比呂美ENDエピローグSS


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比呂美ENDエピローグSS

冬晴れの朝、並んで登校する二人。
一緒に歩いていることそのものを楽しむかのように、ゆっくりと。
「仲良くご登校ですか?お二人さん?」
からかう口調に二人が振り向くと、クラスメイトにして比呂美の親友、
朋与が声をかけてきた
「朋与っ。おはよー」「お、おはよう」
ぎこちないのは眞一郎、彼はまだ朋与との会話に慣れていない。
しかも、正視に堪えないほどのだらしない顔だ。比呂美は気にしていないよ
うだが朋与はそちらを見ないようにする。
「はい、おはようさん。手まで繋いじゃって、おやおや」
半目での指摘に、今更のように気付いた二人が苦笑する。
「って、言われたら、フツーは手を離すもんじゃないの?」
絡めた指を解く気配の無い二人を見て、朋与はさらに、
「ま、気持ちはわからないでもないけど」
「・・・」「・・・」

比呂美から大まかな話は聞いているから咎める気にはならないが、この往来
でいくらなんでも、と考えてながら、
「コラッ!ついでに見つめ合うな!頬を染めるな!止まるな!」
繋いだ手を確認した後、自然に見つめあっていた二人を促して学校へ向かう。

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教室に入ると、待ち構えていたかのようなニヤニヤ笑いの歓迎を受けながら
鞄を自分の席に置いて座る。今度は咳払いの合唱が始まる。
仕方ないな、という表情で朋与が比呂美の席の前に座った後、
「まあ、みんな知っているけど、一応報告した方がいいよ?」
「えっ、な、何を?」
「手を繋いで仲良く登校したことかな?、とりあえずは」
「そ、それは…」
「それは?」
比呂美は先ほどまで感じていた温もりがよみがえり、自分の手を見つめてし
まい朋与に答えるのを忘れそうになる。
「手の感触を思い出していないで、答えなさいな」
「えーっと。あの、その…」
「うんうん、なぁに?お姉ちゃんに教えてくれるのぉ?」
今度は一変して子供をあやすかのような猫なで声で先を促してくる。

比呂美がどう言ったものか考えているうちに自然と視線が眞一郎へ向かって
いく、眞一郎の目は「おまかせします」と言っているようだ。
こういうことには全く頼りないなぁ、なんて思いながら比呂美は幸せを感じ、
意を決して口を開きかけた頃、一人の男子生徒が教室に入ってきた。

眞一郎の表情が凍りついたのを見て比呂美は誰なのかすぐにわかった。
教室の空気も変わっていて、ざわついた雰囲気はすでにない。
少しだけ目を細め、複雑な表情の三代吉は、眞一郎に向かって真っ直ぐに
歩いていく、そして近づいた途端飛びつきながら、
「やっとくっつきやがったな!この野郎!」
「うわわっ」
表情を崩してかつてのようにじゃれあいながら三代吉は、
「見てたぞ!手を繋いで登校とは一体どういう了見だよ!」
眞一郎の頭を抱え込みながら、さらに力を込めていく。
「痛い!痛い!痛い!」
それまでの緊張した空気が和らいだところで、朋与が声をかける。
「それを今、聞いていたところなのよね」
「眞一郎に聞いても、はっきりしないぞ」
「当たり前じゃない、そんな無駄なことしないわよ。比呂美に聞いてるの」
「痛い!痛い!痛いってば!」
「うるさいヤツだなぁ、このぐらい我慢しろっての」

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比呂美はそんなやりとりを見て、心が落ち着いてきていた。
朋与に相談できない時期があった自分には、眞一郎と三代吉が前とは違っても
友達でいられるようになることがうれしいからだ。
自分のことで眞一郎に色んな負担をかけた。自分のことを真剣に考えてくれな
がら、様々な面倒ごとを解決してくれた。
これからの眞一郎にはもっと周りの援護が必要になるだろう、だから友達に離
れてほしくなかった。自分の為に苦しんだ眞一郎から、その時の話を聞けば聞
くほどに今の状態がうれしいという気持ちが湧き上がっていく。
比呂美が考えているところになにやら相談していた朋与が声をかけてくる。
「じゃ、そういうことで決まりね」
「えっ?何が?」
「昼休みの話」
「いつものところで食べるの?」
「違う違う、報告会というか査問会?裁判でもいいわよ」
「どういうこと?」
「しばらくの間クラスをピリピリさせていた原因の追求と今後の対応、かな?」
「な、なんとなくわかったけど、今後の対応って?」
「夫婦がクラスにいるっているのは、みんな始めてなのよ?わかる?」
朋与の情け容赦ないからかいに、比呂美はあっという間に余裕をなくす。
「!!!」
耳まで真っ赤になって硬直する比呂美。全ての思考が停止し、心拍数が上がっ
ていく。まだそこまで考えていなかったから、思わぬ言葉に喜んでしまった。
眞一郎の顔を思い浮かべ、さらに鼓動がはやまる。
「えーとね、みんなどこまでからかっていいのか、まだわかんなくて」
「というか、聞きたいし」「そーそー、当然話してくれるよね?」
次々に話しかけてくるクラスメイトの声も耳に届かない比呂美は、真っ赤な顔
を俯かせたまま座っているだけで精一杯。
眞一郎は三代吉からやっと開放されて、ばったりと机に突っ伏している。

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比呂美はふと気がついた。
"あのこと"があったのは、昨日の夕方から夜にかけてだ。なのに、もうみんな
知っている。そういえば登校中に多くの視線とざわめいた感じがあったかもし
れない。
今更ながらに仲上という家についてを思い知った感じだ。自分たちは目立つ、
好むと好まざるとに関わらず、だ。眞一郎が思い切った行動に出ることができ
ない、というのを歯がゆく思い怒りを覚えることすらあった。でも、今朝眞一
郎の隣を歩いてわかったことがある。家をかなり離れないと眞一郎が緊張を解
かないのだ。今まで彼がたった一人で抱えていたことのほんの一端に触れただ
けだが、仲上のというのはそういうもの、少しだけ覚悟しておく必要があるよ
うだ。
家から出て、しばらくしてから手を繋いだ時に見せてくれた眞一郎の笑顔は、
そんな彼にとって自分を必要としてくれているようで、うれしい。
もう、只の同居人ではない、ことに気付くとまた鼓動が高鳴っていく…
「おーい、次は移動だよー。おーい」
「あ、うん。行こっか」
朋与たちと歩きながら、今度はクラスメイトの楽しげな会話が聞こえる。
「私、何を聞こうかなー」「なんだかどきどきしてきちゃった」
「どの辺までいいのかなー」「うーん、どうしよう?」
「そりゃー、あーんなことやこーんなことまで、でしょう?げへへ」
「そっち方面はみんな止まんないよ?」「やめんかい!」「えー?」
「ちょっとー、1コづつだよっ」「えー、詳細に掘り下げたいのにぃ」
「そんなんじゃ朝までかかるって」「ごはん食べる時間、あるかな?」
どうやら昼休みの査問会のことらしい、比呂美にとっては聞かれてうれしくな
いわけじゃなくて、うれしいというか、うれしい。
眞一郎くんはどう思っているのかな、比呂美が考えているところに、朋与に影
響されたクラスメイトの発言が聞こえてきた。
「旦那さんも同席?」
えっ!?、だ、だ、旦那さん?誰って、眞一郎くんのこと?、比呂美はクラス
メイトたちの暴走ぶりにちょっとだけ不安を覚えるが、
「役立たずには黙っていてもらお。というか、今回はいらないっしょ?」
朋与の言葉に先ほどの仲上についての考えが浮かんでくる、ただ仲上だけで期
待される、その言葉からくるものがわかった気がする。
自分にはまだ無理なことだから、そこは眞一郎くんに甘えよう、今まで想像し
なかった考えに、またうれしさが心に広がっていく。

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「そ、それは、わ、私が、眞一郎くんを好きだから、です」
「へー」「うんうん」「わーお」「なぁ~んだ、やっぱりね」「ほほぉ」
比呂美にとって、とても長い昼休み。
教室には女子だけとなり、いつの間にかバスケ部の先輩やら大勢に囲まれての
査問会と称する、質問攻めである。

回答は全て「湯浅比呂美は、仲上眞一郎が好き」しか許されないようなものし
かなく、声が小さいときは言い直させられる。
面と向かって声に出して「眞一郎くんが好き」はまだ1回しか言っていない。
しかし、何度も何度も答える間に、ある変化が比呂美の中に現れていた。
まるで心にある何かつっかえていたもの、傷のようなものが癒されていく感覚。
封印していればいいと自分に言い聞かせていたもの、大切な何か。
それらが、みんなの質問に答えることで別の何かに変わっていく感覚。
自分の行いが間違っていたとか、そういう考えでは得ることができないような
感覚を心の中に感じ、次第ににこやかな笑顔になっていく、質問に答えていく
度に、朋与たちに感謝しながら。
全てが癒されるわけではないが、ちょっと軽くなった気がした。

心配や迷惑をかけたはずなのに謝罪の言葉が浮かんでこなかった、不思議な質
問攻めを覚えておこう。
ちなみに朋与の質問の一つはこれである。
「そういえばさー、比呂美と部活帰りに新しいコート買いに行ったじゃない?
 あの日は仲上君のことどう思ってた?」
比呂美はコートと質問の関連性に疑問をもちながら、決められた回答をした
昼休み終了間際に帰ってきた眞一郎は、比呂美がちょっと思い出したくないく
らいの姿だった。

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下校時、夕暮れの坂道を並んで歩く二人。
「なんか一日が長かったね」
「あ、うん。大変だった」
眞一郎はまだ少し疲れている顔をしているが、うっすらと笑っている。
比呂美もつられて笑顔になりながら、首をかしげて顔を覗き込むように尋ねて
みることにする。
「いいことでもあったの?大変だったのに?」
「え?大変だったけど、うれしかった」
「うれしかった?」
「そう、みんなに迷惑かけたような気がしてたんだけど、大騒ぎしている内に
 ありがとうって感じがした。よくわかんない」
比呂美はびっくりした、昼休みに自分と同じようなことを眞一郎も感じていた
からだ。そこで、気付いたことがある。この人は自分と気持ちを分かち合うこ
とができる人なんだ、と。だから、何があっても想い続けることができたんだ、
と。でも、ちょっと意地悪な気分になってくる。
いくら自分と気持ちを分かち合うことができても、愛情表現とかにはさっぱり
なのだ。贅沢なのかもしれないが、やはり気付いて、よろこんでほしい。
何かいたずらでもしちゃおうかな?なんて考えていると、眞一郎が聞いてくる
「ん?どうしたの?」
「うん、私も昼休みうれしかったよ。質問攻めで大変だったけど」
何気ない会話、普通に思ったこと感じたことをそのまま言葉にした会話。
「どんな質問だったかは、聞かないほうがいいかな?」
「聞きたい?」
短いやりとりで言いたいことが伝わっていく。
「なんだか怖そうだから、やっぱりいいや」
「ふふっ、今日のことは絵本にできる?」
通じている、それが何よりうれしい。
「格闘技系の絵本って、あったかなぁ」
「・・・」
眞一郎くん、面白いな。

手を繋いで仲良く歩く。ゆっくりと、確かめるように。
比呂美は、一緒にいること、近くにいること、気持ちが通じることをかみしめ
るように歩く、眞一郎と共に。

END

次回 比呂美ENDエピローグSS外伝「何?このエプロン」
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