Amour et trois generation OK, c'est le jour 2(さあ、本番だ 2)


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この話は



「えっと、2-B、2-B、と・・・・」
 愛子は入り口で受け取った案内図を見ながら、三代吉達の出展する店を探していた。
 元々不案内な場所で、パソコンで打ち出した案内図では少々見難い。
「えーっと、どう見るのよ、これ」
 愛子は無意味と知りつつ文句を言った。多くの女性と同様、愛子もまた、地図の類を不
得手としていた。
 すると、
「あれ、野伏の彼女さん?今来たの?」
 そう言いながら愛子とさして背の変わらない、小柄な男子が近づいてきた。愛子もその
男子に見覚えがあった。
「あ、え・・・・っと、下平君、だっけ?」
「そうです。俺の名前知ってたんだ」
「前に三代吉がそう呼んでたから」
 商売人の娘として、名前と顔を覚える能力は単なる記憶力とは別に鍛えられている。
「もう野伏には会った?」
「まだこれから。・・・・と言うか、場所がどこだかよくわからなくて」
 愛子は素直に白状した。
「ああ、少し案内図が見難いかもね。じゃ、俺が案内しますよ。今俺も自由行動だし」
「いいの?じゃあお願いします」
「その代わり、後で野伏と弓道部見に来てよ。いや見に来なくてもいいからアンケートに
弓道部の名前を是非とも」
 愛子は笑って必ず行くと約束した。



「眞一郎・・・・凄い格好だな」
 ひろしが表情もなくそう言った。
「ぷ・・・・ククッ・・・・・・・・」
 見習いの少年は噴出さないよう、目に涙を浮かべながら息を止めて顔を真っ赤にしてい
る。
「いっそ笑ってくれよ!そのリアクションのほうがよっぽど悲しくなる」
 自棄気味に眞一郎が言い捨てる。
「いや、それは、すまない。笑う所だったのか、それ」
 真顔のままひろしが答えた。それを聞いて、遂に見習いの少年の限界を超えてしまった
らしい。
「プハハハハハハッッッッッ!」
 爆発したように笑い出し、酸欠でハアハアと喘ぎだす。
「うう・・・・この場にいる全員の記憶消してぇ・・・・・・・・」
 眞一郎が髪をかきむしる。三代吉が眞一郎の肩に手を置きながら、
「今日一日は諦めろ。明日から生まれ変わるんだ」
 と慰める。眞一郎は三代吉を睨んで
「お前はいいよな。俺なんて比呂美に見られ、親父に見られ・・・・今すぐに愛ちゃんが来て、
今のお前の格好を見ればいいのに」
 と呪いの言葉を吐く。
 理恵子は四日も前にこの話は聞いていた。比呂美が仲上家に夕食を共にすべく訪れた際
に、話していたのだ。眞一郎は即、母に文化祭には来ないよう釘を刺したが、まさか自分
の代わりにひろしを差し向けるとは予想外だった。
「母さん、あんな性格だったか?」
 眞一郎は母の意外な悪戯心に戸惑っていた。
「おっと、そうだった。そろそろ愛子が来る頃だ。おーい、俺休憩はいるぞ。着替えとか
なきゃいけねえからな」
「なーに、野伏君、せっかくおめかししたのに愛子さんに見せないのぉ~?」
「見せれるか、こんな格好。見られたらぃ・・・・立ち直れねえよ」
 からかう朋与への反撃がほんの一瞬間が開いたのは、「生きていけねえよ」と言いかけ
て、比呂美の前で使う事を躊躇ったためである。ひろしはこの息子の親友に対する評価を
二段階ほど高めた。
「あ、俺も休憩入る。さっさとこの服脱ぎてえ」
 言うが早いか眞一郎は裏に逃げ込んでしまう。比呂美はその姿を楽しげに微笑みながら
追っていたが、すぐに、
「それじゃ、私も失礼します。あさみ、替わって」
 ひろしに向かって一礼し、あさみに交替を頼むと、そのまま奥に引っ込んだ。
「同じところで着替えるんスかね?」
 少年がポツリと呟くと、店内に戻ってきたあさみがそれを聞きつけ、
「そんなわけないじゃないですか!いやらしい」
 と叱られた。
「あ、あさみさん、違うっス!そんなつもりないっス!」
 オロオロと弁明する少年を三代吉はひろしと並んでなんとはなく眺めていた。が、すぐ
に自分も着替えておいた方がいいと気付いた。
「さて、俺もそろそろ――」
「おーい、野伏、お前のお客さん案内してやったぞ」
 下平が店内に入り、三代吉を呼ぶと、振り返った三代吉と下平に続いて入ってきた愛子
の目が合った。



「野伏君、大丈夫かな?」
 比呂美が眞一郎に訊いた。
「泣きそうな顔してたな」
 眞一郎が答える。どこか面白がっているように見えるのは気のせいではあるまい。
「他人の不運を喜ぶのよくないよ?」
「これでやっと俺とイーブンだ」
 眞一郎は簡単に断言した。
 忌まわしいメイド服を二分で着替え、控え室から戻った眞一郎が見たものは、抜け殻の
ように座り込んだ三代吉と、それをなだめながらも腹筋を押さえ、目に涙を浮かべながら
笑い続ける愛子の姿だった。近くにはひろしも、真由や美紀子もいたが、説明を受ける必
要もなかった。
「ま、愛ちゃんと校内廻ってる内に機嫌も直るだろ」
 眞一郎はそう結論付けた。俺がそうだから、とは言わない。
 比呂美はにっこりと微笑んだ。
「うん、そうだよね」
 その笑顔を見て、眞一郎の顔も綻ぶ。眞一郎が直接口に出さずとも、比呂美にはきちん
と通じている。それが眞一郎には嬉しかった。
「さて、どこから見る?」
 比呂美の希望を訊いてみる。比呂美は小さく首を傾げて考え始めた。服装はいつもの制
服に着替えていたが、髪は腰までの長髪をアップに纏めるのはそれなりに手間がかかると
言う事で、解かずそのままになっている。ただそれだけの変化なのに、うなじが制服から
見えるというだけで新鮮だった。
「ねえ、敵情視察、してみない?」
「敵情視察って?同じような模擬店開いてる所を見て廻るのか?」
「うん、今年は喫茶店開いてる所多いし、少し見てみたいと思ってたの」
「――それじゃあ、天文部のプラネタリウムカフェ『エンデュミオン』か3-Bのコスプレ喫
茶『浪漫邸』か。どっちから行く?」
 半ば無意識に、半ばは意図的に、生物部を選択肢から外した。比呂美も気が付いたよう
だが、何も言うことはなかった。
「私、プラネタリウムから観てみたい」
「よし、じゃあ行こうか」
 二人は並んで廊下を歩いた。



「三代吉~。もう機嫌直してよ~。笑ったのは悪かったからさ」
 愛子が謝る。
「ああー今すぐ愛子の記憶を消してえ。それが無理ならせめて見られたっていう俺の記憶
だけでも消してえ」
 三代吉はまだ、完全には復活できないでいる。あと30秒早く控え室に行けば愛子に姿を
見られずに済んだという後悔もさることながら、「その瞬間」の愛子の反応が彼に止めを
刺した。
 メイド姿の三代吉を見た愛子は視線を頭から足下へ、足下から頭頂部へ、これを二往復
させ、その後正面から目を見つめると、その目が見る間に潤んでいき、
『きゃはははは!み、み、三代吉、何、その格好!?ここ、そういう趣旨なの?あは、あは、
ああ、お腹痛い・・・・』
 眞一郎が目撃したのは、さらに一分後の光景である。
「だから悪かったってば~。でも、あれで何事もなかったように話しかけられたら、それ
もやでしょ?」
 愛子の説にも一理ある。
「まあ・・・・そうだけど」
「でしょ?出オチのコスプレなんて笑ってもらってなんぼよ」
「う・・・・・・・・」
「笑えるって言うのは普段とギャップがあるって事で、つまり普段の三代吉が格好いいっ
て証拠よ」
「・・・・・・・・おだてても遅えよ」
 三代吉はそう言ったが、明らかにまんざらでもなさそうである。彼は単純な人間ではな
いが、単純でありたくなる相手はいるのだ。
「ちっ、わかったよ、もう怒ってねえよ」
「よかったぁ。ね、それじゃどこに行く?」
「愛子の行きたい所でいいよ。俺も他所の事はよくわかってねえし」
「そう?じゃあねじゃあね・・・・」
 愛子は改めて案内図に目を通す。小柄な愛子が下を向くと、三代吉からは全く顔が見え
なくなる。赤みがかった髪が歩調に合わせてかすかに揺れる。
「さっき下平君に弓道部に来てくれって言われてるのよね。あとは・・・・あ、高岡さんのク
ラスも行きたい。いい?」
「いいぜ。じゃ、行こうか」
 三代吉は愛子を促した。



「い、石動さん、そっち、そっち!」
「え?え?あ、待て!」
 部長の声に反応して乃絵が網を振り下ろす。
 だが、「それ」は滑らかに位置を変え、乃絵の攻撃を間一髪でかわす。「それ」は身体
を鞭のようにしならせ、消火栓の影に逃げ込んだ。
「よし、囲め!」
 部長が号令し、その場にいた五人が「それ」の潜む消火栓を取り囲む。
「ここで捕えるぞ。校舎の外に出られたら厄介だ」
「はいっ」
 一斉に返事をする。その場の全員がベージュのサファリファッションだった。生物部存
亡に関わる緊急事態に、店を放り出して飛び出してきたのである。
 乃絵はクラス展示のお化け屋敷を手伝った後、午後から生物部に合流する事になってい
た。衣装に着替え、これから現場に出ようと言う時に「それ」の捕獲に駆り出されたので
あった。
「なんであんなの放してたんですか?」
 乃絵が部長を睨む。部長は乃絵の視線にたじろぎながらも、
「放してたわけじゃないんだ。籠に入れておいたのに、お客さんがひっくり返したんだよ」
 別の部員がぽそりと
「そりゃ案内されたテーブルの隣に目線の高さであんなのいたら驚くでしょう」
「み、みんなだっていいって言ってくれたじゃないかあ」
「ピグミーマーモセットだって言ったからじゃないですか。こいつだと知ってれば賛成な
んてしませんよ」
「あれならきれいだからそんなに怖がられるとは思わなかったんだもん・・・・」
「なにが『思わなかったんだもん』ですか。気持ち悪い」
「静かに!今はまず捕まえる事に集中して!」
 乃絵に一喝され、一同は消火栓に集中した。消火栓には消火器が置かれていて、「それ」
はその影に隠れている。
「みんな、少しずつ前に出て。刺激しないようにね」
 乃絵の指揮で、包囲網がじりじりと縮まっていく。
「石動さん、慣れてるね」
「地べたも私に慣れるまではよく逃げ回ってたから」
 それは「あなたも飛んでみせて」と言って空中に放り投げていればどんなおとなしい鶏
だって逃げるだろう。挙句飛ぶそぶりを見せないと言って「地べた」などと名前を付けら
れて、むしろよく懐いたものだとすら言える。
「よし、俺がこっちから追い出す。石動さん、出てきたところを押えてくれ」
「ん、わかりました」
 乃絵が網を握り直す。
「いくぞ・・・・3、2、1、それ!」
 男子部員が合図と共に消火栓に突進し、「それ」を追い出した。
「えい!」
 だが乃絵の振り下ろした網は、惜しい所で「それ」を逃した。「それ」は乃絵の足の間
を潜り抜ける。
「きゃっ」
 反射的に乃絵が跳びはねる。乃絵の後ろには二人の女子部員がいたが、どちらも手を伸
ばすこともなく「それ」の逃亡を許した。
「いかん!逃げた!」
「追え!外に出すな!」
 生物部員が騒ぐ中、「それ」が逃げる廊下の角から一組のカップルが出てきた。それを
見た乃絵が叫ぶ。
「眞一郎!その子捕まえて!」
「ん?」
「え?」
 比呂美と「それ」の目が合った。
 体長は50㎝程度、真っ白い胴体に赤と、オレンジが縞模様を為し、全体的に金属的な光
沢を放っていて――。

「きゃあああああああああああああああああああ」

 比呂美が悲鳴を上げると、その白ヘビは驚いたのかUターンをした。そこへ乃絵が網を投
げ捨て上から覆い被さるようにヘビを捕まえる。
 なおも乃絵の手から逃れようと左右に動き回るヘビを、被っていた帽子で閉じ込めよう
と這いつくばったまま格闘する乃絵。
 母親の尻尾にじゃれつく子猫のようだ、と眞一郎は思った。
「よし、捕まえた!」
 男子部員が大きな袋にヘビを放り込み、捕獲作戦は終了した。
「何、何、何なの、今の?」
 眞一郎にしがみついた比呂美が、顔を上げずに訊いた。
「トリカラーアルビノホンジュランスネークって言ってね。アメリカでよく飼われてるヘ
ビなんだ」
「そうじゃなくて」
「ジャングル喫茶で置いておいたら逃げられたんだ。おかげで捕まえる事ができたよ。あ
りがとう。お礼にコーヒーの無料にしてあげよう」
「行きません!」
 比呂美にはっきりと拒絶され、いたく傷ついた様子の部長を先頭に、生物部員が撤収し
ていった。
「・・・・なんだったんだ、あれ?」
 眞一郎はただ呆然とするしかなかった。



 営業再開後の生物部は、少しだけ空気がピリピリしていた。乃絵が不機嫌そのもので、
部長が控えめに注意しても効果がなく、逆に呪いをかけられていた。



 朋与がライフルを構え、肩にストックを当てて固定した。
 スコープを覗き込み、標的を捉える。
 狙いは60m先のクッキー缶。
 朋与の全ての関節が動きを止め、右手の指先だけが動いた。
 バシュ!
 カン!
 狙い違わずBB弾は標的に命中し、朋与は銃を下ろした。
「凄い、朋与、凄い!」
 あさみが感嘆の声を上げる。下平がたまらず声をかける。
「あ、あのさ、黒部、もうそろそろ勘弁してくれないかな・・・・」
「あたしの後ろに立つな!」
 眉間に深いしわを刻んだ朋与が、ドスの効いた声で言い放った。
「下平君、駄目。朋与、なにかになりきってる」
 あさみはため息と共にそう言った。



「凄い繁盛してるね」
 愛子が言った。
「ああ、うちより凄いかもしれないな」
 三代吉も認めた。
 二人はルミのクラス出展であるコスプレ喫茶「浪漫邸」に来ていた。
 2-Bの「バロック」が男性客八割なのに対し、こちらは七割以上が女子で、それだけに賑
やかさで勝っていた。
「お帰りなさいませ、ご主人様、お嬢様。こちらにご案内させていただきます」
 三代吉と愛子を案内するのは、ピンク色の袴を履いた女子だった。「バロック」が18世
紀末の、近世ヨーロッパをイメージしているのに対し、「浪漫邸」は大正期の日本がテー
マのようだ。
「内装もそれっぽくしてるね」
「いいけど少し照明暗いんじゃねえ?」
「でも、雰囲気でてるよ」
「そうだけどよ」
 三代吉としては、愛子には2-Bの方がいいと言ってもらいたいのである。一応自分も率先
して参加して作っていたのだ。
 もっとも、愛子にしてみれば、2-Bは三代吉の女装以外何も見ていないのだから比較しよ
うがないのだが。
「ご希望を承ります、何をご所望でしょうか?」
 執事の姿に身を包んだ店員が声をかけてきた。その声に聞き覚えがあった。
「高岡さん?」
「来てくれたのね。どう?楽しんでる?」
「先輩、そう来ますか・・・・」
「きれい・・・・」
 長身痩躯のルミの男装は似合いすぎるほどだった。愛子の賛辞にも照れた様子も見せず、
微笑を返す余裕すら見せた。
「ありがとう。それで、何にします?」
「お奨めって、何があります?」
「コーヒーは評判がいいわよ。うちはフレンチプレスで淹れるけど」
 フレンチプレスは、ひいた豆をポットに入れ、上からお湯を注いで浸出させ、内蓋で豆
が入らないように押さえながら注ぐ欧州式の淹れ方である。ドリップに比べて豆が湯に長
時間触れるため、油脂分の多いコクのあるコーヒーになる。
「じゃあ、コーヒーを2つ。あとチーズケーキ下さい」
「承知いたしました、ご主人様。少々お待ちくださいませ」
 恭しく一礼し、奥に下がるルミを見て、愛子がため息をつく。
「・・・・ここが女子で賑わってる理由がわかった気がするわ」
「うちが湯浅のメイド姿で客呼んでるのと同じ理屈だな・・・・」
 暫らくするとルミがケーキとポットを持って戻ってきた。
「お待たせいたしました。チーズケーキとコーヒーでございます」
 ポットはガラス製で、中に金属の内蓋が付いていた。ルミが蓋の上に伸びる棒を押すと、
内蓋が下に下がってコーヒーの粉を押さえつけた。
 二人の目の前でコーヒーを注ぎ、
「どうぞ、ご賞味下さい」
 と、カップを並べる。まるでこれが生業であるかのような、洗練された所作だった。
 一口飲んだ愛子が
「これ、おいしい」
 と感嘆の声を上げる。
「ご主人様はいかがですか?」
「・・・・うん、美味い」
「喜んでいただけて嬉しいです」
 ルミがにっこりと笑った。三代吉はこれまでの経験から、ルミがこの笑顔を見せた時は
何かよからぬ事が起こると警戒したが、今日のルミは何も言葉を継がなかった。
「それではごゆっくりなさいませ」
 そう言って立ち去って行った。
「きれいよね、高岡さん」
「ああ、そうだな」
「・・・・三代吉のバカ」
「ん?なんか言ったか?」
「なんでもない!」
 愛子はチーズケーキを頬張った。


                       了


ノート
トリカラーアルビノホンジュランスネーク
http://www.geocities.jp/Breedingroom/hon021.jpg

フレンチプレス式コーヒーメーカー
http://www.hokuouzakka.com/product_info.php/products_id/1971
本文でも書きましたがヨーロッパではドリップより一般的な飲み方です。元々「トルコ式」という、豆の粉にお湯を注いで上澄みを飲む方法が
あって、フレンチプレスはそれをフィルターで粉を押さえつけるように改良したものです。コクや香りが強く出る事、ドリップのように技術で
味が左右されない事が人気の理由だそうです。ティーサーバーで代用できるので自宅にあれば。焙煎が浅かったり、細かく挽きすぎたりすると
油脂分が出すぎて味が落ちるそうなのでそこだけは注意を。


文化祭編、もう一回続きます。
ツールボックス

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