Amour et trois generation transmission d'autobiographie de secret(秘められた自伝)


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「どういうつもりなんだ、あんた」
 4番――石動純が高岡ルミに詰め寄った。
「何の事かしら?私、純君が怒るような事は何もしてないつもりだけど?」
 ルミは冷笑を消す事なく言葉を返す。しかし、純は足を止めない。
「とぼけるな。乃絵をどうする気だ?」
 ルミは肩をすくめると同時に首を振り、一歩下がって距離を保った。
「少し落ち着いたら?コーヒーでも買ってきましょうか?」
「俺は約束を守ったぞ!あれからあの女とは会っていない。あんたも約束を守れ!」
 純がルミの肩を掴み、押さえつけるようにする。ルミはそれでも動じなかった。口元の
歪んだ冷笑をさらに広げ、自分より10cm以上高い純を上目遣いにしながら侮蔑するように
口を開いた。
「怖い顔しないでよ。そんな顔乃絵ちゃんが見たら脅えるわよ」
「ごまかすのはやめてくれ。乃絵に手出しするなら俺にも考えがあるぞ」
「何、自分の口から告げるの?」
 ルミの声はむしろ愉しんでいる風ですらあった。
「会っていない、ですって?私が知らないとでも思ってるの?」
 純が目を見開いた。思わず手の力が弱まる。
「何故それを……?」
「こんな小さな町であなた達の事を知ってる人に一人も見られないなんて出来ると思って
たの?」
「……あれは、必要な事だったんだ…………」
「必要?誰にとって?比呂美は最初からあなたなんて眼中になかったわ。わざわざ終わり
を告げる必要なんてない。けじめが必要だったのはあなただけでしょう?あなただけの都
合で比呂美に会いに行って、それで必要な事だから約束を破ったとは言わない?やっぱり
血は争えないわね、詭弁ばかりで逃げ回るのは」
 純の手を軽く振り払い、しかしその場からは動かずに純に視線を合わせる。
「――でも安心して。別にだからといって取引をご破算にするつもりはないから。優しい
でしょ、私」
 優しさの一片も感じさせない、ルミの声。
「ただ、ちょっと私には私の思惑ってものがあってね。そのために役に立ってもらおう、
と思ってるの」
「思惑……?」
「そう、思惑。知りたい?でも駄目、どこから話が漏れちゃうかわからないもの。ごめん
なさいね」
 言葉も、口調も、茶目っ気のある女子高生のそれである。しかし、それを聞く側は一片
のユーモアも含まれていない事を承知している。
「話はそれだけ?それじゃ、もう行くわね。今打ち上げしてるの。大分経っちゃったわ」
 そう言って境内を出ようとするルミ。純は混乱しながらも、辛うじて彼女を呼び止める。
「おい、待て。話はまだ――」
「話なんてないわよ」
 再び声に氷の破片が混じる。
「大丈夫よ、多分悪いようにはならないわ。保証は出来ないけどね」
 振り返ったルミがにっこりと微笑んだ。
「可愛い姪だもの、泣かせたくはないわ」



 大人は自分の子供の頃を忘れてしまう。
 自分が子供の時、周りの大人が思っている以上に色々な事を聞き、理解できる事を忘れ
てしまう。
 物心ついた頃から、私を見ると大人達がひそひそと言葉を交わす事に気づいていた。中
にはもっとはっきりした声で話していることもあった。
 きっと聞こえても意味なんてわからないと思っているのだろう。子供がいかに吸収力に
優れているか、忘れているのだ。
 だから私は、幼稚園の時には、私のお父さんが死んでしまったのでも、会えないところ
でお仕事をしているのでもなく、初めからいないのだという事を理解していた。それが何
を意味しているかは、まだわからなかったけれど。
 小学校を、学区内ではなく小学生の足で四十分以上かかる麦端の反対側に通うことに決
めたのも、少しでも家の事情を知る人が少ない処へという母なりの考えだったと思う。
 とはいえ、こんな田舎では少し離れたくらいで噂が届かなくなるわけではない。その間
にも私は自分の出生に関する噂、憶測、中傷をさまざまに耳にし、ある程度の真実に到達
していた。
 麦端の中等部に入学が決まった時、初めて自分の戸籍を見た。父親の欄は斜線が引かれ
ているだけだった。
 思い切って母に直接聞いてみた。私の父は誰なのかと。
 母は暫く考えた後、これだけを言った。
『あなたを女手一つででも育てていこうと思えるくらいに愛した男性(ひと)よ』
 それ以上、私は何も訊けなかった。母は私に父の写真を渡してくれた。母の父親といっ
ても通じそうな、背の高い初老の男性。今はこれより十数年歳を取っているということか。
『私の親友の、旦那さんのお父さんなの』
 母が教えてくれた。あなたは父親似なのよ、と笑った。私も自分に似ていると思った。
 それで終わりのはずだった。それ以上父親のことを知りたいとは思わなかった。
 高校に入り、バスケ部でもレギュラーとして試合に出してもらえるようになった頃には、
そんな話をしたことすら忘れていた。でも、あの日はやってきてしまった。

 蛍川との対抗戦。その少し前から、蛍川の男バスに編入生が入部したという噂は聞いて
いた。大層な二枚目らしいその編入生の話で更衣室は持ちきりになり、私も普通程度には
興味を持った。そして、当日噂の当人を見かけたとき、私の心臓が跳ね上がった。
 何の根拠もない。この程度に似ている人物ならいくらでもいる。そう自分に言い聞かせ
た。その時、その遅れてきた新人はチームメイトと談笑し、肩をすくめながら首を振って
見せた。
 それは私と同じ癖だった。母が癖は遺伝するのかと不思議がっていた、私の父親と同じ
癖だった。
『なーに、ルミ、あなたもあの転校生に狙いつけたの?競争率高いなこれは』
 中等部からの付き合いのカナがからかう。私は曖昧にごまかして、その場をやり過ごした。
 その日から、どうでもいいと思っていた父親の事がまた気になり始めた。私はその転校
生――石動純の事をそれとなく人に訊いて回り、同時に自分でも母がかつて勤めていたと
いう、県外の病院まで行って当時を知る人を探してみた。
 当時の母の同僚の看護士はまだ病院に勤めていた。私の名前を聞くと驚き、話をするの
を嫌がったが、私が大体のところを知っている事、そして石動純が現われた事を話し、最
後にこう付け加えた。
『私は純君に惹かれています。多分純君も私の事を……もし私の考えが正しければ、引き
返せるうちに引き返さないといけないんです』
 この言葉で彼女はついに折れ、私に当時の事情を話してくれた。
 私の母と石動純の母が同郷出身であった事、勤める病院に入院してきた患者と純の母が
恋に落ち、結婚した事、母が親友の新しい家族とも親交を深める中で、親友の義父とその
ような関係になった事、それを知った義母が激怒し、手切れ金を叩き付けるようにして私
の母を遠ざけた事。
 石動家の人間を多少悪し様に言うのは、私の言葉を信じて私が吹っ切り易くしてくれて
いるのだろう。話の中からは、石動純の妹は非常にこの祖母を慕っており、少なくとも身
内に対しては慈悲深く温かみのある人物であることも伺えた。いくつかはすでに聞いたり、
想像していた通りの話で、いくつかは初めて知る話だった。今は私の父も、彼の父も、彼
の祖母も亡くなり、一家は町を離れたという事だった。麦端に戻っている事は知らなかっ
た。
 それでもその時はそれ以上どうしようとも思わなかった。過去の話だ。その正妻の女性
が激怒するのも当然だと思う。一番いいのは関らない事だ。そう思う事にした。

 二年になり、バスケではキャプテンを任されるようになった頃から、比呂美の様子がお
かしい事には気づいていた。両親を失い、今は親の旧友の家に引き取られているという。
境遇には同情するが、私にはどうにも出来ない。私はせめて部活の時くらいは楽しく他の
事を考えないで済むよう、それだけに気をつける事にした。幸いな事に彼女には朋与がい
た。
 その比呂美が、バイク事故で停学になった。同乗者はあの石動純だという。
(あの家の男は他人を不幸にすることしか出来ないのか)
 そう思わずにいられなかった。そう言えば、比呂美が特におかしくなったのは石動純や、
その妹の石動乃絵が彼女の周りに現れてからだ。私の中で、急速に石動という名前に怒り
を感じ始めた。
 その事件の直後の蛍川との対抗戦は試合ではなかった。蛍川女子による比呂美への私怨
による私刑だった。たまらず私が抗議に行こうとした時、石動純が入ってきた。
『なんだよ今のは。何か言いたいことがあるなら聞くぜ』
 その行為自体は賞賛すべきものかもしれない。事実その後は比呂美への悪質なファウル
もなく――むしろ比呂美が近づくと接触を嫌うように避け始めた――、蛍川の主将は試合
後に部員を抑えられなかった事を詫びてきた。石動純のおかげで試合が正常化したことは
否定しない。
 だが私には、石動純がまだ比呂美に未練があって、付き纏おうとしているようにしか見
えなかった。比呂美が仲上眞一郎という幼馴染を想っているらしい事は朋与から聞いてい
た。いつまでもはっきりしないその人物にも苛立ったが、まるでそれに付け込んでいるよ
うに見える石動純に嫌悪感を感じていた。
 麦端祭りを直前に控えた日曜日、所用で学校の図書館を使わせてもらった私は、帰る際
に鶏小屋の中にいる石動乃絵を見かけた。狸の襲撃からも生き残った一羽を大事に抱え、
ぶつぶつと独り言を呟く乃絵を不審には思ったが、人と会う約束をしていたこともあり、
特に接触はせずにその場を立ち去った。
 その日遅く、家に帰る途中の私は再び石動乃絵とすれ違った。他人から聞いていた自宅
とは方角が違う。私はなんとなく、その後を追った。
 着いた先は海だった。冬の波は高いが、石動乃絵はかまわず堤防に乗り、踊るように歩
き回っていた。
 暫くして、誰かがやって来るのが見えた。暗がりの中でよくわからなかったが、やがて
仲上眞一郎だとわかった。
 私は石動家に向かってみた。以前から変わった娘だとは思っていたが、今の行動は理解
を超えていた。何かはわからないが何かが起きている。そう思った。
 家の前で石動純と出くわした。この辺を歩き回っていたようだった。彼は私に気づいた
が、無視して歩き出そうとしていた。
『妹さんを探してるの?』
 反応は私の予想を超えていた。
『知ってるのか?』
『…………』
『どこにいる?乃絵をどこで見かけたんだ!?教えてくれ、頼む!』
 私は、自分に加虐嗜好がある事を初めて自覚した。試合中には見た事のない取り乱した
様子を見て、この自分より一歳年長の甥を傷つけてみたくなった。
『見たわよ、二度も。最初は学校の鶏小屋にいたわ。中に入って鶏相手にぶつぶつ話しか
けてたわよ。その後さっき街中で。なんか腰振りながら鼻歌歌ってたわ。あなたの妹、ち
ょっとイッちゃってるんじゃないの?』
 その場で見た時は思いもしなかった言葉が次から次へと口を突く。石動純は見る間に顔
貌を紅潮させ、私に詰め寄ってきた。
『あんたが乃絵の何を知ってるって言うんだ!?知りもしないで好き勝手言うなよ!』
 その瞬間、私は直感した。この青年の心の奥にあるものに。根拠はないが自信があった。
『……妹を傷つけていいのは俺だけだって?何君、比呂美に付き纏っておいて実は妹が本
命?気持ち悪い、何考えてるの』
 図星であることは顔色でわかった。どういうつもりだったのかはわからないが、彼が比
呂美ではなく自分の妹に特別な感情を抱いていることは確信に変わった。
 そしてその時、私にとっての名案が浮かんだ。この男を比呂美から引き離し、二度と近
づけない方法を。
『好きな人がいて、それでいて他の女にも手を出そうだなんて、よく出来るわね。石動家
の男ってみんなそうなの?』
『……一括りにするなよ。父さんや祖父を知りもしないくせに』
『お父さんの事は知らないわね。でも、お祖父さんの事はまんざら知らないわけでもない
のよ、純君』
 相手が怪訝な表情を見せる。私はパスケースを取り出し、中から写真を抜き出す。
『私の父よ』
 石動純に渡す。その写真を彼は不信感も顕に眺め――蒼白になって私を見た。
『悪いけど嘘じゃないわよ。あなたのご両親が知り合った病院まで行って確かめた』
 写真を取り上げ、パスケースに戻す。
『改めてご挨拶するわ。高岡ルミ。あなたの叔母よ』
 握手を求めるように手を伸ばす。当然握り返してはこない。
『あなたのご両親が知り合ったちょうどその時、同じ病院で働いていた母と君のお祖父さ
んも知り合って、私が生まれたの。もっとも生まれる前にお祖母さんに街からも追い出さ
れたのだけどね』
 石動純はまるで酸欠の金魚のように口をパクパクと動かしている。滑稽な姿に噴出しそ
うになるのをこらえて、言葉を繋ぐ。
『さて、これから乃絵ちゃんの所にも挨拶に行ってこようかしら。あなたのお祖母ちゃん
のせいで父親の存在すら知らなかったあなたの叔母よ、て。どんな顔するかしらね、お祖
母ちゃんの事大好きだったんでしょ?彼女の知らない一面を教えて上げられるわよ』
 石動純の顔色はもう白かった。
『やめてくれ!』
『どうして?家族想いな乃絵ちゃんに新しい想い出話をしてあげようっていうだけじゃな
い?何がいけないの?』
『お願いだ……やめてくれ…………父さんも、祖母ももういないんだ、これ以上、想い出
まで取り上げないでくれ…………』
『私にはその気持ちはわからないわね――生まれる前に取り上げられてるんだから』
 自分の中にこれほどの“悪意"が眠っていた事を、私は初めて知った。驚きはあったが、
不思議と嫌悪感はなかった。
『黙っててあげましょうか?』
 声を柔らかく、私は訊ねた。石動純が顔を上げる。
『その代わり、私の頼みを聞いてよね』
『頼……み?』
『簡単な頼みよ、もう二度と比呂美の前に姿を見せないで欲しいの。ね、簡単でしょ?』
『それで……いいのか?』
『その代わり、絶対に、よ。偶然街で顔を合わせる事も認めない。もし逢ったらこの取引
はご破算』
『……わかった』
『あと、あなたの所の女バス、ちゃんと躾けておきなさいよね。あれじゃ練習にならない
わ。もし次の試合でもあんなプレーするようなら――選手生命潰すわよ』
 最後の言葉は脅しではない。あの試合でも、朋与を抑えるのには苦心した。私が止めな
いとわかれば、報復行為に躊躇はないだろう。
『言う。二度とさせないように言う。だからそっちも約束は守ってくれ』
 本気だろう。これで比呂美はこの男のせいで心を乱される事はないだろう。これ以上追
い詰めると反撃があるかもしれない。
『私に約束を破る理由はないわ。純君が破らない限りはね。比呂美の目に映っちゃいけな
いの忘れないでね。私はどこからでも見ているわよ』
 念を押すことは忘れない。
『…………妹さんなら堤防にいたわ』
『本当か!?』
『仲上君が見つけたからもう戻ってくるんじゃないかしら。波にさらわれない限り』
 その時、彼の携帯が鳴った。
『もしもし……あんたか…………そうか、ありがとう、悪かったな、こんな事頼んで』
 電話を切る。私はあることに気がついた。
『あなた、妹探すのに比呂美に相談したのね?……呆れた、どこまで自分勝手な恥知らず
なの』
 彼は何も言わない。
『ま、いいわ。とにかく、二度とかかわらないで。手始めにその携帯から比呂美の番号、
消して』
 言われるままに携帯から番号を消去する。私は携帯を確認した。家族と学校、バイト先、
その他四、五人の男の名前があるだけだった。
『よろしい。それじゃ私はもう行くわ。乃絵ちゃんの為に部屋を暖かくしておきなさい』
 そう言って私はその場を去った。



「ルミ、こっちこっち」
 店に入ると、カナが手招きしていた。
「用事、済んだの?」
「うん、もう平気」
「そう。じゃ、改めて暫定一位おめでとう」
「おめでとう」
 グラスを鳴らす。
「今日のMVPはなんと言ってもルミよね」
「そんな事ないわよ。みんなで盛り上げた結果よ」
「何言ってるの。あのステージでどれだけの客を魅了したか」
「やめてよ」
 ルミは赤くなって謙遜する。
「ホントホント。野伏君なんて見惚れてたもの。ね、もしかして安藤さんよりルミがいい
とか言われたらどうする?」
「あるわけないじゃない。それに年下に興味はないの」
 つまんない、と言うカナを横目に、ルミはグラスに口を付ける。
――そんなに急がなくていい。まだ仕掛けを置いたところだ。
 ルミは自分に言い聞かせた。先に安藤さんと三代吉君が別れて、その後で私が三代吉君
に告白される。その順番でなければならない。私なら出来る。目的は必ず果たせる、そう
いう女なんだ。
「ま、先の事なんて誰にもわからないけどね」


                     了


ノート
この話だけ読むと、全く意味がわからないと思います。
実は3話で4番が初登場のとき、ルミに顔が似てるなというのと、「純」という名前がルミ中の人の名前と
同じだったので、実は兄妹じゃないかと妄想してまして、だから6話で比呂美と眞一郎の兄妹疑惑の時には
「そっちかよ!」と画面にツッコミ入れてました。
どうしてもこの時の印象がこの二人から離れないため、兄妹では安直なので叔母甥の関係として構成しました。
当初は乃絵の母方の祖父の子のつもりだったのですが、描かれていない母方の親類より、祖母だけでも出てくる
父方の方が真相を知った乃絵が傷つくという話に説得力を与えられるだろうと変更。メインの物語でもないのに
随分変遷しています。
ルミのキャラクターは「悪意」と言うキーワードを意識しています。相手が困惑、苦悩する事がわかっていても
自分の目的を優先できる人物、呵責を感じない性格です。最悪ですが、確実に実在するタイプです。
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