麦端の大晦日


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

1.餅つき

「次、誰がやるんだ?」
「よし、俺が行くぞ」
「じゃ、こねる方は私やるね」
 商店会では毎年恒例の餅つき大会が行われていた。
「これを見るともう今年も終わりなんだなあと実感するな」
 眞一郎がしみじみと言った。
「このつきたてのお餅にあんこ絡ませて食べるのがおいしいのよねえ」
 愛子はもう食べる想像でにやけている。これに対して三代吉が異を唱えた。
「何言ってるんだ。餅にはきな粉だろ」
 醤油と砂糖こそが至高と信じる眞一郎は、どちらの味方もしなかった。
 本格的に杵と臼で餅をつくこの行事は眞一郎達が生まれる前から続いており、各商店が
廃材などを持ち寄って盛大に火を焚き、その横で餅米を蒸して餅をついていく。子供用の
小さな杵もあって、眞一郎も愛子もここで餅つきを初体験した。
 三代吉は姪の美鈴を連れてきていた。子供用としても美鈴にはまだ早いのだが、本物を
見せてやれば喜ぶだろうと思ったのと、姉の一枝から「大掃除の邪魔だから」と押し付け
られたのである。
 その美鈴は初めて見る本物の臼と杵を見て、
「な~に~、やっちまったな~」
 とはしゃいでいる。
「ね、眞一郎、比呂美ちゃんは?」
 愛子が訊いた。
「お袋からおせち習ってる。出来上がるまで俺も親父も台所立ち入り禁止だ」
「いいなあ、彼女の手作りのおせち料理いいなあ」
 三代吉が羨ましがって見せると、愛子が
「何よ、あたしだっておせちくらい作れるわよ」
 と言い返した。
「作れたの?本当に?」
「愛子さんをなめるなよ。栗きんとんも煮豆も昆布〆もなんでも来いよ」
 愛子は腰に手を当て反り返り気味に胸を張った。そんな事をしても全く大きく見えない。
 そのポーズが気に入ったのか美鈴が真似をしてふんぞり返った。
「美鈴、なぜお前まで威張ってんだ」
「凄いな、愛ちゃん、比呂美はほとんど作れないって言ってたぞ」
 普通のシチューや味噌汁なら問題なく作れるが、さすがにおせちとなると独学でどうこ
う出来る料理ではない。
「お母さんにね、習ってたの。味は作った時次第なんだけどね」
 三代吉が振り返った。
「それ、作れるって言うのか?」
「いつも同じ味が食べたかったらお店の買ってくればいいのよ。口に入れてのお楽しみが
家庭料理の醍醐味なんだから」
 愛子の主張を聞きながら、眞一郎は正月に出てくる料理が少しだけ不安になった。
(けど、まあ、大丈夫だろう)
 そう結論付けて餅つきを見ていると、誰か次にやりたい人を呼びかけていた。
「よし、俺がやってみよう」
 三代吉が上着を脱いだ。
「じゃあ、あたしこねるね」
 愛子も三代吉について臼に向かっていく。
「てな事で眞一郎、美鈴と上着頼むわ」
「え?あ、おい……」
「しんいちろー、みすずもつく」
「え?」
 美鈴が眞一郎を見上げていた。
「つく」
「あー…と、ちょっと待って………」
 眞一郎は子供用の臼を見た。
 幸い今は順番待ちもなく、行けばすぐにやらせてもらえそうだ。
「――よし、じゃあ、あっちでやらせてもらおう」
 片手に三代吉の上着、片手に美鈴の手をとって子供用の臼へ。
「よし、俺も手伝ってあげるから、安心してつけ」
 美鈴に杵を渡し、上の方を持って支えてやる。臼の前に立って、
「――せーの、ヨイショッ!」
 声に合わせて杵を下ろす。いい感じだ。
 誤算は、美鈴が見かけ以上に腕力があるということだった。何回かつき、調子に乗って
きた美鈴が振り下ろした杵を力任せに振り上げた。
「痛ッ」
 油断していた眞一郎、杵を頭で受ける。一瞬目の前が暗転し、火花が見える。
「あー、眞一郎!?」
「悪い悪い、そいつ、調子に乗せるとそうなるんだよ。大丈夫か?」
 明らかに悪いと思っていない三代吉の言葉を、眞一郎は頭のこぶを気にしながら聞いて
いた。



2.あさみさんの平穏な年末

「さ、みんな上がって」
 あさみがスリッパを並べながら言った。
「おじゃましま~す」
 上がってきたのは朋与、真由、美紀子だった。
 夏から続けているあさみと朋与の料理特訓は、いつしか真由をも巻き込み、この年の瀬
になっても変わらず開催される事になった。
「腕前も夏から変わる事がないのよね」
 美紀子が重々しく断言する。朋与が口を尖らせて抗議する。
「ひどいわね、ちゃんと進歩してるわよ」
「例えば?」
「…………ラーメンにモヤシ入れる時ちゃんとひげ切ってから入れるようになった」
 美紀子は大袈裟にため息をつき、真由は天井を見上げた。
「何よ、『ローマは一日にして為らず』とか言うじゃない。包丁を持つようになっただけ
大きな進歩よ」
「言いたい事は判るけど、微妙に間違えてるような……」
 真由が首を捻った。
「ローマが為るまでどれだけかかることか……」
 これは美紀子だ。
「言ってなさい言ってなさい。ウサギと亀の話のように最後には私が追い越してやるんだ
から。その時になって驚くな」
「今のままならアキレスと亀じゃない?」
「しかも後ろ歩いてるのが亀ね。追い抜くの絶望的だわ」
 言いたい放題の二人と共に、朋与はあさみの家のキッチンに入った。
「――おおう!」
 思わず朋与から声が漏れた。色気皆無なのは仕方あるまい。
「うわぁ最新式のキッチンね。明るくてきれい」
 真由も感心している。
「こんなきれいなキッチンでなんであさみは料理しようとしないんだろう?」
 美紀子の言葉は皮肉というよりは純粋な疑問だった。もっとも、料理好きというのは設
備が古くても器具が少なくても料理する人種なので、設備は料理の意欲になんら反映され
ないものかもしれない。
「じゃ、始めましょうか?」
 あさみが号令を発した。親の持ち物とはいえ、キッチンを褒められて悪い気はしない。
「だけど、クリスマスも終わって新年も間近って時に、なんでケーキな訳?」
 美紀子の疑問は至極もっともなものであった。が、あさみにはあさみなりの論理がある
らしい。
「だって、お雑煮はお母さんかお兄ちゃんに習えばいいし、おせちなんて初めから作れる
と思ってないし、それならケーキでいいじゃない」
 他の料理を一切経由せずケーキに辿り着く思考はやはり美紀子には理解できなかった。
「じゃ、今日はなんのケーキ?普通にイチゴショート?」
 考える事の不毛を悟った真由はエプロンを着けて用意をしている。朋与が待ってました
とばかりに答えた。
「ブッシュ・ド・ノエル!」
「待て待てーい!」
 美紀子が間髪入れず異議を唱えた。
「何よ~?」
 朋与が水を差されて腕組みする。真由がさすがに美紀子に同調して説明を求めた。
「ね、ブッシュ・ド・ノエルって、クリスマスケーキなのよ。何も今作る事ないんじゃな
いかしら?」
「え、あれってクリスマスのものなの?」
 驚いたのはあさみである。
「ノエルって、フランス語でクリスマスの事なの。だから、クリスマス以外の季節ではケ
ーキ屋さんでも見ないでしょ?」
「言われてみれば……」
「じゃ、ブッシュって何?」
 朋与の質問に真由は記憶を辿った。
「……薪、だったかな?」
「ふーん」
「でも、どうするの?材料それで買っちゃったわよ」
 あさみが悲しそうに言った。美紀子がさすがに言い過ぎたと思ったか、慰めるように
「チョコレートケーキでいいじゃない。材料はほとんど変わらないし、ね?」
 と言うと、あさみもようやく気を取り直した。
「そうだよね、それでいいよね」
「よし、それじゃ、行ってみよーう」
 朋与が高いテンションで号令した。



「おかしい……なんでこうなったんだろう?」
 美紀子が呻いた。
「材料の分量もちゃんと量ったし、オーブンの設定も私が見てたのに」
 真由も困惑しきっている。
「あたし、ちゃんと混ぜたよ~」
 あさみが弁解するように言った。
 三人の目の前には「ケーキとなる予定だったもの」が置かれていた。材料、分量、作業
工程、何一つ間違えていないはずなのに、出来上がったのは「直径二十センチのチョコレ
ートクッキー」だった。
 朋与が覗き込み、明らかに落胆した調子で言った。
「あ~あ、どうすんのこれ。せっかくあたしが手が痛くなるほどすばやくかき回したのに」
 それを聞いた真由と美紀子、それにあさみは一瞬目を合わせた。そして三人同時に朋与
を向いた。
「あんたか!」



3.除夜の鐘

「お兄ちゃん、おそば食べる?」
 乃絵が訊いた。
「ああ、食うよ」
 俺が答える。
 ただそれだけの事が無性に懐かしく、そして新鮮だ。
 今年も後数時間で終わる。俺は久し振りに、家族の住むこの家に帰って来ていた。
「鴨は入れる?」
「ねぎもたっぷりな」
「わかった」
 乃絵は嬉しそうだ。お盆にも帰らず、文化祭の時は乃絵に連絡すら入れていない。久々
に俺に会えて単純に喜んでいるのだろう。
「しかし、母さんもこんな日に当直入れることないのにな。俺が帰らなかったら乃絵一人
にする気だったのか」
「仕方ないよ。病院は全員は休めないって判ってた事だもの」
 乃絵が物分りのいい事を言う。
「もしお兄ちゃん帰ってこなかったら、桜子が来ていいって言ってくれてたし」
「桜子?ああ、学校の友達か」
 俺が家を離れた頃から仲良くなったと、電話で聞いた事がある。しかし、大晦日に他人
が入ってくるのはいくらなんでも家族が嫌がらないだろうか?
 乃絵はそんな俺の疑問を明快に否定した。
「家で商売やってて、大晦日は従業員の人も集まって年越しを迎えるんだって。だから私
一人増えても全然平気なんだって。桜子のおばさんからもどうぞって言ってもらったの」
 とりあえず一人ぼっちにはならないで済んだらしい。乃絵にそんな友人が出来た事は素
直に喜ぶべきなのだろうが、同時に乃絵がまた少し、自分から離れて行くような寂しさが
ある。先に距離を置こうとしたのは俺からなのに、勝手なものだ。
「どうしたの、お兄ちゃん?」
「ん?いや、何でもない」
 俺はごまかした。俺の方が離れていて寂しかったなどと言うのは認めたくない。
「そば出来たか?」
「うん!」
 乃絵がそばを持ってきた。つけそばではなく、温かい鴨南蛮だったが、寒い富山ではこ
の方がありがたい。
「はい、どうぞ」
「よし」
 俺は箸を手に取った。不思議なもので、箸などどれも同じだと思っていたのに持った瞬
間使い慣れた、手に馴染む感覚が心地いい。
「いただきます」
 一口啜る。やはり乃絵の料理は美味い。贔屓目である自覚はあるが、料理なんて食う当
事者が美味いと思えば第三者の評価なんて意味を成さないものだ。
「なあ、テレビはこれでいいのか?」
 テレビではお笑いタレントが仕掛けられたドッキリで笑わないよう必死に堪えている。
とりあえず点けているだけだが、別に乃絵が見たい番組があるなら変えても構わない。
「うん?別に何でも構わないよ。お兄ちゃんの視たい番組あればそれでもいいし」
「いや、俺も何でも構わない」
 と言って、テレビを消すと静か過ぎてつまらない。結局そのままにしておいた。
「――それよりさ、お兄ちゃん、もう少ししたらお寺行かない?」
「寺?神社じゃなくてか?」
「うん、除夜の鐘、撞かせてくれるんだって。ね、行こ?」
「混むんじゃないか?並んでも撞けないかもしれないぞ」
 寺院としても、百八回以上撞くわけにもいかないだろう。
「でも、行ってみたい。私、除夜の鐘って実際に撞いてる所見たことないの」
「うーん……」
 俺は少し考えた。撞ける、撞けないは別として、除夜の鐘を間近で聞くと言うのはそれ
なりに風情がある。行ってみるのは悪くない。
 俺が気にしているのは「そこで誰と出くわすか」である。高校時代の友人はまあ、いい
としよう。シスコン呼ばわりには慣れている。湯浅比呂美と仲上眞一郎はどうか。顔を合
わせる確率は高いかもしれない。しかし、知らん顔ですれ違ってしまえば問題ないだろう。
向こうも二人で歩いていれば他人の顔でやり過ごしてくれるはずだ。本当に二人の世界に
入ってこっちに気付かないと言うならそれが一番いい。それはそれでからかってみたい気
分にはなるが。
 問題は高岡ルミだ。奴が来ていたとして、町に戻ってきた俺に一言もなく立ち去ってく
れるとは思えない。俺一人ならどうとでもなるが、乃絵に火の粉がかかるのは避けたい。
「どうしたの、お兄ちゃん」
「あ、いや……」
 思っていたより長く黙りこんでいたらしい。乃絵が不思議そうに覗き込んできた。
「その寺はどこにあるんだ?」
「場所?山の方。ちょっと寒いから厚着していった方がいいよ」
 高岡家からは遠いか。考えてみれば初詣で神社に行く方が可能性は高いし、俺なら相手
より先に見つけられるだろう。それから考えても遅くはない。
「よし、行ってみようか」
 俺は乃絵にそう答えた。その時の乃絵の笑顔は俺が返って来てよかったと思うに十分だ
った。



4.年賀状

「おばさん、年賀状届いてました」
 比呂美が入ってきた。
「ありがとう。悪いけど、ついでに仕分けてもらえる?会社宛と個人宛で」
「はい、わかりました」
 居間に座って葉書の宛名を確認し、山を作っていく。当然というべきか、仲上酒造に宛
てたものと家長たる仲上比呂志宛が多く、ついで学校の同級生からの眞一郎宛、理恵子個
人に向けた年賀状はごく僅かであった。
 理恵子は台所で洗物を片付けると、お茶を淹れて居間に戻り、比呂美に差し出した。
「はい、比呂美ちゃん」
「ありがとうございます」
「――あら、今年は眞ちゃんの年賀状が多いわねえ」
 何の気なしに言った言葉であったが、比呂美は一瞬複雑な表情を見せた。
「……?」
 理恵子は言葉には出さず、眞一郎の年賀状を手に取って見た。
(ああ……)
 理恵子は一瞬で理解し――そして苦笑を押し殺した。
 年賀状には女文字で女子の名前が書かれていた。裏を見ると
「明けましておめでとうございます。一年D組の濱野由香と申します」
 と書かれている。その下もやはり名前は明らかに女子だ。
「去年もそこそこあったのよね、あの子も知らない人からの年賀状」
「……別に、気にしてませんから」
 半瞬の間に比呂美の気持ちが伝わってくる。昨年も踊りで花形を務めたことでそれまで
見かけなかった数の女性名の年賀状が届いたが、今年はさらにその数が増えたようだ。し
かし、昨年と違い、比呂美の存在は高校においても麦端という町にあっても「公然の秘密」
であり、比呂美にしてみれば「判ってて何してくれる」との思いがどうしても出てくるの
だろう。
 だからと言って心配することでもないのに、と理恵子が考えた時、ある事に気がついた。
「比呂美ちゃん、あなたの所にも知らない男性から年賀状が届いたんじゃない?」
「え?」
 比呂美が驚いた顔で理恵子を見た。どうやら図星らしい。
「い、いえ、私のところには……まあ、ほんの少しは…………」
 しどろもどろで説明する比呂美は、恥ずかしがっていると言うより本気で弁解している
ように見えた。理恵子から何か咎められると心配しているのだろうか。
 理恵子は比呂美を安心させるように微笑んで見せ、優しく言った。
「ちょっと注目浴びると、その瞬間(とき)だけはファンが増えるものよ。大部分はすぐ
に飽きていなくなるわ」
「それは…そうなのかもしれない、ですけど……」
「そうなのよ、二十五年前には私も散々やきもきしたんだから」
「あ……」
 比呂美も気がついたらしい。口元に手を当てる。
「そんなファンレターに何書いてあっても、比呂美ちゃんは気にもならないでしょ?眞ち
ゃんも同じよ」
 少しは頬が緩むかもしれないけど、それくらいは許してあげないとね、と言って理恵子
は笑った。
 比呂美としては眞一郎がこの見知らぬ女子からの年賀状を見てニヤニヤしてる姿など想
像するだけで噴飯ものなのだが、何も反論しない事にした。理恵子が同じ思いを潜り抜け
た上でそう言っている事がわかったからである。
「おじさんの時も、凄かったんですか?」
 比呂美は訊いた。理恵子は少し懐かしげに頷き、
「そりゃあもう。バレンタインなんて、一人で持って帰れなくて私がかばんひとつ分手伝
ったくらいだもの」
 話しながら声に険が出てきた。思い出して怒りがこみ上げたのだろう。と言ってもすぐ
に機嫌を直した。
「その時に較べたら、こんなのかわいいものよ。年賀状でこれならバレンタインの頃には
もっと減ってると思うわ」
 自分の息子を「夫ほどもてない」と評するのも妙な気がするが、比呂美を元気付けるた
めにそう言った。ひろしの場合、当時は理恵子も周囲から恋人とは認識されておらず、比
呂美という事実上婚約者に近い見方をされる伴侶を持つ眞一郎とは条件が違うのだが。
「ただ、ちょっと問題ね……」
 理恵子は顎に手を当てて考え込み始めていた。
「おばさん?私もそんなに気にしてるわけじゃありませんから――」
「そっちじゃなくて」
 理恵子は顔を上げた。
「比呂美ちゃんの知らない男から年賀状が来た、と言う事は、その人は比呂美ちゃんの住
所を知ってるって事よね?そっちの方が心配だわ」
 一人暮らしを始める時には乗り越えるべき葛藤も清算するべきしがらみも――比呂美に
も、眞一郎にも、そして理恵子にも――あったのだが、現在はその全てが解決している。
それでも比呂美にアパート暮らしを許していたのは、それまで十五歳の少女に課すべきで
ない忍耐を強いていた事に対する代償行為としての側面がある。比呂美が羽目を外し過ぎ
るのではないかと言う懸念も杞憂に終わり、あとは学校側から婉曲な表現で眞一郎との交
際について牽制される程度、しかも理恵子は完全に無視していたので、何も問題はなかっ
た。だが、比呂美の周りに危険が近づいているとすれば、理恵子は比呂美を守らなければ
ならない。
「そろそろ家に帰ってこない?」
 理恵子は切り出してみた。そこまで大袈裟に心配する事ではないかもしれないが、丁度
いい頃合かもしれない。
「もちろん比呂美ちゃんがよかったらだけど。部屋はいつでも使えるようにしてあるし、
もし必要ならもう一部屋空けることも出来るわ。受験も控えてるし、自炊も大変になって
くるでしょ?家ならその点でも安心だわ」
「おばさん、お申し出は嬉しいですけど、もう少し、このままで……」
 比呂美は遠慮がちにその申し出を断った。
「そう、そうでしょうね」
 理恵子もあまり拘泥しなかった。
「けど、戸締りは気をつけてね。比呂美ちゃん、よく確認もしないでドア開けるのはよく
ないわよ」
「あ…はい」
「暗くなる前には帰るようにするのよ。出来るだけ眞ちゃんに送ってもらうようにね」
「はい」
「それから――」
 なおも言葉を継ごうとして、理恵子は止めた。
「ごめんなさい、私が言わなくても判ってる事よね」
 そう言って理恵子は席を立った。
「そろそろお雑煮温めなきゃ。比呂美ちゃん、お餅いくつにする?」
「え、えっと、3つで」
「それじゃ、用意するから眞ちゃんと主人を呼んできてくれるかしら」
「はい」
 比呂美も立ち上がった。部屋を出ようとして足を止め、理恵子を振り返る。
「あの、おばさん」
「ん?」
「ありがとうございます」
 深く頭を下げて比呂美は部屋を出た。



                    了

ノート
本当はひろしと丁稚がそば打つ話も書いてたのですが、いくら書いてもオチがつかないので断念。天然2人だと話が進まないことを再確認。
4番は年末、印刷所のコミケ進行で地獄を体験して疲れきって帰郷。ルミは神社に行って遭遇してません。

ママンと比呂美は「やきもちを焼く比呂美をからかうママン」のつもりで書き始めたら、比呂美にも女踊りでファンがついた、となったら
「ストーカーにでも狙われたらどうしよう」とママンが騒ぎ始め、いくらなだめても比呂美を家に戻すと聞かないのでこんな話に。本当は
ママンこれでも納得してないのを正月から角立てないでとやっと妥協してくれたんですよ。

ちなみに年賀状の「濱野」はサッカーのカターレ富山のキャプテンの名前です。
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。