Amour et trois generation OK, c'est le jour 3(さあ、本番だその3)


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 2-Bのコスプレ喫茶「バロック」は相変わらずの盛況だった。
 今は比呂美、朋与、あさみ、という主力メンバーが抜けているものの、美紀子、真由も
現場に出動して対応している。
 男性客の中には比呂美目当ての客も稀にいたが、大部分は美紀子や真由の姿を見るとそ
れで満足し、話し相手になったり、からかったりして時間を過ごしていた。
「あたしらも結構イケルんじゃない?」
 美紀子が真由に呼びかける。
「えー、私なんか全然駄目だよ。美紀子はいいけどさ」
 真由が居心地悪そうに答える。美紀子はややスカート丈が短めのメイドスタイル、真由
は花売り娘風の衣装に身を包んでいた。
「そんな事言って。あたしより真由の方が人気集めてるじゃない」
 美紀子がからかう。事実、真由は意外と言っていいほどの注目を集めていた。
 真由は決して目立つ少女ではない。比呂美は控えめにしていても目を引く容姿を持ち、
朋与、美紀子は活発で社交的な性格をしている。あさみにしてもその普通さゆえにか男子
からは人気があり、本質的に注目を浴びる事を嫌う真由はクラスでも地味な部類であった。
 それがこの町娘風の衣装の持つ雰囲気に合致し、特に外来客の父兄から大きな支持を集
めていた。
「薄倖オーラって奴かしらね。マッチ売りの少女みたいな」
「……美紀子、それもしかして貧乏くさいって言ってない?」
「被害妄想よ」
 真由の睨みを軽く受け流し、アイスコーヒーのポットを持ち上げる。空だった。
「あ、なくなっちゃった」
「冷蔵庫にお茶ならまだ入ってるよ」
「ありがと」
 美紀子は冷蔵ボックスからお茶のポットを取り出し、カップに注いで口をつけた。
「ん?何これ?」
「ラムネ。夏らしくていいでしょ?」
 緑茶にラムネの香りを着香してあるらしい。顔を近づけるとラムネで、飲むと緑茶、し
かし飲み終わるとまた口にラムネの香りが残るという、不思議な感覚だった。
 美紀子はあえて感想は述べず、別の話題を出した。
「――でも、ほんの少しだけ意外よね。仲上君目当ての女子が多かったこと」
「そう?私は予想通りだと思うけど」
「そりゃ、去年麦端祭の花形務めた時は騒いでる娘もいたけど、もう十ヶ月も前の話よ。
いつまでも持続するするものでもないんじゃない?」
「ほら、あの朋与が広めて回った噂――」
「ああ、あの安い昼ドラみたいな話」
「あれも仲上君のイメージをよくしてるんじゃないかな?確かに安いドラマだけど、元々
比呂美と仲上君の事を悪く言わせないために流したものだし」
「なるほど。それもそうね」
 美紀子も納得する。噂でしか事情を知らない第三者と、美紀子達クラスメートのように
比呂美が無理をして笑っていた頃を知る友人では、眞一郎に対するイメージが変わるのも
当然かもしれない。
「もしかして、比呂美の心中穏やかじゃないんじゃないかしら?せっかく石動さんから取
り返したのに、潜在的なライバルが一斉に出てきたりして」
 美紀子が少しだけ面白がって言ってみる。それに対して真由は真顔で
「そこはこの自由行動で仲上君がフォローするって。してくれなきゃ困るわ」
 と答えた。美紀子も少し真剣な口調で
「そうよね。もうあんな比呂美は見たくないし」
 と続ける。皆普段口には出さないが、それはクラス全員の共通認識だった。
「きっと大丈夫よ。比呂美も今は色々話してくれるし、なにより朋与が比呂美を独りには
させないから」
「・・・・朋与も頑張ったからね」
「本人の前で言ったら全身使って照れそうだね、それ」
「そうね」
 再び笑顔に戻って、美紀子は仕事に戻った。



 石動乃絵は相変わらず不機嫌だった。
 元来が人見知りが激しく、接客向けの性格ではないのだが、ヘビ捕獲作戦から戻ってか
らというもの、むっつりと頬を膨らませて、怒ったような表情で店内を動き回っていた。
 それでもウエイトレスの仕事だけは律儀にこなしているあたりが乃絵らしいところだ。
「マンゴージュース二つお願いします」
「はい、マンゴー二つね」
 少々無愛想でも、乃絵の集客力は抜群だった。校内でも人当りのいいタイプとは思われ
ていない事も幸いしているかもしれない。ベージュのサファリジャケットと色を揃えたシ
ョートパンツ、頭には白い探検帽を被った乃絵が、店内を小走りに移動する姿は、部長を
して、
「挙動不審のハムスター」
 と言わしめ、明らかにその姿を目当ての男子生徒で店内の混雑は増していた。
「回転率の悪さも問題ですけどね」
 部員の一人が指摘する。
「それはこの手の店の宿命だ。さっきまでのようにそそくさと帰られても寂しいだろう」
「あれはヘビやトカゲに恐れをなしたのでは?」
「何を言う、あんなおとなしくて華やかなカラーリングの生き物が怖がられるものか」
「素直に毒々しいと認めましょうよ」
 無責任な部長その他の漫才を聞きながら、乃絵は自分でも上手く説明できない感情に苛
立っていた。
(なによ、大袈裟に怖がって。学校に持ってこれるヘビに毒も、人を絞め殺す力もないく
らい少し考えればわかるでしょうに。あんな大きな悲鳴上げて・・・・いつまでもしがみつい
て・・・・)
――つまり、乃絵は先刻のヘビ騒動の際の比呂美に嫉妬しているのである。ただ、それが
嫉妬であると理解するには、未だ乃絵は人間関係において未成熟であった。とっくに諦め
た筈の恋が、些細なきっかけで痛みを再発させる事を、長年感性を封じていたこの少女は
知らなかったのである。
 それはまだ吹っ切っていないとか、隙あらば取って替わろうなどといった負の感情でも
ない。次の恋を見つけるまでは付いて回るものだが、そういう「理屈に合わない感情」を
受け入れるには、まだ時間と経験が必要だった。
「部長、メロンシャーベット二つ。仕事して下さい」
 ほとんど八つ当たりに近い態度で部長に注文票を渡した時、乃絵の携帯が鳴った。
 控え室に駆け込み、電話に出る。
「もしもし?」
『乃絵か。俺だ』
「お兄ちゃん!どうしたの、急に」
『いや・・・・どうだ、文化祭は楽しんでるか?』
「え?う、うん・・・・」
『どうした?楽しくないのか?』
「そんな事、ない」
『もしかして・・・・あいつにまた何か言われたのか?』
「え?違うよ、眞一郎はなにも言ってこないよ」
『いや、そっちの話じゃ・・・・まあいい。
『実は、明日の用事が無しになってな。今日の仕事が終ったら帰れる。夕飯、俺の分も作
っておいてくれ』
「ホントに?ね、本当に帰ってこれるの?嘘ついたらやだよ」
『本当だ。だから飛び切り美味い物頼むぞ』
「うん!お兄ちゃんの好きなもの、一杯作るね」
 電話を切り、携帯をしまうと、乃絵は現場に復帰した。機嫌もすっかり直り、歌を口ず
さんでいた。
「す~ぐそこ~にあぶらむし~ 今ここのコースターの裏にもあぶらむし~」
「石動さん、なんちゅう歌歌ってんの・・・・お願いだからやめて」



「ねえ、三代吉」
「ん?」
「さっきから気になってるんだけど、お客さんの数が段々増えてない?」
「そうか?」
 三代吉は周囲を見渡した。間違いない、人が増えている。
 それも、席が埋まっているというだけじゃない。立ったままコーヒーを持った客や他所
の出展の衣装を着たままの生徒など、明らかにキャパシティを超えた人数を店内に入れて
いた。
「・・・・そうだな。なんだ、これ?」
「今からスペシャルステージを始めるの。もうすぐ始まるからこのまま待っててもらえる?」
 カナがグラスに入ったお茶を二人の前に置きながら説明した。
「はい、これ、ルミからのサービスよ」
「あ、どうも」
「いただきます。あの、スペシャルステージって?」
 早速お茶を手に取った愛子がカナに訊いた。そしてグラスを口につけ、少し驚いた顔を
した。
 カナは軽く笑って、まずはお茶の解説をする。
「驚いた?緑茶にグレープフルーツの香りがついてるの。涼しいでしょ?」
「初めて飲みました」
「で、スペシャルステージの事よね?要するにちょっとしたライブよ。ゴスペルで歌うの、
なんとルミが」
「高岡さんが?」
「先輩が?」
 愛子と三代吉が同時に声を上げる。あまりにも意外だったためだが、カナによればルミ
の歌はバスケ部では有名らしい。
「ちょっと驚くと思うわよ。いつものイメージとはまるで違う曲歌うから」
「そうなんですか」
「しかし、さっき何にも言ってなかったよな」
「あ、来た来た。比呂美、朋与、こっちどうぞ」
 カナが呼びかける方向に、比呂美、眞一郎、朋与がいた。四人揃って三代吉達の席に向
かって来る。
「愛ちゃん達も来てたんだ」
「ステージのことは知らなかったんだけどね。みんなは知ってたの?」
「高岡先輩は絶対に言わなかったけどね。日生先輩が教えてくれたの」
 朋与があーあ、と悔しそうな声をあげる。
「まさかこんな飛び道具隠してるとはねえ。うちも比呂美リサイタルでも企画すればよか
った」
「私、絶対に歌わないわよ・・・・」
「大丈夫だよ、比呂美。私達もそんな無謀な真似させないから」
「あさみさん、その言い方はちょっと――」
「ちょっとあさみ!無謀ってどういうことよ!」
 あさみの不用意な発言に眞一郎と比呂美が同時に噛み付き、場に笑いの波が広がった。
 と、別のざわめきが店内の一角から全体に波及した。愛子が振り返ると、ルミが姿を現
したところだった。
 愛子は思わずあっ、と声を上げた。
 ルミは先ほどまでの男装ではなく、肩を大胆に露出した明るいグリーンのドレスを着て
いた。
 それはそれまでの中性的な姿から一気に「女」へと変身した、高岡ルミのもう一つの姿
だった。
「きれい・・・・」
 あさみが思わず声をもらす。
「――反則でしょ、あれは」
 朋与もそれだけ言うのがやっとである。大人びたファッションの多いルミだが、こんな
一面は女バスの面々ですら知らなかった。
 ルミは中央に用意された舞台の中央に進み出ると、おもむろに歌い始めた。
 伸びやかな声。豊かな声量。繊細な表現力。完全に三代吉の想像の範疇を超えていた。
「おい、高岡先輩って歌のレッスンでも受けてるのか?超本格的じゃねえか」
「知らないよ。少なくとも小学校ではこんな歌い方した事はなかったと思うけど」
 三代吉に訊かれた愛子がそう言いながら比呂美を見る。比呂美も驚いているようだった。
「カラオケにみんなで行ったことは何回かあるけど、その時は普通の歌い方してるから
・・・・」
 ルミは二曲を歌い上げると、挨拶の口上を始めた。
「本日は『浪漫邸』でお過ごしのお時間、お寛ぎいただけてますでしょうか。ここでは皆
様に一興といたしまして、『ショウタイム』を設けさせていただきました。お耳汚しでは
ございますがもう暫しお付き合いくださいませ。それでは次の曲は、今の私の想いをその
まま表わしたような歌詞がお気に入りの曲です――」
 三代吉はその時、ルミが自分を見たような気がした。自意識過剰だと思いながら、しか
し同時にその感覚は正しいと心のどこかが言っていた。


I can see through the stars       into your heart
星々をすり抜けて          あなたの心が私には見える
So no matter where you are      it's never far
例えあなたがどこにいようとも    距離なんて関係ないの
I hold you in my soul         You'll always be
魂はあなたを抱きしめているわ    いつでも共にあるように
Here with me forever         You must believe
ここで私といつまでも        あなたもそれを信じていて
I am waitin' for you         I am waitin' for you in my heart
あなたをここで待ち続ける      私の心はあなたをここで待ち続ける


「きれいな曲ね」
 愛子が言う。
「そうだな」
 三代吉が答える。
「・・・・なんだか、悲しそうな歌い方だな」
 眞一郎の感想に、
「でも、想いの深さが伝わってくる・・・・怖いくらいに」
 比呂美の感想に、誰も異論を挟むものはいなかった。



「よっしゃあ!三位以内確定!」
 朋与が拳を自分の掌に受ける。
「よかったあ、評判よくて」
 真由が安堵の声を漏らす。クラス委員として、皆の頑張りが評価されるのは嬉しいのだ
ろう。
 アンケートはPCの端末で投票、集計される為、リアルタイムで集計結果が表示される。
一応記入式のアンケートもまだ残されており、最終結果はそちらの集計が出た後となるが、
コンピューター投票の結果は順位に関してはほぼ信頼できる確度を持っていた。
「全くだ。あんな恥まで掻いてなんも無しじゃ立ち直れねえ」
 三代吉が当然のように言う。その隣では眞一郎が力強く頷いていた。
「あら、もう暫定順位出てたのね」
 三代吉達が振り向くと、ルミが歩いてくる所だった。もう制服に戻っている。
「先輩、おめでとうございます。今のところ一位ですよ」
 比呂美の祝福にルミはにっこりと笑って、
「ありがとう。恥ずかしいの我慢して歌まで歌った甲斐があるわ」
 と、三代吉みたいな事を言う。
「結構ノリノリでしたよ?」
 朋与がからかっても、ルミは動じない。
「あそこまでされたら、覚悟決めるしかないでしょ。これでも勝負の世界で生きてるのよ」
「おみそれいたしました」
和やかな空気が場を包む。その時、携帯が鳴った。
「私だわ」
 ルミがポケットから携帯を取り出す。窓の表示を見たルミは、その場からの暇を告げた。
「ごめんなさい、もう帰らないと」
「後夜祭出ないんですか?」
「ええ。残念だけど」
「そうですか。お疲れ様でした」
 比呂美達はルミを送り出し、再び自分達の会話で盛り上がった。



 その一時間後、ルミは神社の境内を歩いていた。
 その進む先に人影がある。
 その人影に向かってルミは微笑みかけた。親愛を全く感じさせない、冷笑だった。
「どうしたの?あなたから呼び出すなんて初めてじゃない?」
「――俺の方から出向いたら、あいつらに会うかもしれないだろ?」
 それを聞いたルミは今度は声を上げて笑う。
「そうね、そういう取引だったわね。あなたのそういう律儀な所、嫌いじゃないわよ」
 人影は挑発に乗ることはなかった。
「どういうつもりだ?俺は約束を破ってはいない。お前も約束は守れ」
 ルミは冷笑を消すことなく、相手を「観察」していた。先刻までの「比呂美達の先輩」
としての顔とは別の、この人影の正体しか知らない高岡ルミの顔だった。
「そんな怖い顔しないでよ。いい男が台無しよ――純君」
 ルミは自分の前に立つ4番――石動純に呼びかけた。


                    了


ノート
本当は前回で文化祭編を終らせるつもりでいたので、若干構成に苦労しています。
引っ張った理由は唯一つ、前回のヘビ騒動の後、眞一郎にしがみついた比呂美を見て乃絵が予想以上に動揺したため。
まさか怒り出すとは思っていなかったので少しフォローを入れないと納まらない感じになっていまして・・・・。
ルミの歌は予定通り。元は中の人がゴスペル歌手という一面を持っていて、歌が非常に上手い事から考えた設定。
比呂美中の人の若干微妙な歌唱力が頭にあったかも。
ここからは群像劇的側面と、愛憎劇的側面が並行して進むことになると思います。ルミファンの怒りを買うかも。


オリジナルキャラについて
結構他の人に比べてオリキャラを出している方だと思います。モブキャラにもかなり性格を足しているのでこちらも
オリキャラに近くなっています。一応自分の中で決めているのは「完全なオリキャラは本筋に一切絡ませない」「性格は
足すだけで変形はさせない」の二つ。下平にせよ、生物部長にせよ、基本的にシーン丸ごとカットしても影響を
与えない、コメディリリーフ専門にしています。「踊る大走査線」のアミーゴトリオのような立ち位置です。


真由と美紀子
見た目も対照的で並べると画的にもわかりやすいため、コンビで動かす事が多い真由と美紀子。
コンビにする利点は行動を誇張できる事。やりすぎくらいの事をさせてももう一人がブレーキ役として一般(読者)目線
からツッコミを入れる事で、ぎりぎりで非常識にならない線に留める事が出来ます。
美紀子と真由はどちらも茶道楽ですが、
美紀子が美味しいコーヒーを淹れて、その技量を認められることをやりがいと感じるのに対し、真由は自分のお茶で
相手が喜ぶ姿に喜びを見出します。向上心の質は違いますが、どちらも真摯に趣味に向き合っています。


小道具
ラムネのお茶
http://www.lupicia.com/html/ja/item/001/006/item5073.html
グレープフルーツの緑茶
http://www.lupicia.com/html/ja/item/001/002/item1829.html
ラムネは本当にラムネの欠片が入っていて、飲むと不思議な清涼感があります。グレープフルーツはアールグレイより
すっきりとした香りのお茶。僕はアイスで飲む時は紅茶より緑茶の方が色が涼しげで好き。後これもおすすめ
パイナップル烏龍
http://www.lupicia.com/html/ja/item/001/006/item5069.html

劇中ルミが歌った歌は厳密にはゴスペルで歌う曲ではなく、「銀河英雄伝説」第2期のOP、「I am waiting for you」。
1期OPと違って歌詞を暗記していた事、待ち続ける愛というのがttぽいので決定。訳は自分で付けたのでかなり稚拙
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。