ファーストキス-14C


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☆七月五日(土曜)くもり――

 翌朝――。
 比呂美に叩き起こされた眞一郎は、現場でぼーと立ち尽くし、西村先生が来るのを待っ
ていた。
 昨日まで自分の体の一部のように感じていた壁絵も、一晩経つと、自分から離れ、自ら
息づいているように感じられた。ペンキが完全に乾いた所為もあって、色味が多少落ち着
き、絵全体がより一層引き締まった。
 今日の予定は、絵の表面の劣化を抑える保護剤の吹き付け、暗幕と暗幕をかけるための
金具の設置、そして、作者名のプレートの取り付けだった。
 しばらくすると、台車の音がきりきり響いてきた。
「おう、すまんすまん。ほれ、コーヒー」
 西村先生は、ブルーシートをくぐるなり、眞一郎に缶コーヒーを放った。
「おはようございます」
「おはよう。それ飲んだら、早速、始めるか。保護剤も三回に分けて吹き付けた方がいい
だろう。一発でやろうとするとムラができるからな。多少、ペンキのツヤが落ちるから、
おまえの絵ももっと、ぐっと引き締まった感じになるだろう」
「そうですか……」
「おまえ、相当やつれているな」
 西村先生は、心配そうに眞一郎の顔を覗き込んだ。そして、冗談交じりに、
「また、湯浅と喧嘩でもしたんだろう。懲りないやつめ」とからかった。
「おれたちは、もう、喧嘩はしません」
「お? 言うようになったな。でも、そんなことをいっていると、また……ま、いいか」
 西村先生は、途中で言うのを止めた。疲れきっていても、眞一郎の瞳の落ち着きが、昨
日とは全然違っていたからだ。こういう瞳を前にも見た気がする、と西村先生は思った。
 それから、コーヒーを飲んで一服したふたりは、保護剤の塗布に取りかかった。
 その作業は、午前中で終わり、西村先生は途中で暗幕などの備品を取りに出かけたので、
眞一郎は、ひとりで比呂美の作った弁当を食べることにした。
(あいつも部活があるのに、まめなやつめ)
 休日に眞一郎が学校へ行くとき、弁当はいらないといっても、なかなか比呂美は言うこ
とを聞いてくれなかった。眞一郎としては、比呂美には休日くらいゆっくりしてもらいた
いのだが、必ず比呂美に、「食べることに休日はない」といわれ、結局弁当を持たされる
のだ。その度に、眞一郎は、母の理恵子に変な教育をされているのではないかと心配した
が、どうやら比呂美の意地だったらしい。今朝、そのことで、比呂美は理恵子から叱られ
ていた。でも……。

……母さんと比呂美の強力タッグに太刀打ちできる男はいるのだろうか……

 ふと、そう思った眞一郎は、もう将来のことを心配をしている自分に苦笑した。

 保護剤が完全に乾燥するまで、優に三時間を要した。
 土曜日の午後ということもあって、商店街は毎度の活気に満ちている。それに加えて、
他の面でも次々と絵が完成していて、大学のサークルのメンバーなどが集まり騒いでいた。
時折、わーっと完成が上がったり、万歳三唱が響き渡ったりした。
 それとは対照的に静かに作業をしていた眞一郎と西村先生は、暗幕を引っかけるための
金具を取り付けていた。ブロック塀の最上部の天面の五箇所にそれを取り付け、あと、暗
幕が揺らいだり、めくれたりしないための金具も、絵の側辺と底辺に取り付けた。コンク
リート専用のねじ穴を埋め込み、そこにボルトで固定していくようになっていた。
 次に、作者プレートの接着である。西村先生が、それを暗幕などの備品と一緒に持って
きていた。
 西村先生は、白い半紙に包まれたプレートを壊れ物のように大事に扱い、その半紙をめ
くって、眞一郎に書かれてある文字を見せた。
「本当に、いいな?」
 この言葉の意味は、名前を公表してもいいな、という意味である。父・ヒロシは、考え
た末に名前を伏せることを選択した。眞一郎は、どうするのだ、という最終確認だった。
「おれは、親父の息子だけど、親父ではありません」
「生意気め」
 西村先生は、心意気は上等だよ、という感じにふんと鼻で笑った。
 眞一郎は、プレートを手に取り、半紙を剥がして、裏面に接着剤を塗った。そして、絵
の下の中央の位置に押し付けた。
 そのプレートは、淡い黄金色のチタニウム・メッキの金属板で作られていて、黒のシル
ク印刷で、こう書かれてあった。

――――――――――――――
 題名 ファースト・キス
 作者 仲上 眞一郎
――――――――――――――

 そのあと、暗幕を取り付け、現場をきれいに片付けたふたりは、学校へ行って荷物を降
ろし、いったん解散となった。西村先生は、ブルーシートの撤去や照明の準備のため、ま
た現場に戻っていったが、眞一郎は、家へ帰り、すぐ風呂を済ませ、仮眠を取った。

☆七月六日(日曜)晴れ――

 比呂美は、眞一郎の部屋へつづく十五段ある階段の手前で、立ち止まっていた。
 いつものように夜這い気分を味わおうと、そろりと一段目に足をかけようとして、比呂
美はおもむろに足を止めた。なぜだか、あまりわくわくしてこないのだ。あんなに楽しみ
していたささやかな遊びだったのに、今、白けたように感じるのはなぜだろう、と比呂美
は自分に問いかけた。

……わたし、ずっと不安を感じていたんだ。
  眞一郎くんと想い合っていても、いつか壊れてしまうんじゃないかと。
  わたしの両親が突然、いなくなったように。
  だから、眞一郎くんの部屋に頻繁にいって、
  その兆しがないか、確認していたんだわ。
  石動乃絵かもしれない、愛ちゃんかもしれない、他の誰かかもしれない。
  眞一郎くんの気持ちが傾く女性は、この世にたくさんいるはず。
  それに、わたしにも、眞一郎くんが嫌いと思っているところがあるはず。
  だから、わたし、がんばったんだ。がんばっているんだ。
  いつも、夜這いを想像しながら、眞一郎くんの部屋へ向かっていたのは、
  わくわくしたいからじゃない。不安だったんだ。不安の裏返しだったんだ。
  堂々としなきゃ。堂々としてなきゃ。
  眞一郎くんの心の支えになるんでしょう?
  心の支えに……

 比呂美は、大きく深呼吸をすると、声を出して、階段を上りはじめた。
「一つ、二つ、三つ、四つ、五つ、六つ、七つ、八つ、九つ、十、十一、十二、十三、十
四、十五」
 階段を上りきった比呂美は、振り返り、階段を見下ろして、
「完璧……」
と力強くいった。
 きしみ音が一回も鳴らなかったのは、初めてのことだった。
 比呂美は、天井を見て、はーっと息を吐いた。
 いざ達成してしまうと、今までの試行錯誤がバカみたい思えてくる。そして、小さなこ
とに拘りつづけてきた自分に、永遠の別れの時みたいな物悲しさを感じた。もう過去の自
分には、会えないと。でも、真っ直ぐ見た先には、はっきりとした道はなくても、広がり
があった。どこまでも、どこまでもつづいている広がり。そして、眞一郎が立っていた。
 視線を戻した比呂美は、眞一郎の部屋の扉に向かった。
「眞一郎くん、起きてる」
 眞一郎は、まだ寝ているらしい。
 比呂美は、そっと扉を開け、部屋の中に入った。眞一郎は、う~ん、といって寝返りを
打ったがまだ目を覚まさない。
 時計は、午前〇時十分を指していた。
 眞一郎は、念のため、比呂美に午前〇時に起こすように頼んでいた。
 眞一郎は、掛け布団をはね退け、うつ伏せの体勢で顔を枕に埋めていた。目覚ましをセ
ットしていなかった眞一郎に呆れた比呂美は、眞一郎の尻を思いきり引っ叩いた。
「んぁ?」
 眞一郎は、感電したように背中を反らして、顔を持ち上げた。意外にすんなり目を覚ま
した。尻ビンタが結構効いたのだろう。
「比呂美、あ、時間か……」
「うん」
「下、いってて、すぐ着替えるから」
 眞一郎は、立ち上げるとすぐ部屋の電気を点けた。
「ダメ、また寝ちゃうかも」
「大丈夫だって」
「いいから、早く着替えて」
「信用ないな~」
と眞一郎は、尻をさすりながらぼやいた。
 部屋から出て行こうとしない比呂美に、眞一郎はしばらくどうするか考えたが、比呂美
に根負けして構わず着替えだした。
 比呂美は、扉の近くに移動して、眞一郎に背を向けた。

 ふたりが居間へ下りていくと、理恵子が台所から顔を出した。
「眞ちゃん、軽く食べていくでしょう?」と理恵子。
「そうだな~お腹空いたな~」
「雑炊、作っているから。比呂美も食べるわよね?」
「はい、いただきます」
「母さんは寝ないの?」と眞一郎。
「こういうとき、女は寝れないの」
 理恵子は、そういうと比呂美を見て目を細め、台所へ消えていった。
「わたし、手伝ってくる」
「うん」
 比呂美が立ち上がって台所に向かうのを目で追っていた眞一郎も、じっとしていられな
くなって、台所についていくと、
「親父は?」と理恵子に訊いた。
「寝てるわよ」
「ね~何時に家出るの?」と比呂美。
「二時過ぎでいいと思うんだけど」
「まだ時間あるね」
「あなたたち、歩いていくつもり?」
 家を出る時間がやけに早いと感じた理恵子は、眞一郎にそう尋ねた。
「そうだけど……」
「ダメよ。車で一緒にいけばいいじゃない」
「でも、駐車するところとか……」と心配する眞一郎に、
「それなら、西村先生から電話があったわ」と返した。
「先生が?」
「駐車できるところ、教えてもらったから大丈夫よ」
「そ、そうなんだ……じゃあ……」
といいながら眞一郎は、比呂美を見た。
「車でいいんじゃない?」と比呂美。
「でも、おれ、比呂美に先に見せたいんだ。だから…………」
「分かっているわよ。車の中で待ってるから、携帯で連絡すればいいでしょ?」
とさすがに頭の回転の速い理恵子だった。
 雑炊を食べた三人は、コーヒーを飲みながら居間で談笑した。
 学校のこと、比呂美のバスケット部のこと、朋与のこと、愛子と三代吉のこと……。そ
れぞれの話題は、必ずといっていいほど眞一郎の不甲斐なさに行き着いた。眞一郎が、理
恵子と比呂美を相手に敵うわけがなかった。でも、仲上家で、こうしてゆっくり親と子が
会話するのは、初めてのことだった。なので、三人は、修学旅行の夜の語らいみたいに、
興奮して、ときどき、ふざけた。
 そうこうしているうちに、時間があっという間に過ぎ、午前二時を回ると、理恵子は、
ヒロシにを起こしにいった。眞一郎と比呂美も支度をした。

 商店街まで車でたった10分という距離なのに、真夜中に四人揃って車に乗り込むと、
なにかとても特別なことのように感じた。酒蔵を営んでいる仲上家にとって、四人で揃っ
て出かけることなどまず有り得ない。そもそも、ヒロシと理恵子が揃って出かけること自
体、稀有なことなのだ。だから、潔く絵を見に行くといってくれたヒロシに、眞一郎は、
感謝の思いと同時に、将来のことについてヒロシと向き合う覚悟をすることができたのだ
った。
 比呂美も感慨深い思いだった。もし、自分の両親の不幸がなく、自分が仲上家に引き取
られずに仲上家が三人のままだったら、今日のこのとき、おそらく、車の中にはヒロシと
眞一郎のふたりだけだったのではないだろうかと思った。仮に、眞一郎と恋仲だったとし
てもそれに自分が加わるだけだと。それなので、ヒロシと理恵子が、眞一郎のためだけで
はなく、自分のために『四人の思い出』を作ってあげようとしているように感じられたの
だった。そう、家族としての思い出を……。
 駅へ向かう国道は、まさに彼らの貸しきり状態のようだった。道路も、信号も、街灯も、
仲上家のために役割を果たしているかのようだった。
 西村先生に指定された駐車場にはすぐ着いた。、ずっと四人の時間を味わいたかった者
にとっては、この時間の短さが無情にさえ思えた。
「じゃあ、おれたち、さきに行くよ。あとで電話する」
 眞一郎は、後部座席から運転席のヒロシにそう告げた。
「分かった……」
 その返事を確認すると、眞一郎は車から降り、ドアを手で押さえて、比呂美が降りてく
るのを待った。
 そして、ふたりは、すぐに手をつないで歩きだした。

 一方、愛子はというと――。
 そのころ、三代吉の家への道を、自転車ですっ飛ばしていた。
 神社を過ぎ、川を渡り、一本道の農道をひたすら進むと、三代吉の家の大きな瓦屋根が
見えてきた。この時間は、当然、辺りは漆黒の闇だったが、三代吉の家の周りの集落には、
外灯が多く点いていた。
 集落の手前で、上り坂に差し掛かかった。愛子の乗る自転車は、そんな坂を物ともせず、
猛スピードで駆け上がった。そして、三代吉の家の前の塀に辿り着くと、小さく、キーッ
と音を立てて止まった。
 愛子は、携帯電話を急いで取り出し、三代吉にメールを打った。

『いま 家の前にいるよ』

 愛子は、金曜の夜に眞一郎と電話で話してからも、三代吉に電話をかけずにいた。電話
をかけると、また、しくじってしまいそうに思え、直接家を訪ねて一度きりのチャンスに
かけることにしたのだった。でも、こうして真夜中にメールを打ってみると、それは無謀
のような気がしてくる。だが、三代吉は愛子からの電話でもメールでもすぐに応えなかっ
たことは、今まで一度もなかった。そのことが、愛子にとってせめても救いだった。それ
でも、さすがに今回はダメだろう、と愛子は思った。
 メールを送信して、愛子は念じて待った。
 一秒という時間が、ぐるぐる巻きの螺旋階段のように長くもつれたように感じられた。
携帯電話のディスプレイの右端の数字が変わるたびに、愛子は息が詰まりそうになった。
 だが、自称「愛子のことなら何でも知っている男」の本領は、今回もまた発揮された。
 愛子が三代吉にメールを打ってから、39秒後、三代吉は愛子の元へ駆けつけた。頭の
髪は、ところどころ寝癖で跳ね上がり、上は、Tシャツ一枚、下は、下着のトランクス一
枚という格好で。もちろん、裸足だった。
「みよきちぃ……」
 愛子の甘え声が、三代吉の胸をくすぐった。
 三代吉は、愛子の自転車のかごの中の今川焼きの包みを見ると、
「今川焼きの配達? 頼んだ覚え、ねぇんだけど(ないのだけど)……」
といった。
「わたしが、頼んだの……一緒に、食べたくて」
 愛子はそういうと、かごの中の一個しかない今川焼きを手に取り、三代吉に差し出した。
 三代吉は、それを受け取り、包み紙を広げると、大きく一口かぶりついた。その仕草に、
いつも三代吉だと確認した愛子は、例のことを告白しようと気持ちを向かわせた。
「真夜中に食べる今川焼きも、これまた乙なもんですな~。冷えてっけど(冷えてるけ
ど)……」
 三代吉もそんな愛子の胸のうちを感じ、少しおどけてみせた。
「あのね、三代吉っ。……………………わたし」
 愛子は意を決して、三代吉の猿芝居を吹き飛ばすかのように叫んだ。
 そして、次の言葉を言いかけた。
 ちょうどそのとき、三代吉は、愛子を抱きしめ、それを遮ってこういった。
「もう、これで逃げられないぞ。言いたかったこと、全部吐いちまえよ(吐いてしまえ
よ)」
 それは、遮ったのではなかった。愛子が話しやすいようにしたのだった。
「みよきちぃ……」
 確かに、愛子は、屈託のない純朴な三代吉の笑顔を見ると、罪悪感が膨れ上がり、くじ
けそうになる。過去の裏切ったことを告白するというのに、こんなに優しくされるなんて
不謹慎だと愛子は思ったが、もう、こういう状況でしか告白できないように思えた。
 そして、愛子は、ようやく、過去の事実を口にした。
「わたし、眞一郎とキスをした。わたしから、したの」
 三代吉はすぐに、ははっと軽く笑うと、
「そんなことだったのか~?」
と呆れたようにいった。
「そんなことって……」
「愛ちゃんが眞一郎のこと好きだったこと、おれ知ってることじゃん? それっていつの
話だよ」
 愛子は、三代吉が無理してそういってるのではと思い、三代吉から少し体を離し顔を覗
き込んだが、三代吉はそういう感じではなかった。
「だって……………………初めてのキスだったし」
 愛子が口ごもりながらそういうと、
「女は、そういうのって気にするのかもな……」
と三代吉は、無表情に返した。
「…………取り返しのつかないことをした…………」
 愛子は、三代吉の「女は――」という言葉を否定するかのように、低い声で唸ったが、
三代吉は、「バッカだな~」といって笑い飛ばした。
「稲作でもさ~最初の年からうまくいくことなんて滅多にない。それに、田んぼが肥えて
も、毎年収穫に恵まれるとは限らないんだぜ。でもさ、それでもさ、田んぼも、人間も強
くなっていくんだぜ。そういうことがあるからこそ、強くなれるんだ。おれ、そう思うよ。
恋も同じじゃん」
 愛子は、三代吉のその言葉に呆気に取られたが、すぐに「みよきちぃ……」といって三
代吉の胸に甘えた。
「でも、くやしいな~。愛子が、ずっとそんなこと考えてたなんて……。どうせなら、お
れたちの明るい未来のことで悩んでほしかったな~」
と三代吉は、またおどけた。
「バッカじゃないの」
「そうそう、それ。愛子は、その台詞がよく似合う」
 愛子は、その言葉に苦笑いしたが、
「でもさ~どんなにカッコいいこといったって、あんたの今の格好じゃ全然締まんないわ
よ」
「え?」
「それに…………」
と愛子はいいかけると、視線を三代吉の腰の方に落とした。
「…………テント、張ってる」
 三代吉はその言葉聞いた途端、愛子から跳びのき、両手で股間を押さて愛子に背を向け
た。食べかけの今川焼きは、自ずと放り出され、道路を転がっていった。
 愛子は、勃起を静めようとする三代吉の対応に困ったが、
「ねぇ~これから、デートしようか……」
と切りだした。そして、
「きょう…………わたしたちの記念日にしようか…………」
と三代吉に提案した。

 ふたりの足音は、申しわけないくらいアーケード内に響いた。
 二番街の端から商店街に入った眞一郎と比呂美は、手をつないだまま、通りのほぼ中央
を歩いた。
 店の看板の電飾が見事なまでに消されているので、洞窟の中を進んでいく感じだったが、
前方の遠くに照明の明かりが見えていた。ちょうど噴水広場のところだ。
 ふたりは、目的地に着くまでは言葉を交わさないと決めているかのように、口を閉ざし
ていた。うかつに言葉を発すると、神聖なもののことに感じられたこのひとときを、穢し
てしまいそうに思えたからだった。だが、ふたりは、時折、横目でお互いを確認し合って
いた。
 目的地の明かりが、どんどん近付いてくる。人影は、ないようだった。
 ブルーシートと、それを引っかけていた鉄パイプの骨組みはきれいに撤去されていて、
完全な円形の空間が広がっていた。壁には暗幕が張り詰めてあって、八面全部の絵が完成
したことを物語っていた。
 噴水のそばには、セレモニー用の台が置かれ、マイクスタンドが2本立っていた。それ
から、照明装置が二つ、床に置かれ、壁絵の一つの面を照らしていた。そう、眞一郎の絵
に向けられていた。
 眞一郎が辺りを見回して西村先生の姿を探すと、すぐに西村先生と警備員の男性が、建
物中から出てきた。
「おう、来たな」
「おはようございます」と眞一郎と比呂美。
「もう、そんな時間か」
 西村先生は、そういうと時計に目をやった。
 二時五十五分。
「照明の準備はできてるぞ」
と西村先生は、眞一郎にいった。
「ありがとうございます。三時ちょうどに幕を落とします。比呂美、そこに立って」
 眞一郎は、二つの照明の間を指差して、比呂美にその位置を教えた。
 照明は、壁絵から5メートルくらい離れたところに、壁絵の幅とほぼ同じ間隔で左右対
称に置かれていて、壁絵を斜めに照らしていた。垂直に光を当てると、光が見る者に直接
反射してくるからだ。写真を撮るときにも支障をきたす。
 比呂美は、黙って眞一郎が指示したポイントへ歩んだ。
 眞一郎は、壁絵に近づき、ブロック塀の天面から垂れ下がってきていた五つの紐を手繰
り寄せ、近くの金具に巻きつけた。それから、脚立を持ち、暗幕の端を金具に結び付けて
いた紐を一本一本解いていった。比呂美は、眞一郎のその姿を目に焼き付けるようにしっ
かり見つめていた。それらがすべて解かれると、暗幕は、呼吸をしているかのように小さ
く揺らいだ。
 二時五十九分。
 眞一郎は、金具に巻きつけていた五つの紐を解き、もう一度、手繰り寄せた。そして、
時間を確認していた携帯電話が、三時まで残り十秒を示すと、眞一郎は、携帯電話をポケ
ットにしまい、比呂美と西村先生に、間もなく時間であることを目で教えた。
 比呂美は、自然と目を閉じた。西村先生も目を閉じた。
「この瞬間を、比呂美に、捧げます」
 眞一郎はそういうと、手繰り寄せた五つの紐を引っ張った。
 その力は、暗幕を引っかけていた金具のロックピンに伝わり、暗幕を重力の海に完全に
開放した。
 しとやかな、上品な布の擦れる音が響き、やがて治まると、比呂美の存在する空間と眞
一郎の描いた絵の空間が連結された。
「比呂美、目を、あけて……」
 比呂美は、眠り姫が目を覚ますように、瞼を持ち上げた。
 その直後、比呂美の口は、自然に開かれ、比呂美の体は、ぶるっと震えた。
 絵に釘付けになっている比呂美の視界を乱さないように、そろりと、眞一郎は比呂美の
そばに寄り、比呂美の肩を支えて、こういった。
「比呂美には、どうしても、最初に、見せたかったんだ」
 まだ声を出すことのできない比呂美は、首を小さく縦に振って、ありがとう、と伝えた。
比呂美は、その言葉をはっきりと音にしたかったが、とてもできなかった。

――――――――――――――――――――――――――――
 ファースト・キス

 空と海と大地が描かれていた。
 手前からつづいた草原は、すぐ砂浜に移り変わり、
 その砂浜には、男と女が向かい合って立っていた。
 ふたりは、腕をお互いの体に絡ませ、顔を近づけ、
 まさに、接吻を交わそうとしていた。
 そんなふたりを、草原に咲く花と、さざなみと、
 青い空が、祝福していた。
 そして、天使の翼が、ふたりを包み込んでいた。
 二度とふたりが離れないように。

                  仲上 眞一郎
――――――――――――――――――――――――――――

 比呂美は、蝋人形のように固まり、完全に全神経を支配されていた。光に乗って、絵か
ら飛び出てきた眞一郎の魂の叫びのようなものがそうしていた。
 ようやく考えることを許された比呂美は、思った。
 今隣にいる男は、自分に対して、生まれてこの方感じたことのない刺激と衝撃を与えた
のだと。本当のライバルは、乃絵ではなく、理恵子ではなく、この男なのではないのかと。
 比呂美はそう思うと、無性に感激の声を上げずにいられなくなったが、どういう言葉で、
どういう体の表現で、それを伝えたらいいのか分からなかった。
 でも、なにかしなければいけない。
 比呂美が咄嗟に思いついたこと――それは、眞一郎の胸を、思いっきり叩いてやること
だった。

 バチン

 眞一郎は、いきなりの比呂美の張り手に、げふっと息を吐き、うずくまった。
「いってぇぇ~~~」
 床に手をついて苦しがる眞一郎にようやく現実に引き戻された比呂美は、きゃーと叫び
声を上げ、しゃがみこんで眞一郎の背中をさすった。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
「げほっ、うっ、きいた~~~」
 眞一郎には、比呂美の張り手の意味がなんとなく分かっていた。バスケの試合とかでよ
く見るハイタッチの延長なのだろうと思った。
「大丈夫?」
「んなわけあるか……」
 眞一郎が胸をさすりながら立ち上がると、比呂美は、すぐさま眞一郎のTシャツをまく
って、その場所を確認した。
「あぁ~手形がばっちりついてるぅ~」
 比呂美は、今にも泣きそうな声でそういった。
 眞一郎の左胸に、判子を押されたみたいに真っ赤な手形が浮かび上がっていた。
「責任、とってぐれ~」と眞一郎はまだ苦しそう。
「いいよ」と比呂美はすぐ返すと眞一郎の胸に顔をうずめ、「ありがとう」といった。
 そんなふたりに、西村先生は、豪快に笑った。
 それから、ふたりは、絵の前に並んで立って、西村先生に写真を撮ってもらった。
 そして、次のお客を招きいれる準備をした。

 眞一郎が理恵子に電話を入れると、それから10分経って、ヒロシと理恵子が、噴水広
場にやってきた。ふたりの足は、自然と吸い寄せられるように眞一郎の絵の前に向かった。
親子の間につながれた見えない糸を辿っていくように……。
 第一声は、理恵子だった。
「これを…………これを、本当に、眞一郎が描いたんですか?」
 理恵子は、特定のだれかに尋ねたつもりではなかったが、その場の一同が無言で、そう
だ、と答えた。ヒロシと理恵子の全身に、鳥肌が立った。照明の間の位置からじっと絵を
見ていた二人は、やがて、初孫と初対面するときのように嬉しさと寂しさが入り交じった
ような足取りで絵に近づいていった。ヒロシは、堂々としていたが、理恵子は今にもへた
り込みそうに足をがくがく振るわせ、ヒロシの腕をつかんで離さなかった。そこへ、眞一
郎は近づいていったが、比呂美は、一緒についていかなかった。
「親父、あのさ……おれ、虎の絵を見たんだ」
「そうか……」
 ヒロシは、一瞬、眞一郎に目をやったが、再び絵に戻した。
「だからさ、趣味で絵を描いてよ」
「そんな、暇あるか……」
 ヒロシは、ふんと鼻で笑ってそういったが、目は嬉しそうにしていた。
「親父、どう? おれの絵……」
 眞一郎がそう訊くと、ヒロシは、眼鏡を外し、目を細め、眼光を鋭くした。眞一郎が今
まで見たこともない父親の鋭い目つきだった。
 ヒロシは、理恵子の手を振り解くと、眞一郎の絵の前を左右に行ったり来たり、首を上
げたり下げたりして、隅々まで観察をした。時には、眼鏡をかけて見たり、眼鏡を外して
は、上体を反らして目を凝らしたりと、まったく妥協のないチェックのようだった。
 そして、10分くらいして、ヒロシはようやく口を開いた。
「眞一郎。おまえは、おれに無いものを、持っているな」
 ヒロシは、眞一郎の肩をぽんと叩いて、その言葉を贈った。
 親子の会話が済んだのを感じた西村先生は、絵の前にいる三人に声をかけた。
「写真撮るぞー」
「おう、そまん」とヒロシは返した。
 絵の前に、絵に向かって左側にヒロシと理恵子、右側に眞一郎と比呂美が並んだ。
 西村先生は、照明の間に、三脚を取り付けた高そうなデジタルカメラを移動させ、ファ
インダーを覗いた。特殊な光の条件なのだろう、何度も試し撮りをしてカメラの設定をい
じっていた。数分後、ようやく設定が定まったらしく、いくぞー、と合図を送ったが、眞
一郎たちの方を見て、こういってきた。
「おまえたちも、手くらい、つなげ」

……おもえたちも?

 西村先生のその言葉に、隣のカップルのことが気になった眞一郎と比呂美は、すぐ、ヒ
ロシたちの方を見た。
 ヒロシと理恵子は、ただ普通に真っ直ぐ立っているように見えたが、お互いの指と指を
絡ませしっかりと手をつないでいた。
「西村君、余計なこといわなくていいの」
 理恵子は、西村先生に冷たい視線を送って恥ずかしそうにしたが、つないだ手は振り解
かなかった。ヒロシと理恵子は、堂々としていた。その姿に、自分たちのあるべき姿のよ
うなものを感じた眞一郎と比呂美は、再びカメラの方へ向き直ると、同じように手を絡ま
せた。
「よし、とるぞー」と西村先生の号令が響くと、ようやく、四人の思い出の瞬間が、カメ
ラに納まることとなった。

―――――――――
 湯浅 比呂美
 仲上 眞一郎

 仲上 寛
 仲上 理恵子
―――――――――

 四人が納まった初めての写真。
 過去に、四人の写真を撮る機会が一度だけあった。それは、眞一郎たちの高校入学のと
きだったが、そのとき、比呂美は、写真を取ることを頑なに拒んだ。まだ、両親の死を受
け入れられずにいた。その写真を撮ってしまうと、自分の本当の両親の存在が、完全に過
去のものになってしまうような気がしたのだった。当時、だれとも心を素直に通わすこと
のできなかった比呂美にとって、それは手足を失うのと同じくらいの苦痛だった。でも、
比呂美が仲上家で生活するようになって、徐々にエスカレートしていった理恵子の冷たい
叱責には堪えてこられた。理恵子の比呂美に向けて吐いていた言葉は、筋の通っていない
ことではなかったし、同じ女として理解を超えるものでもなかった。それになにより、理
恵子のその態度は、自分が眞一郎のことを好きなのだという証明にもなっていた。だから、
堪えてこられた。
 比呂美の両親が亡くなってから、まだ、二年しか経っていない。その間に比呂美が変わ
ったこととは何だろうか。
 比呂美は――
 仲上家に引き取られた。
 制服が、変わった。
 ふたつだけ大人になった。
 初恋の男の子に気持ちを打ち明けた。
 キスをした。
 体を許した――。
 箇条書きにすると、こんな程度だろうが、そのひとつひとつには、関わった人たちの膨
大な想いが詰まっていた。
 経済的な支えであり、学生時代からの親友である西村先生と連絡を取り合い、眞一郎と
比呂美のふたりを見守ってきた、ヒロシ。
 女として、妻として、母親として、ふたりの成長に尻を叩いてきた、理恵子。
 心の奥底の純粋な気持ちを裏切ることの恐ろしさを教えた、乃絵。
 不器用でも、どんな相手でも分け隔てなく接し、相談に乗ってあげた、愛子。
 いつも純朴な笑顔を見せ、恋人のため、友のために誠を尽くしてきた、三代吉。
 自らサンドバッグ役に徹して、比呂美の負の気持ちを消化させてあげた、朋与。
 それぞれが自分にできることをしただけなのに、様々な人間関係が、相乗効果を生み、
互いの成長をもたらしていった。
 相手強く想う気持ちはもちらん大事なことだが、それだけでは、お互いの気持ちの結び
つきは強くなれず、人としても強くなれないことを、眞一郎と比呂美は、この二年間学ん
だ。
 その中間報告として、この四人で写った写真を残すことができたのだった。

 一通り写真を撮り終えた一同は、コーヒーを飲みながらしばらく談笑した。
 そして、四時前に、愛子たちが自転車で現れた。
 愛子と三代吉は、眞一郎の絵を見るなり、ぎゃははははは、と不謹慎にも腹を抱えて笑
いだした。眞一郎は、すぐさま三代吉の背中に蹴りを入れたが、ふたりの爆笑も感激の表
れなのだと分かっていた。
「おれ、絵を見て、こんなに笑ったの初めてだよ。いや~まじ、すげ~よ」
 三代吉は、愛子に背中をさすってもらいながら、眞一郎に賛辞を送った。
「まさか、眞一郎が、ここまでアホだとは思わなかったよ。わたし、眞一郎を卒業して正
解だったよ。わたしだったら恥ずかしくて生きていけない」と愛子。
「アホっていうなよ」
「おまえら、今すぐここで結婚式挙げたら? ちょうど親父さんたちもいるし、立会人の
西村先生もいるし」
といって、三代吉は、ぱ~ん、ぱ~か、ぱ~ん、と結婚行進曲を歌いだした。
「それこそアホだよ」と眞一郎。
「あら、わたしはいいのよ」
と、からかい交じりに比呂美はいったが、
「法律上だめだろ」
と、なんとも空気の読めない言葉を返す眞一郎。
 そんな眞一郎に愛子は、「ば~か」いい放ってやった。
 それから、親は親同士で、子は子同士でという構図で、まるで同窓会の二次会のように
ふざけあったが、突然、愛子が叫び声を上げた。
「乃絵ちゃん!」
 一同静まり返り、愛子の視線の先に目をやった。
 二番街の方向、50メートルくらい先に紺色のワンピースを着た乃絵が立っていた。
 乃絵は、しばらくじっと噴水広場を見つめていた。
 比呂美は、だれが乃絵をここへ呼んだのか考えた。そして、すぐに答えに辿り着くと、
その答えを確認するために、その人物の顔を見た。
 そう、自分の隣にいる人物である。仲上眞一郎。
 眞一郎の目は、比呂美の予想通り、驚きに満ちていなかった。
 その瞳は、比呂美が純とのバイク事故で立ち往生しているときに、追いかけてきた眞一
郎のそれに近かった。
 比呂美は、その瞳が自分以外のだれかに向けられたことに少し不満を感じたが、眞一郎
の気持ちを考えれば、それは、眞一郎にとって必然的なことだ分かり、そうするのが眞一
郎なのだと悟った。
 それぞれ心の中で、だれが乃絵を迎えにいくべきか、乃絵の方からこちらへ来るべきか
と考えた。次第に、その考えは、ある方向へと向かっていった。
 乃絵は、眞一郎を見つめていた。周りの一同は皆、それに気づいた。
 眞一郎も、そんな乃絵を見つめ返していた。そして、前へ進もうと体の重心が移動しか
けた瞬間……。
 乃絵は、踵を返し、走り出した。
「乃絵!」
 眞一郎は、乃絵を追いかけるためにまず一歩を踏み出したが、すぐ腕をつかまれ引止め
られてしまった――自分の隣にいた人物に。
 止めるな、とすぐに眞一郎は比呂美に振り返ったが、比呂美は、眞一郎の表情を碌に確
認もせずに、眞一郎の脇をすり抜けて走り出した。それは、まるで、弾丸のような加速だ
った。麦端高校で、比呂美の足の速さを振り切れる者は、男女問わず指折りの数しかいな
い。比呂美の背中は、みるみるうちに小さくなり、乃絵の背中の大きさとほぼ変わらなく
なった。
 そして、ふたりは、止まった。
 ふたりは、はぁはぁ、としばらく呼吸を整えた。
 乃絵は、比呂美に腕をつかまれたまま、比呂美を見ずに前を向いたままだった。
 比呂美は、乃絵の息が落ち着きはじめた頃に、ゆっくりと乃絵の前へ移動して向かい合
った。そして、乃絵にお願いをした。
「友達に、なってください。あなたは、わたしのこと好きじゃないかもしれないけど、断
ってくれてもいいけど、もう一度、考えてみてほしいの」
 乃絵は、目をぱっと見開き、比呂美の顔を見た。
 比呂美ももちろん、乃絵の深遠の瞳に引きずり込まれそうになるのを必死に堪えて、乃
絵の顔を見た。
 ふたりは、時が止まったように動かなかったが、今まさに、心を交わそうとしていた。
 お互いに、お互いの中の自分にないものを見つづけてきた。それは、決して優劣のつけ
られものではなく、簡単に手に入れられるものでもなかった。
 ふたりの愛した男は、そのどちらにも心を震わせた。ふたりは、それに気づくと、相手
を消し去ってしまいたい衝動に駆られたが、そのどちらかが失われるということは、愛し
た男の存在を崩してしまうことに、やがて気づいたのだった。
 だから――。
 残された道は、このひとつしかなかった。
 お互いが、お互いを知る努力をするということ。
 そうすれば、愛した男は、愛した男のままでいられると。
 一方はその男のそばに寄り添うことができ、一方は、それが許されない。
 しかし、その男が愛した男のままでいてくれたら、寄り添うことができなくても、男へ
の気持ちは、間違いなく心の宝物となることだろう。
 乃絵は、やがて、目線を斜めに落とし、肩を震わせはじめた。そして、もう一度、比呂
美の顔を見た。
 乃絵の目に溜まった、穢れなき透き通ったもの。
 比呂美には、それが、どこまでも、どこまでも清らかなものに見えた。
 その思いの丈の結晶は、乃絵の頬を伝った。
 比呂美が初めて見た、乃絵の涙。
 眞一郎が初めてみることになる、乃絵の涙。
 比呂美は、静かに泣きはじめた乃絵に、かつて自分へ贈られた言葉を返してあげた。

「きれいな瞳……あなたの涙の方が、ずっときれいよ」

 肩を並べ、手をつないだふたりのシルエットが、噴水広場の明かりの方へ向かいはじめ
た。
 やがて、ふたりは人の輪の中に入り、世界の彩の鮮やかさにまたひとつ、気づくことに
なるだろう。
 この日、乃絵に、友達がひとりできた。東の空が、ほんのり白みはじめる頃のことだっ
た。

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