比呂美と朋与


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比呂美と朋与

誰もいなくなった女子バスケットボール部の更衣室で、髪の長い少女が腰を90
度に折って謝っている。
「というわけで、朋与にウソついてました。ごめんなさい」
朋与は、困った様な、怒った様な表情で後頭部を見下ろしている。
最近の違和感と、今日一日の沈んだ表情から何かあるとは思っていたが、想像も
しなかった内容に戸惑いを感じていた。

「とりあえず頭上げてくれない?こういうの慣れてないの」
朋与としてもこの状態では居心地が悪くて、何も考えることができない。
比呂美はゆっくりと頭を上げたが、朋与と視線を合わせることができないでいる。
「ま、座りましょ。立っていてもしょうがないし、ちょっと考えさせて」
手近な場所に腰掛けて、考えてみる。
隣で少し俯いている友人は、周りから見たら「誰が好きか」なんて分かり安すぎ
たのに、否定していた原因が原因なので怒る気にもなれないが、話してくれなかっ
たことには寂しさも感じる。人に相談できないことは理解できるが、聞いてしま
うと簡単には割り切れない気持ちになるものである。

「ま、いいわ。私がどうすることもできなさそうなことだし」
原因については、申し訳ないが何か助けられるようなことではないので、あきら
めることにした。しかし、朋与としてはもう一つの方には興味がある。
「で、どうするの?」
「どう、って?」
「仲上君のこと、どうするの?」
「…」
「この際、認めてもらおうかな。ウソついてたんだから、そのくらいはね」
「…」
「ウソついてた理由は、いいわよ。でも仲上君のことはいいの?」
「…」
「あきらめるの?それなら、それでっていうことも」
「…られない」
朋与の言葉を遮って、比呂美は小さな声で言った。
「なに?」
「諦められない。そんなことできない」
「…」
今度は朋与が黙ってしまう。言葉に強い意思が込められていた。突然の簡単な事
情説明後、謝られ、この反応ではこっちが困ってしまう。
う~んとうなって考えてみるが、どうにも何も浮かんではこなかった。
部活直後の空腹では頭が回りそうにないので、場所を変えることにする。

「クリームあんみつ」
「?」
「ウソついたんだから、そのくらい奢りなさい」
「…」
「それで許してあげるわよ。ちゃんと認めたし」
朋与は比呂美を見て、さらにこう言う。
「ま、食べながら聞かせてもらおうかな。まずはそれからよ」
「いいの?」
「ちゃんと話してよね。私もちょっと責任あるかもだし」
「別に朋与は何も…」
「4番のこと聞かれた時、一緒にいたでしょ。忘れたの?」
「…」
比呂美はその時の衝撃を思い出す。まさか眞一郎に聞かれるとは思わず、さらに
その後にあったことも。どうにもできなかったこと。
「でも、それとこれとは別。私にウソついたんだから奢りなさい」
「うん、わかった。ありがとう」
朋与がとりあえず怒っていないことに、比呂美は安堵して少し笑顔になる。
その後、二人はたまに行っている店でクリームあんみつを食べながら、話をした。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

自宅への途中、朋与は今日の比呂美の話を思い返していた。
理由があって本心を言えなかった、それで仲上君とぎくしゃくした、で、4番が
出てきた、何かあって仲上君の家族にばれた。そこまではよかったが、朋与には
4番の存在がいま一つ理解できない。

"あの"石動乃絵のことだから、兄に何か頼んだのだろうか?何を考えているのか
全く理解できない性格だそうだから、やりそうなことだ。頼まれたからって比呂
美につきまとうなんて、妹が妹なら兄も兄だ。気に入らない。

今日はクリームあんみつを奢ってもらったし、何か比呂美にしてあげられること
でも考えてみよう。そうだ、あっちが兄を使うんなら、自分が比呂美を助けたっ
て何も文句言えないはず。奢ってもらった分はきっちり比呂美に返してあげよう。
あれ、美味しかったし。

朋与は比呂美から謝られたのには困ったが、きちんと話してくれたし、何か面倒
なことになっている友達に何かしてあげたい気持ちになっていた。自分がでしゃ
ばって変なことに一度はなっていたみたいだから、余計なことはできるだけ控え
るが、兄を使うような奴に比呂美が負けるのは面白くない。
「よしっ」
自分が手助けする理由もできたので、何をどうしようか?と考えながら帰宅した。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

そろそろ仲上の家に近づいてきた。
比呂美は朋与が怒らなかった上に、クリームあんみつで許してもらえたことに心
から感謝していた。自分の都合で勝手にしたことで、朋与に迷惑をかけたようで
申し訳ない気がするのに、手助けまでしてくれる、とまで言っていた。
ありがとう、ともう一度心の中で感謝しておく。
朋与は心配して言ってくれていたのに、本当のことが言えなかった、もうそんな
ことをしなくていいから気分は少しだけ軽くなる。
でも、今日は自分でもびっくりした。
「諦められない」
口に出して言ってみると自分の本心であることがわかる。言いたいことが言える、
少なくとも朋与には。しっかりと色んなことを見透かされた。

さっきのことを思い出す。
「ところで」
「うん」
「そんな仲上君のお母さんが、よく同じ高校に通うのを許してくれたね」
「…」
「比呂美の成績なら、もっといいとこに行けたでしょう?受けなかったの?」
「う、受けたよ」
「ダメだったの?」
「う、うん…。そう」
「…」
「どうかしたの?」
朋与が何か考え込んでいるので、ちょっと不安になる。
「真面目に受けた?」
「…」
即答できない。
「ほんとに"封印"してたの?…よかったわね、"また"同じクラスで」
「…」
呆れ顔の朋与に、何も言い返すことは出来なかった。

 ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ― ―

仲上の家を見上げて小さく名前を呼ぶ。
「眞一郎くん」
まだどうするかは決めていない。家ではまた以前みたいにしないと眞一郎くんに
迷惑をかけるかもしれないけど、引き返す気はもうない。知られたからには何と
かするだけ、その日が来ることを信じてきたのだから。
諦められない、絶対に。

END


-あとがき-
このSSは5話終了後に書いたものです。比呂美の恋路を朋与がサポートしれくれ
ないかなぁ、がアイデアの発端です。
実はオチが先に浮かんで、冒頭の謝罪までのシーンへ巻き戻って構成されたお話
でした。

最後に、読んで下さってありがとうございました。
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