負けないんだから


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負けるな比呂美たんっ! 応援SS第30弾

『負けないんだから』



「眞一郎くん、早くっ」

「ああ、そんなに慌てなくても」

「もう、モタモタしない」

「はいはい」

「『はい』は1回!」

「はいっ」

「いってきまーす!」

「いってきます」

今日は朝練も無いので

眞一郎くんのお家にお迎え

連れ立ってのご登校

お休み明けなので久しぶり

いつもの道を並んで歩く

彼ったらお出かけの準備は遅いくせに

歩くのは少し速い

「眞一郎くん、歩くの速いよ」

そんなに早くこの時間を終わらせたいの?

「さっきは急かしたじゃないか?
 何か用があるのかと思って…」

クスッ

相変わらず 息が合わないなあ

「別に急ぐ用事なんてないよ」

「なんだ、そうなのか」

「うん」

「にしても もう 少し暑いなあ」

「そうかな?」

「女子はいいだろうけど…」

学生服 やっぱり暑いのかな

あれ、袖のボタン取れかかってる



そろそろいつものご挨拶のお家

あ、柵の隙間から顔だしてる

「おはよっ」

いつものわんこにご挨拶

この子は大人しいので人懐こそうな表情がお返事

「この犬もおおきくなったな」

「眞一郎くんも知ってるの?」

「そりゃ、登校ルート同じなんだから」

そういえばそう

同じ道を今まで何百回と歩いたというのに

一緒に歩いたのはほんの数回

悲しいような 切ないような

でも、これからは違う

朝練のない日は絶対一緒なんだからっ

こちらを見上げてるわんこにお別れ

バイバイ

帰りのときまで、またね

しばらくわんこの話題で彼とお話

並んで歩いたわけではないけれど

ずっと同じ風景を眺めてきたと思えば

これはこれで幸せな事なのかもしれない

小さな幸せはこんな身近に隠れてる

もっともっと彼との幸せ見つけたい



この角の茶色い屋根のお家、まだ新しい

中学3年の秋に建ったはず

しばらく前から小さな変化

今日はどうかな

あ、あった

「眞一郎くん、ほら、あれ」

「ん?」

「ほら、あそこ」

「なんだ」

「洗濯物、かわいい靴下」

「ああ、ホントだ」

「このお家ね 建ってから1年半くらいかな、新しい家族が増えたんだね」

「ああ」

彼の表情をこっそり覗う

子供好きかな? そうだといいな…

「ん?」

私の視線に気がついて彼がこちらを向く

ほんの数瞬

視線が絡む

今はまだ言葉に出来ない問い…

その答えを期待する

「どした?」

「ううん、なんでも」

やっぱり気が付かない

温かい家庭…

いつかあなたと築けたら…

なんて…

私の気持ち…

もし、彼に全部知られたら

困るのは私…

恥ずかしい



校門が見えてきた

彼はどう思ってるだろう?

あえてこの話題は避けてきた

あとは確かめるだけ

再び視線が絡む

今度は笑いかけてくれた

私を安心させるように

私 今 不安そうな顔をしてるのかな

掲示板の前

学生達であふれてる

人ごみを掻き分け前へ進む


A ない

  ない

B ない

  ない

C あった『湯浅 比呂美』

  彼は?

  あった『仲上 眞一郎』


振り返ると

彼も見つけたみたい

「また、よろしく」

「うん」

よかった

これでまた1年間同じクラス



2年C組

二人そろって教室へ

新しい教室

彼と私の接点となる大切な場所

もう新しいクラスメイト達が何人かいる

HRまでまだ少し時間ありそう

作戦環境 よし

作戦開始

さりげなく彼の席まで近寄って

「あれ、眞一郎くん、制服、ボタンとれかかってるよ?」

「ん? そうか?」

「かして?」

「え?」

「直してあげる」

「いいよ」

「ダメ、眞一郎くんがだらしないと私が恥ずかしいの!」

「ひ、比呂美さん?」

驚く彼の耳元に囁きかける

「大人しく脱いでくれないと、お風呂の時、着替え見られちゃったって
 このクラスで言いふらしちゃうゾ」

「まて、あれは事故で…」

必死に取り繕う彼

私は余裕の笑顔で無言の回答

「はあっ、よろしくお願いします」

彼はため息を吐いてから周囲を見回して制服を脱ぎだした

私も視線だけで周囲を覗う

何人かは明らかにこちらを見てる

作戦は順調に進行中

「はい」

彼から制服を受け取ると

持参のソーイングセットを取り出して作業開始

「いつもそんなもん持ってんだ」

「うん、私はいつでも準備できてるんだから」

問いかけ以上の答えを返す

彼はやっぱり気がつかないみたい

今はまだ分かってくれなくても構わない

手際よく丁寧に仕上げる

これは私のマーキング

よし、作業終了

「はい、終わりました」

「ありがとう」

受け取ろうと手を伸ばす彼

私はそんな彼をほっといて別の行動を開始する

両手で制服の左右の肩辺りをもって『着せてあげる』の構え

彼は私の構えを見ても一瞬何のことか分からなかったみたいだけど

すぐに気がついた

「お、おい、さすがに、それは…」

怖気づく彼の耳元に再びそっと囁く

「み・ら・れ・ちゃっ・た」

彼は再びため息を吐くと

立ち上がって私に背中をむける

少しかがんで準備よし

素直な彼はホントにカワイイ

袖を通してそのまま前へ

まるで背中から抱きついているよう

大きな背中

男の子の背中ってやっぱり大きい

ボタンも掛けてあげたかったけど

さすがにそれはやりすぎかな

でも、制服がブレザーだったら

ネクタイ締め直してあげられるのに

なんて、

その楽しみはもう少し未来までのお楽しみ

彼は真っ赤な顔をして

私のほうを見てくれない

テレてくれてる

最後の仕上げ

「私、いいお嫁さんになれそうでしょ?」

彼の耳元にそう小声で言い残す

これはさすがに私も恥ずかしい

彼の反応は確かめずに自席へもどる

作戦終了

これで新しいクラスでの共通認識が出来るはず


『仲上 眞一郎』の側には『湯浅 比呂美』が居る


作戦目標

その一 彼への積極的なアプローチ

その二 周囲への領有権の主張

効果判定

その一、その二共に 大成功

席に着いてソーイングセットをしまう

今日だけはもう彼の方を絶対見ない

彼の方が私を見つめるている筈だから



「ねえ、比呂美」

「あ、朋与?」

「相変わらず アツアツだねえ」

「あれ、朋与も同じクラスだっけ?」

「やっぱり、私のことなんて忘れてたんだ」

「そ、そんな事ない…よ?」

「ううっ、仲上君と仲良くなっても私のこと忘れないでね」

「ちょ、朋与、泣かないで」

「じゃあ、私のお願い聞いてくれる?」

「な、なに?」

「『友人代表』は私にやらせてね」

「朋与… うん、そうなるといいな」

「比呂美はそのつもりなんでしょ?」

「…うん」

「じゃあ、大丈夫」

「うん、ありがと」

「あ、先生きたよ」

「うん、あとで」

「あとでね」


新しい一年が 今、始まった







●あとからあとがき
8話まで視聴済み

元々は『マーキング』という題にする予定で下書きしてましたが、
雑誌バレで比呂美が仲上家を出るとの急報を受け急遽仕上げたおハナシです
作者の思いも入って『負けないんだから』に題を変更しました
前半と後半で比呂美の表面的な性格違いますが、
底流は同じ、ポジティブな比呂美をイメージしました
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