truetears 独り言の先 -そののちの二人-


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春。
一年がまた巡る。
ここ麦端高校にも、確かにまた春がやって来ていた。
もう校庭には早咲きの桜がつぼみをつけ始めているくらいなのだから。
つい先日も先輩たちが卒業し、我が校も教室棟の一角がガランとしている。
「これで、俺たちも2年生に、かぁ」
「そうだな」
その卒業式を終えた数日後。
俺――仲上眞一郎と野伏三代吉は、校庭を背に話していた。
「高校生活、もうあと2年かぁ。
 早ぁー――――!」
「もうその心配かよ、早すぎるっての」
がっくりと肩を落とした親友を、俺はあきれ顔半分の苦笑を浮かべながらそう言葉を返す。
だけれども。
(確かに、俺は2年後……ここを卒業するんだよな)
確かに、思うのだ。
1年しか経っていないけれど、結構色々なことがあった。
―――いや正直、色々ありすぎて、
俺自身、たまにこの時間の経過に戸惑うことが、ある。

比呂美との同居。
麦端高校への入学。
比呂美との距離感。
乃絵との出会い。
広がる比呂美との間。
乃絵への想い。
愛ちゃんからの告白。
比呂美への想い。
ちゃんとする、約束した日。
仕上げた絵本。
乃絵との別れ。
比呂美への想いを果たすとき。

高校入学をまたいで2年近くで、よくもまあ…色々ありすぎだ。
たかだか16年しか生きていない俺には、何とも行事が多いことだったろうか。
「―――今年こそは、平穏無事が良いな」
「ん?どした、眞一郎?」
「いや、いい」
軽く首を振ると、俺は軽く笑みを漏らす。
判っている。先のことは判らないということくらい。
それは判っているのに、そう思うのは、俺の我が儘なのだろうか。
―――決してそうではないと思うのだが、果たしてどうなのだろう。
でもせめて、そう願うことくらいは、許して貰いたいな。
そう思いながら見つめていた。青空の先にある白山の峰峰を。


truetears 独り言の先 -そののちの二人-


「比呂美っ、パスッ」
「OKっ!」
スパンッ、と軽快なバスケットボールの音。
麦端高校女子バスケットボール部、通称女バス。
私たちは、他の運動部同様、春休み中も部活動を欠かさない。
新学期になれば、早速春の大会が控えているのだ。
「その前に、螢川との練習試合もあるんだからね!」
3年生となる高岡キャプテンの指示にも熱が入る。
宿敵とも言える螢川高校との戦いは、
創部以来ほぼ練習試合公式戦合わせても、成績は五分と五分。
まさに互角の勝敗で、白星とそれと同数の黒星を双方に積み重ね上げてきていた。
近年では、春の新入生歓迎の前に、
お互いのお手並み拝見のため、一戦交えることが慣習になりつつある程だ。

「今日はここまでっ!」
高岡キャプテンが告げ、みんなが集まる。
今日の練習の所見を述べ、しっかりとクールダウンをとることと、
明日の朝練など日程を確認した上で、キャプテンは解散を告げる。
「ありがとうございましたっ!」

そして、更衣室。
先ほどまでの緊張感をさておいて、そこに戻ればもうみんないつもの女子高生だ。
「そう言えば、比呂美はいつまで一人暮らし続けるの」
何気ない一言、を装ったことをまるで隠さない朋与―――黒部朋与の発言に、
私は軽く微笑む。
「なに?朋与。その言い方」
「えっ?どうかした、かな」
さくさく着替えながら、明後日の方を見たまま答える朋与。
笑っているのは明白だ。
「まるで、早く戻った方が良いよって勧められているように聞こえるけど」
「えっ?戻るの?」
くるっと振り返った朋与は、興味津々と言った感じを満開にさせてにじり寄る。
「戻らないって」
短く、表情を穏やかにして、私は答えた。

戻らない。そう決めていた。
せめて、自分の中で、しっかりと落ち着けるまで。
眞一郎くんの迷惑とならないくらいに、落ち着けるまで、
一人で生活しよう、と心に決めていた。

雪の降ったあの夜。
眞一郎くんとの関係は、「傍にいて欲しい大好きな幼馴染み」から、
「大好きで大切な恋人」へと変わった。
でも―――変わったからと言って、急に自分がほかの何かに変わる訳じゃない。
私はそう、思っている。

そして私はもう一度、一人になろうと思った理由を思い返していた。
第一にあのままでは、仲上の家に対する自分のけじめがつけられなかった。
『比呂美はうちの子です』
眞一郎くんのお母さん―――理恵子さんの言った言葉は、
塞ぎ込みそうになる私を救ってくれた。
『責任を持って、私たちが育てます』
だからこそ、けじめをつけなければいけない。そう、思った。

『―――良かった――』
全てから逃避しようと、朦朧とする頭で向かった“雪が振っていない街”。
バイクが転倒し、放り出された自分を見つけに来てくれた、眞一郎くん。
何て声をかけて良いのか、何て言えばいいのか。
判らないうちに、告げた言葉が終わらないうちに―――。
彼に抱きしめられている自分がいた。
『―――ごめん――――』

停学処分となった私に、授業のノートを書いてくれた彼。
優しい、彼。
大好きな、彼。

ここにいたら、彼をもっと傷つける。
―――いや、既にもう十分傷つけ過ぎていた。

『私が好きなのは、螢川の4番』
『お節介な男の子って、バカみたい』
『私が遅く生まれたから、眞一郎くんが、お兄ちゃん……』

自分でも、絶望する。
よくも、大切な、心から愛している人に向けて、私は言えたものだ。
例え、それが自分の本心から遠くかけ離れていたものであろうと。
“彼への想いを守りたい”と願っていたからこそ、
……ううん。違う。
自分を、弱い自分を守りたくて、いっぱい嘘をつき続けた。
眞一郎くんにも、友だちにも、私自身にも。

『比呂美は何でも出来て、運動まで出来ちゃうんだもんねぇ』
『頭の回転が速いから、コートに立っても動きが違うもの』
『周囲を見渡す目がしっかり働いてるって感じ』

部活や教室。良く私に言われる言葉。
何が、“何でも出来て”なんだろう。
―――何も、何にも出来てない。
眞一郎くんへの、フォロー。何にも私、出来てないよ。

最初の嘘は、偶然聞かれただけだった。
しつこく眞一郎くんとの仲を聞きたがった朋与への言い訳だった。
そこで、ちゃんと眞一郎くんにだけ打ち消しておけばいいのに、
その傷口を広げたのは、………私。
塗り固めた嘘に嘘を重ねて、私は今思うと、多弁すぎるほどしゃべっていた。
彼に、真偽などを言葉として差し挟ませぬ位に。

私の怒りに任せた行動は続く。
螢川の4番に、“お願い”をわざわざし、そのことを敢えて私の部屋で話した彼。
―――結局、私は彼を“バカみたい”とまで言っていた。
それはあの部屋でのほとんど唯一の思い出となってしまった出来事。
……ホント、私…最低だ………。

結局、4番と映画まで見てきた私。
自分の愚かさ加減に心底、あきれ果て、そして倒れそうになる。
映画、――眞一郎くんと見に行きたかったんじゃなかったの―――。

挙げ句の果てには、誤解と無分別の融合体を鵜呑みにして、勝手に私の中で成長した話を、
彼に思いっきりぶつけてしまった。

そんな私が、『眞一郎くんが好き』?
どの顔をして、私は言うのだろうか。
そう思って、手鏡で見ようとして、手が震えた。

正直に言えば、怖かったのだ。
ここまで、関係を複雑にさせた私の嘘への――彼の気持ちを思うと。
自分の彼への想いを、こうして自分自身で壊しかねなくて。

だから、私は仲上家を出ることにした。

『全部ちゃんとするから』

―――そう決断して仲上家を出たのに、
結局は眞一郎くんの優しさに、甘えることになりはしたけれど。
“ちゃんと”してくれた眞一郎くんの隣に、私は今いられる。
それだけで、私には十分すぎるのだから。

「…意地を張ってるわけじゃないけど、
 今のままでも、十分にやっていけてるから」
制汗スプレーを軽くかけてから、シャツを着込む。
私よりも手早く着替えた朋与は、最後に制服を整えながらも質問を緩めない。
「ほぉほぉ、仲上君を引っ張り込みたい放題だしね」
引っ張り込むのは、確かだけれど。それをそのまま答えるわけにはいかない。
「もう、茶化しすぎ。
 いくら眞一郎くんとでも、お泊まりしてくれる訳じゃないし」
「えっ?そうなの?」
朋与は先ほどとは全く違う表情で聞き返す。本当に心配してくれている顔で。

私自身は知らなかった、というより、
聞かれないように話されていたので知りようもなかったのだけれど、
私たちはこう呼ばれているらしい。
『仲上たち、今更恋人ではないだろう。一気に夫婦だな』とか、
『高校生カップルなんだから、もう際限ないんじゃないか』とか。
散々なことを言われているという。
それを聞いた朋与は、
『頭に来るっ!』
と、その都度言っている人たちに怒ってくれているそうだが、
正直私の評判は微妙だと、自分では思う。
螢川の4番―――石動乃絵のお兄さんとの深夜行動で、停学処分を受けているのだから。
クラスのみんなや、女バス男バスのみんなは、
気にしない態度を取ってくれているが、それが全てではないことは、
私が充分判っていることだ。
でも、友人たち、特に朋与の反論姿勢は、実は私以上で、
『そんなの当たり前でしょ。
 伊達に親友やってないってば』
と、いつもフォローしてくれている。感謝しても、しつくせない。

「えっ?そうなの?」
だから、この朋与の態度は私のことをやや斜めな視線で見ている様な、
そんな心配ではない。
本当に、私たちの関係を心配しての驚き。それが判る。
「ホントに、お泊まりもしてくれないの……?」
「って、こら、朋与。私たち二人だけで夜を越すことを、
 みんながみんな許してくれるわけないでしょ」
だからむしろ、私は彼女に笑って見せていたと思う。
確かにそうなのだから。
当人同士に気持ちがあっても、そうは簡単に出来ない事情はある。
そう答えたのだけれど、そのつもりだったんだけれど……。
朋与に話すのを任せて聞き耳たてていた他のみんなも、一斉に会話に加わってきた。
「なになになに?
 仲上君って比呂美の気持ち無視なわけ?」
「違うよ、眞一郎くんはちゃんと私こと見て、言ってくれているよ」
「でも好きな人と一緒にいて、お泊まりできないって何よぉ?」
「ちゃんと、うちに来てはくれるよ。でも、お泊まりは駄目だよ」
「まさか、ちょっと抱きしめ合っているだけで満足とか」
「満足って言うか。それだけでも、結構嬉しすぎるんだけどな」
一問一答になっているけど……みんな、コメントが好き勝手になっている。
健全すぎ、とか言うけれど、
健全でない方が私には良いとも思えないんだけれど。
一応、この質問コーナーが一段落したところで私は一つ、息をはき出すと、
はいはい、と引率の先生がするように手を叩いて注意を促した。
「まだ私たち、高校生なんだから。
 自重するべきはしなきゃ、ね」
でも、これは半分、自分にも言い聞かせていること。
私だって女だ。
好きな人と二人っきりになって、何も思わないわけはない。
「何か進展あったら、絶対教えてよ」とか「参考にしたいからちゃんと言ってよ」とか、
みんな口々に告げて帰って行く。
「ふぅ」
苦笑と共にため息が出てくる。
みんな、我がことのように心配してくれるのは嬉しいんだけれど、ね。
「……ねぇ。比呂美?」
最後まで残っていた朋与が、ばつの悪そうな顔で聞いてきた。
「あの、さ。――迷惑だった?
 もうちょっとは、仲上君とのラブラブ話、聞かせてくれるかなぁって、
 思ったんだけど」
「良いけど。
 眞一郎くんとのラブラブ話って……普通にしてるんだよ、私たち」
普通に、私は幸せを受け止めている。眞一郎くんの隣にいられる幸せを。
「そっかぁ。
 まあ、毎日バラ色ってわけには、早々いかないか」
「……まあ幸せ色では、あるけどね」
小声で囁く。
眞一郎くんの隣は、私にとって明るい日の当たる場所なのだから。
「えっ?何?
 なんか言った、比呂美?」
「なんでもないよ。
 さぁ、帰ろう」
私も制服を整え終えて、鞄を持つ。
さあ、玄関へ行こう。あの人の、待つ場所へ。

「ただいま」
「お邪魔します」
今日も眞一郎くんと一緒に帰宅して、制服から私服に着替えてから、
仲上酒造へやって来た。勿論、お手伝いをするために。
「あら、いらっしゃい」
理恵子さん―――おばさんが、頷いて迎えてくれた。
「じゃぁ、砺波さんの発注が着ている分から、
 比呂美ちゃん、お願いできるかしら」
早速、受け渡しの準備が待っている。最近は忙しいらしく、猫の手も借りたいみたい。
いつもの風景といつもの会話。何故か、それが一番安心する。

「それと眞ちゃん、あとで比呂美ちゃんとお話があるから」
「えっ」
「えっ」
でも、それは突然やって来た。
何気ない一言だったけれど、おばさんの一言に私たちは硬直した。
「ん?
 いやね。変な話じゃないわよ」
くすっと微笑むおばさんを見つめてから、眞一郎くんへ……私は視線を送った。
ちゃんと私の方を見てくれていた彼が一つ頷きを私に与えてくれてから、
眞一郎くんはおばさんに返答を返した。
「判ったよ、母さん。
 比呂美の手伝いをしてから行くから」
「判ったわ」

――――――――――――――――――――――――――――――――――

静かな夕食だった。
母さんと比呂美が作った夕食に手をつけつつ、俺は思った。
こんな状況。和やかじゃないよな、と。
まあ事前警告があったとはいえ、食後の展開を想像すると多少は気に掛かるものだ。
その上みな、一様に黙りこくって箸だけが進んでいっている。
で、俺が食べ終わったからって父さんは、新聞をたたんで、……腕を組み始めたぞ。
あっちはことさら緊張している様子が窺える。
父さん…さっきもホントは新聞読んでなかったな。
まったく。こっちまで、何事かと思う。
俺たちには緊張を強いられるような身に覚えなどないので、怯えている必要なんてないが、
それにしても、こっちの身体に悪いぞ。
そんなこんなで後片付けも終わり、気がつけば全員が着席していた。

「あー、なんだ。他でもない。
 比呂美はうちの娘だ」
父さんが言葉を紡ぎ始めたのは良いが……なんだそりゃ。
比呂美は仲上の娘。まあ、それはそうなんだけれど。
「はい」
それでもって、律儀に比呂美は父さんの言葉に頷く。
「で、眞一郎は、息子だ」
あの……えっと、大丈夫なのか、この会話。
呆れ始めた俺は、ジト目で父さんを見る。
「で、なんだ。その」
「ここは私から言うことにするわ」
業を煮やしたのだろう。母さんが間髪入れずにバトンタッチ、させた。
父さん……そこで安心した顔をするなよ。
「眞ちゃんも、比呂美ちゃんも、恋人同士なのは了解しているわ」
あーこれは、確かに。
了解を得る事項でもないのは承知で、
竹林の告白の後、俺は両親にしっかり報告をした。
『比呂美と付き合うことになった』
と。
言わないのも落ち着かないし、言い出すタイミングを逸すると、
必要もない説明を余計にする羽目になりかねなかったからだ。
ちなみに、
『そうか、良かったな』
が、父さんの反応で、
『眞ちゃん、しっかりね』
が、母さんの反応だった。言われなくともしっかり比呂美を守りますよっての。

「でね。何事もルールが必要だと思うのよ」
母さんが、お茶を飲みながらこともなげに言う。
いや、ルールって……。
「何の、だよ?母さん」
こっちを見ていなかった母さんの目が、俺に向けられた。
「比呂美ちゃんが一人暮らしをしているのに、眞ちゃんは毎日通っている」
「な、何だよ、それ」
うっ、となる俺。確かに、毎日比呂美の家を経由して帰ってくることは事実だし、
ときには朝、比呂美の家に寄ってから学校へ行くこともある。
「咎めているんじゃないの。
 ただ、……」
湯飲みをテーブルの上に置く母さんは、一呼吸おいて、
「善し悪しがあるわ」
と、言った。
善し悪し…ですか。まあ、確かに俺たちは高校2年生になろうというところだし、
比呂美も俺も16歳。今年でやっと17になる。
……まあ、半同棲という行動パターンは如何なものか、という意見はあるだろう。
―――――だがそれを言ったら、数ヶ月前までの完全同棲はどうなるのだろうか。
「外泊は認めない。
 眞一郎は、必ずうちで寝泊まりすること」
ここで父親の威厳の時間となったのか、父さんが言葉を挟む。
で、宣言されてしまった。外泊禁止を。
判ってはいたが、ううむ。
思わず比呂美の方を見たが、比呂美は大人しく聞き入っている。
俺が慌てたのが何だかみっともなく思えて、無理矢理姿勢を正した。
「ちゃんと聞きなさいね、眞ちゃん、比呂美ちゃん」
威厳の時間は唐突に終わり、母さんのターンに変わる。
このところの母さんは、俺たちに寛大だ。……意外なまでに。
女って、うち解け始めると案外そのスピードって早いんだろうか。
「勿論、ただ禁止するだけじゃ、反発するのは自明よね。
 だから、どうしても夜まで一緒にいたいのなら」
「えっ、――どうしてもって……」
その母さんの言葉に今度は比呂美が狼狽え始める。
先ほどまでの大人しく聞き入っていたのを置いて、俺と母さんを交互に見つめた。
俺もさっきまでの自制をかなぐり捨て……はしないが、慌てた。
「結論として、うちで比呂美ちゃんが泊まるのは認めるわ」
「お、おばさん……!」
「かっ、母さん!」
思わず、隣に座る比呂美の右手がきゅっと、俺の左手を握ってきた。
俺はそれをちゃんと握り返しつつ、落ち着いてから両親を交互に見つめ直す。
「譲歩しすぎかしら」
こうも慌てる俺たちとは対照的に、
母さんは苦笑と慈愛に近い笑みを半々にして見つめ返してくれる。
「いや、でも」
「えっと、その」
比呂美と二人、言葉を濁しつつ、
俺たちは両親がきちんと俺たちの今後を話し合っていてくれたことを確認した。
そうでなければ、この様な話にはならないだろう。
恐らく比呂美もだろうけれど、――胸の中が暖かくなっていた。
「信用しているのよ、眞ちゃんも比呂美ちゃんも」
「あ、ああ」
「…はい――」
どのレベルの信用であるのか、母さんの目を見つめてみたが、
……正直、求められる最高のレベルであるような気がして、目眩を覚える。
「ついでに言うけれど、
 比呂美ちゃんがうちで泊まる部屋については、こっちから指定しないわ」
「信用しているからな」
母さんは再び湯飲みを持ってお茶をすすりながら、こともなげに言う。
追随する父さんの言葉も、
先ほどまでの緊張感溢れるものではなく、普段かけるような言葉。
それがさらに、俺への信用を裏付けているような気がして………。
なにを、どうして、どうやって……?
告げられた言葉。真っ赤になる頬に思考力の低下した頭が追い打ちをかける。
隣にいる比呂美も、俺とテーブルの下で手を繋ぎながら、頬が朱に染まっていた。

「とんでもないことになったな」
「でも、嬉しい、な」
「そりゃ、俺だって」
今日言われて今日泊まる…は、さすがにこっちも心の準備がなさ過ぎる。
だから、いつもの通り比呂美のアパートまで送ってやる道すがら。
紅潮する頬をそのままに、二人で夜道を歩いていた。
「これで……時間を気にしないで、済むな」
「うん」
正直時間が止まって欲しい、そう思うことは何度もあった。
お金はないが時間はあるハズの学生生活なのだが、
これまで、2年近くこんなに近くにいたのに、ロクに話をしてこなかった俺たち二人は、
無性に語り合いたがっていたのだ。何気ない、日常の出来事を。
それが、最高の幸せなのだと、二人とも今は知ってしまったからこそ。
「でね、眞一郎くん」
朱に染まる頬をして視線を少しだけ足下に落としてから、比呂美は囁くように言う。
「ん、どした?」
「明日、早速……行使、したいな」
行使、する。比呂美は与えられた権利を行使することに、したのだ。
「…了解。
 こっちはOK、だから」
「うん」
明るく微笑む比呂美。その笑顔を見られるだけでも、俺は幸せ者なのだと思う。
だから、そんな比呂美を俺は微笑みかえしつつ、受け入れた。

で、翌日。
一応進学校でもある麦端では、今日も補習授業は続いている。
「どうしたんだ、眞一郎?」
何故かその補習1時間目が終わってから、三代吉が胡散臭そうな目で俺を見てきた。
何でそんな目で見られるのか、理由が判らない…。だから、俺も訝しげに聞き返した。
「どうしたって、何がだよ?」
「……いや、もの凄く不自然だな、と思ったんだよ」
「どうして?」
「柳沢の古文の予習ばっちりじゃないかよ」
……当たり前じゃないか。うちの古文担当の柳沢先生は、厳しいことで知られている。
予習復習しないと、授業中の先生の無茶フリにも対応できない。
「でなくて、眞一郎、古文得意だろうが。
 ある程度はその場でわからんのだけ辞書引けば訳せるし」
まあ、文系教科は俺にとって得意科目に分類される、と思う。
日本史と地理、漢文や現代文も、そんなに都合は悪くない。
英語は、どうにか水準にはある、と思うが、悪い点は取ってない。
「そのお前が、びっちりの古文予習……。
 ――なんか“浮かれる行事”でもあるのか?」
「う、ぐっ?」
な、なにげに、良い観察力を持っているな、お前。
実際に今日実施される補修授業の教科は、ばっちり予習をこなしてある。
放課後に、小テストの追試や居残りなどが発生しないように。
俺は万全な対策を取ったのだ。
「ははぁん」
「な、なんだよ」
「湯浅比呂美と、今日はお部屋デートだ」
「―――ま、まあ。うん」
当たらずしも、遠からず。
そのお部屋とは俺の部屋で、そこでお泊まりになる、――デート、だ。
「ほぉほぉ。
 ま、頑張れよ」
そこまで三代吉は予見できなかった―――当たり前だが―――ため、
にっこり笑んで、ぽんぽんっと肩を叩いて行ってしまった。
「はぁぁ」
悪いことなど何もしていないのに、力がこもる。
「そうそう、眞一郎」
と、気がつけば三代吉が戻ってきていた。
「な、なんだ?!」
「………そのノート、ちょっとだけ見せてくれよ」
やって来なかったのか、三代吉。
気づかれなかった安堵と共に苦笑して、
俺は古文のノートを、予習やってこなかった割には平気な顔をしている三代吉に渡した。

―――――――――――――――――――――――――――――

「今日は仲上君とデートなんだ」
な、なななな。
朋与が後ろから声をかけてきたと思ったら、そんなことを唐突に言う。
「な、なんで、そう思うの」
「だって、いつも以上に髪の手入れ、時間かけたでしょ?」
「あっ、……うん」
女友達にはそのあたりは隠せないもの、なのかな。
たぶん、おそらく……眞一郎くんは気が付いてはくれないんだろうなぁ、と思いながら、
でも、今朝。ちょっと早起きして、髪を丁寧に洗い……時間をかけて、お手入れしてきた。
眞一郎くんと一緒になれるのは夕方だけれど、でも、ちゃんとしておきたかったのだ。
「まあ、今日は部活ないからねぇ」
「そうね。施設の耐震性点検、だったかな」
「補修授業終わり次第、即帰宅できるもんねぇ」
そう。早速眞一郎くんのお部屋へ行こうと思い立ったのには、
そういった事情もあるの。
「で、……“おねぇさん”にだけ教えてくれないかなぁ」
「誰が“おねぇさん”よ」
朋与の発音がおかしい気がする。“おねぇさん”って、一体……。
「私、比呂美より誕生日先よ」
「はいはい。で、その“おねぇさん”は、何が知りたいのかな」
また何を聞いてくるのかな、と思った矢先。
「今日、するの?」
「は、はぃぃぃぃい?」
耳を思いっきり疑いたくなるようなことを、言われた気がした。

「どうしたの、比呂美?
 朋与?」
あさみたちが驚いてこっちを見ている。わぁ、恥ずかしいかも。
「何でも、ない」
にっこりと微笑んで、あさみに頷いてみせる。
「うんうん。大丈夫」
朋与は、原因作成者にも関わらず平然とニッコリ笑んで、
あさみの不思議そうな視線をかわした。
で、もう一度2者会談に戻る。
「な、何のことよ」
「とぼけても駄目駄目」
今度は小声で問い直してくる朋与。
学習してくれたのは嬉しいけれど、中身が変わってない。
思わずため息が漏れる。
「なに比呂美、そのため息は?
 もう、隠し切れてないのよねぇ。比呂美のその高揚した感じと胸の高鳴りっ」
「……朋与、それも同じ意味になるよ」
「えっ?そうだっけ」
高揚とは、気分が高まること。胸が高鳴ってるのとは意味が重なっちゃうでしょ。
「そう。
 でも、どうして私が高揚してると思うの」
「仲上君を見る目が、いつもと違って長い上に、ほっぺ真っ赤になるから」
その朋与の言葉に、―――はっとなる。
自分では、いつものようにしていたつもりなんだけど、な。
「――そう、かな」
「うん、そう。
 でも、とうとう来ましたか、比呂美さん」
満足そうに頷く朋与に、私は何だか頬が熱くなってきた。
「そ、そうじゃないでしょ」
「良いのよ。仲上君とだもの。
 比呂美はそれ以外には考えてないし、それは仲上君も望んでいることだし」
いつも通りのまっすぐストレートな言い方。朋与らしい、私への言葉。
「と、朋与……それは、まあ」
「おめでとう、比呂美」
「えっ」
「心から大好きなんでしょ、仲上君のこと」
敵わない。本気で私のこと心配してくれている目。
「―うん」
「よしよし。ま、これぞ女子の本懐よねぇ」
「本懐って……」
―――確かに、それは私の一番の望み。叶うはずのなかった、希望。
「頑張って。比呂美」
「―うん」
何をどう頑張るのか、判らないような気もするけれど、
朋与の気持ちが嬉しくて、私は頷いた。頬はたぶん赤いままだろうけれど。
「で……もち、明日感想よろしく」
「…それは、イヤ」
思わず、苦笑しながら返す。えー、とか言ってぶぅたれる朋与。
ありがとう。
朋与の心遣いが、本当に嬉しかった。

――――――――――――――――――――――――――――――

さて、と。
家に帰ったら、何から話そうか。
今日あったことはもちろんだけれど、
次回作となる絵本のプロットの構想なんかを聞いて貰うのも良いかも知れない。
プロの編集担当さんが付いているわけでもない俺には指摘されないようなことも、
比呂美は指摘してくれることがあるから。
そうでなくとも、比呂美と話をすると心が落ち着く。
それに話をするだけで俺の考えが整理されるというか、そういう感じがする。
まあ、今日はお泊まりなんだから、時間を気にせず布団の中ででも話が出来る。
……そう。一緒の布団で、だ。
理性とのせめぎ合いになるかも知れないが、実は俺はあまり余計な心配はしていない。
そして、比呂美もたぶん、“その場では”余計な心配をしなくても良いことは、
判っていてくれていると思う。
つまり比呂美は、それを百も承知でお泊まりを提案してきている。
だから俺に出来ることといえば、
両親の期待に応えつつ、比呂美との想いを遂げること。
それが、俺――仲上眞一郎が、湯浅比呂美の気持ちに答える道だと、信じているから。
「ま、変に浮かれた気分には、何故だかなれないんだよな」
当然だが、高揚感はある。
長年、夢にまで見たこと。比呂美と、結ばれること。
それが、手の届くところにある。
「でも、下手に慌てる必要なんて、どこにもない」
この言葉。口先だけで言うつもりもないし、
―――正直、恥ずかしいので比呂美にも言わない。
でも、俺の本心だったりする。
先のことは判らない。
でも、比呂美とのことを慌てない。
誓ったのだから。ずっと傍にいる、と。
その約束は、生涯守る。そう、決めているのだから。

「眞一郎くん」
昇降口。いつものように待ち合わせた俺たちは、いつものように帰宅する。
今日起こった出来事を、お互いに話しながらゆっくりとアパートまでの道を行く。
それにしても、学校から比呂美の部屋までそんなに時間は掛からない。
あっという間に、部屋に着く。
「待ってて、今着替えちゃうから」
部屋に入ると、俺はテレビを見る。
というか、習慣として、こうして比呂美が私服に着替えるのを待っているのだが、
今日は、ちょっと変更。
「ひゃっ、し、眞一郎くん」
そっと、着替えようとしていた制服姿の比呂美を、後ろから抱きしめる。
そして、言うことを決めていた言葉を、比呂美に告げる。
「ありがとう」
こんな俺を待っていてくれて。こんな俺の、傍にいてくれて。
「眞一郎くん」
そう囁くと、比呂美は俺に手を重ねてくれる。
「こちらこそ、ありがとう」
「ああ」
きゅっと、抱きしめ、そしてふわっと離す。
正面を向き直った比呂美は、―――そっと、俺に唇を重ねてくれた。
「あっ」
「なに、どうか、した」
まだ慣れたわけでもないキスの直後に。気がついた。
「今日、髪、凄くサラッとしてるな」
「あっ。
 ……嬉しいな、気づいてくれた」
頬を朱に染めた比呂美が嬉しそうに俯いた。
「ああ。ありがとう」
綺麗でそして、格好いい。そんな比呂美が俺のためにしてくれたこと。
その比呂美の想いに、俺は応えたい。
「くすっ。
 なに、それ」
「俺も嬉しかったから。そのお礼」
「うん」
比呂美はそう言って、頬を朱に染めたまま、
きゅっと俺に抱きついてくれた。

「今日は、比呂美。
 泊まっていくから」
夕食のはじめに、俺は告げておいた。
「そうか」
が父さんの返答で、
「二人とも夜更かししちゃ駄目よ」
が、母さんの返答だった。

夕食後。一段落付いてから、俺たちは居間を離れた。
父さんも母さんも、
「おやすみなさい」
の俺たちの言葉に、同じ言葉を返答するだけで、ことさら何も言わなかった。

ところで、初めて見る女子のお泊まりセットは、どうしてこうも大きいのだろうか。
まあ、明日ここから学校へ行くのだから、制服もあるのだけれど。
「一応これ全部、必要なんだよ」
この比呂美の言い分も、判るには判るが、男の俺が見るに一泊以上あるような気もする。
「それはないよ。
 ここで3泊以上するなら、―――眞一郎くんの家に、戻った方が早いもの」
「まあ、確かに」
部屋に戻ってから、ある程度明日の授業の予習も比呂美と進められたし、
絵本も、幾つか描きかけのものを見せて、比呂美からコメントも貰えた。
会話の中で、次のイラストの参考となる言葉もあったし、
正直、女性の感性からいえばこういうことなのか、と感心する場面もあった。
やはり、比呂美と話をすると、内容が良く顕れる様になると思う。
「あくまで、私の感想だよ」
と、前置きしてくれてはいるが、思っていることをちゃんと言ってくれるのは、
俺としても、ありがたかった。
「この作品。何とか、なりそうだ」
「次も、東京へ送るの?」
「いや、今回は射水絵本館の東保館長にお見せしようかなと」
「そうなんだ」
そうこうしているうちに、時計の針は午前0時を回る。
外は、雨が降っているのか。シトシトという雨音と雨樋の水音がする。
「そろそろ休もうか」
「――うん」
ここから先はまだ、照れがある。
お互いに背中を向けあって着替える。
後ろで布が擦れる音が、いやに耳に残るのは、気のせいではないはずだ。
音がしなくなって、俺は正面に向き直ると、
桜色のパジャマに身を包み、髪を下ろした比呂美がいた。
「判って……」
「判ってる」
言おうとした言葉とほぼ同じ言葉で比呂美は俺を制する。
―――判って、くれていた。
比呂美が判っている。それだけで、今晩は理性の勝利だ。
ただし、今晩は、だが。
「明後日、パボーレ行こうか」
「えっ」
ホッとしたような、……俺の主観では、残念そうな、
そんな彼女に、俺はあらかじめ決めていたことを告げた。
明後日は土曜日だ。比呂美に部活がないことも、確認済み。
「それで帰りに、比呂美の家に、寄りたい」
「っ……眞一郎くん………」
比呂美の表情が、はっとなった。
―――伝わった。
ちゃんと、伝えた。
比呂美は、一気にこぼれ落ちそうな涙を湛えた瞳で見つめてくれる。

俺は、比呂美のことを大切にする覚悟を持つ。
それは、あのときからの約束。
いや、実はとうの昔。あの祭りの日から、俺は決めてしまっていたのかも知れない。
それに、気づくのが遅かったのかも、知れない。

「比呂美……」
きゅっと抱きしめる。
柔らかな、暖かい、大切な比呂美。
正直、理性が攻撃を受けているけれど、明日までは保つ。
「休もうか」
「――うん」
ニッコリと微笑むと、俺と比呂美は一緒に布団に入る。
「………眞一郎くん」
「なに」
「手、繋いでて欲しい、な」
ささやかな、希望。それを叶えずにいられない。
「ああ、俺も繋いでいたい」
「ありがと」
すっと、身体を比呂美が俺に寄せて。
重ねられる唇。
「――ん…」
甘い吐息は、心からの喜びに聞こえて。
「……おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
手を繋いで、そして目をつぶった。
不思議と、心が高鳴っているのに、落ち着く。
……そうか。
そうなのかも知れない。
これが、俺たちがいる本来の姿なのかも知れない。
比呂美の隣にいる俺が、俺の隣にいる比呂美が。
そう、なのか。
そう考えながら、いつの間にか。俺はまどろみの中に落ちていた。

―――――――――――――――――――――――――――――――

「お父さん」
手を引いてくれているのは、私の父。
顔を見つめているのに、何だか表情が薄い。
「お母さん」
もう片方の手を引いてくれているのは、私の母。
微笑んでくれているけれど、お父さんと同じ表情。
私はというと、……中学の制服姿。
ああ、またこの夢なのかな。
このあと、二人の手が離れて、すーっと、居なくなって。
二人が、居なくなって。
私は……。

『良かったな、比呂美』

えっ。
いつもなら、声は聞こえないはずなのに。
いつもなら、何も言わないはずなのに。

『頑張ってね、比呂美』

お父さん、お母さん―――。

そして。
ぎゅっと、私の手を離さないでいてくれる手が、あった。
『ずっと傍にいるから』
気がつくと。
「眞一郎くん」
静かに頷いてくれる彼が、私の傍に寄り添っていてくれて。
そうか。
私もちゃんと、出来てるかな。
……ありがとう……。お父さん、お母さん―――――。

そっと、目が覚める。
すーっと、頬に冷たいものが流れた気がした。
その隣には。
「すぅ、すぅ…」
寝息を立てている―――眞一郎くん。
手は、繋いだままだ。
「――ありがとう……」
この人が、私の大切な人だよ。お父さん、お母さん。
私は、この人に全てを捧げるよ。
それで、良いよね。
そう思いながら、彼の頬を撫でた。
―――遠くの方で、もう一度。
『頑張ってね、比呂美』
と、お母さんの声が聞こえた気がした。

時計の針は、―――6時を回っていた。
体内時計は正確だったみたい。
強く、ではなく、でも、しっかりと手を繋いでいる眞一郎くん。
その手を、私は離したくはなくて。
ずっと、見つめてみる。この人の寝顔。
「……可愛いんだね」
クスッと、思わず微笑んでしまった。
なんてくつろいだ、優しい顔をしてすやすやと休んでいるのだろう。
そっと、そんな眞一郎くんの頬をもう一度撫でてみる。
これからは、これが普通になる。
いつもの、風景になる。
眞一郎くんの傍に、私の場所がある。
私の隣に、眞一郎くんがいる。
毎日を、貴方と紡いでいく。
「覚悟、してね」
いっぱい彼に見てもらおう。いっぱい彼に知って貰おう。
ずっと、遠回りした私たちなんだから。
「ん……あぁ――――おはよ」
「うん。おはよう」
じっと見つめていた私といきなり目があって、―――ホッとしたような顔をした彼。
ホントに、もう。大好きだよ。
「って、ひ、比呂美」
「おはよう、眞一郎くん」
ギュッと、抱きしめた。貴方が、私の大切な人なんですから。

「ごちそうさまでした」
「ごちそうさま」
朝ご飯をおばさんと作って、みんなで食べて。
一緒にいた頃と同じ。
「片付けは私がしておくから、比呂美ちゃんはいいわよ」
私は、時間はあったし、
たぶん眞一郎くんはまだ出かけるまでかかると思っていたところに、
おばさんの声。
「―――眞ちゃんは、ちゃんと準備済みね」
苦笑というか、半分笑っているようなそんなおばさんの声。
気がつくと、眞一郎くんは出かける準備が出来ている。
「いや、一緒に行こうかなと」
「あっ、うん。
 ありがと」
照れているのを誤魔化そうとする彼が、さっきの寝顔と重なって。
つい、私も微笑んでしまう。

明け方まで降っていた雨がやんだのだろう。
道路はまだ濡れていた。
「比呂美、足下気をつけないと」
「うん」
朝日がまぶしい、そんな朝。
以前は、私が一人で通った学校までの道。
眞一郎くんと一緒に出かけるなんて、ほとんど無かった。
でも、今は。
「あっ、比呂美」
「ん、どうかしたの」
眞一郎くんの声に振り返る私に、
彼の姿と………白山の連山にかかる―――それは、虹。
それは、昇る朝日と共にとても綺麗に、輝いて見えて。

「綺麗……」
「ああ、綺麗だな…」
思わず見とれる私に、眞一郎くんはそっと手を重ねて、繋いでくれる。
「さあ、行こうか」
「うん」

白山の峰峰と共に、その虹はきらきらと輝きながら、
私たちを送り出してくれているようだった。

こうしていつもの一日が、始まる。
これからもずっと続いていく、そんな毎日へ。
私は眞一郎くんの、隣で。



後書きな言い訳。
今晩は、独り言の人です。
前回は、眞一郎しっかりしよう!な独り言をお送りしましたが、
眞一郎派な方には受け入れていただいたようで、ありがたいことです。
前回比呂美さんにほとんどしゃべって貰ってなかったので、
今回は思う存分しゃべっていただきました。
基本は、日常の一コマ書きな小生ですので、ホントにラブ一直線です。
あんまり波も起こりません。というか、起こしません。(苦笑)
そんなのでも宜しければ、またお付き合い下さいませ。
ここまで、読んでいただきまして本当にありがとうございました。

ちなみに、比呂美さんこと名塚さんの「雨の夜 虹の朝」より、
終盤のシーンは頂きました。良い曲だと思います。いや、本当に。
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