)はまだ生き残っていて、レンタルビデオでは得られない大画面の迫力や
独特の雰囲気を味わう事が出来ました。今でも映画は映画館で観るに限ると思っています。
ちなみに何の映画観てるかわかるかな?日本では1991年封切りの、結構有名な映画なんですが

以下、小ネタ
高岡古城公園動物園は実際にエミューが見れます。たまに羊の毛刈りなんてのも見せてくれるようですし、入場無料なので、以外に近所の家族連れは多いそうです
http://www.city.takaoka.toyama.jp/toshi/1002/sisetu/kojou/kojou.htm

三代吉が名前を挙げたパン屋とフレンチ、「ジェルラン」はリヨンのホームスタジアム、「トラ・ヴォロジュ」はリヨンの練習場の名前。いかなる著名なレストランとも無関係w

星空カフェは、横浜ららぽーとの「ムーミンカフェ」が日本で唯一プラネタリウムを見ながらカフェを楽しめます
http://yokohama.lalaport.jp/shop_detail/24010-3.shtml

25年前、賞金10万をせしめたバンドの名前はバッカス(Bacchus)ローマ神話の酒の神様。つまり・・・・
ツールボックス

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